聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十七話:お前、登場いつ以来だっけ?

 隼也たちが戻ってきて数十分。

 その部屋は、重苦しい沈黙に包まれていた。

 

「……」

 

 その始まりは戻ってきた直後のこと。

 

「あっ……」

 

 ユーフォリアの目の前にいたのは枯れた世界で戦った五人とその愉快な仲間たちっぽい連中。

 旅団と呼ばれる組織と、それに協力している面々と鉢合わせをした。

 

「てめぇは……!」

 

「なんで貴方達がここにいるんですか」

 

 一触即発。

 ユーフォリアも含めて合計六人。神剣を取り出して戦闘態勢に。

 

「ちょっ……ソル! タリアにヤツィータまで! 一体どうし……って御堂くん!? どうしたのその腕!?」

 

 何が起きているのかわからない残りの面々はパニックになり、ついでに斑鳩沙月と世刻望は行方不明になっていた御堂隼也を見つけて喜びに沸き、直後左腕の欠損に気がついて驚く。

 言われた隼也からすればこいつら誰だ、状態だが、その集団の中に絶を見つけてふと『枯れた世界』に最初にたどり着いた時のことを思い出す。

 

『あの日、ミニオンたちが狙ってきた理由だったな』

 

『あいつらは望を狙ってやってきた』

 

 その二つの言葉を思い出してさらにそこを起点にして過去の……未だ物部学園にいた頃のことを思い出す。

 

「死ね、世刻」

 

 思い出したので、とりあえず隼也の中での諸悪の根源ということになっている望に向けて小刀状の神剣魔法が放たれた。

 

「うわっ!?」

 

「ちっ!」

 

 それは、以前の会話から望に向けて殺意を見せるであろうことを把握していた絶が、驚いている望の代わりに舌打ちしながらも『暁天』で弾く。

 それを見た旅団の面々は、神剣を取り出していなかった者も全員神剣を取り出し、そしてユーフォリアもデート時の服装から神剣使いとしての姿に変わる。

 殺害そのものには失敗しても、学園の生徒に殺されかけたという事実そのものは消えることはなく、そんなことになるとは思っていなかった、そんな理由が思いつかない望たちからすれば、横にいる神剣使いの少女(ユーフォリア)が原因だと判断するのは何もおかしなことではなかった。

 

「お前、隼也に何をした!?」

 

「は?」

 

 端的な一言だった。

 そしてこれまで誰も聞いたことがないほど冷たい声だった。

 それは、今この部屋に入ってきた時深さえも。

 

「私が、おにーさんに、何かしたと。貴方は、そう言いたいわけですか? 自分のことを棚に上げて?」

 

「そ、それ以外に考えられないだろ!」

 

 その恐ろしさにどもりながらも、望は言い返す。

 誰もが、言われていないどころか味方であるはずの隼也までもユーフォリアの冷たすぎる声に微妙に怯える中、それはある意味では勇者じみた行動だった。

 

「い、いや望。今回に関してはそのガキは関係ないぞ」

 

 そしてそこで入る絶のフォロー。

 さすが親友と言うべきか、望の命が守られるように、望の勘違いを正すために、絶の言葉は望の心を突き穿つために放たれる。

 

「何言ってるのよ。こいつがか、それとも二人ともかは知らないけど『光をもたらすもの』に所属しているってことでしょ? そうでもなければ世刻を狙う必要なんてないわ」

 

「いや、一つだけあるさ」

 

 タリアの援護もバッサリ両断。

 絶は結局のところ望も被害者だということを理解しながらも、かつての隼也と出会った時の話を思い出して、望が狙われる理由を説いた。

 

「『光をもたらすもの』が狙ってきたことが原因で、分枝世界間の狭間に落とされ、永遠神剣と契約することになったこいつからすれば、『望があの学園に存在したこと』だけで、狙う理由になる。……そりゃ恨むさ。全く関係ないことに巻き込まれた挙句殺されかけて、殺し合いに参加するしか生き残る道はなくて、しまいには今見ただけでわかる通り腕を失ってる。そんな事態に陥ったのは全て、『望が狙われたこと』が原因だ」

 

「でも、それは望くんの意思はないんだから彼に何を言ってもダメでしょう!?」

 

「いいえ、そんなことないですよ」

 

 そこに、望を庇おうとした斑鳩を遮るように、ただ話を聞いていたユーフォリアがぴしゃりと言い放つ。

 

「おにーさんは前に話してましたよ。小さい頃、家族ぐるみでの付き合いがあった頃に、そこの人と、後一人いるっていう幼馴染さんと一緒にピクニックに行って、その人が永遠神剣の力を引き出して野犬を殺したっていうことがあったそうじゃないですか。その時点で、神剣の力は目覚めてたんですよ。……神剣の力に気づいてなくても、まともに考えたら何も持ってないただの子供だった頃に『野犬を素手で絞め殺せる』ってだけで、自分が異常だと、近くにいたら殺しかねないんじゃないかと思わなかったんですか?」

 

「それ、は……」

 

「貴方が少しでもその時に自分のことに恐怖を持っていたなら! おにーさんは腕も無くすことはなくて! 記憶が消えることもなくて! 今も普通の学生生活を送れていたんですよ!」

 

