それじゃやりにくいので無視する方向で行きます。
門から少女が歩いて出て来る。
そよ風に蒼い神官服がなびく。
彼女の名はメイベル・フォーン
ズフムートの神官にして亜神。そして一人、空港の国際線の如きゲートをくぐり蒼髪の少女が現
れた。
立ち止まって空を仰ぐ。
「帰ってきた」
少女は呟いたが、別に行き来が制限されていたわけではない。彼女なり事情があって来なかった
だけだが、開放感というか、やはり"こちら"が落ち着くようだ。
袋から出した鞘を腰帯に差し、"アルヌスの街"に向かって歩を進める。避難民向けのプレハブ二
棟から始まった難民キャンプが、今や大商業地にして大消費地。一時期は"倉庫はあるが宿はない"
という特殊な街であったが、門の再開通、日本の割譲地化、それによる出先機関の開設等による人
の流入によって宿泊施設の需要が高まったために投資、起業によって解消されつつあった。
そこに宿を求めてメイベルは歩を進めていた。
が。
「今度はどんな悪巧みを企てているのかしらぁ?」
死神。漆黒の旋風。エムロイの使徒。ロウリィ・マーキュリー。かつて、呪いの執行、門の再開通
に置いて
争った亜神。
思わずたじろいたが、弱みを見せるのも癪なので虚勢でも胸を張って答える。
「企みなど無い。先の件は神の御心に従ったまで。今や躬は神の声も聞こえぬ。神剣も失い、
神官業も休業中じゃ。躬は知人を迎えに来ただけじゃ。」
「休業中?」
「神声の聞こえぬ使徒の祝福など有り難くはなかろう。信者に申し訳が立たぬので神官業は休業じゃ」
メイベルのいう神剣はロウリィの胸の中にある。声が聞こえない経緯も解らなくはない。
「日程に余裕があるのなら、仕事を依頼できないかしらぁ?」
というロウリィにメイベルは承諾し、"お茶菓子ぐらいはご馳走してよ?"という言葉に付き従い
、"食堂あさぐも"の二階に吸い込まれていった。
「紹介するわぁ」
とメイベルはロウリィに引き合わされた。相手はでかいヒゲダルマ。"亜神モーター・マブチス
よ"と。ドワーフにして鍛冶神の使徒にして匠精。光と秩序の神の使徒と、鍛冶の神の使徒。お
互いの神を称え、名乗りを交わす。
「見慣れぬものを差しておるなぁ」
とモーター。刀はこの世界では珍しい。外務省官僚が貴族や有力者に贈りはしたが、誰もが知
るような知名度はない。自衛隊の儀仗隊でも見ることはなく、公的な組織の装備で見なくなって
久しい。現代日本では公には"美術品"として存在する。
"良かったら"と鞘ごとモーターに刀を渡す。
「数打ちの現代刀故、普通に使えと貰い受けた」
門の向こうで世話になっている御人から、刀とその使い方を学んだことも申し添えた。
受け取った刀をモーターは抜いてみる。刃筋を確認し、
片手で振ってみる。"日本人は、これを両手で持って使う"メイベルは鞘を受け取りながら助言し
た。モーターは運足を確かめながら両手で柄を握り締め、袈裟に、横薙ぎに、切り上げに振って
みる。
「勉強になった。ありがとう。」
刀を鞘に収め、メイベルに返す。"興味が湧いた"とモーター。"調べておくから帰ってきたら
持って来い、研げるようにはしておく"とモーターは外に向かった。アルヌスの街では場所によ
ってはフリーのwifiがあり、ネットに繋がる。アクセスできる情報には制限があるが、刀の知
識、情報については問題ないと思われる。モーターはスマホやPCを持っていないが、持ってる
者から何とかする積もりだと思われた。モノづくりの神として、知的好奇心を刺激されたこと
が久しぶりと見えて楽しげに去っていった。
入れ替わりにメイベルよりも少し若年の少女が現れた。短髪のプラチナブロンドに導師のロ
ーブ。メイベルにとっても忘れる訳もない、レレイ・ラ・レレーナ。アルヌスの門を再び開い
た魔道士。レレイはメイベルを認めると少し身構えた。ロウリィと目を合わせると、微笑みで
答えを返した。続いて金髪のエルフとダークエルフも席に着いた。ややあって紅茶とケーキが
卓に並べられた。
「お茶など喫しながら始めましょう」
とロウリィ。"紹介が必要かしら?"とメイベルに問う。
「皆のことは存じておる。躬の方からはさせてもらおう」
と開門騒動以降のことを簡単に説明し、敵対の意図がないことを示した。協力に付いては聞
いてから決める、とも伝えた。"承知した"とレレイ。紅茶の香りを楽しみ、一口飲んでから話
し始めた。
レレイは頼みの内容から話始める。"期間は五日、私達に同行してコダ村の家屋と周辺の調査
を手伝って欲しい"尚、暫定の予定ではあるが、長引く予定ではないという。事情があって事を
急いているが、その事について説明したい、と。
"コダ村"とはかつて炎龍の出現によって放棄された村で、帝国の内戦やら避難民やらアルヌス
周辺の日本割譲やらで帰還希望者が集まっている。できればすぐにでも元住民を送り込みたいが
、現地の状況が全く解らない。自衛隊の航空偵察によれば"敵性武装集団は確認できず"との報告
。出来れば組合で傭兵を集め、それなりの戦力を揃えた上で現地調査を行いたいが、人手が集ま
る目処が立たない。やむ無く"自衛隊の情報を信用して"村長を立会い人として同道し、少人数で
現地調査を行うという妥協策をひねり出した。これに賛同して
貰える人を探しているのだ、と。
と、ここまで事の次第を黙って聞いていたメイベルが口を開いた。"事情はわかるが、いかに
日本領内とは言え賊の出現がままある地域なれば、人が揃うか自衛隊の協力を待つべきではない
か?"と。
「人の行動は理不尽なこともあるものじゃが、これはレレイ殿らしからぬ理不尽ではないか?」
言外にほかの理由があるのでは、と疑念を口にした。
少しバツが悪そうに表情を曇らせたが、観念したようにポツリと言った。
「子供たちに故郷を見せてやりたい。」
子供たちとは最初に難民としてここアルヌスに来た、炎龍によって身内を失った子供達の事だ
。親は失ったが、残った実家だけでも見せたい。将来的に戻ってもいいし、処分してもいい。図
らずも親が残してくれたものなのだから。レレイにとっての数少ない友人。彼女には寄る辺がな
い。姉はいるが、帰る所は無い。レレイには無いが、彼らにはあるのだ。
人気のしないかつての我が家を見て、今の彼らがどう思うかは解らない。だが、身内親族の思い
出が、形見が、財産が、あるという事は、とても稀有な事だと。いつか、でいいから解って欲し
い。
そんな話をポツポツと語るレレイを見たメイベルは、一度頷き、答えた。
「あいわかった。納得したので協力しよう。功徳でもあるし弔いでもあろう。神官の勤めじゃ。」
そこまで言うなら仕方がない、とでも言いたげな少し誇らしげに答えた。メイベルに子供っぽ
い仕草に、その場の空気が柔らかくなるのを一同が感じた。
「なんじゃ、この空気は?」
この場の三人ほどが、ある人物との出会いの時のことを思い出した。
チャンバラ書けなかったですね。
次は書きたいと思います。