次々と襲いかかるバルーンやマッシュの魔物達を私は小さなナイフ一本で仕留めます。派手な動きは要りません。最小限の動きで攻撃を避けて、逆撃を与えます。気の流れを読み取って最も脆弱な一点のみを狙いを定めて突き刺す。それだけで弱い魔物達の命は狩り取られます。
「……ふぅ、漸くレベルアップですね」
同時に襲いかかってきた魔物五体に対して私は殆んどその場を動くことなく一方的に撃破しました。私がこちらの世界で目覚めてから約三か月、その間に私のレベルは漸く12にまで上昇しました。レベル上げ自体は上々です。問題は……。
「……やはり誤魔化すのも難しくなってきましたね」
亜人は急激なレベルアップにより身体も成長する存在です。食欲自体は成長期ゆえに然程問題もなく、異様な空腹は最悪ウサピルでも狩ってその肉を食べれば良いのですが、問題は体型と身長です。そろそろレベル上げを誤魔化すのは怪しくなってきました。
「……そろそろあれを実験する時でしょうか」
こちらの世界で私が維持出来た神としての力、レベル10になる事で辛うじて解放されたそれを上手く使えば村の皆に怪しまれずに強くなれるのですが……。
「……仕方ありません、もう一度挑戦しましょう」
私は覚悟を決めて木の上に作ったログハウスの秘密基地に戻ります。
「失敗した後の処理が面倒なのですが……」
私がこれから行うのは神としての力の一端、魂の分割です。はい、あの女神がメルロマルクのビッチを作ったり私やナオフミ様が様々な世界に侵入する時に作るものです。自らの力と魂を分割して分身を生み出すのです。これに成功すれば私は自身を分割していく事で村で怪しまれる事なくレベルアップをし続ける事が出来る訳です。
はい、もし複数運用出来るようになれば様々なコネクションやツテを作り上げる事も可能でしょう。現在のレベルアップは40が限界で、その先は国の許可が要りますがこの身分けが出来ればメルロマルク以外で冒険者をやってクラスアップも出来ます。あるいは敢えてクラスアップする前に魂を分ける事でレベルを分割しても良いでしょう。
尤も、成功したらの話です。一月程前に挑戦したら見事に失敗しました。魂を引き裂く痛みは神にとっては兎も角今の私には相当の激痛です。結果身分けに失敗して生まれたのは肉の塊のようなものでした。それもすぐに死んでしまい、埋めて処理するのが本当に大変でした。恐らくは分ける魂が少なすぎた事が理由でしょう。今回は出来るだけ大きめに魂を引き裂きたいと思いますが……。
『盾の神の片割れたるラフタリアが命じる……我が魂を裂いて生まれよ……』
覚悟を決めて私は魂を分ける儀式を始めます。
「ぐっ……っ!!」
すぐに身体を引き千切られるような壮絶な痛みが私を襲います。今にも悲鳴を上げたくなる痛みにしかし私は涙を流し、滝のような汗をかいて、歯を食い縛りながら耐えます。
「がっ……ぐあっ……あがっ……!!?」
余りの痛さの前に私は思わずその場で倒れ、嘔吐し、痙攣すら起こしていました。それほどまでに今の私にとっては魂を分けるのは難しい事なのでした。ですが……。
「はあっ……はあっ……!この、この程度でっ……!!」
私はもう長い間痛みと言うものとは無縁でした。盾の神であるナオフミ様の加護で全ての傷はナオフミ様に向かいます。それ故に何があろうとも私は戦いの中で疲労こそあれど激痛を味わう機会はありませんでした。ああそうでした、痛みとはこのようなものでした。懐かしいものです。
「あぐっ……!この程度のっ……痛みっ……!!」
私は失神してしまいそうな意識を懸命に繋ぎ止めます。下手に意識を失えばまた失敗してしまいます。それは許されません。ナオフミ様はもっと多くの苦しみを耐えきってきたのですからこの程度の事でへこたれている訳には行きません……!!
