己がために   作:粗茶2号機
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 トントン進みます。


8話 事件

 

 アリスと最後に出会ってから……何年だっけな。時間の経過を大して意識してないから忘れた。とりあえずフレニーカはさらに可愛らしくなったよ。お淑やか系少女小動物タイプ。男からすれば守ってやりたくなる雰囲気を醸し出す少女だ。言いよる男はしばき倒さねばならない。フレニーカが認めた男なら見定めるに値する。認めるわけじゃないってのが味噌だね。俺より強ければいいよ。それか俺が平伏するぐらい器が大きければ。

 さて、そんな我らがフレニーカなんだけど、今日から家に帰ってきません。家出じゃなくて、寮がある学校に行くのだ。具体的には……アレだアレ。剣とか何かを学ぶとこ。

 

「ノーランガルス帝位修剣学院ですよ」

「あーそうだった。ところで考え読むのやめてくれない? なんで読めるのか知らないけど」

「分かりやすく顔に出ておりましたので。それに、ジークさんの考えなんて誰にも読めませんよ。今みたいに露骨なとき以外」

「ならいいや」

 

 学校じゃなくて学院だそうな。名前が違うだけでそこまでの変化はないよな。剣を学ぶ学院ってだけで。剣を学ぶなんてこの世界特有だよな。あとは二次元特有。VRMMOの設定でも似たのはあったっけな。興味なかったから覚えてない。キリトに聞けば答えてくれるだろう。あいつゲームの詳細まで記憶するガチゲーマーだから。エンジョイ勢の俺とは違う。

 剣を学びに行くフレニーカの服装もまた、ノーランガルス帝位修剣学院とやらの制服だ。質素というか、シンプルな作りだ。だがフレニーカは可愛く着こなしてる。ところでスカート丈が短くないかこれ。禁忌目録があるし、セクハラの心配はないと思うが、お兄さん不安だな。

 フレニーカにもしもの時があれば、すぐに助けられるように忍び込む方法を検討しておいた方がいいか。なんて考えていると、ふとフレニーカの機嫌があまりよくないことに気づいた。理由は察しがついているけども。

 

「ジークさんが去年入学されていれば、私はジークさんの傍付きになれたのに」

「そう言われてもな……。言ったろ? 俺は剣に興味がないんだって」

「あんなに剣がお上手なのにですか?」

「俺は大したことないぞ」

「そんなことありません! もしそうであればジークさんのご指導があれほど的確で効果的なことに説明がつきません!」

 

 そう言われてもな。俺は剣が本職ってわけじゃないんだ。それに、剣の扱いなら俺よりキリトのほうが長けてる。正当なものであればリーファが一番適任だな。リーファって教えるのも上手いし。

 なんでフレニーカがこういうことを言うのかと言うと、フレニーカが入学に備えて最低限のことは身につけておきたい、と練習してる時に教えたからだ。どうやら本で学んだ程度らしくて、実際に振るっているときに教える者もいない。だから握り方、力加減、振り方。どれも早々に変な癖がついてしまっていた。

 俺はそれを注意し、知っている限りのことをすべて教えてフレニーカに基礎を叩き込んだ。そして俺にできるのもこれが限界なんだ。基礎以上のことなんて教えられない。そうしようとすると、刀での振り方になってしまう。そして俺の戦闘スタイルは居合に重きを置いている。剣とは相性が悪いのだ。

 

「剣術って流派があるんだろ? 俺はろくに流派なんてないし、フレニーカのためにはならないんだよ」

「それでもよかったんです! ……私はただ、またジークさんと鍛錬する時間ができたら……それだけでよかったんです」

「っ! ……ごめん。フレニーカ」

 

 まさかフレニーカがそう思ってくれていたとはな。正直言ってフレニーカへの評価を間違えていた。勘違いして、見くびってた。この子は正真正銘善心の塊だ。裏なんてなくて下心もない。ただ純粋に生きている子だ。そんな子の思いを、『流派がないから』『剣に興味がないから』って理由で踏みにじっていたとはな。今になって申し訳なくなるというか、いたたまれなくなる。だが今さらどうしようもない。

 

「手紙……書きますね」

「わかった。じゃあ俺も返事を書こう。……ところで手紙はどこに出せば届く?」

「ロシェーヌに教えてもらっておいてください。返事来ないと怒りますからね?」

「読んだらすぐに返すさ」

「はい! それでは行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

 最後には笑顔を見せてくれたフレニーカが学院へと旅立つ。俺達はそれを見送り、各々自分のやるべきことを再開する。俺は特にやることがないが、サードレの爺さんの所にでも行くとしよう。

 

