己がために   作:粗茶2号機
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4話 隣の街へ

 

 俺がこの世界に来て早二ヶ月……三ヶ月だっけな。どっちでもいいか。俺はこの間に北セントリアは歩き回った。第一区から第八区まで全部。その中でやっぱり興味を惹かれたのは、第七区にいる金細工氏、一級工匠に認められているサードレの爺さんのとこだろう。

 一級工匠の認定を受けている技師はそれこそ少ない。本物(・・)の技師ってわけだ。金細工というだけあって実に見事な物が並んでいたが、サードレの爺さんは剣を作ることも可能らしい。作ってもらうのも悪くないが、いかんせん金がない。そして材料もない。剣は諦めるとしよう。

 

 今日はどこに行こうかと考えながら街をぶらつき、ふと路地裏に目を向ける。たしか俺はこの奥で出現し、そしてアリスと出会ったんだったな。アリスはやっぱりなかなか出てこれる家柄ではないらしく、あれ以降一度も出会っていない。

 たしかあんな感じの箱に入ってて……まさか……。

 

「また箱で来たのか──アリス」

「ジーク? よく見つけましたね」

「街を散策してる時にそういやこの辺で出会ったんだよなって思ってたら見つけてな」

「なるほど。偶然だったと。随分と巡り合わせがいいことで」

 

 あ、こいつ信じてないな。全然信じてないな。なんで信じる気が無いのかさっぱり分からないぞ。俺がずっとこんなところでスタンバってるわけがないだろ。たしかに、また会えたらいいな的なことを言った気はするんだが、超絶会いたかったわけじゃない。

 箱から出るアリスに手を貸し、アリスの服装をチラッと見る。明るめの青色の生地をベースにした服装で、なんとも庶民らしい。外に出るために服装も簡素的な物を用意していたということか。さてはこいつ外に出るの楽しんでやがるな。

 

「なんですかそんなジロジロと。視姦ならその目を潰しますよ」

「生憎とアリスぐらいの子に向けるそんな目はないんだよ。分かったかな? お子様」

「いいでしょう。まずはその舌を潰します」

「野蛮だな〜。悔しかったら成長したまえ」

「ジークはもっと男らしくなってみることですね。無論そのようなことはないと分かりきっていますが」

 

 ほほう。なかなかに挑発的な言葉を吐いてくるじゃないか。図星をつかれたからって、似たような内容で反撃されてもちっとも痛くないんだけどな。自分の体がどう成長するか分かってしまっているがために、な。

 俺をつねろうとしてくるアリスの手を抑えながら、お互いに向き合って笑みを浮かべ合う。俺もアリスも目は笑っていないんだけどな。俺の方が余裕あるんだけどな! 

 

「アリスって意外と力強いな。もしかしなくても怪力娘か」

「それが女性に向けて言うことですか!」

「事実を言ったまでだね。もしかして栄養が全部筋肉に回っているから体が残念なんじゃないか?」

「なんて失礼な。それならお前は脳に必要な物が何一つたどり着いていませんので。だから先程から体のことしか言えないのです!」

 

 なかなか言うねぇ。俺はアリスよりも精神的にでも大人だから、この程度のことを言われたところで何も響かないわけだけども。それよりこの不毛な争いを続けていても仕方ないな。アリスを抑えてる手を離して、さっさとここから離れるとしよう。

 俺が手を離した瞬間、抑えられていた手を伸ばしてくるアリスを躱して背後を取る。後ろからアリスの柔らかい頬を両手で挟んで、力加減に気をつけて引っ張る。避けられたことに驚いているのか、それともこの状況が屈辱的なのか、アリスは固まったままだ。

 

「残念だったな〜アリス。俺との駆け引きに勝てなくて」

「……しょのひぇをはなしにゃしゃい」

「何言ってるか分からないぞ〜?」

「ふんっ!」

「イッテェ! おまっ……!」

 

 アリスのやつ、俺の(すね)を踵で蹴りやがった。煽っていた俺も悪いんだが、これは釣り合わないだろ! 痛いにもほどがあるぞ!

