己がために   作:粗茶Returnees

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23話 けじめ

 

 アリスとの混浴(ヘヴンズタイム)を終え、大浴場がある90階から下りていく。10階分下りて80階へと戻り、そこからは昇降盤で下りるのだ。さすがにずっと歩いて下りるのはめんどくさい。というか、途中からは昇降盤だけでの行き来っぽいし、それ以外に手がないのだ。

 俺は引き続きキリトを背負っているわけだが、こいつが復活するのは当分先なのだろう。二人で今後の行動を決めたいところだが、俺だけで判断して行くしかないな。菊岡は外での対応で手一杯だし、今回の件でそれなりに思うところがあるっぽい。ひとまずは言われた通り《ワールドエンドオールター》を目指したらいいんだろう。ダークテリトリー軍との戦争が終わってから。

 俺達の目的である肝心のアリスが、人界の行く末を見届けず、役目を投げ捨ててリアルに行くとも思えない。そんなアリスの意志を俺も尊重するさ。アリスを守り抜いて連れて行く。外が理想郷なんかじゃないことを説明だってする。むしろ外の方が汚れているということも。ぶっちゃけアリスが望まないというのであれば、俺はアリスを連れて行かない。

 そのアリスなのだが、さっきから俺の斜め後ろを顔を伏せながら黙々と歩いている。整っていて可愛らしい耳が赤いようだし、さっきの混浴での自分の行動で自滅してるんだろう。

 

「お待たせしました。何階へ行かれますか?」

「50階までお願いします。昇降係(・・・)

「かしこまりました。しかしながらアリス様。私は昇降係という名ではありません」

「え?」

「私はジーク様からエアリーという名をいただきました。これからはそう及びください」

「エアリー……ジークが名付けた?」

 

 アリスが言葉を溢していくのが耳に入る。エアリーの名前に関しては、自分の中に入れるように、覚えるためだろう。そのへんはさすがアリスだ。しかし、後半の呟きがどうにも背筋を凍らされる。なにせアリスの声が疑問形なのに怒気を含んでいるのだから。背中に刺さる視線が痛い。

 そんなアリスの反応をどう思ったのか、エアリーが嫌味ったらしく笑顔を浮かべる。アリスを煽るようにわざと腹立つような笑顔をし、若干顎を上げてアリスを見下している。今までこういう素振りを一切取らなかった人物にやられると、アリスも腹を立てるというもの。俺の半歩前へグイッと出てくる。

 

「何なのですかその態度は?」

「いいえ? アリス様が含みのある言い方をされていたもので」

「あなたには関係のないことです」

「そうですね。ジーク様から何も(・・)与えて(・・・)いた(・・)()()()()アリス様には関係なかったですね。失礼しました」

「なっ!」

 

 うっわ。エアリーがめちゃくちゃ楽しんでる。アリスを煽って楽しんでるよ。謝罪の言葉も全く謝る気ないよ。たしかに俺はアリスも何もできていないけども。強いて言うならアクセサリーあげたくらいだけども。

 

「そんなことはありませんよ! ジークは私だけに(特別に)金細工を自作してくれたのですから!」

「それはそれは大切な物をいただきましたね〜。ですが私は"名"という他に変え難いものをいただきましたので」

「うぅっ……。どういうことなのですかジーク!」

「アリス様。私に負けてるからとジーク様を攻めるのは見苦しいですよ?」

「……ジーク。私は醜いですか?

「そんなことないからな? エアリーもアリスで遊ぶのはそこまでだ。これ以上は許さないから」

「失礼しました」

 

 両手で支えながらキリトを背負っているのだが、それを調整して片手を使えるようにする。空けたその手で気を落としてるアリスの頬に手を添える。視線を合わさせ、蒼いその瞳を覗き込むようにしてフォローする。こうした方が伝わるっぽいからな。それが終わってからエアリーに釘を刺した。今度の謝罪の言葉は、さっきとは違って形だけではなかった。

 アリスの機嫌を治しながら50階まで戻り、そこから地上まで歩く──わけでもない。アリスに飛竜の発着所まで案内され、そこでアリスの飛竜こと雨縁(あまより)を紹介される。そしてそのまま置き去りにされた。

 

「お前の主人は苦労人だな」

 

 キリトを座らせ、身体を解しながら雨縁へと話しかける。ベルクーリから休暇を言い渡されたのもあるが、アリス自身休息が必要だ。特に精神面。それをどこまで自覚してるのかは分からないが、長い休暇を取るのだろう。そのためにもアリスは支度しに自室に行ったんだ。

