NARUTO〜ほんとはただ寝たいだけ〜   作:真暇 日間

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NARUTO~05

 side うずまきナルト

 

 最近の俺の趣味は、彼女のメシの顔を観察することだ。

 アカデミーが休みの時に時々一緒に修行したりしている仲だが、俺が自作の弁当を持ってきてから色々と状況が変わってしまった。何しろ弁当の材料に使われているのが基本的にトリコの世界の生き物たち、つまりグルメ細胞を持つ食材ばかりなのだ。この世界の食材に比べると文字通りの意味で美味さが段違い。これに関してはもう仕方がない。何しろ世界から違うのだから物理法則の一つや二つ違っていたとしても何もおかしくは無いだろう。

 とは言っても、料理を美味く食べるのにも慣れや訓練という物は必要だ。世の中には旨味と言う味覚を感じ取ることができないという人間もいる。それはそれまでの人生の中で旨味と言う味覚に出会った経験が少ないから起きることで、一度それを感じることができるようになればまあ大抵の場合で忘れる事は無い。一度自転車に乗ることができるようになった後、数年乗っていないからと言って全く自転車に乗れなくなってしまうということが無いように、一度獲得した感覚と言うのはなかなか忘れないようにできているのだ。

 しかしどうも彼女はそう言った感覚には鋭い方だったらしく、顔を真っ赤にしつつも俺の弁当のおかずを一口食べたと思ったら別の意味で顔を真っ赤にしてしまった。まるでアーサー王が治めていた頃のブリタニア人に栄養価が高くかつ非常に美味なスープを与えてみたような感じだ。それは非常に彼女の味覚に合ったらしく、しばらく恍惚の表情を浮かべていた程だった。食べさせすぎるとグルメ細胞が宿る可能性が高くなるからあまり多くやるつもりはなかったんだが、ちー姉さんと暮らしていた頃からおねだりには弱いんだよね、俺。束姉さんがつまみ食いしに来た時なんて、つまみ食いの量を遥かに超えて食べさせちゃったくらいだし。ちなみに太ったそうだ。流石の束姉さんでも一口三百万キロカロリー×沢山を一日足らずで消費しきることはできなかったらしい。着ていた服がむっちりとして、特に靴下で太腿がぷにぃっとなっているのが眼福だった。なお、同じ量を食べ切ったはずのちー姉さんは全く太っていなかった。何故だろうね?

 

 まあともかく、真っ白なのにキラキラと輝いているのがわかる目の持ち主に口を開けさせ、そこにゆっくりととある美しい銀色の魚の素揚げを運ぶ。調味料は当然とある砥石からできた金色の調味料で、これがまた見た目も美しい。

 さっきから彼女は無言のまま、しかし『ほしい』『たべたい』『はやく』と言う意思が空襲を知らせるサイレンのように何度も何度も繰り返し伝わってくる。口の中に溜まる涎が目に見える速度でその嵩を増しているのがわかり、このままだとあと三十秒もしないうちに口の端から涎が毀れるなと予想できるようになった辺りで素揚げを投入。何日も水と僅かな米だけで暮らしていたかのような勢いで彼女は素揚げを頬張り、蕩けるような、あるいは今まさに蕩けているような、そんな笑顔を浮かべた。

 実に良いメシの顔だ。最近はこれを見るためにわざわざ弁当の格を上げていると言っても過言ではない。と言うか完全に事実としてこの顔を見るためにここ最近は弁当の格を上げている。とは言っても流石に現段階ではグルメ界ではなく人間界の食材しか使っていないが、これにも理由はある。トリコの世界では人間界の食材でも凄まじく美味いが、グルメ界の食材の美味さはそれこそ別物と言える。そんなものを何の耐性も無い彼女に食べさせたら、文字通りの意味で虜になってしまうかもしれない。少なくとも、料理している本人の腕が十分良ければこの世界の材料から作った料理でもトリコ世界における人間界の食材のそこそこいい程度の食材に慣れた舌で『まあ美味しい』くらいならいけるということは確認している。自分で。

 そもそも俺はトリコの世界に行った事は無いからな。行ったことがあるならもっと難しい食材でも調理できるんだろうが、行ったことがない以上は基本的に誰でも簡単に調理できるものであるかあるいは調理済みの物を出すしかなくなるのだ。しかも調理済みの物は調理内容を変えると一気に不味くなったり毒ができたりするから変えられないというおまけつき。もしも行くことがあるなら早めにトリコの世界にも行ってみたいもんだ。行くことがあればの話だが。

 

 じーっとこちらを見つめる彼女から『ありがとう』『おいしかった』『おわり?』『かなしい』『もっとたべたい』『がまん』と言うような意思が流れてくる。言葉にすると今の以外にもまだまだ単語と文章の羅列が続きそうだが、これが俺に伝わってきたのは文字通り一瞬のこと。戦闘には全くと言っていいほどに役に立たない俺のスタイルだが、普段使いするにはここまで便利なスタイルも中々無い事だろう。

 ……いやまあ、漢字使いとか換喩使いはあまりにも便利すぎて例外とするけども。あの便利さは正直羨ましい。

 

 


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