聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十四話:やることやったし……

 隼也が目を覚ますと、そこは昔懐かしい日本家屋(これまで見聞きしたことのない空間)だった。

 

「ここって……」

 

 左腕を動かそうとして、そこには何もないことを思い出す。

 ならばと右腕を動かそうとしたが、今度はそちらに重石のような何かが乗っているのか、隼也の右腕が意思にしたがって動くという結果は現れない。

 視線を向ける。そこにいた眠り姫は隼也にとっての運命の女。今の、ポロポロと構成する中身が崩れ落ちていく隼也が、何があっても忘れないと誓い、ついでにその言葉の通りに今はまだ彼女に関する記憶は一つも消え去っていない。

 

「ユーフィー」

 

 呟き、右手に重ねられた少女の手のひらを握る。そっと、起こしてしまわないように。

 その名を口にしたことで、少女との思い出を一つ一つ手繰り寄せるようにして思い出す。

 陽光に照らされた蒼穹の髪は、光を反射して輝いて。

 幻想的すぎるその光景に目を奪われ、隼也はそれ以上の言葉を口にすることができなかった。

 

「……」

 

 何を口にすればいいのか、彼にはわからない。

 この見知らぬ土地でぐっすりと眠っているからには、ユーフォリアの判断する限りでは戦火は届いていないのだということだけはわかるが、だからと言って言葉にする内容が出てくるわけでもない。

 

 故に、沈黙が部屋を満たす。

 

 けれど

 

「ありがとな」

 

 礼だけは言っておかなければ、とその言葉だけが口にされた。

 

 彼女の眠りを妨げるつもりはなく、隼也はそのまま寝顔を見つめ続ける。

 

(バカ剣との契約は……途切れてるか)

 

 少しもの悲しくなりながらも、その思考は止まらない。

 安心しきった表情のユーフォリアに心癒されながらも、アムからの継承によって戦闘者としての気概に侵食されたこともあって隼也の中では戦闘に扱えるものの検索が行われる。

 

(神剣による身体強化は無し。神剣魔法は……使えるか)

 

 ブレながらも、魔法陣は展開することができたことを確認。ユーフォリアを起こさない程度にマナの移動も微弱なものだが、それすらも神剣の補助がない現状では隼也単騎で使うにはギリギリの代物。

 永遠神剣と契約していた頃に比べて、遥かに戦力としては使い物にならなくなってしまった。そのことを自覚して、隼也は奥歯を噛んでしまう。

 

「おにーさん……」

 

 うにゅうにゅ言いながら、ユーフォリアは隼也のことを呼ぶ。もう、直に起床しそうな雰囲気ですらある。

 

「ユーフィー……」

 

 隼也は何をすればいいのかわからない。

 ユーフォリアがいたことで勝利できたことに違いないし、生き残れたのも彼女のおかげ。

 何か礼をしないといけないというのはわかっている。だが、さすがに彼にも己の根幹に関わる部分に彼女を置くのは重すぎやしないだろうかと思うだけの心はあり、そんな状態の自分がすることが重くならない自信もなく、だからこそ何をしてあげるのが正しいのかわからない。

 あとついでに、惚れた腫れたの問題もあって、「キスをした」という事実があってもユーフォリアの性格的に両親にも親愛を示すキスを普通にしていそうなので、そのところをどう取ればいいのかも彼にはわからない。

 彼女に向ける恋愛を彼女は恋愛として返したのか、それとも親愛を示す形で返したのか。知りたいけれど知りたくないという二律背反。

 

 わからないことだらけで、結果としてただ手を握り続けるだけ。

 

「うにゅ……あれ、おにーさん? おはよーございます」

 

「おはよう、ユーフィー」

 

「……あれ? おにーさん? ……おにーさん!? 目を覚ましたんですか!」

 

 腕痛みませんか、大丈夫ですかと隼也の心配ばかりをするユーフォリア。それにああ、ユーフィーだなという感想しか抱けず苦笑する隼也。

 

「ああ、うん、大丈夫大丈夫。……ところで、ここってどこなんだ? イスタを倒して最後に気絶したところまでは覚えてるんだけど……」

 

「あ、はい、今の状況ですよね。ちょっと長くなりますけど……」

 

 ユーフォリアは語り始める、あの時に何があったのかを。

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 

 

 

 枯れた世界の一角にて、ユーフォリアと旅団の五名の戦闘は続いていた。

 

「強い……! 攻撃が、当たらない……!」

 

 スバルが己の持つ弓型永遠神剣「蒼穹」からマナの矢を連射するも、それらは飛行状態の「悠久」に乗って空を駆けるユーフォリアに当たることなく、ただ虚空に消え失せる。

 近接攻撃を仕掛けるために降りてくることはあるが、そのタイミングに攻撃を仕掛けるなんてことができないほどの速度での突撃であるために、結果として一方的な戦いになっていた。

 

「だぁ……降りて来やがれ、テメェ!」

 

 ソルラスカは己の永遠神剣「荒神」が届かない距離にユーフォリアがいるために叫ぶ。

 この距離でまともに当てられる攻撃が存在するのはサレス、スバル、ヤツィータの三名。

 しかし、それもだいたい直線に飛ぶ攻撃なので、空を自由に駆け、その気になれば変態的な機動もお手の物なユーフォリアに当たることはない。

 

「悠久の光よ! この人たちを貫いてっ!」

 