 俯く望に、ユーフォリアは責め立てるようにして言い募る。

 時深が今の荒ぶっているユーフォリアの肩に手を置いて落ち着くようにとジェスチャーで示す。

 それによって少し落ち着いたユーフォリアは失礼しますと言って、隼也を連れて自分たちに割り当てられた部屋へと向かう。

 

「あの、記憶が消えてるってどういう……」

 

 ユーフォリアがいなくなって、物部学園の生徒がそんなことになっているとは思わなかった、狙われた時に学校にいた三人中二人が沈む。

 そんな中、その二人に配慮をしながらも誰かが時深に尋ねる。誰もが気になっていた、腕の欠損という目に見えるそれとは違う、「記憶が消えている」という見た目ではわからない欠損のことを。

 

「今の彼は、個人として過ごした記憶がほとんど消えている状態です」

 

 時深は、ため息を一つ吐いてから話し始める。

 精神的な部分で隼也のことを一番理解しているのはユーフォリアだが、肉体の状態という意味合いでは未来視も含めて情報を得られる時深の方が理解していた。

 

「今の彼の中に、御堂隼也(彼自身)としての記憶で残っているのはユーフォリアと過ごしていた時のことだけです。先ほどの、彼が世刻さんを認識してから攻撃するまでのわずかな間。あれは、『ユーフォリアと出会ってからの暁さんとの会話』を元にして世刻さんのことを思い出したからです」

 

「そん、な……」

 

 その言葉は、望にどう響いたのか。

 少なくとも、思い出しただけで殺しにかかる程度には嫌われていたことに対してショックを受けているのは間違いないようだった。

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

「……ああ」

 

「ちょっとサレス。望くんがまだ……!」

 

「望なら自分でどうにか納得するだろう。……あとは、それまでの時間をどう有効に使うかだ」

 

 それとも、望がそんなこともできないと思っているのかと言われれば沙月は何も言えない。

 ここで望を気にかけて言い募れば、それは望を信頼していないように思えるし、かと言ってそのまま同意すれば望のことを心配していない人でなしになるような気もして。

 そんな心の機微を理解していながら、あとで荒ぶっているユーフォリアの対処もする必要がある、と気が滅入りそうになっている時深は、もう一つ頭痛の種が増えることも理解しているがために悪態の一つはつきたくなったが、それを表に出すことなく尋ねた。

 

「では、話を聞かせていただけますか? 貴方達が理想幹に向かう最中出会ったという、永遠神剣第三位『天造』の担い手であるイスタという男の話を」

 

 

 

 

 時深たちが真面目な話を始めた頃、時深が後でなだめようと思っていたユーフォリアはというと──

 

「おにーさん……えへへ」

 

 もうすでにだいぶ機嫌が直っていた。

 和室に入り、胡座の形で座った隼也の足の上にここが居場所だと言わんばかりにスッポリと収まったユーフォリアは、安いことに撫でられているだけで機嫌が直りかけていたのだ。

 

「ユーフィー」

 

 名前を呼んで、振り向いた彼女に隼也はキスをする。

 甘い、ミルクのような味。

 他の誰かとキスをしたことがないから、これがユーフォリア特有のものかどうかは隼也にはわからない。

 けれど、その答えを知る機会はなくていいと彼は思っていた。

 

「ユーフィー」

 

 もう一度名前を呼ぶ。

 いきなりキスをされた少女は驚きを見せながらも嫌がることはなく。

 今度は自分の方からキスをする。

 

「好きだ」

 

「あたしもおにーさんのことが好きですよ」

 

 隼也の言葉に間髪入れずにユーフォリアは返す。

 二人の間で交わされた視線に乗っていたのは何か。

 それを知る者は二人以外存在しない。

 

 笑む少女にはすでに、こんなキスを隼也がする理由がわかっているようで。

 何も言わずに、ただお互いが望むままにキスを続け、どちらからともなく疲労によって眠りについた。

 

 

 

 

 そして、その日の夜。

 隼也は、一人庭の方に出ていた。

 

「……」

 

 草木も眠る丑三つ時。

 今、この『出雲』には旅団の面々と物部学園の生徒たちも存在するが、そちらも何かしらの疲労があるのか、あるいは元の世界に近い世界に来たことで緊張が緩んだのか、誰も起きている気配はない。

 

「待っててくれてありがとな」

 

 静寂の中、隼也の声が虚空に溶ける。

 何もいない空間、何も存在しないはずの世界。

 そこに、まるで何かがいるように。

 

『気にするな。我も契約をするかもしれない相手の機嫌をわざわざ損ねるような真似はしたくなかったのでな』

 

 そして、虚空から返答が返って来る。

 直後、隼也の正面に神剣が出現する。

 光の球体としか言いようのない存在が。

 

『さて、では答えを聞かせてもらえるか?』

 

「ああ」

 

 手を伸ばす。

 

「俺はお前と契約する」

 

 ひょい、と避けられる。

 

「……いや、なんで避けるんだよ」

 

『我は手に取る永遠神剣ではない』

 

 そのまま、左腕の断面に突っ込んで来る。

 そして、体の中に溶けた。

 

『我は永遠神剣第二位「協奏」。お前の肉体と同化し、その力となる者だ。以後、よろしく頼むぞ我が主よ』

 

 それが、溶ける瞬間、確かに隼也が聞いた「協奏」の言葉だった。

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