盾の奴隷は愛に狂う   作:鉄鋼怪人

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第五話 狸娘はパーティークラッシャーに励むようです

 「神の尖兵」……それは所謂「神を僣称する存在」が世界を混乱させるために送り込んで来た異世界からの転生者や転移者、憑依者達の事を指します。

 

 彼らには神から各種の能力が付与され、また異世界からの知識や端正な容姿等が与えられております。  

 

 ですが彼らの大半は自己中心的かつ独善的な思考であり、また本質的には邪悪な者ばかりです。実際過去の記憶から考えても彼らの中で我々の話を聞いた者は極一部ですし、その中ですら最終的には全員と交渉決裂致しました。どうも元より性格に難がある者ばかり選ばれているようで、更に神によってこの世界に連れていかれる過程で思考も弄られているようです。

 

 まぁ、どうしてこんな事を考えているかと言えば、正に目の前にそんな世界の寄生虫の一人がいるわけです。

 

「うりゃゃあっ!!!」

 

 目の前では黒髪に黒瞳の端正な青年がドラゴンと死闘を繰り広げていました。いえ、死闘というには語弊がありますね、命懸けなのは生け贄のドラゴンのみです。

 

『グオオオォォォ!!』

「ちぃっ!中ボスごときがっ!!さっさとくたばれ!」

 

 そう語り青年は魔剣を振りドラゴンを追い詰めます。

 

「よっしゃあ!!くたばれ!」

 

 明らかに異様な力でステータスを向上させた青年は冒険者ギルドで討伐対象に指名されていたドラゴンの首を切り裂き、ようやく討ち取りました。

 

「どうだっ!!これが俺の力だっ!!」

 

 周囲に見せつけるように転生者の青年は叫びます。正直あの程度のドラゴンでしたら強化方法を共有する前の眷属器の勇者でも勝てるのですが……まぁ、只の冒険者にとっては偉業である事は間違いありません。

 

「どうだいラフタリアちゃん!俺の活躍見てくれたかいっ!?」

 

 流し目をこちらにしながら転生者は私の名前を呼びます。本音を言いますとナオフミ様に呼ばれるなら兎も角、彼の視線は気持ち悪いので同じ空気すら吸いたくないのです。ですので………。

 

「はい、貴方の最後の御活躍でしたら見ましたよ?ですので……そろそろそんな嫌らしい視線で私を見るのは止めて下さいね?吐き気がします♪」

「はいっ……?」

 

 にこりと微笑んだ私は刀でユウヤ……でしたっけ?転生者の胸元を貫きます。全く技術はない癖にステータスは高いので隙を狙うのが大変でした。私は反撃されないように急所を狙い、一撃で即死を狙います。そして相手は随分と油断していたらしく、それはほぼ完全に達成されました。

 

「なっ……ユウヤ様っ!?貴様何を……」

「あ、貴方達も目障りですので御消え下さい」

 

 取り巻きの女性方二人に礫を投げて頭蓋骨を粉砕致します。どうせ尖兵共の共食いで勝った方に着く事くらい知っています。貴方方確かタクトの所にいましたよね?

 

「それではソウルバキューマー、仕事お願いしますね?」

 

 私はドラゴンの巣の外に待機させていたソウルバキューマー達に命じます。魔物商からレンタルしておいた物です。私はレベル上昇で手にした神のとしての力(正確にはその残骸)で以て彼らの魂を探します。

 

「いた、あそこですね。早く食べてしまってください」

 

 太った中年の魂と女神っぽい顔立ちの魂を見つけ指差します。その命令に従い、ソウルバキューマー達は嬉々とした表情を浮かべて汚れた魂を貪っていきました。悲鳴が聞こえますが無視します。

 

 ……はぁ、やっと殺せました。あの転生者、不躾に私の身体を見てにやけたりして気持ち悪かったのですよ。視線だけで虫酸が走りました。どうせならナオフミ様にして欲しいのですが……結局そういう視線を向けられた記憶がないのですよね………。