 ──そろそろ気合い入れてる案件(キリトに頼まれた剣)も完成する頃合いだろうしな

 

 

 

「そんなわけで来たぞ爺さん。進行具合はどんな感じ?」

「今いいところだから構ってる暇なんてない」

「ははっ、子供みたいな返事がきたな」

 

 見たところ形はできてるようだな。だがこれで完成なんて言う奴は三流。正真正銘一流であるサードレの爺さんがここで止まるわけなんてない。"今いいところ"ってのも、今が(・・)最も重要な工程なんだろうな。

 それにしても真っ黒の剣だな。いかにもキリトが好みそうな剣だ。キリトが黒以外の剣をメインにしてる時なんてGGOでしか見たことないけどな。

 『ギガシスダーの樹』。それがキリトとその友人とやらが切り倒したという悪魔の樹。気が遠くなる程の莫大な天命を持った樹であり、倒せるわけがないと言われていた樹。そんな樹の樵を天職にしていたのがキリトの友人なんだろうな。俺のようにこの世界にダイブしたキリトに天職などないのだから。どうやったのかは知らないが、その樹を倒した二人は真っ当な手段でここまでたどり着いたらしい。フレニーカが今日入学する学院に去年からいるんだとか。未だに俺はキリトと会ってないけど。

 

「そうだ爺さん。手伝おうか?」

「馬鹿を言うな! これは譲らん!」

「だよなー」

 

 ギガシスダーの樹から取った枝。それを素に剣を作るんだとさ。この世界の剣の作られ方ってマジファンタジー。しかも何を素にしてるかで『優先度』つまり武器の性能が決まるらしい。その辺にあるのを使っても優先度の高い武器にはあっさりへし折られるんだとさ。そして、優先度の高い武器のことを神器と言うらしい。神器欲しいね。キリトばっかズルいわ。

 さて、フレニーカとも会えなくなってしまったから俺はどうやってこれから過ごしたものかね。……壁登って違うとこに行くあの探索を再開するかね。

 

 

☆☆☆

 

 

 フレニーカは律儀な子だからね。本当に手紙を送ってきたよ。手紙が来て、それを返してフレニーカに届くのに一日かかるから、手紙を書くのは二日おき。手紙を送る方法はロシェーヌさんに教えてもらったから完璧。

 上質そうな紙に綴られるフレニーカの丸みを帯びた文字。字が綺麗過ぎて自分の文字が嫌になってくるが、手紙を返すと約束した以上返すしかない。何故か緊張した。この世界に来て一番集中したアクセ作り並に集中した。

 

 『相部屋なのですが、その方とは早速仲良くなれて友人になってくれました』とか、『学院の施設が──』とか『新しく友人ができました。皆さんにジークさんを紹介したいです』とか、当初はそんなのが多かったな。

 学院生活が新鮮なのと、友達ができたことで嬉しいんだろうな。そういうのが最初のうち多くなるのは仕方ない。俺だって逆の立場で手紙書けって言われたらそうする。フレニーカは俺だけにではなく、親御さんや使用人にも手紙を書いていた。たいてい似た内容となるのだが、相手が違うと書く内容に差異も出るらしい。凄いな。俺には無理だ。

 

「あの子も上手くやっていけてるのね」

「そのようですね。奥様」

「手紙に夢中になって勉学に支障が出なければいいですけどね」

「……あの子ならやりかねないわね。ではそのことは私の方から手紙で言っておきます」

 

 俺達も送った方がいいのかもしれないが、一斉に全員にそんなことを言われたらフレニーカもショックだろう。だから母親から言ってもらうことにして、俺やロシェーヌさんは普通にいつも通りに返事を書いた。

 俺へと送られてくる手紙は、だんだんと剣術のことが多くなった。たしかにこの中でその話ができるのは俺だけだからな。それは分かるのだが、手紙が俺だけに送られてこの内容だったら、フレニーカは剣術バカということになってたな。文章って怖いよな。

 そんな中で俺の興味を引いたのは、ある流派だった。フレニーカが勝手に人の名前を出すわけもなく、"ある上級修剣士殿"とだけ書かれている。しかしそれが誰のことかは分かった。なんせその流派の名前が『アインクラッド流』なのだから。この単語を出す人間などキリト以外いない。二人いるということは、キリトは友人にも教えたのだろう。菊岡や、俺以上にこの世界に影響を出しているであろう人間がいるぞ。

 

「それにしてもアインクラッド流、か。この世界にソードスキルがあるってことだよな」

 

