side うずまきナルト
『そうあれかし』と叫んで斬れば、世界はするりと片付き申す。本当にそうであってくれれば一体どれだけ楽であったことだろう。この世界に転生してから本当によくそう思った。
だが、そうあれかしと喉が潰れるまで叫んでも、あらゆるものを斬り捨てても、世界が俺の思う通りに片付いたことなど一度もない。人間社会ってのは何があろうとどこの世界でも面倒極まりないものだ。
こいつ、がらがらどんの技は既に何度も見た。原作においてそれを止める技があることも知っている。ここに砂金は無いが、代わりとなる技術を俺は持っているし、十分に扱うことができる。
久方振りにこいつを動かす。臙脂色のガラス質の結晶。重量は同体積の金の実に数百倍。粒子でありながら流体のように動かすことができ、そして金剛よりもなお固い。正式名称は自在法『マグネシア』。だがこの世界で再現するのであればこう言うべきだろう。『晶遁・魔愚寝死亜』。かっこ悪い? 同意見だ。それにそもそも俺のは『投擲物を自在に操ることができる』と言うように変えた元転生特典『IS・スローターアームズ』の効果によって投擲された無数の超重量の粒子を操っているだけだから自在法でも何でもないんだが。
しかしがらがらどんの操る砂を真正面から受け止めることはできたし、それどころか押し返しすらしている。総量についてはこっちは気にする必要は無いし、そもそも俺の力でできたものを俺が操れないわけがない。マグネシアの結晶の上に座って浮かび上がり、がらがらどんを眺めながら使える砂をマグネシアの結晶の中に封印してから砂に染みついたチャクラを奪い取っていく。……これショ狸のか?
『いいや、あの小僧の……とも言えんか。混じり合っているようだから何とも言えん』
混じってんのか。じゃあこれのチャクラを奪えばショ狸のチャクラを若干でも使えるようになると?
『混じっている量はかなり少ないからまともに使えるとは思うなよ。お前の精神世界の中に一尾の馬鹿が現れることもだ』
いやあんな不眠症を強いる奴とか俺の中に存在させる気欠片も無いから。チャクラだけ絞る。寝てても起きてても五月蠅そうだしな。
飛んでくる砂礫をマグネシアで防ぎながらこちらも同じような物を返す。しかし俺の場合は奪われる事は無いがあいつの場合は俺の方に向けてきた砂は大半が奪われるため攻撃に躊躇いが混じるようになった。今では瓢箪本体を除いた分のおよそ半分が俺の周囲でチャクラを抜かれ、マグネシアの結晶の中で漂っている。それはつまり攻撃力も防御力も半減したことを意味するわけだ。
マグネシアで丸鋸を作って飛ばせば、砂の盾が攻撃を防ごうと動く。しかし砂よりはるかに重く、そして固いマグネシアの結晶体は砂の盾をがりがりと削り飛ばしていく。削った砂は当然マグネシアで受け止めてチャクラを抜いて封印していくが、やや焦り始めたようにも思える。これ以上砂を削られるとショ狸を外に出すための準備ができなくなる可能性もあるからだろうな。俺の知ったことじゃないが。
こちらの攻撃で削られれば飛び散った分の砂を受け止め封印される。しかし攻撃すると攻撃に回した分の砂を丸々奪われてしまう。こうなればあちらさんはもう一つしかできる事は無いだろう。印を組み、瓢箪も砂に分解して砂の防壁を作り上げる。今まで以上に硬く硬く練り上げられた防壁の中で術を完成させる気だろうが、こっちもそれを待っていた。
周囲に浮いている砂を封印したマグネシアを一か所に集めて結合させ、一つの大きな結晶にする。それに封印の術と札をくっつけてから布の中に作ったアンダーグラウンドサーチライトの中にしまい込んでその布をしまう。布には封印を入れた直後に砂の入ったマグネシアの結晶体の絵を浮かび上がらせておく。まあこれは仕込みの一つだ。
そしてあちらさんがのんびりと準備をしている間にこっちも術の準備(偽)としてそこそこ大きい魔法陣を描き出すべく行動を始める。チャクラを使う術式としては明らかに成り立っていない、しかしチャクラ以外に何か別の力があれば成り立つかもしれないと思わせるような不思議で奇妙な魔法陣。さて、俺はこの一発で一体何人騙せるだろうな?
Q.布の絵で何を仕込んだの?
A.まだ秘密。(ヒント・エニグマ)
Q.結局魔法陣で何人騙したの?
A.少なくともここを見ている奴のうちヒナタを除く全員。