 

「さて、それよりも……」

 

 苦痛と吐き気を我慢してあのうざい転生者達と同行したのは別の目的あっての事です。

 

「ああ、有りましたね。これが竜核の欠片ですか」

 

 転生者の偽りの力に敗れたドラゴンの死体を解体して私はそれを見つけ出します。

 

 竜帝、それは古の昔勇者と共に戦ったドラゴンであり魔物の頂点です。竜核はその記憶や知識が封印されている物であり、それらを集めたドラゴンは大昔の様々な知識を知り、次の竜帝となる事が出来ます。そして竜帝は更に世界の生命の三分の二を犠牲にする事で神の侵入を阻む結界すら産み出せる応竜を解き放つ鍵でもあります。

 

 私の目的は正にそれで、竜帝の欠片を集めるついでに、迫ってきた転生者の処理を行っていました。まだクラスアップも眷属器も有していない私には双方共に正面から刈るのは危険が伴います。彼らを潰し会わせて残った方を処理するこの方法はとても楽でした。

 

「さてギルドには討伐中に死亡、と伝えませんとね」

 

 これで三人目、ともなれば普通は少し怪しまれそうですが、元々彼らの周辺では不審死も多かったですし、正直ギルド上層部でも疎まれていたりするので案外何とかなるものです。その辺りは元々の素行の悪さによる因果応報と言うものでしょう。

 

 私は漸く身の毛もよだつ視線から解放され、鼻歌を歌いながらドラゴンの巣を出たのです。

 

 

 

 

 

 

 

「それは気の毒でしたね………まぁ、あの人も実力は確かでしたが少々強引な所がありましたので……今回だって危険だと止めたのですが……。冒険者にはよくある事です。気にしないでください」

「ひくっ……ひくっ……はい………」

 

 気の優しいギルド職員の前で私は嘘泣きしながら彼らの死を伝えます。後でギルドの調査隊が巣に行くかも知れませんが、まぁその頃にはほかの魔物に食べられて死因の特定は不可能でしょう。

 

 冒険者のパーティーが全滅する事自体は珍しくありません。しかも今回は高レベルのドラゴンの討伐です。何より私は素行が良いですし、態態人を疑う事のない職員に報告しました。嫌疑をかけられる可能性は最小限です。

 

 因みに奴隷紋を使った自白を命じられても問題ありません。あの程度の痛みなら身分けの激痛の方が遥かに恐ろしいですし、今の私には微風みたいなものです。最悪バレた場合は自害します。どうせ私が死んだ所で経験値や記憶はほかの身分けに相続されますので然程問題はありません。

 

 あ、けどナオフミ様からの奴隷紋の痛みなら悪くないかも知れませんね。ふふふ……ふふふふふ………おっと、危ないです、思わず想像すると口元が緩みそうになります。

 

「それでは依頼の達成の報酬の方ですが……」

「はい、……ひくっ…私は要りません。私が出来たのは……ひくっ…弱った所で止めを刺しただけですので……ユウヤさん達の家族の方に報酬は送って下さい」

 

 嗚咽を漏らしながら私は語ります。儚げな表情で遠慮するようにこう言えば余程の事がなければ私があの寄生虫共を殺した事はバレないでしょう。……何だかどんどんビッチ女神を笑えなくなっている気がしますが気にしてはいけないのでしょうね。

 

「しかし冒険者ギルドの取り決めではパーティーが壊滅した場合は生存者に報酬の第一継承権が……いえ、そう仰るのでしたら良いでしょう。分かりました、こちらの報酬については遺族の方々に相続と言う事で処理致します」

「……有難うございます」

 

 私は深々と頭を下げました。下げた口元が笑みで吊り上げっていたのは内緒ですよ?

