ガブリエル戦は、原作から多少変化してます。ご了承ください。心意システムも一部独自解釈というか、追加しちゃいました。
アリスと別れてキリトと合流する。俺が言うのもなんだが、今のキリトは心意で何でもかんでもできるからズルいよな。万能感が半端ないぞ。それにサトライザーのやつも翼なんて生やしちゃって。天使かな。エンジェルでも参考にしてるのかな。いい年して中二病なのかよ。
「もういいのか?」
「ああ。時間もないし、リアルで再会すりゃいいだけのことよ」
「ははっ、相変わらずだな」
キリトの隣りに
適当に言葉を交わしながらキリトの様子を確認する。さっき腕がへし折られてた気がするんだが、それも治したらしい。心意ってそんなに便利なのか。こいつの応用力にはほんと舌を巻く。
「さっきから思ってたんだが」
「ん?」
「なんでジークは空中で立ってるんだよ!」
「心意ってこうやって使うんだろ?」
「無茶苦茶だな……」
「お前にだけは言われたくない」
いやほんと、キリトにだけは無茶苦茶とか言われたくない。復活早々あっちのを片付けて速攻でこっちまで来たんだから。常識というものを知れ、常識を。常識に囚われないからこそなんだろうけども。茅場がこの世界を知ったら狂喜乱舞だな。……やっぱ考えんのやめよ。あいつが心意使いこなしたら手を付けられんわ。
「あいつ、属性吸収だぞ」
「剣が効かないし、神聖術もってとこだろ? 肉弾戦と弾丸は効くようだが」
「あいつの中で『攻撃』と認識したものが効くんだろ」
「めんどくさいな」
職業はほぼ間違いなく軍人だろう。軍人じゃなくても、経験者か似た職業をしている。そこの答え合わせをする気はないが、ともかくそのせいで攻撃がなかなか通らないんだよな。他にもやり方自体はあるんだが。一応提案するか。
「キリト。どう倒したい?」
「どうって?」
「メタ張って倒すか、正面から潰すか。ちなみにメタ張ってるとたぶん脱出が間に合わない」
「なら一択だな。正面から戦って勝つ!」
だろうな。お前はそういう奴だよ。ま、俺も約束がある以上後者しか選ぶ気はなかったんだが。さて、なんだか敵がまた気持ち悪くなってるんだが、なんだあの禍々しい剣。中二病満載じゃないか。
「早いもん勝ちな」
「は? ちょ、おい!」
キリトを無視して突っ込む。俺に合わせて振るわれた剣を避けて踵落とし。キリトやサトライザーとは違い、俺は飛んでるわけじゃないからな。足場を作って移動してるだけ。別にそれは足元にしか作れないわけじゃない。自分の目の前に障害を作り、そこを掴んで鉄棒で回るように回転して避け、相手の上から踵落としをしたってわけ。足技は通じるしな。トリッキーにやらせてもらおう。
「おっと」
サトライザーがこっちを見てなくても関係ないのか、気配で分かるってことなのか。なんにせよ、君の悪い闇が俺に向かってくる。それを俺とサトライザーの間に足場を作ってそれを蹴ることで回避。体勢を立て直してあの闇について考える。そうしてるとキリトが横に来た。
「あれには触れるなよ」
「だいたい予想はついてるんだが、伸ばせるのはセコいな〜」
「なんでわかるんだよ……」
「だってついさっきまで
「は!?」
あーそっか。キリトは知らなかったのか。一応見えてたはずなんだが、死角だったとかか。その辺を話している暇はないんだけども。ある程度共有してたほうがいいだろう。
「
「なるほどな。なら、あれに触れないように交互に立ち回るべきか」
「あれが複数方向に同時に伸びないのであれば、な。それと、あれは時間制限がある。人間は本来"自分の中の正義"のために生きる動物だ。それが無い状態で戦い続ければ、あれだけの力を使い続ければ自分自体が持たない」
