聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十一話:枯れた世界はどこじゃらほい

「……行くか」

 

『そろそろ向かわねばな』

 

 イスタの宣言から約一月。

 正確にはまだ一ヶ月は経っていないのだが、世界間移動となるといくら世界ごとに時間の流れが違うとは言っても間に合わなくなる可能性も存在するために、隼也はそう口にした。

 

「頑張りましょうね、おにーさん!」

 

 ユーフォリアは笑顔で、負けることは考えていない。

 そんな彼女の頭を撫でて、隼也は気持ちを一つ落ち着ける。

 

「そういや……これ、ありがとな」

 

 そう言って隼也が目を向けたのは己の右腕。

 正確には、己の右腕を覆う普段の制服とは違う装束。

 戦場に向かうのに制服姿のままはどうなのかと思っていた隼也の心の機微をいつのまにか把握していたユーフォリアが、これまたいつのまにかどこかで習った、あるいは隼也と出会う前から持っていたけれど披露する機会がなかったのか、実際のところはわからないが彼女が持っていた裁縫技術を駆使して仕立てた決戦用の衣装(ドレスコード)

 隼也が得意とする双属性たる黒と白を基調とした、各部に動きを阻害しない程度にマナを通せばそのまま防具として扱うにたる至上の一品。

 彼のことを誰よりも理解しているユーフォリアだからこそ作ることができた、『御堂隼也が着て戦う』ことを大前提とした場合これ以上のものはないと断言できる代物だった。

 

「えへへ、問題ないですよこれぐらい。あたしができることなんてそんな程度なんですから」

 

「いや、ユーフィーは俺が戦ってる間、誰にも邪魔されないようにしてくれるんだろ? そっちも本当に感謝してるよ」

 

 それに何より、と隼也は続けた。

 ユーフォリアが戦いを見守れない……何かあった時にすぐに助けに来ることができる位置にはいられないことを嘆いているのを理解していたが、それでもこの前準備の時点で彼女に世話になりっぱなしで、何かを返すことができたと思えていない隼也としては礼を言うしかできることはないのだ。

 

「ユーフィーが特訓に付き合ってくれたおかげで、俺にも勝ちの目はあるんだ。それなのに、『そんな程度』なんて言わないでくれ。……それとも、ユーフィーは俺が勝っても負けても特に嬉しくも悲しくもならない?」

 

 自分の勝率を生み出したことは、ユーフォリアにとってどれくらいの意味があるのかと問いかける。

 

「そ、そんなことないです! おにーさんが生き残ってくれた方が嬉しいに決まってます!」

 

 被せるように否定したユーフォリアにじゃあと言って

 

「なら、ユーフィーがしてくれたことは『この程度』のことじゃない。『こんなにも』俺の生存の確率を高めてくれたんだ。その働きが小さなものだなんて誰にも言わせない」

 

 ポンポンと頭を撫でて、ユーフォリアの兄としての顔を戦場に向かう、これから殺しあうことを覚悟した顔つきに変える。

 

「さあ、行くか」

 

「はいっ!」

 

 その言葉を最後に、神剣を取り出した二人はマナの揺らめきとともにこの世界から姿を消す。

 そして、二人が次に目にしたのはいつもの星の大海。

 分枝世界間を行き来するために使用される次元の狭間だった。

 

「頼むぞ、ユーフィー」

 

「任せてください」

 

 取り出された「悠久」は剣、槍に続く、ルインドユニバースを放った時の形態である飛行形態(サーフボード)に。

 宇宙(そら)を駆けるのに最も適した形態となった「悠久」に乗ったユーフォリアは隼也に対して手招きをして、そして隼也もユーフォリアの後ろに乗る。

 「悠久」も神剣である以上は契約者以外が扱うことなどできるはずもなく、そして徒歩でこの星海(そら)を駆けるのは時間がかかりすぎると、少しでも鍛錬に時間を費やすためにこの移動手段を取ることにしてギリギリまで修行に明け暮れた。

 故に、これに乗らなければ、戦場に足を踏み入れることすら不可能。

 

「行くよ、ゆーくんっ!」

 

『うん! 任せて、ユーフィー!』

 

 周囲のマナを子供特有の無邪気な残虐性を以てユーフォリアは吸い上げ、自らの保有するマナと合わせて「悠久」に向けて注ぎ込んで行く。

 兄と慕う人物の役に立てることが、生来の優しさの箍をわずかに緩めてしまい、結果として彼女の持つエターナルとしての全力……時間樹ごと滅ぼすこともできるだけの力がわずかに漏れる。

 座標はすでに隼也からユーフォリアに渡され、そのために行われたファーストキスも特にその後の関係を悪化させることなく時間を最大限に活用することもできた。

 そうして与えられたそれがユーフォリアによって「悠久」に伝えられたことによって、「悠久」はその目的地に直行する便となっている。

 

「いっくよー! それー!」

 

『はっしーん!』

 

「うぉぉぉ!?」

 

 ルインドユニバースを放った時よりも速く、「悠久」は星の海を駆ける。さながら流星のように。

 燐光のように瞬いては消えるマナを背部から撒き散らしながら、その星は宇宙を舞って行く。

 思っていたよりも速かったのか、隼也は驚いたような声をあげ、それもまた虚空の彼方に消え行くだけ。

 情けない声を出した隼也だが、その速度に慣れればある程度は周囲に目を向ける余裕もできてくる。

 

「……綺麗だな」

 

「うん……」

 

