「いけない、もりのさん忘れ物してるわ・・・」
ご子息様の部屋の換気にやってきたところ、どうやら忘れ物をしているらしい。今時の若者なのに携帯をお忘れになっている。さぞ、困るに違いない、まだ出られて間もないから追いつけるかも?そう思い私はもりのさんの携帯を片手に使用人の部屋へ一度戻った。部屋には上司にあたる執事兼警備員の峨朗さんが居た。
「どうした?」
「もり・・ご子息様がお忘れ物をなさったので届けに行ってもよろしいでしょうか?」
「ふむ、何をお忘れに?」
「携帯です。」
「携帯を忘れるのか・・・意外やのぅ・・・」
少し微笑んで考えてから峨朗さんは「いいだろう、1時間以内には戻れ、面倒事は起こすな。」といってニッコリ笑った。
「かしこまりました、行ってまいります。」私は一礼をして部屋を出た。
メイド服は少し動きにくいから、自室へ寄り丈の短いスカートに履き替えた。他のメイドへ引き継ぎをしてから屋敷を出た。外は気持ちいい快晴でまるで空が”行ってらっしゃい”と言っている気がした。もりのさんの大学の方へ向けて歩を進める、なるべく早く渡してあげたいのと一度通われてるところはどんなところか見たくてワクワクしていたのか自然と速度が上がる。春の陽気がほんのり私を暖め、じんわりと汗をかかせる。歩いていると見慣れた後姿を見かけたので思わず声をかけてしまった
「ローラお嬢様?」前を歩く幼女が振り返る
「リリウムじゃないの!ごきげんよう!」
「ご機嫌麗しゅう、ローラお嬢様。」
この子はもりのさんの家元と並ぶ名家の令嬢。もう少しでランドセルが取れる年頃でよくローラお嬢様の家のメイド達とお茶をしているところにいつも顔を出してくれる活発なお嬢様。ご主人様はもっとおしとやかに育てたいみたいだけど、彼女には無理みたい。
「リリウム、珍しいわねお外で一人で会うなんて・・・どうしたの?」
「ご子息様がお忘れ物をなさったのでそれを届ける道中でございます。」
「あら、あの秀才にもそのような一面があるのね。意外だわ。」
やはりみな口に揃えて”意外”と言う。私は常日頃身の回りの世話をしているのだからよくそのような面を見ているので何も感じないが、傍から見ればもりのさんはそういう風にみえているのか。
「リリウム、お屋敷空けて大丈夫なの?」
「はい、峨朗様に許可を頂いて外出しております。」
「まぁ!さすが峨朗!器の大きい男だわ!そういうとこ好きよ!」
「ご本人に直接お伝えくださいまし。」
「ダメよ!峨朗ってば私と話す時だけシャイになるんだから!きっと話してくれないわ!」
「それはお嬢様の距離が近すぎます故致し方ないかと・・・」
「そう?」お嬢様は峨朗様とお話になる時はいつも足元にくっついておられるから当然だ。なにより美人。
「リリウム?私とお話してて大丈夫なの?」
「お時間的にはまだ大丈夫です。」
「でも、秀才くん困ってるだろうから早く届けてあげなさいな、私に気遣いは不要よ?」
「恐れ入りますお嬢様。」
「さ、お行きなさい。」
「失礼します。」軽く会釈をして歩き出した、思えばお嬢様はどこへ行かれるのかとふと考えたが、今は必要ないと判断し、先を急いだ。もりのさんは一体どういうところで励んでおられるのか、ご友人はたくさんいらっしゃるのか?成績は考えずともわかるが・・・と母性が顔を出し始めていけない。私はメイド、ご子息様にそのような気遣いは愚弄してるも同義。ダメよリリウム、今は目の前の事に集中なさい。そう言って自分に言い聞かせてるうちに大学の正門に辿り着いた。とても立派な校舎が見える、追いつけなかったか、近くにもりのさんが居ないか見回す、見慣れた背中を群集の中から見つけるのは至難の技だが私には関係ない。案の定簡単に見つかったので近寄って声をかけた。
「もりのさん」