己がために   作:粗茶2.5歳
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 遅れてすみません。
 それと、あとがきにてちょっとしたお知らせです。


16話 vs元老長チュデルキン

 

 元老院。そんな言葉を聞いても脳内に浮かぶのは、ローマ帝国の元老院なんだよな。そしてイメージとしては腐った時代の元老院の方が強い。そのせいもあってか、この世界の元老院も良いイメージがない。そもそも騎士長を《ディープフリーズ》させたのが元老長と聞いては、イメージも元から悪くなるというものだ。

 そしてその悪いイメージを助長させているとも言えるのが、この薄暗い空間だろう。元老院へと入る扉があった通路と同様に、元老院の中も薄暗いものだ。部屋の中はそれなりに広さもあるが、それ以上に高い(・・)。三階分ぐらいはありそうだ。

 そして、気味が悪いことに四角い箱のような場所があり、そこにあるものを見るといかにこの世界が腐っているのかが分かる。そこにある……いや、いる(・・)者は俺達の方に一切目を向けず、ただひたすらに何かしらの術式を詠唱している。

 

「ここが……元老院なんだよな? 誰もいないようだが」

「ですが術式は唱えられています。それもいたる所から」

 

 まだ目が慣れていないのか、それともただ気づいていないだけなのか、キリトとアリスは元老院の姿を認識していなかった。俺は二人に気づかせるためにキリトの前に行き、一番近い元老院の人間の前で止まった。

 

「ジーク勝手なことを……! ……なん、ですか? それは……」

「な、生首!?」

「これが元老院の姿なんだろうぜ。記憶を奪い、理性を奪い、感情も奪い。ただ与えられているのは動物以下の食事と何かの術式をひたすら唱えるという仕事」

「そん、な……。このようなことなど!」

 

 この光景を生み出しているのも最高司祭アドミニストレータなのだろう。そしてこれを是としているのが、この元老たちの長である元老長だ。元老長はもしかしなくても元老を仲間だとは思ってないんだろうな。組織としての名ばかりの部署が元老。それを名目上束ねる立場に収まっているだけ。

 

「システム・コール……ディスプレイ・リベリング・インデックス」

「ん?」

「今のは……!」

「キリト知ってるのか?」

「ああ。ユージオが右眼の封印を破って学院で剣を抜いた時のことなんだが、あの一件の時にたしかに今の術式を聞いた。……思い返せばその時に見えた姿と変わらないな。てっきり素顔を隠すためのものと思ってたんだが……」

「人界をこれで細かく見張っていたということですか。何かの数値を見るための術式のようですが、それが何かまでは……」

 

 なるほどなるほど。罪人をどうやって速攻で見つけ出し、カセドラルへと連行してきていたのかが疑問だったが、どうやらこの術式で見つけ出していたようだな。数値はおそらく犯罪指数かなにか。それが一定の数値を超えれば《禁忌目録》に違反したということになる。一人ではなく元老全員でやっているのであれば、見逃すはずもない。

 だからこそ、八年前にアリスが《禁忌目録》に違反した次の日に、北の辺境であるはずのルーリッド村にすぐさまデュソルバートが駆けつけた。一番近かったとはいえ早すぎる。キリトとユージオに関しても同様だ。央都であるとはいえ、夜が明けたら捕まってた。

 

「機械的な処理をさせるために文字通り装置にしたってわけか」

「効率はいいだろうが、倫理からはかけ離れてるな。……あー、なるほど。最高司祭はそういう(・・・・)人間か

「……これが救済だとは思いませんが」

「アリス?」

 

 静かに《金木犀の剣》を抜いたアリスは、目の前にいる元老の胸に突き刺した。たしかにこれでこの元老は"死"という方法で役目から解放されるだろう。しかし、アリスが言ったとおりこれは救済にはならない。戻す手段を知らない俺達はこれ以外の方法を知らないしな。

 

「ホアーー! いけません! いけませんよ最高司祭猊下ァーー! そのような……ホアーー!!」

「キモっ!」

 

 なんだこの、まるでオタクが推しに直接出会って言葉を交わすだけでなく肌に触れた時みたいな反応は! そんなやつ見たことないからこの例えがあっているのかも分からないけども!

