聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十二話:え? 2回目の戦いのくせしてライバルっぽい言動してるの?

「ぬぅん!」

 

 開幕を告げるように放たれたストリームは、籠手型永遠神剣たる「煌舞」を纏ったイスタの腕によって、強引に叩き潰される。

 よく見れば、ストリームの上下左右には障壁を張る魔法陣が展開されていて、それを上から叩き潰す形で軌道を逸らしたことがわかるが、そんなものを一瞬見ただけでは己の一撃もあって隼也には判断などできるはずがなく、結果として驚きに目を見張った。

 直後、その絶技に気がついたが、それはもう遅い。イスタはその驚きによって生まれた時間にすでに自分の攻撃体勢も整えていた。

 

「初手は譲った。故に、次手はこちらがもらう」

 

 爆発的なマナの昂り。籠手に集うマナの量はかつてとは比較にならないほどで、足元に起こした小規模マナ爆発も合わさり、瞬間最高速では隼也のこれまでの人生で見たこともない速度になった。

 集ったマナは赤一色に染め上げられる。凶兆たる災禍の紅がすでに枯れ果てた土地を穿ち、喰らい、穢し、彼の暴力(殺意)の発露を十二分に示しながら突き進み、隼也という個体を殺戮の嵐に巻き込みながら世界ごと討ち滅ぼすための一撃と化す。

 

「炎熱よ、地を満たせ」

 

 隼也に対して不敵に笑いかけるイスタ。その笑みには「お前も覚えているだろう?」と言っている。

 そう、その口上はかつて一度だけ戦った時に、最後の最後で世界の崩壊というタイムリミットを迎えたことで放つことすら許されなかった一撃。

 不意打ちじみた最初の一撃とは違う、決闘という形を始めるのであればあの時の続きからという意思をその瞳に乗せて、イスタの籠手は炎を纏う。

 

「マナよ、兵を鼓舞し、新たな風を巻き起こせ(『時を駆け、戦場を疾く走る疾風となれ』)

 

 対する隼也は多重詠唱。筋力強化(インスパイア)速力強化(アクセラレーション)を「平衡」と同時に詠唱することで発動させてから、赤属性のマナと緑属性のマナをかき集め雷炎をその刀身に纏わせていく。

 

「灼熱よ、天を焦がし浄滅せしめよ」

 

 今か今かと解き放たれる瞬間を待ち続ける雷炎はかつて戦った時とは比較にならないほどの圧力を醸し出している。

 灼熱が形を成したとしか思えない左腕は、今も全てを焼き焦がさんと叫びながら揺らめいている。

 どちらからともなく二人は走り出す。狙うはかつては強弱を測ることができなかった、当時の己達の最強の技。必殺技とすら呼称できたその一撃を、己の力を誇るようにして激突させる。

 

「ティルヴィング!」

 

「ソードオブフレイ!」

 

 勝利の剣の名前を模した二つの一撃が激突する。周囲にそれを構成していたマナが散る。

 純粋な、赤属性のマナによる炎の一撃としてはイスタの放つティルヴィングに軍配があがるも、ソードオブフレイは雷炎。二属性のマナが混じり合い、威力を高めているが故にその一撃は拮抗という形を生み出す。

 周囲に飛び散ったマナが強引に二人に吸い寄せられて、さらにその一撃を持続、強化させる一助となって酷使されながらも、大地が剥がれ落ちていく。本来の、大地となる以前の原初の姿たるマナへと立ち返り神剣に吸収され、この世界を滅ぼしながらも勝利を冠する二つの剣は打ち合った。

 

 このまま続けても意味がないと悟った二人が同時に舌打ちをして次の行動を起こす。

 二人は神剣魔法を放つための行動に出る。

 イスタは神剣魔法の魔法陣を招来し、放つための時間を得るために全力で飛び退きながらも魔法陣を前面に展開する。

 隼也はその場から動くことなく、以前ユーフォリアとの特訓で行ったのと同様に口を開きその内側に展開していた魔法陣を外気に触れさせる。

 

「ファイアボール!」

 

『オーラフォトンストリーム!』

 

 圧縮増強された、太陽と見紛うほどの熱量を帯びた火球が数十、同時に隼也に迫る。

 口内だけではなく、両の手の平の指先に合計十展開された青属性の魔法陣からそれらの火球全てに合わせてアイスパニッシャーが放たれ、一つ一つ確実に発射、制御、維持の全てに関わる魔法陣を凍りつかせ破壊しながら、それとはまた別の生き物のように口内からは『開いた口』という小さな砲門から飛び出させるために指向性をもたせた激流が、ビームと化してイスタに向かって直進する。

 

「その程度……!」

 

 けれど、当たることはない。激流が指向性を持ち、イスタのみを飲み込むためのものになろうと、圧縮されたことで物理的に叩き潰すのは骨が折れる程度だ、と躱しながらイスタは思う。

 さらに、口内にダメージを与えないように制御する必要性があるために動けないと踏んだイスタの籠手から小規模な炎弾が放たれた。

 

「ちっ……!」

 

 ストリームの展開をやめて躱す隼也に仮説は当たったかとわずかに口元を緩めるも、すぐにそれは消え失せる。アイスパニッシャーを展開していた十の指が、それぞれ別種の魔法を生み出す魔法陣を展開し、さしづめ魔法という弾丸を撃ち出す銃口へと変貌する。