 ふらついて壁に手をつき、蹴られた箇所を擦る。わりと響いたから痛みが引くまで時間がかかるな。俺が顔を顰めて痛みに耐えていると、初めは鼻を鳴らしていたアリスもさすがに悪いと思ったらしく心配してきた。

 

「ほんとに痛い……」

「すみません、つい……」

「ついで済むなら誰も裁かれない」

「うっ。……何かお詫びをしますので」

「お詫び?」

「はい。私にできることなら」

 

 痛いのは痛いんだが、幾分かオーバーにリアクションは取っていた。そうしてアリスを揶揄ってやろうと思ったから。だが、思いの外状況が面白い方向に転がっている。根が優しくて真面目すぎるんだろうな。お詫びにできることをするなんて言ってくるんだから。

 これは利用する他ないと2秒も経たずに結論付けた俺は、アリスを下から上までじっくりと見つめる。アリスが言ったことを確認するように、わざと声も出してな。そうするとアリスは胸を隠すように手を交差させ、後ずさりして俺から距離を取り始める。ほんのり頬も赤くなってるな。それも利用してやろう。

 

「私にできることなら、って言わなかったか?」

「い、言いましたが不埒なことなど許容できません!」

「……ん? 不埒なこと? アリスは何を言っているんだ?」

「……は?」

「俺はこれからしようと思ってたことにアリスにも付き合ってもらおうって考えてただけだぜ? それで服装を確認しただけ。それなのに不埒なこと、ね〜? アリスは何を想像しちゃったのかな〜? 頬まで赤くして。もしかして本当はそっちの方ぎゃっ!」

「なっ! そ、そんなわけないでしょ! この変態!」

「いや変態はアリス……」

 

 自分が思い違いしていることが分かった途端、アリスは恥ずかしさで一気に顔を赤くしてた。俺が追撃しようと言葉を続けていたのに、途中でグーパンされて遮られた。アリスのパンチは、その細い身体からは考えられない程痛かった。鍛えているのかもな。貴族の家柄なら剣術を修めるとも聞いているし。

 アリスの素性は聞かないって決めてるから、その辺の話題は出さないようにしてるんだけどな。アイデアロールが成功しちゃうこともあるが、それは仕方ない。そういう性分なのだから。

 

「アリスがそういう事に(エッチな事に)興味があると分かったところで──」

「もう一発入れましょうか?」

「冗談を真に受けるなよなー。それとすぐに手を出すのはどうかと思うぞ」

「ご安心を。私がこうしてすぐに手を上げるのはジークだけです」

「そんな特別いらないな」

 

 前に出会った時と違って、俺は今ある程度余裕がある状態を確保できてる。だから冗談を挟みながら話を進めようと思ったんだが、アリスが冗談を真に受ける上に脅してくるから話が進まない。冗談は控えることにしよう。

 

「アリスの今日の目的は?」

「外へのちょっとした興味ですね。お前との約束もありましたし

「なるほど。また会えて嬉しいよアリス」

「……どうしてお前はそうやってむず痒いことを言うのですか」

「わりと感情に従う性格でね。それに俺アリスのこと嫌いじゃないし」

「……そうですか。それよりもジークには2、3、問いたいことがあります」

 

 ふむ。もう少し反応があるかと思ったんだが、結構ボーカーフェイスなんだな。いや、というよりも固くなった(冷たくなった)印象があるな。普段の生活が厳しい環境なのか、冷たい環境なのか。その真意はさっぱりわからないが、ユーモアがなくなったのは残念だ。引っ張り出してやるけども。

 それはこの後に回すとして、今はアリスの質問に答えないとな。根は変わってないはずなんだが、よく見たら目も冷たくなってしまってるな。まだ完全にってわけじゃないけど、次会えた時はもっと冷たいかもしれない。

 

「何でも聞いていいぞ。答えられるかは分からんが」

「構いません。ではまず一つ目、2ヶ月半経ちましたが、どうやって今まで生きられていたのですか? あてなどなかったはずですが」

「まぁね。食い倒れて死にそうになってたところを人に助けられて、今もその家で世話になってるんだよ。感謝しきれないぐらいさ」

「なるほど。そうだったのですね」

「もしかして心配しててくれた? 優しいねアリスは」

「知り合いに死なれては寝覚めが悪いだけです」

 

 辛辣だな。言葉だけ見れば。だがアリスの顔を見れば辛辣だなんて微塵も思わない。隠そうとしているようだが、本当に心配していてくれたのがわかったからだ。これを指摘したらまた話が進まなくなるんだろうな。気づかないふりをして、話を進めよう。

 