 あまりにも気持ち悪かったから思わず声に出してしまったが、キリトも頷いてくれてるし、そう思ったのは俺だけじゃないだろう。アリスも目が鋭くなったし。いや、アリスがそうなったのは別の理由か。この元老院で声を発せられる人間は一人しかいない。つまり、この声の主は元老長だ。騎士長を解放するためにも元老長は見つけ出さないといけなかったし、意識を切り替えたんだろう。

 声がする方向にアリスが歩いていき、それにキリトが続く。俺もそれについていくのだが、

 

『──!』

「っ!?」

「ん? ジーク? どうかしたのか?」

「……いや、なんでもない」 

 

 何かが聞こえた気がして後ろを振り返ったが、そこにはもちろん誰もいない。誰もいない筈だった(・・・・)。だが、俺にはそこに誰かがいるのが見えた。それは幻視なのだが、強烈にそれが脳内に焼き付けられる。丸いこの部屋の中央にいた誰か(・・)。それを囲むのはずっとこの部屋にいる元老の視線。それが何をしている光景なのか、その子が誰なのかは分からないが、胸糞悪いことに変わりはない。

 だが、今はそれよりも元老長だ。俺は視線を戻してキリトと共にアリスの後を追った。先行したアリスがある地点で立ち止まっており、そこにはまた小さな扉があった。その先には部屋があり、趣味の悪い調度の金色の家具だらけ。ぬいぐるみや人形、おもちゃなどもあるが、どれもよく分からない姿をしている。そんな部屋から聞こえてくる奇声。それが元老長の声で、何かに夢中になっているらしい。言葉からして最高司祭が何かしているらしいが、最上階にいるはずだからこいつは覗き見しているのだろう。変態だな。

 

「ありゃ、アリスが行っちゃった」

「追いかけるぞ!」

 

 扉を潜り、たった二歩で元老長に近づき、元老長が振り向こうとした時にはアリスが首を掴んで吊し上げ、剣を突き立てていた。それに少し遅れてキリトがアリスの後ろに着いたが、俺は動かないでいた。元老長が何かするのなら、三人固まっていては敵にとって好都合だろうからな。それに、なんか俺はこっちにいた方がいい気がする。さっきの幻視がまだ脳内に再生されるからなのかもしれないな。

 

「お前! 三十号! なぜこんなところにィ! お前のすぐ後ろにいるその男をなァぜ斬らない!!」

「私を番号で呼ぶな! それにこの男を斬るよりも、貴様を斬ったほうがいいと分かりました。この歪んだ人界を正すためにも!」

「裏切るというのかァァ! よりにもよって最高司祭猊下をォ! 貴様ら騎士は黙って我々に従っていればいいものを!」

「それも貴様らがシンセサイズによって植え付けたものであろう!」

「なぜそれを!」

 

 あのクソ丸デブ野郎。アリスのこと三十号って言ったか? 今三十号って言ったよな? アリスという名前を呼ばずに番号で呼んだよな。たしかに騎士たちの名前の最後のは数字だったけども。何番目に騎士になったかを表しているというのはすぐに分かったけども。だがしかし名前はちゃんとある。それにも拘わらずあのクズはアリスのことを番号で呼んだ。エアリーの名前が消えたのも、こういう奴が上にいるからってわけか。

 

「アタシは今でもくっきりと思い出せますよゥ? 幼く無垢で可愛らしいオマエが、ぼろぼろと涙を溢しながら何度も何度も懇願するさまを……『お願い忘れさせないで。私の大切な人たちを忘れさせないで……』とね。ホホホ」

 

 あの幻視がまた脳内で再生される。今度は声もついて。そしてアリスの姿がはっきりと映って。

 

「おほ、おほゥ、思い出せますとも! アタシャ今でもあの光景を(さかな)にして一晩たっぷりと愉しめますよ! どこぞの糞田舎から連れてこられたお前は、まず二年間、修道女見習いとして育てられた。生活規則の抜け穴を見つけて、セントリアの夏至祭を見物に行くようなお転婆でね。それでも一生懸命に勉強すれば、いつかは故郷に帰れると信じて頑張ったんですよねェ。でもね、そんなわきゃァねェんですよォ! 神聖術行使権限がたっぷり上がったところで、来ました強制シンセサァァイズ! 二度とお家に帰れないと知った時の、お前の泣き顔ったらもゥ……そのまま石に変えて、アタシの部屋に永遠に飾っておきたかったくらいですよおおゥ! ホォ、ホォ、ホォ!!」