 ファイアボルト。ファイアボール。フレイムレーザー。ライトニングファイア。インフェルノ。イグニッション。オーラフォトンシュート。ライトバースト。オーラフォトンクルセイド(精霊光の十字架)。オーラフォトンブラスター。

 それら十の神剣魔法がイスタを消し去るためだけに生み出される。なぜか隼也が適正を発揮し続ける神剣魔法の扱いという分野では、彼以上の存在などこの時間樹の中にはエターナルも含めて存在しない。

 

「ぬ、ぐぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 どの銃口がどういった位置へ向けてどの魔法を放つのか。常に銃口から放たれる魔法は切り替わり続け、向かってくる位置も変わり続けるがためにイスタの二本しかない手では対処が追いつかない。

 赤属性のシールドは展開されているが、魔法としてではなく物理的な一撃と化すオーラフォトンに対してはほとんどブロック効果を発揮することができない。

 

 もはや、ただ嬲り殺されるだけにすら見えた。

 

「舐めるなっ!!」

 

 裂帛の気合と共に放たれたのは全方位に向けての炎の一撃。体から放出する炎が向かってくる炎を打ち消し、オーラフォトンをわずかに押し止め、対処する隙を生み出した。

 十字架となって降り注ぐオーラフォトンを炎と籠手でカバーした手によって掴み、振り回し、あるいは立てかけて他の神剣魔法への盾となし、己の武器となし、結果的にはありえないほどの軽傷でその弾幕を防ぎきる。

 

「氷刃よ、荒れ狂え」

 

 青属性のマナが大気を滅し、隼也の望む形へと作り変えていく。魔法陣を穿ち、神剣魔法の発動を阻害するアタックスキル、アブソリュートゼロ。それらが飛び出し、イスタの炎によって瞬間的に蒸発させられるが、それもまた隼也の思っていた通り。

 冷気の刃を生み出した青属性のマナは、仕事を終えてなお、己を使役する隼也の敵であるイスタの周囲にまとわりつき、赤属性のマナを沈静化させた。

 

「この程度か」

 

 けれど、氷雪の嵐に巻き込まれながらも、その内側には確かに紅が灯っている。凍気の内より、灼熱の権化が再誕を果たす。

 飛び出してきたイスタの一撃は、隼也がそれを視認してからアブソリュートゼロを解除する一瞬の空白に、足元での爆発による加速を加え、最も効率よく破壊力が乗せられた状態でその肉体へと突き刺さる。

 

「がっ……!」

 

 それはまさしく、隼也がユーフォリアから幾度となく見せられて、そして紛い物として覚えた繋がれた意思(コネクティドウィル)

 最大の力を最高の速度で最善のタイミングに放つだけのシンプルな、けれどだからこそ回避も防御も難しい、武の極みのような一撃をイスタは今この瞬間、何者のサポートも受けることなく自らの手で生み出し、放っていた。

 精霊光による障壁も生み出すことは許されない意識の空白。本当に気休め程度の障壁を「平衡」がとっさに張ったが、その程度で防げるほど甘い一撃ではなかった。

 吹き飛ばされる隼也。地面をバウンドしながら土煙を上げて、その姿は覆い隠されていく。

 

「ふむ……」

 

 そのまま追撃に走ればいいものを、己の手のひらをしげしげと見つめ、今の感触を忘れないようにするためか手を幾度か握っては開くイスタ。戦場における行動としては論外だが、今この場が決闘の場であり誰もいないことと、隼也がすぐに立ち戻ることができない状況であることから、それを行うに足る時間が生まれていた。

 

「……よもや、死んだか? いや、まだマナの塵に還っていないということは気絶しているか、あるいは立ち上がれないか」

 

 機を虎視眈々と狙っているという考えが出てこないほどの一撃だとイスタは自負している。だからこそ、その選択肢は最初から抜いていた。そして、その考えは──

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 隼也は、この旅が始まる前によく見ていた夢を今この時も見ていた。

 

(この空間、なんか分枝世界から飛び出した時に見るのと似てるな……)

 

 夢の内容は現実に帰ると大半は忘れてしまう。故に、星の煌めきに見覚えがあったとしても、夢から現実ではそれを知ることはできず、現実でそれを知ってから夢に見たことでようやく知ることができた。

 

「■■■■、もしもの時のためにあなたにこれを託しておきます」

 

 目の前にはいつもの赤毛の少年。けれど、今はそちらに興味が向かない。隼也の興味は全て、この少女の言葉に、そしてその声にあった。

 

(この声って……ユーフィーの……?)

 

 現実の自分の状態を思い出せないのか、隼也は今自分が夢を見ていることに気がついていても、それは眠りについたからだとしか思っていない。だからこそ、こうして興味を全て夢の中に向けることができていた。

 隼也が普段から聞いている、ユーフォリアによく似た声の持ち主は赤毛の少年に剣を託し、ホッと息を吐く。ここまではいつも通りで、そしてここで目が醒めるのだが、今日に限ってはなぜか意識が覚醒へと向かわない。

 

「そして、貴方も」

 

 その言葉の直後、隼也の意識はまた別へと飛んだ。

 

「初めまして……というべきでしょうか」

 

 そして目の前には、ユーフォリアによく似た女性の姿があった。

 ユーフォリアと違うと判断できるのは、彼女にはない落ち着きが雰囲気からして滲み出ているという事実と、そして手に持つものが「悠久」とは違う、剣を納めるための鞘であること。

 

「あな、たは……」

 

「さあ、お話をしましょう?」

 

 にこりと、その少女は微笑んだ。

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