学戦都市アスタリスク ~朝霧海斗のいる六花~ 作:みるくぜりぃ
「あたしたち今度の≪鳳凰星武祭≫に出場するから」
オーフェリアと出かけた日から少し経った昼休みの教室。唐突にイレーネから告げられる。
「急だな」
「前から決まっていたんだけどよ。そういえば言うのを忘れていたな」
「それにしてもお前の性格的に≪王竜星武祭≫に出ると思っていたが」
≪星武祭≫は3つから構成される。
今年の夏に開催される2人1組のタッグで戦う≪鳳凰星武祭≫
来年の秋に開催される5人1組のチームで戦う≪獅鷲星武祭≫
そして再来年の冬に開催される個人戦≪王竜星武祭≫
これらは六花にある6学園の生徒によって優勝を争う。
「しかし“達“って誰とペアを組むんだ?」
≪鳳凰星武祭≫はタッグ戦だ。ペアを組む奴がいないと出場できない。
序列3位のこいつとペアを組める実力とコンビネーションがないと話にならないはずだが。
「海斗さん、私とお姉ちゃんでペアを組むんですよ」
「ぷ、プリシラ!?」
イレーネの背後からひょっこりと顔を出したプリシラ。
突然の登場にイレーネの方は体をびくりとさせるほど驚いている。
「お姉ちゃん、脅かしちゃってごめんね」
「べ、別に驚いてねーよ……」
しかし姉妹でのペアか。
「コンビネーションの方は問題ないな」
「おう!」
気持ちのいい笑顔を浮かべて頷くイレーネ。
問題の一つは解決したがもう一つの問題であるパートナーの実力がある。
イレーネは序列3位の猛者だがプリシラの方は俺と同じ序列外だったはずだ。
端末で軽くプリシラの記録を調べてみるが出てこない。
実力未知数というわけだ。
体格や性格的に戦闘向きといった気はしないが……。
そんなことを考えながらプリシラを観察する。
「私の実力はお姉ちゃんと比べたらだいぶ劣りますよ」
観察してことに気づいたのかそう言うプリシラ。
「まああたしからすればその辺りも考えてプリシラとペアを組む。一応、作戦みたいなもんもあるんだよ」
プリシラの弱気な発言を一蹴するイレーネ。
確かにこいつらが考えなしで挑むわけないか。
ならコンビネーションも実力も兼ね備えたペアということでいいだろう。
「まあ頑張るんだな」
「おう!」
「はい!」
俺の適当な応援に気持ちの良い返事を返す二人。
不良校の生徒とは思えないほどいい奴らだな。
「そういえば海斗は≪鳳凰星武祭≫に出ねえのか?」
「興味ねえな」
「興味ねえ、ってなあ……相変わらず変わった奴だな」
苦笑いを浮かべるイレーネ。
当然の反応だろう。
六花に集まってくる生徒の大半は叶えたい願いを引き下げてやってくるのだから。
中には違った目的をもってやってくる奴や途中であきらめて学園生活を謳歌している奴もいるが、どれにも当てはまらない俺は異端中の異端と言えるだろう。
しかし実際叶えたい願いなどない。
世界中の本とかならありかもしれない、と考えたこともあった。
ただその程度のことおっさんに頼めばやってくれそうではある。
「≪鳳凰星武祭≫に出ればいいところまで行けそうだけどな」
ぽつりとつぶやくイレーネ。
「買いかぶりすぎだ。序列外の俺では一回戦敗退が関の山だろう」
実際に戦ったこともないのにイレーネからの評価が妙に高い。
「私も海斗さんなら優勝も狙えるかもって思いますよ!! 今回の≪鳳凰星武祭≫は例年の≪星武祭≫に比べると大混戦なので……」
プリシラの評価も同じく高かった。
「おいおい……お前らの俺に対する評価がおかしいだろ。まず俺は序列外の生徒だぞ」
「序列外って……そりゃあ≪公式序列戦≫に参加してねえんだから当たり前だろ」
「まあな」
どや顔で答える俺。
実際に先週、レヴォルフ黒学院の序列を決める≪公式序列戦≫があったらしい。参加していないから知らないが。≪冒頭の十二人≫になれば相応の待遇が受けられるようだ。
「おいおい……。六花の学生なら≪公式序列戦≫くらい挑戦しろよ……」
目的も目標も向上心もない俺にややあきれた口調のイレーネ。
参加しないのはすでに特待生特権で≪冒頭の十二人≫と同じ程度の待遇を受けているからだ。
寮ではなく好きなアパートで過ごさせてもらっているし、金も本を買いあさっても余るぐらい貰っている。
そもそも特待生でなくてもなる気はなかっただろうがな。
俺は外でも眠れるし、腹が減ればその辺の草や虫でも食べてられる。
生きていくには問題ない。
まあ貰えるもんはもらっておくが。
―――べ、別に本が読みたいからとかではないんだからねっ!