 

 騎士のアリスがどうやってあの方法でセントリアに来ていたのか。それは謎だった。だって真面目過ぎる性格なのだから、抜け穴を使ったあの方法を思いつくわけがない。その答えは今わかった。記憶を失う前に同じことをしていたというだけの話だ。

 だが、今はそんなことはどうだっていい。

 

 ──いったいどれほどの絶望だったのだろうか。

 ──いったいどれほど哀しんだのだろうか。

 俺の知らないアリス(アリス・ツーベルク)は、ルーリッド村へ、ユージオがいる自分の故郷に帰ることを夢見ていたというのに、それをこの男は肴にできるというのか。

 側面を変えれば悪に見えるものも正義に見える。そう考えてきた。どうしようもない悪なんて、もしかしたらないのかもしれないと。だが、それも夢物語だった。あそこにいるあのピエロ野郎はどうしようもない悪だ。タイプは違えど、アドミニストレータもその類いなのだろう。

 

「お前は今奇妙なことを言いましたね。強制シンセサイズと。まるで強制でない儀式もあるような口ぶりではないですか?」

「ホ、ホ、案外耳ざといのですねェ。そうですよ。六年前のお前は、通常のシンセサイズに必要なナイショの術式をガンとして拒みましたからねェ。自分の天職はまだ故郷の村にあるから、あんたの命令を聞く必要はないわ! なんてことを、このアタシに言いやがりましたんですよゥ」

 

 昔のアリスじゃなくても、今のアリスでも口調が違うだけで同じことを言いそうだな。

 

「まったく糞生意気なガキでしたよゥ。よっぽど最高司祭猊下にお目覚めいただこうかと思いましたけどねェ、それは儀式の準備が完全に整ってからっていう決まりになってましたからねェ。そこで仕方なく、自動化元老どもの任務を一時停止して、オマエのだぁーいじな物を守る心の壁を術式でこじ開けたんですよゥ。ま、そのおかげでアタシも、めったに見られない見世物をたっぷり楽しめましたけどねェ! ホヒー、ホッホーー!」

 

 俺が激情にかられないように自分を制御している間にも、クソ丸デブ野郎こと元老長チュデルキンの話は続いていた。アリスがシンセサイズされる日。アリス・ツーベルクは心の壁を築くことで抵抗したということ。それを三日三晩かけて元老全員で強制的に引き剥がし、強制的にシンセサイズしたということ。つまり、俺がさっき幻視したあの光景は、アリスが強制シンセサイズされていた時の光景らしい。

 そして、気を失ったアリスをチュデルキンがアドミニストレータの所へと運び、次に会った時は自分を天界から召喚された騎士だと名乗っていたと。それが滑稽なんだとか。あぁ、滑稽だな。自分の位に居座るだけで愉しめるというのだから、そんなお前は本当に滑稽だ。

 

「チュデルキン!」

「ホッホー! 神聖術だけが脳じゃないんですよゥ! 追いかけたいのならぜひとも追いかけるといいのですよゥ! たぁーっぷりもてなしてあげます!」

 

 アリスがチュデルキンの体を斬ったことで、煙幕が発生した。道化師の見た目通り手品も得意らしい。そしてチュデルキンは隠し通路から逃亡したと。

 俺はアリスが剣を振るったと同時に駆け出していた。部屋の中にでは(・・)ない(・・)。反対方向だ。元老たちがいるあの場所へと戻り、別の通路からチュデルキンを追う。

 最上階に行くための通路があの隠し通路だけなはずがない。この場でシンセサイズに必要な準備を整えたとして、最終的に行うのはアドミニストレータだ。そしてアドミニストレータは最上階から出ない。そしてシンセサイズされる者の年齢はバラバラ。あのチュデルキンのサイズに合わせて作られた通路しかないのはおかしい。だから別に通路があるはずだとふんでいた。というか、まず最初に上に行くための通路は探していたしな。

 元老長と騎士長はあくまで横並び。この関係を知っていたのも役に立った。横並びなのに、騎士長が頭を下げるような大きさの通路しかないのは道理に合わないからな。

 