「住まいとお金の件を聞きたかったのですが、それは今の質問で纏まっていたので」

「なるほど。じゃあ今日の俺の目的を教えようかな」

「目的などあるのですね」

「馬鹿にしてない? 俺だっていろいろと考えて動いてんだぜ?」

「そうなのですね」

「信用してないな。別にいいけども、せっかくだしアリスにも同行してもらうぞ」

 

 アリスには明確な目的がない。こうして街に出てくること自体が目的だからだ。それなら、俺の目的に付き合ってもらっても都合が悪くなるなんてことはない。馬鹿にするような目で見てくるアリスに、俺はニヤッと笑みを浮かべる。この街──北セントリアは散策した。なら次にやることなど決まっている。

 

「隣りの街に行こうぜ」

 

 アリスの目が大きく見開かれたのは、言うまでもない。

 

 なぜなら、基本的に庶民は街の行き来ができないのだから。権力ある者か、商人のように特別に許されたものしか街の行き来ができない。それを承知の上で俺は街を囲うあの《不朽の壁》を抜けると言ったのだ。

 ぽかんとするアリスの手を引っ張って歩くこと30分。俺たちは北セントリアと東セントリアを隔てる壁の前へと来ていた。ここに来て、やっとアリスが復帰した。30分も固まるほどの話でも無いと思うんだがな。

 

「この壁は超えられませんよ」

「そうだな。通路には警備隊もいて、通行手形を見せないと通れない。そして俺はそれを持ってない」

「なら諦めなさい。強行突破などすれば処罰が待ってますよ」

「強行突破すれば、な。要はバレなきゃいい(・・・・・・・)んだよ」

「は?」

 

 生真面目なアリス様には想像もつかないだろうな。とても飛び越えられるような高さじゃないこの壁を、正規の手段でもなく力技でもないやり方で超えるなんて。だが、イタズラやら冒険やら裏ワザが好きな人間なら思いつく。 

 この世界の人間は規則を気にし過ぎる嫌いがある。グレーゾーンですら躊躇う人が多いのだ。だが俺はグレーゾーンでの綱渡りをよくしてきた。今回も躊躇いなどない。

 

「壁をよじ登ればいい」

「お前は馬鹿ですか? いえ、失礼しました。聞くまでもなかったですね。お前は馬鹿ですね」

「その馬鹿に付き合ってもらうぜ」

「なんで私がそのようなことを……。そもそもどうする気ですか? 指を引っ掛けるような出っ張りなど存在しませんよ?」

 

 それも知っている。初めて壁を見たときに驚愕したからな。この壁が綺麗すぎる(・・・・・)ことに。当時は凄腕の職人が大量にいたのだろうか。そう考えるのが妥当なんだが、ブロックの大きさが全て均等で、指を引っ掛けられるような場所など一つもないのだ。とても人間業とも思えない出来だ。

 そんな壁が大きく立っているのだが、俺は上の方を眺めていて気づいたのだ。一番上のブロックだけ少し出っ張りがあることに。そして閃いた。この壁を登って隣町に行く方法を。そのためにも鉤爪付きロープを用意したのだから。

 

「……まさかそのようなもので壁を超えると?」

「妥当な案だろ?」

「頭がおかしいとしか思えません。第一そのようなものを投げたとして、あの高さに届くとも思えません。届くだけではなく、あちら側に超えるように投げないといけないのですよ? はっきり言って不可能です」

「それがそうでもないんだな。それはこれから証明するとして、アリスさんや。そうやって頭ごなしに否定してたら人生つまらないぞ」

 

 アリスは余計なお世話だとそっぽを向いた。俺にはわからないアリスの生活がある。俺はアリスのことを何も知らないと言っていいほどだ。俺には全く理解できない苦悩もあるのかもしれない。だが、それで否定的な価値観を身につけてしまうと言うのなら、俺がそれを否定しよう。そんなのは何の役にも立たないと。

 俺は再度アリスの手を取って場所を移動する。正確にはこのすぐ近くにある民家へと。ここは誰も住んでいない空き家になっていて、近くの子どもたちも秘密基地にして遊ぶようなところだ。不法侵入なとではない。なんせバレなければ罪じゃないのだから。

 家の階段を上がり、3階に行く。壁を乗り越えるために用意されたんじゃないか、なんて疑いたくなるようなお誂え向きな場所があるのだ。ちょうど壁の方向に向かって作られたベランダだ。俺はそこでアリスを待たせ、一人屋根の上へとよじ登って行く。しくじって落ちれば死ぬだろうけど、できる思えば何でもできるのさ。屋根の上に行けば、壁の頂上もよく見える。そしてこの高さからなら鉤爪をしっかりと届けることもできる。