「そういえば……」
そこで思い出したかのようにイレーネは端末を操作し、その画面を俺に見せてくる。
画面には『六花最弱か!? 決闘48連敗!!』という見出しの記事であり、記事内にはクインヴェールの学生の決闘の映像があった。
それを再生するイレーネ。
最弱と呼ばれている学生は為す術なく決闘相手である同じクインヴェールの生徒に終始圧倒されているが、気を失うまで何度も立ち上がり戦い続けていた。
俺にもこれぐらいの向上心を持て、ということだろう。
「世の中には向上心の化物もいるのな」
その言葉に肩を落として呆れるイレーネ。
「あ、ははは……」
プリシラも乾いた笑いがこぼれていた。
そんな反応されてもこのレベルの向上心を持っている奴は少ないだろう。
しかし……。
決闘の映像を再び眺める。瞬発力だけなら禁止区域にいた連中にもここまでのレベルの奴はあまりいなかったが。
―――最弱と言われるにはもったいない奴だな。
まあ俺には関係ないことだ。
「しかしもったいねえなあ」
映像に意識を集中させているとイレーネがつぶやく。
「こいつのことか?」
終始圧倒されている映像の学生を指差す。
「いや、ちげえよ。 海斗、お前のことだよ」
どうやら俺の事だったらしい。
「だから買いかぶりすぎだ」
「んなことねえよ。お前の体つきをみればわかるけど、明らかに武術を学んでいただろ。 真面目に特訓すれば上位も狙えると思うけどな」
「た、確かに海斗さんって体つき良いですよね……」
こ、こいつら―――。
「俺をそういうエロい目で見ていたんだな」
まさかクラスメイトからそういう目で見られていたとは。
モテルオトコハツライナー。
「いやねえよ」
きっぱりと言い切るイレーネ。
プリシラの方を見ると真面目な顔で頷いている。
「あ、でも!!」
今度はプリシラが思い出したかのように端末をいじる。
「非公式で全学園の有力選手のランキングを作っているサイトがあるんですけど……その一部に全学園のイケメンランキングもあるんですよ」
そう言って画面をみせてくるプリシラ。
―――っておい。全然俺出てこねーじゃねーか。
ページをめくっていくと俺の名前があった。
「36位ってなあ……」
微妙な顔をするイレーネ。
俺も同じ顔をしているだろう。全くうれしくない。
「お姉ちゃん! 全学園に男の人が何人いると思っているの!? その中で36位だよ! すごいです!!」
俺たちとは違って凄いと思っているプリシラ。
それを聞いても素直に喜べない自分がいる。
「どうせ狙うなら一位だろ。こいつはどういったやつなんだ?」
イケメン男子ランキング一位のアーネスト・フェアクロフとか言う奴について二人に聞いてみる。
「あたしは興味ねえけど六花最強の剣士って言われているな」
あまり好きではない様子のイレーネ。
そういえばこいつの制服は聖ガラードワース学園の物だな。
確かレヴォルフとガラードワースの生徒は仲が悪かったはずだ。
イレーネの反応にも納得できる。
これ以上の説明が期待できないのでプリシラの方をみる。
「この方はガラードワースが保有する≪純星煌式装≫である≪白濾の魔剣≫の使い手のため六花最強の剣士と呼ばれていますね。また性格も良く、顔も良いためファンが多いと聞いています。血筋も由緒正しい……」
「も、もういいぞ」
顔以外がどうにもならない。
一位になるのは不可能なことは分かった。
「話を戻すけどよ。海斗は体系をみるに武術を心得があるんだろ?」
イレーネが話を換える。
「多少はな。訓練校で習ったな」
手を抜いていたのなんという流派なのかは覚えていないが。
「海斗さん。訓練校ってなんの訓練校ですか?」
プリシラが俺の過去に食いつく。
おっさんにもこのあたりの事はそのまま経歴書に書かれていたので隠す必要もない。
「ボディーガードの訓練校だ」
「へ、へえー意外ですね」
「≪星脈世代≫でボディーガードなら余裕で主席だったのか?」
イレーネ興味深そうに俺の過去について聞いてくる。
話して困るようなことはないが女は話が好きって本当なんだな。
「いや1クラスしかない学園で35人中30位だったな。下の5人は落第だから実質俺が最下位だ」
どや顔で語る俺に対して苦笑いの二人。
「にしても海斗の人を殺してそうな目つきはボディーガードをやっていたからなんだな」
「いやそれは違うな。昔、何人か殺ったことあるからじゃねーか?」
とこともなげに俺が言うと二人は警戒しながら距離をとる。
「冗談だ」
「海斗の冗談は冗談に聞こえねえよ……」
そこで休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