「ホッホー! 久々に思い出しましたよゥ。何度思い出しても最ッ高の見世物でしたねェ!」

「最後に愉しめてよかったな」

「は? ぼはぁっ!」

 

 自分が通った通路から追いかけてくるとふんでいたチュデルキンは、別の通路から追いかけた俺のことに完全に気づいてなかった。全速力で追いかけ、その勢いのままにチュデルキンの顔面を蹴飛ばす。クリーンヒットしたチュデルキンは壁へと衝突し、口から血を吐く。赤い床に少し違う色が混ざったな。汚い。

 

「元老たちの惨状。騎士長への不敬。それ以外にもいろいろとあるが、何よりも──アリスを嘲笑ったことを赦すわけにはいかない」

「くっ、ククッ。あの人形に情でも抱いたんですかァ!? お前も大概に頭のおかしい野郎ですねェ!」

「遺言はそれでいいか?」

「ホーッホー!! 怒ればアタシに勝てるとでもおーもっちゃってるんですかねェ! お前みたいなザァーコは指一つで倒せますよゥ!」

「やってみろよブサイク」

 

 気味が悪いくらいに口元を歪めたチュデルキンは、宣言通り片手を突き出す。手が開かれ、指先には元素の光が灯る。あの色は何だったっけな。忘れたが、なんでもいい。殴り殺そう。

 

「システム・コォーール!! エアリアル・エレメント・ブレード!!」

 

 チュデルキンの指先がそのまま端末になってたらしい。そして、今放たれた神聖術は、"エアリアル"と"ブレード"の言葉があったことから、かまいたちだと予想される。

 かまいたちは条件が整えば大木だろうと切り倒す。チュデルキンが放ったものがどの程度化は知らないが、まともに受けたらもしかしたら体が分断されるかもしれないな。

 だが──

 

「それがどうした」

「は?」

 

 遅い来る刃に対して握りしめた拳をぶつける。俺がやったのはそれだけだ。ぶっちゃけ腕一本持ってかれるのは覚悟していたが、刃に当たった拳の表面が切られた程度で済んだ。そのことにチュデルキンは口を開けてるが、俺だって不思議だよ。だが、分析するのなんて後回しだ。チュデルキンが固まってる間に距離を詰めよう。

 

「なんなんですかァ! お前はァァ!!」

「知るかボケ!」

 

 怒髪天とばかりに顔ごと赤くなったチュデルキンが新たに神聖術を行使する。指一つというのはもう諦めたらしい。今度は右手の指先全てを端末として利用してくる。前方から横倒しになった竜巻が迫っくる。これはさっきみたいな単発じゃないから相殺なんてできないだろう。 

 

 ──だから、突っ切ればいい

 

 アリスがここにたどり着くまでにこの戦いは終わらせる。アリスに怒られるから、なんて理由じゃない。傷を見られた時点で察せられて説教があるのは分かりきってるのだから。

 

 ──アリスに今の()を見られたくないから

 

 ──憎悪に染まった今の状態を

 

 自殺行為だろう。チュデルキンはアドミニストレータに次ぐ術者だとアリスは言っていた。そのチュデルキンがまだ本気ではないとはいえ、どう見ても高位な術式を放っているのだ。威力だって見かけに劣ることなんてない。体の至るところが切り刻まれる。

 だがそれがどうした?

 アリスの痛みに比べればこんなものかすり傷でもない。

 

「鬱陶しいんですよゥ! さっさとくたばれェ!」

 

 さらに威力が増す。進められていた足が止められそうになる。

 

 

 ──この程度の風がなんだ?

 

 ──フレニーカの涙も、ロニエとティーゼの涙も、ユージオがここまで努力してきたのも

 

 ──アリスが苦しんだのも

 

 ──こんなやつが上位にいるからだろ!

