己がために   作:粗茶2.5歳
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 時間がなかなか取れません。今後も更新遅いです。


20話 来訪者

 

 最高司祭アドミニストレータによって作り出された「ヘイキ」。その単語が何を意味するのか私には分からないけれど、驚異的なものだということだけはわかる。最高司祭が言ったとおり、この存在ならばダークテリトリー軍をなぎ倒せるだろう。なんせ体らしい体がないのだから。30本もの神器が繋がることによって生み出された騎士人形。先程の言葉を借りるのならば「ソードゴーレム」。

 横をチラッと見る。そして息を呑んだ。ジークの目が完全に戦闘の目に変わっていたから。私はこれが初めてだけど、それでもわかる。ジークが戦うと決めた時の雰囲気が今の状態なのだと。『鬼人』と呼ばれる時とはおそらく違う。頼もしさを感じる。でも、それじゃいけない。生身で武器を持たないジークには戦わせない。

 

 ──そんなのじゃ駄目。ジークが戦うなんて自体にしちゃ駄目!

 

 焦っちゃいけない。気を揺らがせてしまったら、それだけ動きに無駄が出てしまうから。あれほどの怪物相手に一瞬の隙はそれだけで決定打となってしまうから。

 冷静さを取り戻して私は騎士人形へと駆け出した。同時にキリトも駆け出している。騎士人形の目と思われる光は私を捉えている。おそらくだけど、キリトの方は見えていない。キリトは騎士人形の背へと迫っているから、私が引き付ければ有効打を叩き込んでくれるはず。

 

 ──狙う箇所は剣と剣の接合部!

 

 強引に繋げられて成り立っているのがこの騎士人形だ。弱点となる箇所は剣同士が繋がっている部分としか考えられない。人体にとって関節部と言える箇所しか。

 私はそこに寸分の狂いもないように狙いをつけて愛剣を振るった。しかし、こちらを見ている騎士人形がそれを許すはずもなく、腕と呼べる部分の剣を振るってきた。私は軌道を修正し、その剣の迎撃を図った。 

 しかし、騎士人形の力は私の想定を遥かに上回っていた。

 

 ──しまっ……

 

 私の剣が弾かれ、その力強さに私は振り下ろした腕が頭上へと上がる。私の視線の先では騎士人形の剣が突き立てられ、今まさに私へと突き刺そうと迫っている。剣が霞んで見えるほどの速さに私は反応することができなかった。まさに電光石火の早業。

 だから、何が起きているのか認識することができなかった。

 

「……ジーク……?」

 

 ジークの左腕が私の左肩へと回され引き寄せられている。ジークの右手は騎士人形の剣の腹を殴っており、それで軌道がズレたらしく、私のすぐ横に騎士人形の剣がある。騎士人形がその剣を横に振り始めた瞬間にジークは私を抱えて後方にいるユージオの隣へと下がる。

 その剣はただ私たちだけを狙ったのではなく、騎士人形の後方にいたキリトをも狙った攻撃だった。上体をそのまま反転させてキリトを斬りにかかる。キリトも弾かれていたらしいのだけど、剣を防御に回すのに間に合わせた。そしてその場で跳ねることで衝撃に合わせて距離を取ろうとしていた。しかし、騎士人形は上体を一回転させられるらしく、キリトは遠心力をつけられ、私達の方へと飛ばされる。

 

「キリト! っ!!」

 

 ユージオが後方の壁へと叩きつけられたキリトの方へと振り返り、そして息を呑んだ。私もそれにつられて後方へと目を向け、ユージオ同様に息を呑む。キリトが壁へと激突した時に嫌な音が混ざっていたのは聞き取れてしまっていた。その音の正体は、壁に広がる赤黒い液体が飛散した際に聞こえたもの。広がっているのはキリトの血であり、広がってる血の中心の真下にキリトが倒れている。 

 その光景に言葉を詰まらせる私の髪をジークがそっと撫でる。視線を向けるとジークは変わらず真剣な顔していた。

 

「アリス。キリトを頼む。あいつを死なせるわけにはいかないんだ」 

「は、はい……」

 

 ジークに頼まれて私はキリトの方へと足を向ける。私は、この時の私を恨むことになった。

 

「……ジークは……っ!」

 