「それがさっき言ってたメタを張る作戦に繋がるわけか」
すぐに理解してくれるのは本当に楽で助かる。それでも正面から潰すって方針なあたり、やっぱり俺たちバカなんだなって思う。だが、それがいい。俺たちはずっとこうやって進んできた。正面から向き合うことしか知らない。別の方法なんて知らない。なら、切羽詰まってる今もそれでいいんだ。
「さて、剣士らしく斬って終わらせるぞ。あのストーカーサトライザーとの騒動も、戦争も、全てここで終わらせる」
「ああ。ちなみにあいつのリアル名は、ガブリエル・ミラーらしいぞ」
「ガブリエルどころかやってることルシフェルだけどな!」
同時に飛び出し、変則的に動き回れる俺が先行する。キリトはどうせ時間に間に合わないとか思ってるんだろう。アスナとアリスを脱出させて、自分はここで敵を倒してこの世界に残ろうと。現実的だが、俺はそれに乗ってやる気はサラサラない。真正面から潰すなら、二人で確実に叩きのめして時間に間に合わせて帰るんだ。そのための方法もある。キリトにはできないし、教えてやらない。
[──悪いが付き合ってもらうぞ]
【──構わないさ。どうせなら戦って消滅してやるよ】
[──今まで悪かったな]
【──気にするな、楽しめた】
自分の中にいる"鬼"との短なやり取り。弱い俺が作り出した
「っ!?」
「何を驚いてる?
「ジークどうやって……」
「キリトには無理だな。だが、俺がガブリエルを斬れる状態にするから、キリトも遠慮なく戦え」
「……わかった」
「理性飛ばしてたら速攻で死ぬぜ? ガブリエルさんよ!」
闇の剣を俺の刀で防ぐ。伸びてくる闇すら
ガブリエルの三連撃をいなし、左腕で右腕を掴まれるのをこっちでも掴み返す。闇が俺の腕を覆おうとするが、それを打ち消していく。より正確には、
このカラクリに気づいたガブリエルが、若干表情を変える。もともと表情が希薄なんだろう。変化がわかりづらい。だが、このやり方が有効的に扱えると確信できた。
「お前……」
「どう終わるかはあんた次第だぜ? そのまま破滅に向かうのか、踏みとどまってぶつかり合うか。どの道勝つのは俺達だがな!」
「ふっ、若いな」
「あ?」
「ジーク!」
「っ! こいつ……!」
ガブリエルが取った選択肢は前者だった。ガブリエル自身は、あの心意のことを理解できてないんだろう。愚者だが、厄介なことに変わりない。増幅された闇が俺の全身へと伸びだす。
意識が遠のく。力が入らなくなる。無気力感に覆われ、瞼を開けることすら億劫になる。なるほど、これがベクタとガブリエルの力の融合か。なんで未だにベクタの力が使えるのか。疑問でしかないが、それもどうでもいいや。
「眠れ。永久に」
「…………バーカ!!」
「なに?」
「眠れって? 俺が止まるときは俺が決める! 外野は黙ってやがれ!」
左拳でガブリエルを殴るもそれを受け止められ、続けざまにやった頭突きで怯ませる。ガブリエルが怯んだ瞬間に距離を取り、自分の顔も一発殴る。それで意識を覚醒させ直し刀を構える。
【──あと2分で終わらせろ。じゃないと
[──了解]
タイムリミットが迫ってる。一つはこの世界から抜け出すまでの時間。もう一つは、今のガブリエルを斬れる状態にできる時間だ。早期決戦だとは分かっていた。なら、残りの二分で全てを出し切って終わらせてやる。
「キリト! 2分で終わらせるぞ!」
「任せろ!」
こっちの全力に応えようとしたのか、ガブリエルがさらに異形へと変化していく。全身を闇に覆われ、翼を生やした人型の何かへと変貌する。理性を飛ばし、人を辞めた。ただ力だけを求めた奴の行き着く先。それがあの姿か。
「力が満ち溢れている……。圧倒的な全能感……。お前たちの全て、魂までも食べつくそう」
「やってみろ!」
