聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十六話:デート、デート、初デート……だいたい失敗するよねそれ

「ユ、ユーフィー、その格好……」

 

「は、はい。どう、ですか?」

 

 似合いませんかとしょんぼりとしているユーフォリア。

 けれどその姿は、彼女の想定とは逆に隼也が一瞬息を忘れるほどに可愛らしいものだった。

 隼也が、己が隣にいていいのかと悩むほどに。

 

『ほら、ちゃんと褒めてあげないとダメですよ』

 

(あ、ああ……)

 

 アムの言葉で正気に戻り、もう一度ユーフォリアの姿をじっくりと見る。

 白のオーバーサイズスウェットに黒のミニスカート。スカートと白のソックスが生み出している絶対領域と、俗に萌え袖と呼ばれる状態と化した、ちょこんと外に出ている指先が大変愛らしい。

 普段頭につけていた羽飾りは濃い青のリボンに変わり、ストレートだった髪はツインテールとして結わえている。

 なぜか、時深がいい仕事をしたと言わんばかりの表情でサムズアップしている姿を幻視する。

 そんな、ユーフォリアという少女を着飾る衣装としては隼也の想像をはるかに超えるレベルでまとまっている姿は、覚悟していたにも関わらず隼也の呼吸を再度止めた。

 

「うん……すっごい似合ってる。正直、今のユーフィーと俺なんかがデートしてもいいのか悩むぐらい」

 

「え……えへへ、本当に似合ってますか?」

 

「うん、こんなことで嘘ついたりはしない」

 

 時間は有限とばかりに『出雲』から歩き始める二人。

 この場所は少々特殊な場所に位置しているため、最初から座標を持って『出雲』に入るか、あるいはエーテルジャンプ装置を使うかの二択でしか出入りはできない。

 今回の二人は、後者を使用させてもらえることになっていた。

 

「これがエーテルジャンプ装置?」

 

「らしい、ですけど……」

 

 隼也はもとより、ユーフォリアもどうやら見たことがなかったようで、その装置を見て驚いている。

 思っていた以上の威容に驚いたのか、それとも思っていたよりも小さかったから驚いたのか。

 ユーフォリアならぬ隼也にはその理由はわからない。

 けれど、彼はもっと大掛かりな装置だと思っていたから、せいぜいが五メートル程度の高さの塔のようなそれには驚いた。

 

『まあ、出雲の森の中にあると聞いていましたから、さすがに目に見えない以上はその程度の高さしかなくてもおかしくはないんですけどね』

 

(それはそうだけど……)

 

「でも、どうやって起動するんでしょうか?」

 

「……さあ?」

 

 第一関門。そもそも外に出るための装置の使用法がわからない。

 

 沈黙が場を満たす。こればっかりは使用に際しての説明書も何も存在していないからしょうがない。

 ついでに言うなら、隼也もユーフォリアも、隼也が左腕のない生活に慣れる必要があったためにこれまで一度も外に出ていないので、この場所までやってきたことはなく、誰かが使っている姿を見る機会もなかった。

 だから、使い方を知る由もなく、かといって今から戻って使い方を聞きに行くのもデートの雰囲気が崩れてしまうような気がしてどちらも言い出せない。

 

 悩むこと数分。

 さく、と草を踏みつける音が背後から響いた。

 

「っ……!」

 

 直後、隼也はその人物から神剣の反応を感じて動いた。

 左腕の断面部分に魔法陣を展開しながら、右手をその魔法陣に突っ込む。

 そこから小刀の形状となったオーラフォトンストリームを引き抜いて、一週間程度前のイスタとの戦いまでは平然とできていた神剣魔法による強化を、神剣のサポートがないことで練度は低いながらもマナをかき集めて実行する。

 神剣使いとしては論外、けれどミニオンとはどうにか戦えるレベルの身体能力まで強化された隼也は、その神剣魔法の使用によって負荷がかかって痛む頭を表には出さずに、振り向きざま逆手に持った小刀を突き刺すように投げ放つ。

 

(こんなところにミニオンか……!)