 

 

 

 

 

 ギルド職員は壊滅したパーティーの生き残りが受付から去ると溜め息をついた。

 

「どうしたんだ?溜め息なんかついて」

 

 隣の同僚の受付がそんな職員に尋ねる。  

 

「ああ、これ見てくれよ」

「ん?ああ、こりゃ……最近有名な可愛いラクーンの冒険者か」

 

 同僚が見せた書類を見て反応する。このゼルトブル冒険者組合でも半年程前から登録したラクーン種の女性冒険者の事はそれなりに有名だった。

 

「加入したパーティーが三件全滅か。こりゃ少し怪しいが……」

「ですけどあの娘がやったとは思えませんよ」

「まぁ……そりゃなぁ……」

 

 職員の言に同僚は渋々同意する。

 

 実際パーティーの仲間を殺害する動機がない。回収した遺体から盗まれた物はないし、報酬も放棄して遺族に渡して欲しいと来ている。それに彼女はクラスアップはまだしていない。相手のパーティーはそれこそレベルで上回る者もいるし、何より一人でパーティーを幾つも壊滅させるなぞ有り得ない。少なくとも龍脈法や変幻無双流を知らぬ者には可能とは思えなかった。

 

「それに怪しさなら組んだパーティーも大概ですよ」

 

 壊滅したパーティーはどれも急激に頭角を現したが同時に様々な疑惑もあるものばかりだ。身元不明の黒髪の少年に有名パーティーの雑用を追放された後急成長した者、天才として持て囃されたどこぞの騎士の息子……優秀ではあるかも知れないがトラブルを良く起こし、我が強く、しかも女性を堂々と侍らせるために評判は良くない。ギルド上層部も手を焼いていた者達だ。

 

「しかも壊滅したのはどれもギルドから今の経験では危険だから避けるように警告したものばかり、か」

 

 当然ながらそれを無視して依頼を受けて、全滅と言うわけだ。

 

「あの娘は危険だからと、後方に残っていたそうです。それで怪しまれるのですからある意味被害者ですよ」

 

 ギルド職員とて人間である。ラクーン種の若く美しい冒険者と身勝手で女を侍らせるトラブルパーティーとでは、どちらを擁護するかは分かりきっていた。

  

「そいつの肩を持つ気はないが確かになぁ……俺もそのパーティーの奴ら危なっかしくて仕方なく見えたしな。いつか死ぬとは思っていたよ」

 

 結局職員達はすぐに唯一生き残った冒険者への疑惑を忘れてしまう。

 

「それはそうと確か申請が降りたのだっけか?」

「ええ、漸く降りたみたいですよ」

 

 そういって手にするのはクラスアップの申請許可証である。そこには複数名記述されるクラスアップ認可冒険者の名前があり、その中には当然の如く先程の話題のラクーン種の少女冒険者の名前も記載されていた………。

 

 

 

 

「さて、そろそろクラスアップの申請が降りるそうです。……それでは後の事は頼みましたよ、私?」

「ええ。そちらこそ、シルトフリーデンの方、上手くやって下さいね?」

 

 私はゼルトブルに残す分け身にクラスアップの申請許可証を渡すと、フードを被り急いで魔物商から中古で購入した老ドラゴンの背中に乗ります。

 

「ではセバスさん。さっさと行きましょうか?残りの竜核も早く欲しいでしょう?」

 

 脅迫気味に私がそう命じると中古騎竜のセバスさんは急いで翼を開いて空に飛びます。あっという間に私の身体は上空に誘われます。

 

「さて、ここからが時間との勝負ですね。セバスさん、間に合わなければその首を落としますのでご注意下さいね?」

 

 騎竜は小さな悲鳴を上げてスピードを上げます。これならばギリギリ時間は間に合うでしょうね。

 

 では、シルトフリーデンには槌の眷属器をお借りさせて頂くとしましょうか。精霊が呼び掛けに応じない時?

 ああ、その時は……。

 

「余り乱暴な手は使いたくないですが少しお仕置きをしませんとね………?」

 

 私は張り付けるような笑みを浮かべてそう一人ごちました。




次回でようやく勇者になれそう

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