 だって、振り向いた時にはジークはあの騎士人形へと駆け出していたのだから。

 

 

☆☆☆

 

 

 アリスとキリトが勝てなかった相手だ。武器を持たない俺が勝てるとは思わない。だが、時間を稼ぐことはできるだろう。その間に打開策が出てくれたら御の字だ。出なくてもキリトの命を繋ぎ止める時間ぐらいは稼げるだろう。咄嗟にアリスを助けたが、どうやら心意を活用すれば、叩く場所次第であの剣の軌道を反らせると分かった。

 

 ──やれるだけはやるか

 

 ソードゴーレムが右腕を振るう。このままだと胴体を上下で切り裂かれるな。だからスライディングの要領で体を倒す。剣が通り過ぎるのを滑りながら確認し、通り過ぎたらすぐさま体を起こして左へと跳ぶ。その数瞬後にソードゴーレムの左腕が俺のいた場所へと振り下ろされる。

 

「……なかなかいい動きするのね」

「そりゃどうも!」

 

 ソードゴーレムを支えるのはあの四つ足。それであの巨体のバランスを保っているらしい。一本でもへし折れたらバランスを崩すんだろうが、それは不可能だ。キリトやアリスが弾かれたのだから。俺のパンチごときじゃ逆に俺の骨が砕けかねない。だってアリス助けた時も半端なく痛かったんだから。

 だから、あの胴体の方も無理があるだろう。ソードゴーレムの胸辺りにある結晶を砕くか、場合によっちゃ取り出すだけでもソードゴーレムを倒せると思うんだが。高望みをしていてはそれで負け()だ。

 ソードゴーレムが今度は左右から挟むように、両腕を同時に振るってくる。さっきみたいに体を倒しても斬られる。かと言ってジャンプしても斬られる。俺の身長に合わせて、立っている時の首の高さで振るってきてるのだから。

 

 ──こんにゃろっ!

 

 逃げ道は一つだけ。あの速さからして左右どちらかに逃げるのは不可能だ。追いつかれる。

 だから──体を宙で倒す(・・・・・・)

 

「寿命が縮むわ!」

「よく避けられたわね。でも、避けてるだけじゃ勝てないわよ?」

 

 煽りたいのか、それとも俺が苦戦する様を見て楽しみたいのか、アドミニストレータ(変態)が言葉を投げかけてくる。俺はそれを無視して思考する。今回のこの戦闘において、俺にとっての勝敗が何によって決まるのかを定めていなかったからだ。

 

 第一の目的は、キリトが命を繋ぎ止めること。これは必須事項だ。この世界での死がリアルでの死に直接繋がるわけではないんだが、キリトの場合はそうとも言えない。なんせキリトは治療中(・・・)なんだから。脳へのダメージがあったからこそ、この世界にダイブさせておいてその間に治療を行っているんだ。外での治療が完了していれば問題ないのだが、まだ終わっていなかったらキリトが本当に死ぬ可能性がある。だから、キリトの天命をアリスに回復してもらわないといけない。

 第二の目的は、打開策を見出すこと。今のこの戦力でどうすればこのソードゴーレムを倒せるのか。それを見出すことができれば俺達は全員が生存することができる。一応整合騎士の存在を気にかけているのか、それともアリスが強いからなのか。その真意はともかく、アリスが殺される心配はない。俺とキリトはイレギュラーであるから、ギリギリ生き残れるかもしれない。だが、ユージオがどうなるか分からない。

 第三の目的は、アドミニストレータが言ったとおりソードゴーレムに勝つこと。これは無理がすぎる。剣の腹なら斬られずに済むが、刃の部分だとバッサリいかれる。そしてあいつの弱点部位は高い位置にある。あれを攻撃しようと思ったらそれだけ跳ぶかよじ登るかしないといけないが、剣だらけの体だ。一歩間違えれば死ぬ。

 

「ジーク! なんとかキリトの天命を留められました!」  

「わかった!」

 

 ソードゴーレムとの戦闘以外に思考を割いていると本当に寿命が縮む。さっきからスレスレで躱せてるだけだ。何度か掠ってて腹や腕から血が流れ出てる。動きに影響が出るほどではないのが幸いだな。

 アリスからの報告を受けて俺は意識を全てソードゴーレムへと注ぐ。アドミニストレータが妨害してくることは考えられないしな。無謀だろうと無茶だろうと、やってみたい(・・・・・・)