 

 躱す動きを取ったなら、小刀の形に固定しているストリームを固定化を解除してやればそれでいい。

 そんな思いで放った小刀は、ミニオンに向かって飛んで行く。

 アムから継承した知識は、隼也の体を最適な動きへと導いてくれた。

 

「無駄……」

 

 けれどその黒属性のミニオンは、左腕にシールドを展開して飛んできた小刀を受け流す。

 シールドの力が発揮され、その攻撃に使用されたマナの持ち主たる隼也に、わずかながらも黒属性のマナによるダメージが入る。

 マナの固定化というアムの得意分野を継承しているおかげで、傷自体はすぐに集めたマナをその部位に固定して修復した隼也。だが、隼也の中には警戒心が出ていた。

 

(こいつ……普通のミニオンじゃない……?)

 

 今の一撃は、いくら隼也が貧弱になったとはいえミニオンが咄嗟の対応としてできる動きではなかった。

 だからこそ警戒する。

 

「……!?」

 

 ミニオンは神剣を消滅させる。戦闘を行なっている相手に対して取るものとは思えない行動に驚愕を隠せない隼也だが、次のミニオンの言葉でさらに驚くことになる。

 

「時深様から、このエーテルジャンプ装置の作動をするように命じられました」

 

「…………はい?」

 

 このミニオンが、『出雲』において防衛人形(まもりひとがた)と呼ばれる存在……『出雲』産のミニオンであることを知らなかった隼也は間抜けな声を漏らし、そしてそのことを知っていたユーフォリアはニコニコとしたまま。

 

「……すみません」

 

「いえ、別に問題ないです」

 

 そういった事情を聞いて隼也は謝るが、ミニオン……防衛人形は無表情のまま首を振る。

 彼女の指示に従ってエーテルジャンプ装置の操作をして、隼也たちはようやく『出雲』から外界にジャンプした。

 

 

 

 

『ふむ……あの者』

 

 それを、誰かが見ているなんて考えもしないで。

 

 

 

 

「ここって……」

 

「神社、ですよね」

 

「神社……?」

 

 隼也の中にはもう神社という言葉すら残っていない。

 ユーフォリアも特に詳しいわけではないので、説明できない。

 結果として、ただそういう場所があるんだ程度のことですんだ。

 

「それにしても……」

 

 隼也はぐるりと高台にある神社から街の様子を見渡す。

 

「これまでユーフィーと回ってきた世界とは全く違うんだな」

 

「はいっ! 確か、パパの生まれた世界らしいです!」

 

「へえ……」

 

 今日のデートは、隼也が以前ユーフォリアと出会ってから「宝石を持っておいて、それを現地で買い取ってもらう」というやり方を知ったので、時深に頼んでどこぞの質屋にて換金した分のお金で行われる。

 とは言っても、二人とも特別何か欲しがるようなタイプではないのだが。

 きゃっきゃとテンションを上げてユーフィーは隼也の右腕に抱きつき、それを聞いた周囲の人たちは二人に視線を向けて、そしてその視線は二人の状況を見て変化していく。

 

 隼也に向けてロリコンじゃねーかと侮蔑するような視線。

 隼也の左腕がないことに気がついて驚愕の色へと変化した視線。

 仲のいい兄妹を見るような視線。

 ユーフォリアの可愛らしさに見惚れて顔を赤くする男性。

 ユーフォリアの愛らしさに息を荒くしてストーキングを開始しそうな視線。

 

 多種多様ではあるが、最後のそれだけは周囲の人たちに止められたり、隼也がそれを把握してピンポイントに射出した誰の目にも留まらないほど小さなマナの弾丸を額に受けて気絶したり。

 そんなことをしながらも、隼也はするっとユーフォリアに抱きつかれている右腕を引き抜く。

 

「あ……」

 

 思わず漏れた、と言わんばかりの悲しそうな声と視線を受けながら、何事もなかったかのようにユーフォリアを視線から守るようにして抱き寄せる。

 

「あ……えへへ」

 

 するとユーフォリアはいつもの花が咲いたような笑顔を見せて、隼也の手を取ってそこに頬ずりする。

 もはやふにゃふにゃに蕩けているのではないかと思うようなそれを見て、隼也はなんとなく犬か猫を想起したがそれを口にすることはない。

 

(……っ!?)