 返答を期待したわけではない、ただの独り言だった。

 けれどそれにユーフォリアも忘我したように呟きを返す。

 それは、まさしく絶景というほかない光景であった。

 

 枝葉(世界)が瑞々しさを得て色づいて行く。

 黄金の燐光(マナ)を得て、枝が大きく葉を育てるにたる大きさへと成長する過程が見える。

 すでに老いた世界が、新たな世界の養分となるために自死する様すらも美しく。

 何者の手も入っていない世界のあるがままの移り変わりは、まさしく命を示しているとしか二人には思えなかった。

 

「あ、おにーさん。見えてきたみたいですよ!」

 

「そっか……」

 

 拳に力が入る。

 けれど直後のユーフォリアの笑顔に肩の力が抜けて、戦闘に向かうためのベストコンディションにまで持って行くことができた。

 

「突入します!」

 

「頼んだ……!」

 

 ユーフォリアの言葉の後視界が白く染め上げられて、かつて旅を始めてから絶と出会った唯一の世界である『枯れた世界』と呼称される世界へと二人の姿が出現した。

 

「それじゃ、ここで一旦お別れだな」

 

「はい、おにーさんも気をつけてくださいね」

 

 マナを感知することによって、隼也もユーフォリアも五箇所に強力な、ミニオンではない神剣使いがいることを把握。

 一つは、暁絶のもの。一つは、イスタのもの。一つは彼らが知らない、イスタが所属する組織のエヴォリアという女のもの。一つは、エヴォリアの仲間であるベルバルザードという男のもの。そして一つは、無数の神剣反応が一つになって移動し続ける、『旅団』という組織のもの。

 この中ではイスタと旅団を除く残りの三反応は距離が開きすぎてはいないが仲間と呼べる距離ではない、という程度に離れている。

 旅団は、大別して暁勢とイスタに向けて別行動をとるために二手に分かれたところまで、二人は理解した。

 

「俺はイスタがいる方に向かって」

 

「あたしは、そっちに向かおうとする神剣使いを足止め、ですね」

 

 その言葉を最後に、どちらからともなく目的の場所へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘になる可能性を捨てられないユーフォリアは、隼也の戦いの邪魔にならないであろう地点で神剣使いと相見えることを望み、神剣による強化を以て走りながらもマナの使用を最低限にして駆け抜けた。

 

「女の子……?」

 

「てめぇ……なにもんだ?」

 

 弓を背負った男性(スバル)鉄爪を身につけた野獣のような男性(ソルラスカ)眼鏡をかけ本を持った男性(サレス)ランタンを持った女性(ヤツィータ)薙刀を持った少女(タリア)

 

 それぞれの名を知らずとも、弓、鍵爪、本、ランタン、薙刀からは神剣反応が出ている。

 故に、ユーフォリアはそれらを隼也の戦いの邪魔をする者として判断しながらも、けれど未だ戦いが始まっていないことから言葉を尽くせば邪魔をしない可能性もあるのではないかと一縷の望みをかけて話をすることにした。

 

「あたしは、貴方達の目的を知りませんし、興味もありません。ですが、今この先ではあたしの大事な人が一騎打ちをしようとしているんです。ですから、もしもここを通ろうというなら、たとえそれがどんな目的だろうと容赦はしません」

 

「……っ!」

 

 いいや、それは話ではなくただの通達。

 彼女の言葉には「だからここから先に行こうとしないでくれませんか?」という思いも含まれているが、けれど通ろうとする者に容赦しないという純然たる決意にも満ちていて、一瞬その意思の純度に誰もが気圧された。

 

「っせー! 俺らにも行かなきゃならねー理由があんだよ!」

 

「ま、待ちなさい、ソル!」

 

 けれど、だからこそ戦意が高い男は『こんな少女に気圧された』という事実が、相手の実力を知らないことが原因で認められない。

 特攻してくる姿を認め、ユーフォリアは一つ残念そうにため息をつく。

 

「そうですか……それなら仕方ありません」

 

 くるりと「悠久」を一回転させ構える。

 総身からマナが溢れ出す。

 

「永遠神剣第三位『悠久』の担い手、”悠久のユーフォリア”、行きます!」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「待たせた、か?」

 

「いいや、脅しまでかけたんだ。お前が来たくなくても神剣が無理矢理に連れてくるだろうとは思っていた。時間まで決めていなかった以上は別に問題ない」

 

 そこに、イスタはいた。

 さっと隼也が感知してみたところ、この土地に何か仕掛けが存在するという結果は出なかった。

 たとえ仕掛けられていたとしても戦う他ないのだが。

 

「なら、始めようか。俺の相棒が邪魔が入らないように食い止めてくれてるからな」

 

 隼也は、ユーフォリアの莫大な反応が発現したことを感知した。

 だから、こちらも長々と話をするわけには行かないと感じた。

 ユーフォリアが抑えておける時間にも限りがあるということは知っているから、その間に終わらせてしまいたいという思いがあった。

 

 周囲のマナを吸い上げる。

 枯れた世界……マナが枯れて、世界として存続が厳しくなってしまった世界。

 ほとんどマナが残っていなかろうと、この世界を構成するマナは未だ残っている。

 大気のマナが残っていないのなら、残っている部位から吸い上げれば問題ない、と隼也は全力で吸い上げた。

 

「オーラフォトンストリーム」

 

 吸い上げ始めてから放つまで、瞬きほどの間。

 一ヶ月間にて鍛え上げられたマナ操作と神剣魔法の威力を以て、開戦の一撃は放たれた。




今回の時間樹内部の変化は理想幹神が関与していないもの
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