 

「あら? 諦めたのかしら?」

 

 アドミニストレータの言葉に耳を傾けず、神経が通っている体全体を意識する。そのために一度動きを止めた俺にソードゴーレムの右腕が振り下ろされる。それを最小限の動きで左へと躱す。跳躍してソードゴーレムの関節部分を掴み、反動をつけてその上へと登る。登った瞬間その場でジャンプする。ジャンプした俺の足元をソードゴーレムの左腕が通り過ぎる。遅れていたら両断されていたな。

 自由落下を始める俺を斬るためにソードゴーレムが下ろしていた右腕を振り上げてくる。俺は体を捻って剣の腹を蹴ることでそれを躱し、反動で加速して床に到達する。床に足をつけると同時に脚に全力を込めて跳ぶ。心意なんて便利なものがあるおかげで、ロケットの如く跳べる。

 狙いはもちろんソードゴーレムの弱点部位。剣の鎧に守られている結晶だ。守られているとはいえ所詮は剣での防衛。隙間がある。

 

 ──砕く!

 

 拳を振り当てようと力を入れたその時、体を貫かれた。

 ソードゴーレムの剣によって。

 

「ぬかった……」

 

 剣でできている体なんだ。胴体部分にある剣が動いたって不思議じゃない。そこを見落としていた俺が負けることは必然だ。

 

「ガフッ」

 

 喉奥から嫌なものがこみ上げてきて、口から赤黒い液体が吐き出される。跳躍してる時に刺されてる俺は、今も体が宙に浮いているのだが、それは俺の胸部を貫いた剣がまだ引き抜かれてないから。

 視線をソードゴーレムの目と思われる光へと向ける。睨みつけるように。だが、思考も感情もないこいつにそんなとこしても無意味だ。その光は一ミリたりとも動くことはない。ソードゴーレムは俺に刺した剣を引き抜き、胸の前にクロスさせた両腕を振るってくる。X字に俺の体は斬られ、アリスたちの元へと吹き飛ばされる。ああやって斬られたのに四肢が全て繋がっているのはもはや奇跡だな。

 

「ジーク! 待っていてください。すぐに癒やしますので! ユージオも手伝ってください!」

「う、うん」

 

 霞む視界と意識の中で聞こえてくるのはアリスとユージオの声。キリトはもう少ししたら意識を覚ますのだろうか。

 

「なんで……なんで血が止まらないのですか!」

「アリ……ス……リソースを……無駄にしなくて、いい」

「馬鹿なことを言わないでください! あなたが死んでしまったら私も後を追いますからね!」

「それは……こまった……な」

 

 どうしたらいいんだろうな。俺はここで死んでも死なない。しかしそれをアリスどころかユージオも知らない。アドミニストレータは知ってるかもしれないが、アリスに教えるわけもない。そして俺がそれを教えることもできない。時間もないし、そもそも今言っても信じてもらえない。逆効果だ。

 視線を逸らしてみて気づいた。さっきまで治療の手助けをしてくれていたユージオがいない。キリトの側にいるのかと思ったらそうでもないらしい。この部屋に入った時に使った昇降盤。床と同化しているが、昇降盤の位置が分かるように目印もある。ユージオはそこに短剣を刺していた。

 

「死なないでください……。お願いだから私を置いていくなんてことはしないで!」 

 

 アリスにここまで言われたら、俺も意地で生き延びたくなるというものだ。だが、俺は神聖術なんてさっぱり。手が思いつかない。

 そんな時だった。この部屋に突然大扉が現れたのは。

 

「全く……無茶をする男よな」

 

 扉の奥から聞こえてくる声。そして扉から放たれる雷撃。その雷撃はソードゴーレムを貫き、さらに数度放たれた雷撃によってソードゴーレムが倒れた。倒せたわけではなく、ダウンさせたってとこか。

 霞む視界の中で見える光景から一応分析する。そんな俺の元へと歩み寄ってきた一人の人物。他に人が見当たらないことから、この人物があの雷撃を放ったらしい。

 

「あとは儂に任せるといい」

 

 会ったことないチビだが、助っ人のようだ。俺の傷も癒やしてくれてるしな。そう認識したところで、俺は意識を落とした。



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