 アリスは優しい。優しすぎるまでに優しい。自身の傷よりも他人の傷を気にする子だ。そして、何の因果かそういうアリスが今回の件のキーマンとなってしまっている。外で襲撃されてるってことは、間違いなく連中の狙いはアリスだ。嫌なことにアリスがどう利用されるかに予測がついてしまっている。

 

 ──残酷過ぎるんだよクソッタレが

 

 あのアリスに強要させるなんて俺が許さない。残念なことに思考ができるとはいえAIなんだ。制限やら改変やらされてしまうことだって考えられる。そんなことには絶対にさせてはいけない。

 

「いてっ! どした!?」

 

 思考の沼に使っていると雨縁に小突かれた。何かあるのかと思ったのだが、小突かれただけでそれ以外何もされない。首をひねってからまた思考を始めると、また小突かれる。どうやらこれ以上考えるなと言いたいらしい。こいつほんとに竜かよ。知能高すぎないか? まぁいいや。思考を止めよう。

 キリトの様子を確認して時間を潰していると、用意を終えたアリスが戻ってきた。それほど多くの荷物ってわけでもないな。飛竜に人を三人乗せるのと、荷物を乗せるってのも考えたらそうなるか。さて、じゃあ次は俺が待たせる番だな。

 

「アリス。悪いがここで待っててくれないか?」

「どこかに行くのですか?」

「ちょっとな。いいか?」

「ええ。急ぎではありませんので。待ってる間はキリトのことを見ておけばいいのですよね?」

「ああ。頼む」

 

 アリスから許可を取った俺はすぐさまこの白亜の塔、セントラル=カセドラルから出た。向う場所は決まっている。俺とキリトとユージオの縁がある場所。フレニーカたちがいる修剣学院だ。

 

 

☆☆☆

 

 

「ジークさん!」

「フレニーカ。ただいま」

「ご無事でよかったです……。本当に……!」

 

 あ、ごめんなさい。全然無事じゃなかったです。何回も死にかけました。アリスやカーディナルがいなかったらぽっくり殺されてました。神聖術で治されてるから気づかずに済んでるだけなんです。

 目に涙を浮かべて安堵するフレニーカに大きな罪悪感を覚える。もしかしたら正直に話しても、その可能性も考えてたなんて言われるかもしれないけど。わりと無茶苦茶な人間だと認識されてるっぽいし。

 

「ジークさんが……騎士様と戦ってるかも……なんて考えてしまってて……」

 

 はいアウトー!! この子めっちゃくちゃ鋭いっすわ! 俺の行動バレバレですわ!

 そんなことなくてよかったです。なんて微笑んでるフレニーカに、俺は笑顔を引きづらせる。怪しまれない程度に話を逸らすしかない。そこで俺が取った行動は、早速本題に入るというものだ。急いでないとはいえ、アリスを待たせ過ぎるわけにもいかないからな。俺はフレニーカの両肩に手を置き、顔を引き締まらせる。フレニーカもそれで空気が変わったと察してくれた。動揺してるけどな。

 

「フレニーカ。戻ってすぐで悪いんだが、ロニエとティーゼを呼んできてくれないか?」

「ジーク……さん? お二人の身に何かあったのですか?」

「……少ししか話せないが、話せるだけのことを話すよ。だから呼んできてくれ」

「わかりました。少し待っていてください」

 

 パシりに使って悪いんだが、フレニーカは全く気にすることなく二人を呼びに行ってくれた。空気を読んでフレニーカのルームメイトも退室する。それから気づいた。これ俺とフレニーカが二人の部屋に行けばよかったやつじゃん。もう遅いけども。

 あとでお詫びに食堂で何か奢ろうと心に決め、フレニーカたちが部屋に来るのを待つ。急な呼び出しの上に、特に接点の無い俺が相手なのだが、ロニエとティーゼはわりと早く来てくれた。当然なんで呼ばれたのか分からず、二人は困惑しているが、不安そうにしてる面も見られる。キリトと知り合いだという俺が一人で戻ってきてるのも原因なのだろう。

 

「さて、二人が来たわけだし、まずはこれ(・・)からだな」

「え?」

「ジークさん!?」

「な、何を! ひとまず頭を上げ──」

「ごめん。ユージオを助けられなかった」

「……え?」

 

 二人が来たことですぐさま俺は土下座した。この世界に土下座のことが根付いているのかは知らないが、チュデルキンはしていた。二人が知らなくても謝らないといけないし、土下座というものが文化として存在し身についている俺にはこれが最大限の謝罪の仕方なんだ。

