学戦都市アスタリスク ~朝霧海斗のいる六花~   作:みるくぜりぃ

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初戦闘シーンあります。かなりあっさりですが……。


悪辣の王

―――放課後。

俺はイレーネに連れられレヴォルフの生徒会室前まで連れられてきた。

 

 「んじゃあ、あたしはこれで」

 

 イレーネは背を向け、手を軽く振りながらそう言い残し去っていった。

 生徒会室前に一人残された俺。軽く一息つき、中に入ろうとして―――あるものが目に入った。それはドアノブ。

とりあえず―――舐めるか。

 ドアノブを舐め始める俺。い、いやお前たちがこういう変な選択肢を選ぶからな……。

 

 「んー、きれいな丸みを帯びたフォルム……なかなか良いドアノブだな」

  ドアノブを舐め終え、ソムリエのようにドアノブを語る俺。はたから見ればやばい奴に見えるのは間違いないだろう。幸いなことに目撃者がいなかったので、ドアノブをハンカチでふき、中に入ると赤髪に小太りで不機嫌そうな面を浮かべて椅子に座っている男が一人立っていた。

 

「あんたが俺をよんだ生徒会長か?」

椅子に座っている小太りの男に向かって問いかける。

 

「ああ、そうだ だがとりあえずマナーとしてノックぐらいしろ」

そう言いながら机の上に足をのせる男。

こいつが≪悪辣の王≫ディルク・エーベルヴァイン―――非≪星脈世代≫ながらレヴォルフ黒学院の生徒会長を務める男か。

雷太のような特殊な体臭はしないんだな。

しかしこんな態度をとるやつにマナーとか言われたくねえな。

 

「ところで俺を呼び出した理由はなんだ?」

単刀直入に聞く。回りくどいのは嫌いだからな。

 

「ずいぶんと話を急ぐんだな どうだ、世間話でもしないか」

 

「興味ねえな」

 

「わかった じゃあ本題に入るか」

ディルクはそう言い一息入れる。

 

 

 「俺がお前を呼んだ理由だが……簡単だ 俺の部下になれ」

 

 「もちろん報酬はあるのだろうな」

対価もなしにそんなことは言わないだろうが、一応問いかける。

 

 「もちろんだ 金や欲しいものを可能な限りやる それにレヴォルフ黒学院が保有する≪純星煌式武装≫も貸し出してやる どうだ、悪くないだろ?」

にやりと笑みを浮かべながら話すディルク。男の笑顔なんて気持ちわりぃな。

 

答えは決まっているが、とりあえず思案する。

こいつの部下になれば荒事に使い走りなどのめんどくさいことをさせられるのは間違いないだろう。それに俺は金や物には興味がない。それにどうしても欲しいものがあればそれこそ≪星武祭≫で優勝すれば良いだけだ。

あとは≪純星煌式武装≫だがこれはたしかに強力な武器であり、興味がないわけではない。おっさんの話によれば≪純星煌式武装≫ってやつは意思を持ち、ものによっては代償を要求されるらしい。

意思を持つということはこちらを裏切る可能性もあるということだ。絶体絶命のときに裏切られ、武器として機能しないかもしれない。これは武器としては致命的に感じる。

代償の方はもってのほかだ。何かを差し出し得る強さ。それは諸刃の剣だ。差し出してきたものによってどこかで歪みが生じ、それによって重要な局面で窮地に陥るかもしれない。絶対的な強さとは対照的なものだ。

それに俺には禁止区域で生きてきたという自信とクソ親父の地獄の訓練によって鍛えられたこの体がある。こっちは俺を裏切らない。

だから≪純星煌式武装≫に物としての興味はあっても、使用したいとは思わねえ。

ディルクの部下になることに対してメリットがないことを一応頭の中で確認してから俺は―――

 

「断る」

と、ただ一言言った。まあ部下なんて面倒なものになるのはごめんというのが一番の理由ではあるが。

 

「ちっ、そうかよ」

ディルクは悪態をつきながらそう答えた。破格の条件を断られたことに対して意外そうな顔をしていないことからある程度予想していたのだろうな。

 

「要件はそれだけか?」

 

