「へえ、あのハリーが」
「ええ。マルフォイが投げた『思い出し玉』を十何メートルも急降下して怪我一つなくパシッと取ったの」
「あれはすごかったわ。私も一度でいいからあんなかっこいいことしてみたい」
飛行訓練のあったその日の夕食。たまにはと誘われ、私はパーバティやラベンダーと一緒に席に着いた。ハーマイオニーも誘ったのだが、考えたいことがあるからと断られた。
最近彼女は妙に機嫌が悪い。孤高の魔法使いを目指すのもいいが、彼女は一人だとやらかすタイプだと思うから少しでも友達を作った方がいいと思う。私?私はどんな状況でも成功するから大丈夫です。
「本当に凄かったのよ、めぐみん。空中でも自由自在で。それに比べてマルフォイの情けなさったらなかったわ。隠してたみたいだけど、おろおろしてて不安なのが丸分かりだったもの。子分がいなきゃ何も出来ないのね」
「ヒューッ、パーバティったら強気ね。でも正直私もそう思ったわ。それにいい気味だった」
どうやらドラコは嫌われてる様子。まああれでは仕方ないでしょう。自業自得というやつですね。
「でも心配なのがね。その場面を見てたマクゴナガル先生がすごい剣幕でハリーを連れてっちゃったの。めぐみんとネビルを運ぶ時にフーチ先生が箒を使うのを禁止してたのにハリーが飛んでた上に危ない飛び方してたからだと思うんだけど、大丈夫かしら」
そう思っていると、ラベンダーが心配そうな顔でそう言った。
「え。ちょっとそれ、マズイんじゃないですか?もしかしたら停学……いや、退学も?」
「ふふ、大丈夫よ二人とも。そんなに心配しなくても。マクゴナガル先生は大のクィディッチ好きと聞いたわ。多分、あれは単純に興奮してただけよ。それにあれはそんなに咎められるべき行為じゃなかったしね」
私がラベンダーの言葉にそう言うと、パーバティが少し笑いながらそんなことを口にした。ラベンダーはそれなら安心かも、と言っていたが私には何のことだか分からなかった。
「それよりめぐみん、今更だけど大丈夫だったの?女の子が出しちゃいけない声出して潰れてたけど」
「もう問題ないですよ、ラベンダー。マダム・ポンフリーは凄腕ですね。全然痛みとか残ってませんよ」
そんな私の様子に、二人は軽く胸を撫で下ろしていた。
「そう言えばめぐみんも上手に滑空してたわよね。飛んだことあったの?」
「いえ。自己紹介で言った通り私はマグル界育ちですので箒で飛ぶのは初めてですよ」
「すごいわね。魔法界で育った私たちでさえ箒を浮かばせるのもうまく出来なかったのに」
「自己紹介で言った通り私は天才なので」
パーバティとそんなことを話していると、ラベンダーが横からプリンの乗ったお皿を差し出してきた。
「めぐみんは本当にすごいわよね。ほら、私のプリンあげる。……ところでめぐみん、私魔法薬学の宿題が分からないんだけど」
「あの、ビュッフェ形式の食事でプリンをもらっても仕方ないのですが」
別にそんなことしなくても後で教えてあげると言うと、ラベンダーは嬉しそうにありがとうと言った。彼女に限らず、グリフィンドール生……というかスリザリン以外の生徒は一部を除いて概ね魔法薬学が苦手だ。理由は明らかで、スネイプ先生が嫌いだからだ。先生としては有能だとは思うが、あの贔屓では嫌われるのも仕方ない。
「あ、ハリーが来たわ」
そうしていると、ハリーがホールに入ってくるのをパーバティが見つけた。入ってきたハリーの表情は、私たちの不安に反して明るかった。
「よかったですね。あの感じだと処罰は特になかったようです」
「ね、言ったでしょう?マクゴナガル先生だってハリーのことをちゃんと分かってるのよ」
「実は一番ほっとしてるあなたが何言ってるのよ。私たち、あなたがハリーのこと気になってるの知ってるんだからね」
そしてパーバティの言葉にラベンダーはそう言って……。
「「えっ?」」
「え?」
その場の三人は一様にそんな反応をした。
「パーバティ、そうだったんですか?言ってくれれば協力したのに」
「めぐみん知らなかったの?この子、分かりやすく気にしてたじゃない」
「い、いや、あれは単に有名人だから目で追ってただけで。めぐみんは気にしちゃダメよ」
「パーバティはこう言ってますが」
「恋する乙女の言うことを信用するなんてバカのすることじゃない!少し赤くなってるあたり、もはや白状してるようなものね」
頬を赤らませながら否定するパーバティに、物知り顔でニヤニヤするラベンダー。女が三つで姦しいというのは本当なんですね。まさか私ですらこんな話をするとは思ってもみませんでした。
「ごちそうさまでした。さて、じゃあ部屋に行きましょうか。ラベンダーの話が本当かどうか確かめるにはこのホールは少し不都合ですからね」
「もう、めぐみんまで!」
そんなことを話しながら、私たちは寮の部屋へと戻っていった。
「あ、そこ間違ってますね。『安らぎの薬』にいれるのはカノコソウの小枝ではなく根です。小枝では精神への影響が強過ぎるんですよ。ほら、カノコソウの小枝は忘れ薬に使われてるでしょう?」
「あ、確かに。でも根の方も『生ける屍の水薬』に入ってなかった?」