 面白いことを知った。俺はその上級修剣士と仲良くなってるといいって軽く告げるように文字を綴り、フレニーカが自分の剣を見つけられることを願って手紙を書き終える。

 ノーランガルス帝位修剣学院。なかなか良い経験ができる場所のようだな。

 

 なんて良い印象を持っていた時も俺にはあった。

 異変に気づいたのは、フレニーカとの手紙でのやり取りを続けてるある日のことだった。上級修剣士に指名されて傍付きとなる。それで四等爵家の人間に指名されたというのは、手紙で聞いていた。その時はドンマイって思っていたのだが、どうやら悪い方向に進んでいるらしい。文面ではそのことは書かれていない。

 

 ──だが、一部の文字が滲んでいた(涙のあとが手紙にあった)

 

 フレニーカが耐えられないような何か(・・)が起きている。それが何なのかはわからないが、苦しんでいるのは明白だ。それを手紙に書かないのは涙に気づかなかったのか。

 それか書けない状況か(先に読まれてるか)だ。だから俺は、手紙に仕掛けを施した。薄っぺらい紙を用意し、そこに今の状況を書くように記す。その上にピッタリと普通の返事を書いた手紙を重ねる。フレニーカが書けるように、何も書いてない薄い紙も忍ばせておく。肌触りは変わらず、空気が抜けていると完全に重なるので気づかれないという仕掛けだ。

 

「これは……場合によっては誰にも知らせるわけにはいかないな」

 

 もしフレニーカが何かやられているのなら、それを家の人に知らせるわけにはいかない。一度入学している以上みんな歯がゆい想いをするだけなのだから。俺だけが確認し、そして場合によってはこの家の人に迷惑をかけないように俺一人で片をつける。

 そうして届いたフレニーカの手紙は、俺が仕掛けたやり方を理解してくれたのか二重になっていた。そしてそこに書かれていた真実に目を通し、俺は思わず手紙をグシャッと握りしめた。

 

 

『数日前から、ウンベール・ジーゼック上級修剣士殿に辱めを受けています。先輩である上に四等爵家のお方。私には逆らうことなどできず、言われたことに従ってご機嫌を取るしかありません。私はこんなことをさせられるために入学したわけではないのに、どうしてこのような目にあっているのでしょうか。こんな生活嫌です。解放されたいです。

 

 助けてください、ジークさん』

 

 

「ウンベール・ジーゼック。いい度胸してやがる」

 

 こんなの知って俺が黙っていられるわけなどない。物に当たりたくなるほどの激情を抑え、フレニーカを助けに行くための計画を考える。まずどうやって学院に俺が入るのか。そこが最初にして最大の難関だ。これは実際に確認して方法を考えるしかない。たしか寮もあるから、そっちから侵入して学院に入るのもありだろう。そこまで考えた俺は、一言告げて学院へと足を運ぶ。

 

「……簡単に入れそうだな」

 

 思ってたよりかは塀は低かった。というか《不朽の壁》をよじ登っている俺によじ登りきれないのは、空まで伸びるあのセントラル=カセドラルぐらいだろう。あれをよじ登るのは一苦労しそうだ。間近で見ないと分からないが。

 さて、わりと簡単に難関を突破できると分かったところで、いつ突入するかだな。今すぐでもいいのだが、焦ってはいい結果が訪れないことなど明白。ここは一日置いて、明日学院に忍び込み、ウンベールをしばき倒すとしよう。

 

 決戦前夜、というわけでもないが、一晩寝て英気を養った。昼間では人の目も多いため、学院へと侵入するのは日が沈んでから。その後の正確なタイミングは人通りを見て決めるとしよう。

 

「そういや修剣士ってんだから相手は剣あるのか。……ま、いいや。実戦経験のない奴の剣だし」

 

 地位をいい事に自分勝手に生きてる奴の剣に俺が負けるわけがない。慢心するわけにもいかないが、負けるなんてサラサラ思わない。そうして内側に閉まっておいた激情を少しずつ表に出していきつつ、人通りが減るのを見て路地裏へと入り込む。迷いなく進んでいき、ある地点から方向転換して行き止まりに着く。この壁の向こう側が学院だ。

 俺はそれを躊躇うことなく登り、すぐに飛び降りる。辺りを確認し、誰にも目撃されていないのがわかったら、ここからどう動くか考える。なんせ学院の中の地図なんて持っていないのだから。生徒と思われる子たちを発見し、その子達の動向を木の裏から見張る。もはやストーカーだが、そんなレッテルなどフレニーカのためなら貼られてやろう。

 

「……何かあったな。これは」

 