 一応俺が尋ねると、ディルクは短く『ああ』といったので俺は部屋を出る。

 とんだ時間の無駄だったな。時刻を確認する。入ってから数分しかたってない。とりあえず本でも買いに行くか……。おっさんにもらった生活費は余分なほどある。確か市街地に本屋があったはずだ。

 こうして俺は本屋に向けて歩き出した―――。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……」

朝霧海斗が去った生徒会室。俺はあいつの資料を見る。朝霧海斗―――出身地や経歴に特別変わった点はない。平凡な家庭に生まれたあいつが俺の破格の報酬を蹴ったが、それはあいつの性格によるものである可能性を考えれば別に不思議なこともない。会話をしてみてのあいつの態度からは人の下につくタイプとは思えなかった。

また、あいつの≪星辰力≫の量は≪冒頭の十二人≫クラスの非常に高い数値ではあるが、特待生ということを考えると平均的な数値である。特待生としては平凡にも思える。

だが注目すべき点はこいつの身体能力―――異常だ。人間の数値を越えている。≪星辰力≫なしに出せる数値ではない。この数値が本当ならあの化物と比べても劣らないだろう。この数値が本当なら使える人間だ。駒はあって困ることはない。俺は猫の一人に指示を出す。

「朝霧海斗を24時間監視して情報を集めろ」

まずは情報集めだ。経歴に特別変わったところはない。しかしそれが逆に嘘くさい。もし異常な身体能力の奴だったとしてそんな奴がこんな平凡な人生を送っているとは考えにくい。こいつの身体データと経歴はあまりにも不釣り合いだ。どちらか、はたまたどちらも嘘の可能性は低くないだろう。この情報はあいつを連れてきたレヴォルフの幹部で人事を主に行っている男が調べたものだ。この経歴は奴によってつくられたものかもしれない。

であれば真偽を確かめる必要があるだろう。使えない人間であったならそれでいい。

だが、こいつのデータが本当であれば駒としてこれ以上ないだろう。24時間監視していればこいつの弱みを見つけることができるかもしれない。そうすれば駒にすることも難しくないだろう―――。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 俺はレヴォルフを出て繁華街へと繰り出した。

 禁止区域でも暁東市の市内でも見たことがない近代的な街並みが広がっており、あちこちに店が立ち並んでいる繁華街を通り、六花内でも一番大きなショッピングモールの中にやってきた。六花内にはここしか本屋がないらしい。

 近代化が進み、書籍も教科書もほとんどものが電子化されたため本に対しての需要が著しく低下し、本屋は激減した。だがそれでも本屋は残っている。本にしかない質感、紙の匂い、ページをめくるときの音といったものが電子書籍の利便性に勝ると考える人が一定数いるためだろう。若者の多い六花ですら本屋があることから本に対しての需要はあるようだ。俺も本は紙に限ると考えている一人だ。そんなことを考えている間に本屋までやってきた。

 金は十分にあるため気になった本をとりあえず買っていく。推理小説を中心に料理本といった生活に役立つ本やあまり普段は読まないがなぜか惹かれた『かずおの大冒険』というマンガなども買っていく。全部で20冊ほど買ってからショッピングモールを後にしたが―――。

 

「……」

 誰かにつけられている気配がする。レヴォルフを出て少ししたときからずっと気配を感じていたが、姿はない。だが間違いなく気配がある。光学迷彩装置を使って隠れているのだろう。そんな装備を持っている奴と言えばレヴォルフや他の学園の諜報機関だろうな。

また、かすかにだが足音もしている。繁華街の喧騒に紛れて普通の人間には聞こえないだろうがかすかに聞こえる。気配や足音の消し方も一般人の中ではうまくできている。だがそれは一般人程度だ。禁止区域の人間はもっと気配や足音の消し方が上手い。

それも当然、敵に気づかれれば即死なんてことも珍しくない場所。気配や足音の消し方は生きるために必要になる。 

またそれに対抗して相手の気配や足音に気づく技術も生きていくためには必須だ。

 相手に気づかなければいつの間にか数人に囲まれ、殴り殺されるなんてことも珍しくない。そんな場所―――禁止区域で生きてきた経験によって俺は気配に気づいた。

 後をつけているのは一人だ。だがここは街中。あたりから聞こえる音が正確な位置の特定を阻んでいる。このままでは対処は難しいが、このままつけられているのも気分が悪い。

 そこで俺は人の少ない方へと歩き出す。端末で地図を開きどこかへ向かって歩いているかのように装う。相手は光学迷彩によって姿が見えないことに過信しているのか、はたまた相当尾行に気づかれない自信があるのか、まだついてきている。