左から回り込み、素早く二回斬りつける。てっきり受け流すかと思っていたが、ちゃんと反応して防いできた。理性が消えても防御はするのか。
その確認を済ませ、空中を縦横無尽に跳び回りながら斬りつけていく。本来は短刀でやるようなヒットアンドアウェイ。それを刀でやる。俺が速度型というのもあるんだが、ガブリエルの意識をこっちに向けさせるためでもある。俺達の戦いはいつだってキリトが主力なんだから。
「ハァァァ!」
俺がガブリエルに背を向けさせ、それをキリトが二刀流で襲う。絶え間ない攻めだが、ガブリエルはそれをすぐに翼で対応し始めた。キリトは剣が2本。だがガブリエルの翼は6枚だ。たとえ見えていなくても、無造作に振るうだけで十分対応できる。だが、それは背に意識を向けたも同然だ。
「甘いぞガブリエル」
毒をもって毒を制す。それと同じ。俺の闇を
大切なナニカが、本来失ってはいけないはずのナニカが、俺の内側から消えていく。その奇妙な感覚に身体も心も魂も嘆く。痺れ、どうにかしろと訴えてくる。犠牲にするなと。
【──ざっけんな! 俺をここで
その一言で全ての異常が抑え込まれる。動きが鈍っていた間に斬り傷が増えた。左手は動かず、右の太ももからの出血が多い。額を斬られ、血が右眼に流れ込んでる。キリトとかガブリエルみたいに治せるわけでもないし、このままだな。
「ジーク大丈夫か!?」
「大丈夫なわけないだろう! まぁ二人いるしなんとかなるだろ。
「相手の限界が近いのか?」
「それもある。あとは、あいつの属性吸収を封じ込める限界が近いってことだな」
「なるほど」
俺達の間に一瞬で割って入ったガブリエルの攻撃を防ぐ。キリトと分断された上に、今度はキリトが襲われ、俺には翼が襲い掛かってくる。本能で勝ち方を悟ってやがる。
キリトと違って俺は武器が一本。しかも今は視界が半分だし、機動力も落とされてる。この状態で6枚の翼を捌き切るなど至難の業。最低限の傷で済むようにするしかない。そしてキリトは、俺とは違ってこの状態のガブリエルには不利だ。自分の中にもう一人いるってわけじゃないし。
致命傷だけを避け、なんとかタイミングを見出して範囲外に逃げる。それでやっとキリトの様子を見れたのだが、だいぶグロテスクな状態が視界に入ってきた。が、やっぱりキリトはただではやられない。キリトの方がダメージが大きいが、ガブリエルの方が引いて距離を取ってる。
「生きてっか?」
「なんとか、な」
「……その状態で生きてるのって不思議だな。生命って凄いな〜。……治せるか?」
「たぶん……な」
「ならいいや。……さすが親友ってとこか」
「え?」
「なんでもない」
見誤ってたな。キリトだって一人じゃなかった。キリトの中にいる
「次で終わらせるぞ」
「ああ。
キリトの左手に握られている《青薔薇の剣》から20本ほどの氷のツタが伸び、ガブリエルの体を拘束する。振り払おうとしたガブリエルだが、簡単には解放されない。想いの力をなめ過ぎだ。キリトは右手を頭上に掲げ、《夜空の剣》の力を解放する。ガブリエルの闇を彷彿とさせる黒さじゃない。優しく包み込んでくれる、そう感じさせる黒さ。そんな"黒"が空へと伸び、やがて大きく広がり始める。どこまでも、どこまでも。赤い空を塗り替えるように。
「敵わねぇな〜」
広がった夜空に、色とりどりの光が集まっていく。遠く離れた地でも関係ない。すぐ近くのアリスやアスナからも想いが光となり、キリトが広げた夜空へと集まる。範囲内のリソースを集めて力に変える。そんなとこか。何もかも背負っていくキリトにピッタリだな。
集まった光たちが、流星となってキリトの剣へと降り注いでいく。それは《夜空の剣》だけじゃない。《青薔薇の剣》にも降り注ぎ、集まった力を示すように剣が輝き出す。