 

「よっこいしょっと」

 

 勢いをつけて力いっぱい投げる。鉤爪が綺麗に壁へと伸びていき、頂上を超えて向こう側へ。俺はロープを引っ張って鉤爪が壁の出っ張りに引っかかるのを確認したら、アリスがいるベランダへと戻る。

 

「な? いけるだろ?」

「屋根を登るなど……。見ているこちらの心臓に悪いです」

「心配させたか? ごめんなアリス。こういうのをやるのが俺なんだよ」

「それを知ったところで心臓に悪いことに変わりはありません」

「はは、それもそうか」

 

 少し機嫌が悪くなってしまったアリスにもう一度謝って、先にこのベランダの下へと行ってもらう。アリスが着いたらロープを下におろして、鉤爪がしっかり引っかかっているのを維持してもらうために軽く引っ張っておいてもらうのだ。ちなみに俺は階段を降りるのが面倒だからそのままロープを使って降りました。ロープをこれでもかと長くしておいてよかった。わりとギリギリだ。

 

「それじゃあ壁を登るか」

「……ジークだけが行ってください」

「え、なんで? アリスも行こうぜ。向こう側はまた違った文化があるらしいんだぞ? 見ておいて損はないだろ」

「こ、このようなやり方で行くなど……! 命が幾つあっても足りません!」

「ならアリスはロープを体に括りつけるといい。死なないで済むから」

「そういう問題では──」

「アリス。大丈夫だって。俺が先に登って、頂上でこの縄を引っ張るから。アリスはしっかり握っとけばいい。ちなみに、壁に足をつけといてもらえると俺としては助かる。

 

 ──アリスの命は俺が責任を持って守るよ」

 

「……ジークのばか」

 

 罵倒されたが、アリスが折れてくれたみたいだな。たしかに無理強いするのはよくなかったな。嫌がってる子に強制するなんて、クズのやることだ。どうにも俺は周りが全く見えなくなる時がある。これはさすがに自重しておかなければいけないな。

 向こうでアリスに何かお詫びすることも約束して、アリスの腰にロープを括りつける。緩かったら意味もないが、きつく縛ってもアリスが苦しいだけ。力加減にこの世界で一番集中したかも。

 

「それじゃあアリス。先に行くから待っててくれ」

「ジーク」

「ん?」

「お気をつけて」

「……。ははっ、ありがとう!」

 

 アリスからのまさかの声援を受け取ったところで、俺はサクサクっと壁を登り始める。実は俺はこうやって壁を登るのが初めてではない。リアルでも何度かやったことがある。ロッククライミングの経験もあるが、これは今回はあまり役に立たないな。この壁があまりにも綺麗だから、足をつけても滑るのかと思っていたが、多少は摩擦が生じるらしい。気休め程度だが。

 

「よっと。……へー。いい眺めだな。これが東セントリアか……っと、アリスを引き上げないと」

 

 東セントリアから視線を外し、下にいるアリスへと視線を移す。無事だということをアピールするために手を振り、アリスを引き上げるべくロープを掴み、慎重に引っ張る。俺が事前に頼んでいた"壁に足をつける"という行為をするほど余裕もないらしく、アリスは必死にロープにしがみついたままだ。

 

「わりとキツ……」

 

 アリスを引っ張り上げる俺もキツイが、アリスもしんどいだろう。腰に縛っているロープが体に食い込まないように、ロープを握るのことで防いでいるのだから。お互い腕に疲労がくる。

 だからペースを上げるとしようかね!

 

「引き上げたら休憩じゃい!」

 

 すぐにでも東セントリアに行きたかったが、それは諦めよう。降りるときも命の危険があるのだから、コンディションは整えなければいけない。ところで、ペース上げたあたりからアリスが何か叫んでるだが、聞かなかったことにしとけばいいよな。

 

「よいしょっとー! アリスも到着できたな」

「い、いきなら引き上げる速さを上げないでください! 焦りましたよ!」

「ごめんて。ゆっくりやってる方が疲れるかと思ってさ。それよりちょっとここで休憩しようぜ」

 