 魔法陣が展開される。マナが収束していく。吐き気を催すほどの濃度が、オリハルコンネームによる制限がかかっているとはいえ、エターナルという今この場に集った面々の中での別格の実力者しての本領を解放する。

 

「甘いわね、出直して来なさい!」

 

 それを見て、けれど神剣魔法であることを見抜いた唯一青属性を扱う神剣使い(タリア)も同様に魔法陣を展開した。

 

「ライトバースト!」

 

「アイスバニッ……何ですって!?」

 

 青属性のバニッシュスキル。けれど、それが通用しない(アンチバニッシュ持ち)魔法であったことから、無残にも凍結粉砕しようとしたタリアの魔法陣が逆に砕かれる。

 タリアの魔法陣を信用して一瞬マナを貯めるのに使っていた面々はその一撃を丸腰のまま受けることになり、サレスがもしもの可能性を考えて張った空気を圧縮してのブロックも、物理攻撃としてではないライトバーストを防ぐことはできずにそのまま通す。

 

「っ……!」

 

 ヤツィータが咄嗟に全体障壁を展開する。けれど、ただの一介の神剣使いが咄嗟に張った程度の障壁ではエターナルの全力を通さないほどのものになどならない。

 直撃を避けた五人ではあるが、それは気休めにもならない事実。一撃一撃の格が違いすぎるがために、存在を揺るがす規模での大ダメージを受けていた。

 

「マナよ、光の息吹となれ。悠久の時を超えて、究極の破壊をもたらせ」

 

 そして、それに頓着することなく、敵であることを理解しているから躊躇うこともなく、ユーフォリアは己の父がよく使っている神剣魔法を解放する。

 顕現するは白の魔法陣。ライトバーストのそれとは比べ物にならないほど複雑怪奇であり、緻密な、もはや芸術とすら呼べそうなまでの一品。

 もはやこの世界を維持するマナよりも多く、集まっているのではないかと錯覚するほどの一撃。これを喰らえば確実に助からないことをこの五人は理解してしまった。

 

「プチ・オーラフォトンノ──」

 

 唱える最中、ユーフォリアの優れたマナ感知能力が少し離れた二箇所での状況の変化を感じとった。

 一箇所は、隼也が言っていた暁という人物のいる場所。大きなマナの変動が発生し、新たな何者かのマナを感じたことで、状況が動いたことを察した。

 一箇所は、隼也のいる戦場。先の箇所に比べれば大きな変化ではないが、それでも隼也のマナ反応が小さくなって、そして直後に莫大なものになったことを感知した。

 

「おにーさん!?」

 

 隼也に何があったのかを理解しえないながらも、マナの反応が小規模になったことを鑑みて死にかけているのではないかと焦り、この五人に関わっている暇はないと魔法陣の展開をやめて、飛行状態の「悠久」に乗ったまま、その地点へと直進する。

 速度は音を超え、ソニックブームを撒き散らしながらも上空であることと生き物が存在しない土地であることが幸いして被害が出ることはなかった。

 

「おにーさん!」

 

 多少は離れているとはいえ、音速を超える今のユーフォリアには数秒程度でたどり着ける距離。そうしてたどり着いた彼女が目撃したのは、隼也の持つ「平衡」が砕け散り、そしてイスタらしき人物──ユーフォリアは一度として会ったことはないので断定できない──を手に持った固形状の神剣魔法で切り裂き、それを持っていた左腕が爆散するところだった。

 

 

 

 

「それで、おにーさんの治療をしないとって急いで拠点のある世界に戻ろうとしたら、何かに引っ張られるような感じでこの世界に落ちたんです。そしたら、あたしの知り合いがそこにいて、その人のところでおにーさんの治療とか色々としてもらって……」

 

「今に至るってわけか」

 

「はい」

 

「なら、その人に礼を言わないと……っと?」

 

「あっ、おにーさん」

 

 立ち上がろうとするも、片腕がない感覚に慣れず重心が定まらない。

 ユーフォリアが咄嗟に支えて、どうにかフラフラした状態から脱却したことで歩くことができるようになる。

 けれどユーフォリアは離れることはなく、隼也も何も言わずされるがままにして、ユーフォリアに案内されながら先に進んでいた。

 

「ここ……?」

 

「はい。おにーさんが目覚めたらここに連れて来なさいって……。 時深さん、おにーさんが目を醒ましました」

 

 隼也が見たこともない(記憶に残していない)様式の扉、ユーフォリアが中に声をかけて、その返事が返って来たことで、引き扉が開かれた。

 その先にいたのは一人の女性。楚々とした雰囲気とピンと張った背筋、確とこちらを見つめながら正座している。

 

(なんだっけあの服……確か、えっと……)

 

 巫女という職種が咄嗟に頭の中には浮かばない。ユーフォリア関係の事以外はほとんど全て薄れてしまっているが、逆にいえばユーフォリアに関連づけて思い出せばどんなことでも多少のリカバーは効果を見込める。

 

(ああ、そうだ。巫女装束……? 巫女服……? なんかそんな感じの)

 

 今回関連づけたのは、かつて『意念』の光を弾いた後の療養期間の事。

 

『そういや、御堂は女の子に着てもらう服ならどれがいいよ? メイド服? 巫女服? ナース服? 』

 

『いや、何言ってるんだお前?』

 

 あの時のユーフォリアのメイド服を思い起こして、そこからコスプレ衣装に戻り、さらにはそこからもう塵程度にしか残っていない学生生活の一幕を想起する。

 

「初めまして、御堂隼也さん。私は倉橋時深といいます。以後、お見知りおきを」

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