いつの間にか消えていたプリシラ。
自分の教室に帰ったのだろう。
対照的に慌てて自分の席に戻るイレーネ。
着席すると同時に授業が始まった。
六花に来た当初は期待もあった授業だが今は退屈だ。
訓練校時代の授業と大差がない内容。
ぼうっと窓の外を眺めていると昔のことを思い出す。
イレーネたちのとの会話では語らなかった訓練校時代よりも昔。
―――禁止区域にいた頃を。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――俺、朝霧海斗は禁止区域で生まれた。
禁止区域は現代社会において貧富の差が拡大した結果生まれた小さな街。
犯罪者や職のない人間が最後に逃げのびる場所。不法地帯。
壁一枚を挟んで殺しが行われているなんてことは日常茶飯事。
そのくせ警察が逮捕するために禁止区域に入ってくるなんてことはない。
やつらも入れば最悪殺されることがわかっているからだ。
そもそも奴らにすれば同じ人間と考えていないだろう。
殺しの理由は様々だ。物、女の奪い合いに殺人欲を満たしたいだけ。普通では考えられないことがまかり通っている場所。
一般人は禁止区域の人間は人に非ず、と思っている奴らが殆ど。
いくら殺し合っても人の流入はなくならない。
それだけ行くあてのない人間が数多くいるわけだ。
生まれた人間は戸籍もない。人としての尊厳など存在しない。
そんな場所で生まれた俺は父親である朝霧雅樹、最低最悪の男によって育てられた。
まず始めに自分の父親から殴られる。何事もなく突然だ。
大人に本気で殴られたのだから当然その痛みに泣く。それをみて再び殴られる。
泣かなくても殴られる。何度も殴られる。痛みが顔に出れば殴られる。
痛みが顔に出なくなるまで何回も何日間も殴られる。
顔中血まみれになろうが関係ない。
寝ていようが関係ない。
曰く、「痛みを表情に出せば相手は調子づく」
他にも廃マンションから飛び降りたり、突然水野中に顔を押し付けられ溺死しそうになることもあった。
人も殺した。
殺した人数など覚えていない。
そんな毎日が死と隣り合わせの訓練。
俺は強くなるためにその地獄の訓練を生き延びた。
いや当時は地獄とは思っていなかった。
禁止区域で生まれた俺は外の世界など知らなかったからだ。
俺はこの特殊な環境が当たり前であると思っていた。
そんな日々が続いたある日親父からある命令が下された。
しかし俺はその命令を失敗してしまう。結果、男の三人組に親父はパン一切れでそいつらに俺を売り飛ばした。
そんな日々が1年ぐらいだっただろうか。正確な時間はわからないがその間俺は犬のように服従して好機を待ち、男たちの隙をついて倒し、脱出することが出来た。
外に出ると親父がいた。パン一切れで息子を売ったことに対して詫びる様子もなかった。
その時から俺は親父を敵と認識した。そしてそれから俺は親父の元で地獄の訓練を続けた。
そしてある時俺は親父を――――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――とそこで終業を告げるチャイムが鳴り、ぼうっとしていた意識が覚醒する。
手は知らない間に握りこんでいた。
手を開くと手のひらには手汗がびっしょりだった。
一息ついて腕時計で時間を確認する。
時は放課後。
端末を開いてみるとオーフェリアからメールが来ていた。
『海斗、帰りましょう』
短い文章にあいつらしさを感じ、安堵する。
俺も『わかった』と手短に返信した。
誤字脱字ありましたら指摘のほどよろしくお願いします。
また感想、批評、その他もお待ちしています。
今回若干サブタイトル詐欺なのは許してください。あまり禁止区域時代の過去を書きすぎると残酷な描写が多くなってしまうので……。
後、頑張って投稿ペースは上げていくつもりなのでよろしくお願いします
※追記 アンケート追加しました。出てきていないキャラもいるので期限は長めにみています。暇なときに投票していただければ幸いです。
ヒロインについて
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シルヴィ
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オーフェリア
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シルヴィ、オーフェリアのダブルヒロイン
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ハーレム