己がために   作:粗茶2.5歳
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 大学に資料がなかった上に地元を離れるので、時間ができちゃってます。そんなわけで書いてます。今回はいつもより少し短いですけど。


18話 到達

 

 神聖術を利用したギミックにもだんだんと見慣れてきたものだ。天井の一部分にぽっかり穴が開くようになっている。その大きさがそのまま昇降盤の大きさのようで、それに乗ってチュデルキンが気色の悪い高笑いをしながら降りてくる。正気に戻ったユージオの演技で、チュデルキンはこっちに来たんだろうな。こいつがやることなど想像がつく。

 ──ディープ・フリーズ

 それ以外ないだろう。アリスは紛れもなく整合騎士であり、そして実力もトップレベルだ。そして整合騎士たちを辛くも突破してきたキリトもいる。戦力として後々に記憶を奪い、駒へと変えるんだろうな。俺は殺されるかもしれないが、その気もない。

 

「ホゥホゥ! 三十二号の言ったとおり氷漬けのようですねェ! あの憎たらしい小僧がいないようですがァ、尻尾を巻いて逃げたんですかねェ!」

 

 このマヌケはどうしょうもないな。先に氷を破壊した俺は昇降盤を挟んでキリトたちの反対側。つまりチュデルキンの後ろにいるのだが、全く気づく様子がない。キリトもアリスもそれを悟られまいと演じてくれてる。

 

「さぁーっそく、ディープ・フリィィーズしちゃいますかァ!」

「馬鹿が」

 

 昇降盤が降りるまでを待ちきれなかったのか、チュデルキンはある程度の高さにまで降りてきたら昇降盤から飛び降りた。それに合わせて俺は一息にチュデルキンに接近し、全力を込めた足を振り上げてサマーソルトを決める。頭が大きいからなのか、それともわざとなのか、丁度頭から落ちてくれてて蹴りやすかったしな。

 

「ボハァ!」

「お前の頭いい大きさしてるよな。蹴りやすいぞ」

「やかましゃァァ!!」

 

 この世界には心意というものがあるらしい。それはアリスからさっき説明を受けた。どういうことかは知らないが、未だ修行中のアリスよりも先に新米騎士のユージオが巧みに扱っていたけども。とりあえずユージオが見せてくれたのは、斬撃と(かいな)だ。

 そうやって応用が効くのなら、意識して使うのが初めての俺でも多少は蹴りの威力を上げられる。無意識だった時だと、ウンベールをリンチした時とチュデルキンを殴り飛ばした時だな。あの時は俺が思ってた以上の力が出た。つまり俺も使えるってわけだ。

 そうして繰り出したサマーソルトでチュデルキンは天井に衝突し、ボトッと床に落ちてきた。落下のダメージもちゃんとあるだろうが、俺にやられてることが腹立たしいのか、頭全体を真っ赤にして怒鳴り散らしてくる。

 

「位に居座って良い気になってるだけのお前が、前線に出て体を張って戦う人間に勝てる道理もないんだよ。そんなわけで諦めてボコられて死ね」

「ホッホゥ! 笑わせてくれるじゃあありせんかァ。アタシがその程度の存在と思っているとはねェ? 元老長たる所以というものを見せてあげようじゃァアありませんかァァ!」

 

 両手を広げて下卑た笑みを浮かべるチュデルキンの動作に集中する。チュデルキンは神聖術以外に戦う術を持っていない。だが、その分神聖術の腕は非常に高い。なんせ俺の体が切られまくったあの竜巻も片手で(手加減して)繰り出した技なのだから。そして、チュデルキンは今両手の全指に光を点している。つまり、十個同時に扱って大技を繰り出せるということだ。

 

「燃え尽きて死になさァい!!」

「また炎か」

 

 もの凄く既視感がある光景だ。この世界で俺の初戦だったデュソルバート戦で見せられた光景。何もかも燃やすんじゃないかと思わせる程に熱を持っていた炎の鳥。それを真似るようにチュデルキンは炎の鳥を生み出した。羽ばたいて突っ込んでくるその鳥を回避するために横に動く。距離は十分あるから余裕を持って避けられるはずだ。

 そのはずだった。

 

「避けられませんよォ!」

「チッ。追尾かよ」

 

 もしかしたらデュソルバートの鳥もそうだったのかもしれないが、チュデルキンが生み出した炎の鳥は、俺の動きにあわせてすぐさま機動を修正する。天命が減っていることもあるし、デュソルバートの時のように捨て身で突っ込むわけにはいかない。十個同時なのだ。その分あの鳥に練りこまれていると考えていい。少しでも考える時間を稼ぐために後方の壁へと退避する。無論鳥は突っ込んでくる。

 