「……なんで緋桜にも来てんだか。……まぁいいや、ありがとう」
俺の刀に集まった光の数から、該当者に検討を付けて心の中でそれぞれに感謝する。一旦刀を左腰にある鞘へと納刀し、右足を前に出して腰を落とす。キリトも二刀を持ってある構えを取る。キリトが放てる最高の技を打つために。
合図はなく、言葉もない。だが、いつも通り俺が先行した。ガブリエルの斜め後ろから接近し、空中を走れるために迎撃の翼を掻い潜って距離を詰めれる。6枚の翼全てが空振ったと気づいたガブリエルが振り返るも、その時には刀を抜いている。音が鳴る前に振り切りながらガブリエルの後ろにすり抜け、振り向きながら剣を振るうガブリエルを再度斬りつけて横を抜ける。また背後を取ったところで納刀し、俺が最も得意な居合い斬りを放つ。
「……あとは任せたぞ、キリト」
怪我を治さずに全力以上を出し切った俺は、その場から後退して攻撃を避けることもできない。だからわざと足場を無くし、自由落下に任せて距離を取る。頭上から翼が迫ることもない。ガブリエルはそんなことをしている暇なんてないからだ。
6枚の翼と一本の剣がキリトに迫る。それに対してキリトは、二刀流専用スキル、16連撃を放てる《スターバーストストリーム》を発動した。本来は速度も威力も決められてるソードスキルだろうと、この世界ならその制限を超えられる。斬りながら加速していき、やがてガブリエルの体をキリトの剣が捉える。
だが、16撃目だけは僅かなタメができる。それをガブリエルは見逃さなかった。16撃目を放つキリトの左腕を斬り飛ばし、上げた剣をそのままキリトへと振り下ろす。しかしそれはキリトに届かない。空中で《青薔薇の剣》がガブリエルの剣を食い止めたからだ。
「さすがはキリトの相棒だよ、ユージオ」
体がなくても関係ない。
それを見届けた俺は自由落下をやめ、キリトを回収する。やり切った感満載の、もうやることはない、みたいな顔をしているキリトを。
「終わったな」
「ああ。だからキリトは外に出ないといけないんだぜ? アスナにも俺がキリトを出させるって言ってあるし」
「え? おまっ、ちょっ……!」
「ちょっとだけアリスをよろしく」
「ふざけんな!」
右手で掴んだキリトの腕を全力で振り回し、遠心力もつけたところで祭壇目掛けて放り投げる。チラっと見てたが、何か操作して出るってわけでもなさそうだったしな。外にいる菊岡たちが回収してくれてるんだろ。つまり、あの祭壇のすぐ近くにいれば自動的に回収されるってわけだ。ついでに、キリトが心意を使えないようにちょっと俺の闇を流し込んでおいた。
「さてさて、キリトも無事に外に出られて何より」
「……なぜだ」
「何が?」
「なぜ
後ろから話しかけてくる存在。さっきまでキリトと二人で戦っていた相手、ガブリエルの方に振り返る。相変わらず翼は生えてるが、ちゃんと人間の姿をしてる。何より何より。
「生かした、か。俺は俺のツケを払うために残ったってだけ。生かしたってのも違うな。そうなっちゃったってだけだよ」
「……なるほど。お前のもう一つのイマジネーションの影響か」
「変に作用しちゃったみたいでな。だから、悪いが今度こそ死んでくれ」
【──悪い、俺は限界だ。置土産して消えさせてもらうぜ】
[──ごめんな、最後まで頼って]
【──バーカ。言葉が違うぜ?】
[──そうだった。最後までありがとう
傷ついた身体が全て治療される。さらに半身が消えたにも拘わらず、力が抜けるような感覚もない。それがあいつの置土産なんだろう。消えるんじゃなくて吸収される。それがあいつの選んだ道。
「決着をつけよう」
俺とガブリエルの最終戦は1時間に及んだ。
『はぁ〜。しょうがないなージークは』