「ぐっ……こ、この……ぐっ……うおぉぉぉぉっ!!!」
私は獣のような声をあげながら殆んど力づくで自らの魂を引きちぎりました。そして、次の瞬間私は激痛から意識を失ったのです…………。
「んっ…あっ……」
何時間程たったでしょうか?周囲は暗くなっていました。ああ夜です、これではお父さんとお母さんに叱られてしまいますね……。あれ?そういえばどうして私はこんな所に寝て………。
「はっ!!身分けはっ……!?」
私は慌てて周囲を見渡します、と同時に私はそれを視界に収めました。恐らく彼方も私を視界に収めた所でしょう。私とほぼ同じ程度の背丈の衣服を纏っていない少女がこちらを見ていました。
「……貴方はラフタリアですか?」
私は疲労している少女に尋ねます。すると少女は答えます。
「貴方もラフタリアでしょう?」
「はい、では……私達の目的は分かりますね?」
「ナオフミ様を御守りする事、でしょう?」
どうやら身分けは成功したようです。ステータスを確認します。
「こちらはレベル9ですね。貴方はどうですか?」
「こっちは……レベル3みたいです」
「まぁ、そんな所でしょうね……」
「はぁ……神であった頃ですと結構簡単でしたがやはり今の身では命がけですね……くちゅ!」
分けられて新しく生まれた私は小さなくしゃみをします。夜に裸で何時間も寝ていたらくしゃみが出るのも当然ですね。
「待って下さい。服を交換しましょう」
「貴方が家に戻るのでは無いのですか?……いえ、成る程。確かにその方が良いですね」
長々と説明しなくとも同じ「私」なのですぐに理解してくれて助かります。背丈ではどちらかと言えば私の方が大きいですしレベルも私の方が上です。新しく生まれた私には家に住んでもらい、私の方はこの秘密基地でレベル上げの生活をした方が効率的です。まぁどうせそのうち身分けも増やしたり一旦一人に戻ったり繰り返すつもりですので今どちらが家に戻ろうと大した違いはないのですけどね?
「それよりも早く着替えましょう、村の皆が心配しているはずです」
「そうですね」
私は衣服を脱いで身分けした自身に与えます。そしてこの時のために準備していたお古の服に着替えます。
「………」
「どうしました?あ、そういう事ですか……」
もう一人の私がじーと私を見ていましたがすぐに理由を理解します。
「今更ながら貧相な身体ですよね」
「ナオフミ様はサディナ姉さんのようなのが好みでしたから……」
互いに身体を見やる。決して痩せすぎと言う訳ではありませんが、正直年相応に幼児体型な体つきでした。ナオフミ様の好みは長年共にいたので良く理解しています。所謂グラマーな体型が好みらしかったです。ナオフミ様の持っていたゲームや漫画の趣向から見ても間違いないでしょう。
「あの頃は『波』との戦いを優先していて、体つきもそれに合わせて成長していましたから……」
「後悔する訳ではありませんがうかつでした」
ナオフミ様の奴隷として戦いレベリングして成長していた頃、当然ながら好みなんて知りませんでしたので戦闘に相応しい体型に成長していました。今思えばもっと何て言うべきでしょうか……ボンキュッボンな体型?に成長するべきでした。
「神になった後は多少の外見なんて好きに変えられましたけど……」
「ナオフミ様が違和感あるから止めろって言ったんですよね……」
互いにはぁ、とため息をつく。元の世界では分け身とは言え子供を作ったりもしましたし、決してそういう関係が無かった訳ではありませんでしたが、ナオフミ様としては男女としてよりも相棒、下手すれば最後の時ですら若干子供を見る意識があったと思われます。そのせいで慣れ親しんだ姿をやめて好みの姿をされても抵抗感が強かったようです。
「いいですか?今度はこんな失敗は出来ません。多少戦いに向かなくても今度はナオフミ様の好みの体型に成長して攻めますよ!目標はサディナ姉さんです!」