「ホッホッホー! いいですねェ! そうやって逃げ惑ってくださいィ! アタシを愉しませてくださいよゥ!」

「雑魚め」

 

 残り三メートルを切り、炎の鳥の熱がだんだんと伝わってくる。五秒もかからずぶつかるだろう。だが、俺はこの場で足を止める。今じゃ回避は無理だ。

 

「諦めましたァ? もっと悔しそうにしてくれた方が愉しめましたがねェ!」

「ジーク!」

 

 

☆☆☆

 

 

 元老長チュデルキンが放った鳥は、ぶつかると同時に大爆発を起こした。中心から半径四メル程が爆発の範囲だった。煙のせいでジークがどうなったのかが確認できない。

 

「ホーッホゥホゥ! バーカァーですねェー! アタシのことをナメるからそうなるのですよゥ!」

「おのれ……チュデルキン!!」

「なんですかな三十号? ずーいぶんと怒ってるようですが、あのようなマヌケに気でも触れてたんですかなァ?」

「マヌケ……? 取り消しなさい! 今の言葉を即刻取り消しなさい!」

 

 おかしそうに表情を歪め、腹を抱えて嗤うチュデルキンに言葉の訂正を要求するも、チュデルキンはそれに応じない。それどころかさらに下劣な言葉を並べ、ジークを罵倒していく。

 

「お前……覚悟はできているのでしょうね?」

「ホゥ? なんのことですかな?」

「私に斬られる覚悟のことです!!」

 

 ようやくユージオの氷を壊すことができ、私は剣をチュデルキンへと向けて睨みつける。キリトも抜刀するけど、キリトの方は私ほど怒りを顕にしていない。ただ、その目は強く燃えていた。

 

「バァァカァ。勝てないと分かりきってることに挑む。そういう醜いところがアタシは心底嫌いですよォ。先程呆気なく散ったグズもそうでしたが」

「っ!! お前、には……生を悔いてから……命を落としてもらいます!!」

 

「──それは駄目だろ」

 

「ぇ……?」

「ホっ?」

 

 ()から声が聞こえ、私達はその声の方へと目を向ける。そこには、天井にしゃがむように足をつけているジークがいた。

 

「なっ! なぜ──」

「おせぇよ」

 

 チュデルキンが手をかざして神聖術を放とうとした時には、ジークはチュデルキンの横へと下りていた。チュデルキンの喉へと手を伸ばしたジークは、チュデルキンの体を投げて宙に浮かせる。そして腹部、胸部、顎へと瞬く間に拳を叩き込んだ。

 本当にジークなのかと疑いたくなるほど格段に早くなった攻撃だった。でも、ジークはそれを放った直後に眉を潜め、追撃を放つべくチュデルキンとの距離を詰めていく。それをチュデルキンは神聖術で牽制し、昇降盤を足場にして一足飛びで最上階へと逃げ込んだ。

 

「あいつの体どうなってんだよ……」

「はぁ。もしかしたらって思ったけど、ヒヤヒヤさせるなよな」

「敵を騙すにはまず味方からってな。アリスも悪かったな。心配かけた」

「バカジーク」

 

 キリトと話しながら歩み寄ってきたジークに頭を撫でられる。私はそっぽを向いてジークを軽く罵った。だって本当に心配したし、私もジークが直撃を受けたと思ったんだから。

 

「ギリギリで避けて敵に当たったと思わせた。ってことでいいんだよな?」

「合ってるぞ。今回は心意のおかげでだいぶ騙しやすかった。使い方も分かってきたしな」

「……でも戦っちゃ駄目。もう動けるから、ジークは戦わないで」

 

 頭を撫でているジークの手を掴み、両手で握りしめる。この手はきっとジークの言う通り戦って誰かを守ってきた手。私の知らないジークの大切な人のために使われていた手。その手をもう汚させたくない。私がジークを守るのだから。

 でも、きっとジークは了承してくれない。戦う以外にできることがないからって言って、体を張って戦おうとする。再会したときに言っていたジークのもう一つの目的のために。もしかしたら、そっちの目的の方が本当は大切なのかもしれないけど。だから、

 

「分かってるよ。場合によっては俺が動く。それ以外は見てるだけ、だろ?」

「ぇ……」

「なんだ? 戦っていいのか?」

「い、いえ! ジークは駄目です! 私とキリトとユージオでなんとかします!」

「あぁ。頼むぞ」

「はい!」

 

 意外だった。ジークが大人しく引いてくれるなんて思ってなかったから。またひと悶着起きると思ってたのに、そうならなかった。そうならずに済んだのは良かったことなんだけど、何か逆に怖い。

 