 様子を確認してて分かった。生徒たちの動向からして、寮となる場所は俺から見て右側の建物だろう。しかし、中には左側の建物に行く生徒もいる。上級修剣士の建物と初等練士の建物が違うのだろうな。そして、グレードからして左側が上級修剣士の建物だろう。そして、若干騒がしいのも左側だ。

 俺は誰にも気づかれないように身を隠しつつ左側へと急ぐ。近づいていく中で、何やら物騒なことがあったのを理解した。なんせ片腕を失い、錯乱して走ってる男がいるのだから。そいつが事情を知っているのは間違いない。俺はその男に近づき、首に腕を回しヘッドロックを仕掛けて茂みの中へと引きずり込む。

 

「な、何者だ貴様! この私を誰だと思っている! 四等爵家の子息、ウンベール・ジーゼックだぞ!」

「ははは! こりゃ幸先がいい! お前に会いに来たんだよウンベール」

「何者かと聞いている! この私に──ガハッ!」

「お前の言うことを俺が聞く必要がどこにある? 片腕が無くなってることはどうでもよくなった。お前にはフレニーカのことで聞きたいことがあるんだ」

 

 騒がしいウンベールの溝うちに拳をめり込ませる。木に持たれるようにしゃがみ込んだウンベールの髪を掴み、顔を上げさせる。俺は苦悶に満ちるウンベールの顔を覗き込むように目線を合わせ、首を絞める。

 

「きさ、ま……!」

「お前がフレニーカにしたことは知ってる。なんでそんなことをした?」

「何故だと? そんなもの、傍付きということは私のモノだからだ! そして爵位でも私の方が上! 私の言いなりになって当然のこと。むしろ私に選ばれたことを光栄におもうべぎぇぁ!」

「クズだなぁ」

 

 苛ついた俺は首から手を話し、性根の腐ったウンベールの顔を全力で殴る。なんか思ってたより威力が出てるっぽいが、黙らせられてるから気にしないでいいだろう。だが、まだ許す気はない。フレニーカの心の痛みに比べればまだ軽いだろうからなぁ!

 

「……なぁウンベール。フレニーカにどれだけのことをした? お前はあの子に何をした」

「ぐっ、なぜ貴様になど……くくっ、なるほど。それほどフレニーカ初等練士が大事らしい。ならば教えてやろう。あの娘の肌触りも艶も弾力も、とても甘露のよごぁっ!!」

「あ、わり。最後まで聞く気になれなかったわ。……って気を失ってるなら聞こえてないか」

 

 片腕無くなってるわけだし、このままだとウンベールも死んでしまうだろう。俺としては死んだところで痛む心もないのだが、フレニーカはそうでもないだろう。たとえこんな屑が相手でも、人の死自体には心を痛ませかねない。そんなわけでこいつを目立つ場所に放置し、パニクっているのを装って他人にウンベールを救護室へと運ばせる。ついでにこの事を傍付きのフレニーカ殿にお伝えしますと言っておいたからフレニーカの部屋も教えてもらえた。

 

 

☆☆☆

 

 

 私のせいでロニエとティーゼが酷い目に合わせられてしまった。そして、そのせいでキリト上級修剣士とユージオ上級修剣士が……。私のせいなんだ。今回起きたことは全部、私の……。

 枕を涙で濡らして自分を責める。どれだけ悔やんでも、どれだけ責めても、どれだけ涙を流しても足りない。私のことを気遣ってか、相部屋の子は側でそっと私の髪を撫でてくれてる。私を一言も責めないで。

 

 ──そんな優しくされる資格なんてない

 ──私が弱いからこんなことが起きたんだから!

 

 そんな時だった。扉をコンコンって鳴らされたのは。先生が話をするために来たのかもしれない。でも私は動く気になれなくて、友達が扉を開けに行った。

 

「へ? だ、誰ですか?」

「君はフレニーカの友達かな? この部屋にフレニーカがいるって聞いたんだけど」

「お、お答えすることはできません! 名を言わねばこの場で騒いで他の方にも来てもらいますよ!」

「待って!」

「フレニーカ?」

 

 そんなはずはない。あの人がこんな所に来られるわけがない。

 

 だけど、この声を私が聞き間違えるはずがない。

 

 覚束ない足取りで扉へと近づき、友達にその場を避けてもらう。はっきりと見えたその顔は、間違いなく私がよく知ってる顔。私が頼るお兄さんの顔。

 

「ジーク……さん……」

「お待たせフレニーカ。なんかよく分かんない間に片付いたっぽいが、とりあえず来たぞ」

「ジークさん!」

 

 私はジークさんの胸に飛び込んだ。ジークさんは私を優しく抱きしめてくれて、私はその暖かさと安堵感に包まれてさっきまでとは違う涙を流した。

 




 


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