 人がいない小さい小道にやってきた。音もほとんどない場所。ここまで周囲の音がなければ相手の位置もわかる。俺の後ろ約10m。相手はそこにいる。ここで対処するか。

 ちょうど分かれ道が目の前にあった。俺は右に曲がり、そのすぐ角で相手の死角に入り、そこで気配を消して待機する。

 9、8、7―――相手がゆっくりと歩きながら近づいてくる。先ほど以上に音を殺しているところから俺が視界から消えたことによって警戒はしているようだ。

 6、5、4―――訓練校時代には手を抜きまくっていたからすいぶんと久々な感覚。命のやり取りになるかもしれないという緊張感と高揚感に包まれる。

 3、2、1―――距離を確実に図るため目を閉じ、音に意識を集中する。目を閉じると鮮明に気配と足音を感じる。

 0―――相手の視界に俺が入ったことを感じたのと同時に俺は軽く≪星辰力≫を込めた拳を相手がいると思われる場所に向かって振る。

ゴンッと鈍い音を立てた。相手が吹っ飛んだ感覚がある。殴った先には衝撃によってか光学迷彩装置が壊れ、それによって姿が現れたお男が意識を失って倒れていた。

まさか死んでねえよな。

殺すことにためらいはないが殺してしまえば面倒ごとになると考え、手加減はしたつもりだった。相手を確認する。俺より少し年上の若い男。顔に俺の拳が命中したのか頬が赤く腫れ、鼻から血は出ているが命に別状はないだろう。

一応の生死の確認を終えた俺は男の胸倉をつかんでから頬をたたき、起こす。

男は何が起こっているのか一瞬わからなく焦っているようだった。俺を見ると目を見開いていた。もしかしたら光学迷彩で隠れている自分が見つかるとは夢にも思っていなかったのかもしれねえな。

とりあえず聞けることは聞いておくか―――。

 

「おい、お前 誰の命令で俺を付けている?」

男をにらみ、声を低くして脅すように尋ねるが

「……」

男は完全に黙っていた。流石にこんなことをする奴が話すわけはないだろう。

「まあ今回は許す だが次はない そうお前の依頼主に言っておけ」

一応警告をすると男はこくこくと頷いたので俺は男を開放する。男は地面にへたり込んだ。

俺はその男の服で手についたこいつの血を拭ってから歓楽街の近くにある自分の家に向かって歩き出した。つけている奴の気配もない。とりあえず帰って『かずおの大冒険』でも読むか。

家に帰る途中、俺は考える。

俺をつけていたやつの依頼主はだれだったのか。俺が六花に来てからあった人間は少ない。ほかの学園が特待生として入った俺の情報を集めるために送り込んできたのか、それとも俺を連れてきたおっさんの差し金か、それともあの生徒会長―――ディルクの野郎の差し金か。

まあ関係ねえなー――次は全員ぶっ飛ばせばいいだけだ。必要なら半殺しにして聞き出して、依頼主を殺せばいい。今でも人を殺すことにためらいはない。

―――しかし、まだ完全に≪星辰力≫を扱いきれてないな。こればかりは戦闘を繰り返すことで慣れていくしかない。明日から歓楽街にいるごろつきでもぶっ倒すか。

―――ふっ……

あいかわらずの物騒な考えに少し笑いがこぼれる。人は環境が変わっても考え方は簡単には変わらないということだろうなー――。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんだ!? このクソつまんねえ漫画は!?」

 

帰宅後、読んだ漫画『かずおの大冒険』は死ぬほどつまらなく、俺は二度と漫画を読まなくなった。

 




感想、批評、誤字、脱字、文法ミスなどお待ちしております。
出来るだけ修正できるところはしていくつもりではあります。

ヒロインとかどうするかなあ……。


ヒロインについて

  • シルヴィ
  • オーフェリア
  • シルヴィ、オーフェリアのダブルヒロイン
  • その他のキャラ
  • ハーレム

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