 

『我と契約せぬか……?』

 

「おにーさん!?」

 

 直後、立ち眩みが隼也を襲う。

 何者かの声が聞こえて、ふらりと倒れそうになったところでユーフォリアが掴んだことで隼也もどうにか踏みとどまるが、頭痛が酷く、ユーフォリアの呼ぶ声に反応することができない。

 

「いや……大丈夫」

 

「本当、ですか……?」

 

 心配そうなユーフォリアを撫でて誤魔化し、そしてユーフォリアもそれが誤魔化しだと気づいていながらも誤魔化そうとしているのだからと戻った後にちゃんと見てもらうことを条件に諦めることにした。

 

「……」

 

 そのせいで、その後のデートは微妙な感じになってしまった。

 時々、隼也を立ち眩みが襲ったことが、やはりそれを助長していたのか。

 大丈夫じゃないですよね、と視線で語るユーフォリアが、隼也には痛かった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 とは言っても、デートはデート。

 元々の予定が存在しなかったとはいえ、二人で話し合ってどこを回るのかということを出発する直前には決めていたのでその最後にたどり着くまではちゃんと二人ともデートとしての体裁を整えていた。

 

「おにーさん、早く帰りましょう」

 

 なので最後に、夕日の見える高台にたどり着いたユーフィーの第一声は隼也のことを心配する一言だった。

 

「……少しぐらいはこの風景楽しもうとは思わない?」

 

「確かに綺麗ですけど……」

 

 それはおにーさんの容体を気にしない理由にはなりません、とぴしゃりと言い放つ。

 隼也は知らないことだが、今の彼女は両親譲りの頑固な一面を見せていた。

 

「とにかく、まずはおにーさんの不調の原因から……」

 

「あ、それに関してはわかってるから問題ない」

 

「……」

 

 無言の圧力が隼也にかかる。

 むすっとしたユーフォリアの視線は「理由を教えろ」と如実に語っており、隼也もそれに逆らうことはなく長い話になるからとそこらへんにあったベンチを指して座ることにした。

 

「それで、どういうことなんですか?」

 

 ベンチに座った隼也の膝の上に座って頭を胸にグリグリと押し付けながらユーフォリアが問いかける。

 取っている行動と視線の温度差が激しすぎるが、隼也は戸惑うこともなく、大したことじゃないけどと言って平然と話を進めることにした。

 

「いや、多分、永遠神剣っぽいのに接触された」

 

「大したことじゃないですか!」

 

 怒られた。

 

「それがおにーさんを乗っ取るつもりだったらどうするつもりだったんですか!」

 

「いや、その場合もアムがどうにかガードするつもりだったみたいだし……」

 

「ぷぅ……」

 

 アムという名前を聞いてユーフォリアはむすっとした。

 そんな彼女にキスをしたりしてご機嫌とりに勤しみながらも、隼也は説明を要求されてそれに応えた。

 

 接触してきた永遠神剣が名乗った永遠神剣第二位「協奏」という名前。

 そして接触してきた意図……契約をしないかと迫ってきたこと。

 

「おにーさんはどうするんですか?」

 

 それらを聞いて、ユーフォリアはむすっとした顔から少し不安そうな顔になって隼也に尋ねる。

 

「うん? 契約するつもりだけど……」

 

 右腕で頭を撫でながら隼也は何事もないかのように言い放つ。

 即答だったがためにユーフォリアは一瞬きょとんとして、意味を理解して喜び、けれど直後三位以上の永遠神剣(上位神剣)と契約する代償を思い出して──

 

「ユーフィーと一緒にいられること以上に大事なことはないからなぁ」

 

「へぅ!?」

 

「なに、その声」

 

「な、なんでもないです……」

 

 ユーフォリアを下ろして、立ち上がる隼也。

 帰るのだと悟ったことで、ユーフォリアも横に並んだ。

 

 戻った時に出会うことになる、見覚えのある(見知らぬ)面々のことを、今はまだ知る由も無い。

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