 俺は東セントリアへと体を向け、壁の上であぐらをかく。壁はなんだか大きめの石を使ってたみたいで、座る分には問題ない。人が二人前後に座るのは無理そうだが、一人ならスペースが余る。アリスも呼吸を整えたいのか、女の子座りして胸に手を当てながら深呼吸してる。

 

「アリスの呼吸が整ったら行くか?」

「そんなすぐにですか!?」

「東セントリアを見る限り、なかなかこっちも面白そうでさ」

「へ?」

 

 俺の言葉につられたようで、アリスは俺へと向けていた視線を東セントリアへと向ける。東セントリアはたしかに北セントリアと似た作りになっているのだが、やはり特色が出るらしい。もしかすれば東セントリアが一番特色があるかもしれないがな。

 

──なんせ和風のものがチラホラ見える

 

 

「ひっ!」

「ん? ……あー、真下見ちゃったか」

むりです

「どした?」

「無理です! こんなの降りられるわけがありません! やはり登るのが間違いだったのです! 私たちは一生ここから降りられないのです!」

「いや、降りれるから」

 

 東セントリア側へと引っ掛けてある鉤爪を、北セントリア側へと引っ掛け直せばいいだけだからな。そして縄に捕まってスルスルって降りるだけ。登るよりも簡単なんだよな。だというのに、アリスは嫌らしい。

 

「無理です! こうなったのもお前のせいですからね! ちゃんと責任を取ってください!」

「わかった。責任を取ってアリスは俺が貰う」

「そうしてください!」

「え?」

「……あれ? ……ぁ、〜〜〜〜っ! い、今のは違うくて、その……!」

「ははは! 分かってるけど、アリス動揺しすぎだろ!」

「お前のせいです!」

 

 動揺して混乱してる時のアリスって面白いな。すんごい勢い任せになる。目を泳がせて顔を真っ赤にしてるアリスを笑っていると、笑い過ぎだと怒られて叩かれた。やめろ馬鹿。落ちると死ぬんだから。

 

「アリスの元気が出たところで降りるか」

「無理よ……こんなの……」

「可愛いかよ」

「もう何言ってもいいからなんとかしてぇ」

「重症だな。……しゃーない。全部俺に任せろ」

「うん。……へ? ちょっ、なになに!?」

「危ないからジッとしてろ」

 

 アリスの後ろに鉤爪があるんだが、アリスは身動き一つできない。だから俺は鉤爪を取るためにアリスとの距離を無くす。アリスが落ちないように左手を背に回し、右手で鉤爪を取る。それを左手へと移し、今度は右手をアリスの背に回して左手で鉤爪をしっかりと引っ掛ける。ロープを引っ張って鉤爪が取れないことを確認したら準備完了だ。

 ロープはちゃんと東側に下ろしてあるから、後は俺達だけだ。まぁロープの端っこをアリスに括り付けてるからロープがU字になってるんだけどな。

 

「アリス行こか」

「や」

「や、って。……わかった。なら一緒に降りるぞ。アリスは俺の首に手を回せ」

 

 アリスを絶対に離さないようにと右腕の力を強める。アリスも俺の首へと両腕を回して力いっぱいしがみついた。これなら大丈夫だろう。左手でロープを握り、慎重に降りていく。体が完全に壁から離れる瞬間が一番危険だが、それさえ無事に済めばあとは簡単だ。降りる時から足を壁につけておけば最初にして最大の難関も超えられる。

 体が一瞬宙に浮いたからか、アリスがさらに腕の力を強めてくる。痕ができそうだが、まぁいいか。ササッと降りるとしよう。

 

「アリス、着いたぞ」

「……うん」

「縄を解くからな」

「うん」

 

 生返事しかしないアリスの腰につけてたロープを解く。それが終わったところで腰を上げ、アリスの様子を確認すべく顔を覗き込む。うむ、涙目だ。本当に悪いことをした。だが後悔はしてない。

 

怖かった

「でも大丈夫だったろ?」

うん……ありがとう

「どういたしまして。でも、こちらこそありがとう」

「? なんで?」

「いや〜。アリスってわりと胸あるんだなって」

「なっ! 〜〜〜〜っ! 変態!」

「ガハッ……」

 

 そりゃあんだけ密着してたら感触あるに決まってんじゃん。というセリフを言う前にアリスの渾身のアッパーカットをくらう。体が宙に浮きました。半端ない威力だったね。

 

 これが東セントリアに到着して最初の出来事だった。

 



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