 

「ジ、ジークさん……助けられなかった、という、のは……」

「ユージオを死なせてしまった。俺の力不足だった」

「ユージオ……先輩、が……? そんな……うそ……」

「ティーゼ……」

「話せるだけ話す。ユージオがキリトと何をしていたのか」

 

 ユージオに恋し、慕っていたティーゼがその場に崩れ落ち、ロニエとフレニーカがティーゼを支える。放心していたティーゼだったが、次第に瞳から涙が溢れ始める。今話してもティーゼの耳に届くかは分からないが、今話さないといけない。今後会えるのか定かではないのだから。ティーゼが聞けていなくても、ロニエもフレニーカは聞ける。その時には二人からまた話してもらうしかない。

 俺はキリトやユージオから聞いた逃走劇、その後の騎士たちとの戦いを話し、ユージオがアドミニストレータとの戦闘で取った行動を話した。アリスからも少しは聞いていたからな。ユージオのおかげでソードゴーレムが倒せたということ、アドミニストレータにダメージを与え、そしてキリトに最大の援護をしたことを。ユージオの生き様を、無駄ではなかったということを丁寧に話した。

 話は耳に入っていたようで、ティーゼは声を震わせながらユージオのことを褒め称えた。その精神力には俺の方が言葉をつまらされた。本当に強い子だよ。この世界は本当に、リアルより強い子が何人もいる。

 

「ジークさん。その……キリト先輩は……」

「……キリトは生きてるよ。無事とは言えないけどな」

「キリト先輩……」

「今キリトは誰とも話せる状態じゃない。……ごめんな。キリトのも俺のせいだ。俺が拘りを捨ててりゃきっと結果も変わってた」

「いいんです。キリト先輩は……誰かのために……頑張っちゃう方ですから」

 

 この子たちのメンタルは本当にタフだな。悲しくないわけがない。今だって涙を流してる。それなのに現実を受け入れられてるのだから。俺が刀以外使いたくないなんてやってるせいで、そんな我儘のせいでこうなったのに。全く俺を責めないし。強いにもほどがあるよ、ほんと。

 こんな子たちが慕う相手を片や死なせ、片や崩壊させた。そんな自分を自分で責めていると、そっと俺の両頬に手を添えられ、そのまま顔を上げさせられる。その相手はフレニーカで、少しムスッとしていた。

 

「ジークさんは何でも自分に置き換えすぎです。どうか背負いすぎないでください。背負うなら分かち合ってください。そしてご自分を(・・・・)好き(・・)()なっ(・・)()ください」

「っ!」

「気づかれてますか? 自分を否定してしまっていることに。受け入れてあげてください。そうしたらきっともっとジークさんは、ジークさんが求めているものを掴めると思います。ジークさんは強くて、私の憧れなんですから!」

「……まいったな。フレニーカの方が年上に思えるよ」

「私だって成長するんですよ」

「はは、そうだな……。ありがとうフレニーカ。少し楽になったよ」

 

 フレニーカと顔を突き合わせて微笑み合う。作り笑顔ではなく、自然と発生した笑顔だ。こうさせてくれるなんて、フレニーカを俺は過小評価してしまっていたな。か弱い小動物系少女だと思っていたが、全くそんなことはなかった。成長が早いったらありゃしない。嬉しいものだね。

 だが、そんなフレニーカをまた俺は悲しませてしまうんだろうな。またいなくなるんだから。そして俺は休暇のあとに戦争に参加する。死ぬような行動はもう取らないが、終わったらすぐに外に出ることになるだろう。永遠の別れかもな。

 

 ──それなら

 

「フレニーカ。ちょっと手を出してくれるか?」

「? わかりました」

「不快だったらごめんな」

 

 ──今この場で

 

「約束する。俺は死なないって。必ずまたフレニーカのいる所へ戻る」

「ジークさん? 何を言って……」

 

 ──誓いを立てよう

 

 フレニーカの手の甲に軽く口を押し当てる。さながら中世の騎士のように。刀好きなら武士らしいことしたほうがいいんだろうが、残念ながらそこまでの拘りはない。あくまで武器は刀がいいってだけだ。

 手から口を離してフレニーカの様子をうかがうと、フレニーカはくすぐったそうに、そして恥ずかしそうに頬を染めてただけだった。よかった。不快ではなかったらしい。

 

「ごめんなフレニーカ。またちょっと行ってくる」

 

 ──この誓いは守り抜いてみせる

 

 ──この子を悲しませないために

 

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