「あ、そうだアリス」

「なんですか?」

「怒りに身を任せての行動には俺も口出しできないが、憎しみだけは駄目だぞ。何があっても憎むのだけはな。その剣は憎い相手を斬るためのものじゃないだろ?」

「……はい」

 

 ジークはいったい何を経験したのだろうか。私と出会ったあの日以降セントリアからは出ていないはず。それなのに、どうしてこんなに達観した意見を言えるのか。口先だけじゃなくて、まるで実体験(・・・)したことを話すような……まさか……。

 チュデルキンを追うべく昇降盤へと向かっている中、私はジークの腕を掴んだ。衝動任せだったから私も混乱したけど、ジークが落ち着いて対応してくれたおかげで私も落ち着けた。片手はジークの腕を掴んだまま。反対の手を自分の胸に当て、深呼吸してからジークと目を合わせる。

 

「どうした?」

「ジークは……思い出したんですか(何を経験したのですか)?」

「っ! ……はは、アリスは頭のキレがいいな。あとで話すよ。アドミニストレータを倒してからな」

「ジーク」

「必要なことだろ?」

「……それもそうか」

 

 これではっきりと分かった。ジークはセントリアに来る前に何か大きな経験をしていたと。きっと私が知らなくて、想像もつかないことを。そしてそれにキリトも関わっている。何故キリトがユージオと共に行動し、ジークだけがセントリアにいたのか。その経緯もまた新たな謎として生まれたけど、それも話を聞けば分かること。

 昇降盤が上がり切るのを待たずにキリトが最上階へと先に上る。私とジークは昇降盤に任せて上がり、昇降盤は隙間なく綺麗に床に同化するように収まった。目線を前方に向けるとユージオと最高司祭が見える。部屋の中央に天蓋付きの寝床があり、そこに最高司祭がいる。天井には神話を描いた象徴画があり、そこに紛れるようにいくつか光る何かが埋め込まれていた。壁には数十本の剣の模造品がある。

 

「あれが最高司祭か?」

「はい」

「あの露出狂ババアが?」

「お前ェェ! 最高司祭猊下になんたる無礼を!」

「そこにいたか! ケリつけようぜ!」

 

 最高司祭の寝床の下の隙間からチュデルキンは顔を出した。よくもまぁそんな所にと呆れるしかないけど、ジークが好戦的になるからそれどころじゃない。私はジークの腕を掴んで静止させ、最高司祭へと目を向けた。かつて恐怖しか抱かなかった相手。でも今は大丈夫。一人じゃないから。ジークが手を握り返してくれるから。

 

「チュデルキン。サーティちゃんとイレギュラーを石化するように言わなかったかしら?」

「そ、それは……。私めも勇猛果敢に挑んだのですが、三十の隣にいるあの小僧めがそれはそれは卑怯で下劣で信じられないような手段を平然と使いまして……」

「近づいて殴るか蹴るかしかしてないけどな」

「はぁ。……それにしても、あなた武器を持たずによくもまぁ……」

「ろくに勝負に勝ってるわけじゃないけどな!」

 

 何故か誇らしげに話すジークに何とも言えない気持ちになる。ジークが言っていることは事実だから。武器を持っていないからと言って素手で戦う。まるで己の身体が武器だと言うように。けど、その戦いはすべて勝てていない。デュソルバート殿もユージオも見逃しているだけ。チュデルキンは逃亡してるから論外として、でもまだあれが本気とも思えない。

 

 ──つまりジークは誰にも勝てない

 

 きっとジークを気絶させて置いてきて置くべきだった。きっとそれが正しい判断だった。さっきも昇降盤から突き落としておけばジークはこの場に来られなかったのに。

 それなのに私はジークの同行を認めてしまった。戦わなければいいとだけ言って、この場に来ることを許容してしまった。

 

 ──それは全て私の甘え

 

 もう会うことはないと思っていたジークと再会できた。見殺しにしようとしたのに許してくれた。変わってしまった私を変わらない笑顔で受け入れてくれた。私の本音を見抜いてくれた。アリス・ツーベルクから居場所を奪った偽者なのに、私を望んでくれた。私を守ると言ってくれた。

 そんなジークに心を揺らされて──

 

「ぁ……」

「ん? アリス?」

 

 無意識にもらしてしまった小声。それすらも聞き取ってジークは私の方に視線を向ける。私もそれに合わせてジークを見る。

 

「何かあったか?」

「いえ……大丈夫です」

 

 気にかけてくれるジークになんとか言葉を返す。分かってしまったこの気持ちを仕舞いこまなければいけないから。この気持ちはきっと戦いの邪魔になるから。だから、これに向き合うのは戦いが終わってから。区切りを付ければ、時間があるのだから。

 

「最高司祭様。あなたに問いたいことがあります」

 

 だから──今は言葉にしなくていい。

 



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