「当然ですっ!後美容にも力を入れないといけませんね、早寝早起きして肌を守りませんと……!!」
互いを見つめあって、強く頷き合います。
「それではレベル上げの方は頼みます」
「分かりました。貴方の方も怪しまれない程度には鍛えて下さいね?」
「当然です。ではこれからは……」
「ええ、三日に一度くらいは顔を合わせましょう。待ち合わせの場所はここで」
「はい」
互いに確認を行った後私達は別れます。分け身する前の私はこの秘密基地に残り、分け身した後の私は村に戻ります。まぁ、どちらも私たちですので区別するのも何か変な感覚がするのですが………。
「さて、それでは少し食べた後は寝ましょうか」
予め秘密基地に保存していた食料を口にします。ナオフミ様の料理と違い塩気しかないものですが仕方ありません。というよりもナオフミ様って村で保存食作っていた時も凄く美味しかったのでした。………お陰様で私が料理を作る機会なんて殆んど無かったんですよね………。
「はぁ、いや別にナオフミ様の料理が嫌と言う訳ではないのですが……何と言うか負けた感が強くて……」
ログハウスの秘密基地の中で何度か分からないため息をつく。この事に愚痴を言っても仕方ありません。明日は朝からレベル上げをするために早く寝てしまいましょう。
古びた毛布にくるまって暖を取ります。うう、レベル的に仕方ないですがやはりこの時期は寒いです……。
「火はあまり使えませんし………」
そこまで考えてふとその考えが思い浮かびます。同時に私はまるで生娘のように頬を紅潮させてしまいます。いえ、この身体は確かに生娘なのですが……。
「いや、ですが……いえ、これは別にやましい事ではありません、あくまでも暖を取るための手段でしかなくて………そうです、そうですとも!別に他意はないのてです。ですから………問題はない、はず」
私は誘惑と理性を葛藤させて、最終的にこれから行う行動を自己正当化します。そして周囲に誰の視線もない事を確認した後、毛布の中にくるまって手を下半身に伸ばして………。
「んっ……はぅ……んんっ……はぁ……えへへっ……ナオフミ様………」
口元を情けなく緩ませた恍惚の表情をして、切ない声を上げながら私はひっそりとそれを行いました。正直この身体で反応するのか半信半疑でしたが予想以上に反応と快感が来て身体は火照りました。
……はい、そうですよ!溜まっていたんですよっ!!悪いですかっ!?これまでは神ですからそんな欲望余りありませんでしたし、あっても分け身して本体はずっと戦っていたんです!正直今の私はやることが少なくて暇なんですよっ!し・か・も!家族や友達の視線があるので下手な事出来ないんですから!
「まさか精神年齢数億歳にもなって自分で解消する、しかも子供の身体でする機会が来るなんて考えてもいませんでした………」
神になったばかりの頃の私が見たらどう思うでしょうか、ふとそんな下らない事を考えます。
「はぁ…はぁ……丁度良いくらいに暖まりましたね。これなら大丈夫でしょうか?」
私は恥じらいを誤魔化すように状況分析を行います。もう十分に暖まりました。余りやり過ぎても眠れなくなります。これくらいでいいでしょう。私は目を閉じました。
「…………やっぱり少し寒いですから……もう一回くらい……いいです、よね?」
そう言い訳するように私は再度下半身に手を伸ばします。
「ナオフミ様………」
私の何処か子供っぽく、悲し気な呟きは闇に消えていきました。
……ちなみに、私は結局八回くらいやってそれを終えた頃には朝が来ていました。三日後にもう一人の私にその話をしてジト目で見られたのは内緒です。うう、恥ずかしい………。
分け身ラフタリア「何それ羨ましい、立場替わって下さい」