「あれはカノコソウではなくナマケモノの脳みそが強力な効果の主な要因ですから」
部屋に帰り、パーバティを問い詰める前にラベンダーの宿題を見ていると、勢いよくドアを開けて随分と怒った様子のハーマイオニーが帰ってきた。
「信じられない!あの人たち、ただのケンカで校則を破ろうとしてるだなんて」
「どうしたんですか?」
怒気を込め呟いていたハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーはちらりとこちらを見てため息をついた。
「何でもないわ。邪魔しちゃってごめんなさい」
「そうですか。何かあったら言ってくださいね。力になりますから」
「ありがとう。でも本当になんでもないから。……早いけど私、もう寝るわ。お休みなさい」
そう言うと、ハーマイオニーはベッドに横になり布団にくるまった。
「こんなに早く寝るなんてどうしたんでしょうね」
ハーマイオニーが寝るとのことで、私たちはどこかに移動することにした。談話室へ行くと生徒はまばらで宿題を教えるのに問題はなさそうだったので、私たちはそこで時間を過ごすことにした。
「ここに入学してもう二週間弱よ。ハーマイオニーは勉強頑張ってるみたいだし、疲れてるんでしょう」
私の言葉に、パーバティは持ってきた本のページをめくりながらそう言った。
「パーバティは何を読んでるんですか?」
「『アブラハムの書』よ。知ってるかしら。ニコラス・フラメルっていう有名な錬金術師の書いた本なんだけど」
「へー、随分と難しそうな本を読んでるのね」
錬金術、ですか。そういえばホグワーツには錬金術の授業がありませんね。一番近いのは魔法薬学でしょうか。ちょっと興味があります。今度調べてみましょう。
「それよりパーバティ、さっきの話の続きなんだけど」
ラベンダーがそう言うと、パーバティはさっと視線を本に落とした。
「もう、逃げないでよ。ほら、めぐみんも手伝って。あなただって女の子なんだからこういう話も気になるでしょう?」
「めぐみんは気にならないわよね?なんたって普通じゃないものね」
ラベンダーにそう呼びかけられた私に、パーバティはそんなことを言ってきた。普段なら普通じゃないと言われれば喜ぶ私だが今回のはどちらかというと腹が立つ響きだったので、私はラベンダーの味方をすることにした。
「まあ私だって年頃の女の子ですし?そういった方面の好奇心は人並みにはありますよ、ええ」
「嘘。そんな……」
「私、めぐみんのこと信じてたわ!」
虚をつかれたようかのように口を両手で覆うパーバティ。本当に私を何だと思ってるんだろうか。
「観念しなさい、パーバティ。本当のことを吐くまで追及はやめてあげないんだから。まずはそうね、とりあえず好きになった理由から。一目惚れ?それともこの一週間強で何かエピソードが?もしかして昔会ったことがあったり?」
分かりやすくウキウキしてるラベンダーが聞くと、パーバティは言った。
「ちょっと待って。そもそも私は本当に有名人だから気にかけてただけなのよ。確かに憧れみたいな気持ちがなかったわけではないけど、そんな好きとまではいかないわ」
「またまた〜。……犯人はみんなそう言うのよ」
「私が何をやったって言うの」
そんな二人の会話に私も入っていこうとすると、談話室の扉が開いてハリーとロンが入ってきた。
「あーあ、せっかくいいところだったのに。本人のご登場じゃこれ以上はね」
ラベンダーの残念そうな声に、パーバティはほっとため息をついた。
「大丈夫だよ。魔法が使えなくたってあいつの鼻っ柱をパンチしてやればいいんだ」
「魔法使いの決闘で相手に触れるのは無しなんだろ?」
一方ハリーたちの方に耳を傾けてみると、二人はそんなことを言っていた。
「何の話ですか?今『魔法使いの決闘』とかいう最高に気になる言葉が聞こえてきたのですが」
「あ、めぐみん。実はマルフォイが」
「ちょ、ロン。めぐみんが来たら僕たちじゃなくてめぐみんがマルフォイをやっちゃうだろ」
「あ、そうだね。……ごめんめぐみん、何でもないんだ」
私が話しかけると、二人は二人で内緒話をした後にそう言ってそそくさと部屋の方に向かった。
「……なんか今日、友達が私にそっけない気がするのですが」
「私の胸で泣いていいわよ」
「ありがとうとございますパーバティ。では遠慮なく。いやー、パーバティの体はフカフカです、ね……」
私がパーバティの胸に飛び込みそう言っていると、顔に柔らかな感覚がした。ふと顔を胸から離してみると、そこには既に女性の象徴である膨らみが緩やかにあって……。
「パーバティ、あなたは私の敵です。さあラベンダー、パーバティのことを全力で追及しますよ!ハリーたちも行きましたしね!」
「え、急に何で!?」
「普く胸有りは私の敵なので」
「ちょっとぉ、それだと私も小さいみたいになるじゃない!私だって少しずつ成長してるんだから!」
「ふふん。無いってかわいそうね」
「「ぶっ飛ばす」」
そうやって、私たちは監督生のパーシーや他のグリフィンドール生に怒られるまでバカ騒ぎをしてましたとさ。
……いずれホグワーツで一番大きな女子になってみせますからね!