 

「鬱陶しいのは!」

 

 足を動かす。出血しても血は体につかず、すぐさま後方の壁へと叩きつけられる。だが、俺は止まらない。止まってなんかやらない。勝利を掴んだと思っているあの憎たらしい顔を殴り飛ばすからな。

 前へ進むどころか俺の速度がさっきよりも加速する。チュデルキンを追いかけてきた時よりも足に力が入る。足が止まりかけてから、三歩目で竜巻を抜け、チュデルキンの目の前に出る。

 

「お前だ!」

 

 驚愕に染まり、憎たらしそうに表情を歪め始めるチュデルキン。俺はその表情が変わり切る前にその顔面に拳を叩き込む。腕をまっすぐ振りぬくのではなく、当たる直前から右腕を反時計回りに捻ることで威力を上げる。左腕は自分の方に引き、腰も回す。たった一撃だろうと、最大限の威力を出すためなら体全体を使うのは当然だ。

 身長差からアッパー気味になり、チュデルキンの足は床から離れて部屋の奥へと吹き飛ぶ。そこにもまた扉があり、そちらへとチュデルキンは頭から突っ込む。

 

 だが、チュデルキンが扉に激突することはなかった。丁度その奥から現れた人物が軽々と受け止めたからだ。

 

「……お前」

 

 

☆☆☆

 

 

 チュデルキンを追うためにジークにも声をかけようと思って振り向いたけど、そこにはキリトしかいなかった。どれだけ呼んでもジークは出てこなった。それもそのはずで、ジークはジークで行動していた。それに気づくのに少しずつ時間を要し、私とキリトは一歩目を遅れる形となり、チュデルキンが通った通路を所狭しと通ることにした。

 

「……ジークはなぜ先に行ってしまったのでしょうか」

「チュデルキンと戦うためだろうな」

「それは分かってるのですが……」

 

 私の先を進むキリトが前を向いたまま言葉を返す。そもそも狭過ぎて振り返ることもできないのだから当然なのだけど。

 ジークはすぐに無茶をする。だけど、今回のは何かが違うと思う。カセドラルに入ってきた時にデュソルバート殿と戦ったのとはまた違う何かで。それは分からないけど、それがあって一人追いかけたのだと思う。

 

「……ジークは大切な人のことを貶されたり、その人の想いを踏み躙られるのを誰よりも嫌うんだよ」 

「え?」

 

 初めは明言を避けていたような印象があったキリトだったけど、自分の中で整理したのか、言葉を選ぶように話してくれた。

 

「逆鱗って言ってもいいかな。それにチュデルキンが触れたから、ジークは何も言わずに追いかけたんだろうぜ。今回の場合はアリスの過去の話だな。そして、一人で行った最大の理由は怒ったから(・・・・・)だ」

「どういうことですか?」

「ジークは自分で『怒ってる』と言う時は、まだ怒りきってないんだよ。だが、今回は黙って行った。それはつまり最大に怒ってるってことだ。それをジークはアリスに見られたくないんだよ」

「それは……なぜですか?」

「……ある時、その状態のジークを見た人が言ったんだよ。『鬼人(きじん)』だってな」

 

 『鬼人』……。それはつまり、ジークが怪物のように見られるほど普段からかけ離れているということ。ジークはそれを私に見られないように先行したと。……そんなの関係ないのに。どんなジークでもジークなのに。

 正直に言ってそれを素直に飲み込めるわけじゃない。だって、あのジークがそんな言われ方をするほど豹変するだなんて思えないのだから。それよりも、なぜキリトはそれを知っているのだろうか。いったいいつジークと出会い、何があったのだろうか。それを聞こうとしたところで、キリトがこの狭い通路を抜け出した。

 時間切れだ。私は戦いに集中するために思考を切り替える。私も通路から抜け出し、体を起こした。さっきまでとは違い、また明るい場所へと出たのだけど、私が視線を上げたと同時に何か(・・)が私の横の壁へと激突した。

 

 それは物ではなくて人で。

 

 壁から剥がれ落ちるように床に倒れ伏したのは私がよく知る人物で。  

 

 

「ジーク!」

 

 

 私はすぐに駆けつけて神聖術を行使して傷を癒やす。体の至るところが切られており、また無茶をしたのだと理解した。

 キリトは剣を構え、私達を守るように立ったけど、その目は信じられないものを見るように見開かれていた。

 その視線を追ってその理由を理解する。

 そこにいたのは、ジークにやられたのか、殴られた跡がありフラフラになっているチュデルキンと私達と対峙するように立つキリトの相棒、

 

 ──ユージオだった。




 準備段階ではありますが、卒業論文の方に取り掛かっていきますので、申し訳ありませんが更新ペースが落ちます。息抜きであったり、一段落付いたりすればまたバーっと書こうと思ってます!


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