隼也が
ちょっとした騒動が発生したのだが、それも終結して、隼也とユーフォリアは防衛人形から時深がいる部屋に来るように言われ、今たどり着いた。
「おはようございます、二人とも」
「おはようございます」
「おはようございます、時深さん!」
朝の挨拶をした三人。
ここにいる誰もが、この場に三人が揃った理由を知っている。
時深の視線の先、それにつられるように隼也もユーフォリアも同じ箇所に、隼也の左腕に視線を向けると、そこには
「それが……?」
「ええ」
互いに言いたいことはわかっている。
ユーフォリアは通じ合ってるような雰囲気を出している二人に面白くなさそうで。
けれどくしゃりと頭を少し乱暴ではあったが撫でられたことで落ち着いた。
「もう一度自己紹介した方が……?」
「ええ、そうですね。エターナルとしての貴方の自己紹介を」
「わかりました」
今も撫で続けていたユーフォリアから一度手を離して、背筋を正す。
契約直後、「協奏」から名乗るようにと言われた名前が存在する。
そんな、エターナルとしての初めての名乗りを、ユーフォリアの前で、ユーフォリアの知人女性に対して行う。
「永遠神剣第二位『協奏』の担い手、エターナル”黄昏にて
(以前よりも物腰が柔らかになっていますね)
ユーフォリアと共にあるということはつまり、倉橋時深の、エターナル”時詠のトキミ”も存在する陣営であるカオス・エターナルに所属することになる。
なので先輩後輩という関係も合わせて、これまで以上に丁寧な対応となった。
そして名乗った名前。
「協奏」曰く、神剣宇宙の
それが、「協奏」の担い手たる隼也に与えられた役割だった。
だからこそ、調和する役割を持つからこそ、相手と自分から敵対するような真似は基本的にはしない。
例外となるのは、ユーフォリアといることを邪魔しようとする連中、そして己が人間だった頃の因縁だけだ。
「あの、時深さん。少し、場所を借りることはできませんか?」
そんな名乗りが終わった直後、ユーフォリアの言葉が時深に向けられる。
「それぐらいなら別にいいですが……」
なぜ、と問いかける瞳がユーフォリアに向けられた。
「おにーさんの神剣はこれまでと違いますし、少し慣れてからじゃないと実戦は厳しいんじゃないかなって」
左腕となっている永遠神剣を見つめてユーフォリアは言う。
言うまでもないことだが、隼也の武器は元は大剣。
ユーフォリアの父親である聖賢者ユウトは契約した永遠神剣「聖賢」の力と、元々持っていた永遠神剣と「聖賢」が「大剣型」という一点で共通していたために、最初からある程度戦えていたが隼也にはそんなものはない。
「協奏」の能力の関係もあるのでアムから受け継いだ知識も一部扱うことはできるが、そもそも「左腕を武器として扱う知識」は持っていないし、「その知識を有効活用できるようにする」ことと「知識を引き出してくる」ということにかかる時間が戦場では生死を分けることになる。
なので、隼也単体で扱える戦い方を身につけておく必要がある、と。
「そうですね。……ですが、今は旅団の方達がナルカナ様の試練を受けているので、出雲の奥に通じる修行場を使うのは無理です」
後で行うとしましょう、と言われると納得するしかないが、それでも「隼也を辛い目に合わせた諸悪の根源が優遇されている」ようでちょっとむくれているユーフォリア。
順番というものがあることは理解していながらも、なんとなく納得がいかない姿に、良い子という印象が強かった時深は珍しいものを見たというように目を丸くしていた。
「旅団って昨日の?」
「ええ。仲間が攫われたらしいのですが、敵の本拠地に向かっている最中にエターナルに妨害されたらしく、進むにせよ戻るにせよデメリットがどうしようもなく存在する状況だったそうで。そのタイミングでナルカナ様が引っ張った結果、今彼らはこの世界に来ているんです」
そしてもう一つ。
「そのエターナルが、貴方達が戦ったというイスタという神剣使い、だそうです」
それは、大きな情報だった。
「まさか、あれで死んでなかったなんてなぁ……」
「あたしも、ちゃんと見ておけばよかったです」
時深から伝えられた情報に、少々のショックを受けながら歩く二人。
その脳内では、時深から伝えられた「イスタがエターナルになった経緯」というものがぐるぐると渦巻いていた。
死に体のイスタを永遠神剣が操り、砕けマナの塵に還ろうとしていた平衡を吸収することで第三位「天造」へと回帰したこと。
さらに、あの時に吐き散らされたマナを吸収することでイスタ自身の肉体も補填して強制的に蘇生させたこと。
結果として、エターナル”天造のイスタ”が完成したこと。
「いや、ユーフィーは俺が死にかけてたからそのまま連れて来てくれたわけだろ? だったら恨み言は言うわけない」
そんな言葉を口にしながら、ユーフォリアの頭を感覚が存在する右手で撫でる。
微妙に沈んでいたユーフォリアもふきゅ、と声を漏らして撫でられるのを楽しんでいた。
「あっ……」
「御堂……」
そんな時に、目の前に見知らぬ人間がいることを見つけた。
「誰だ、お前ら」
森信助と阿川美里。
隼也が特に親しかったわけではないクラスメイトだが、クラスメイトであるがゆえに生きていると聞いて喜び、そして心配して、隼也が記憶と左腕を失ったことを聞いてショックを受けていた生徒筆頭でもある。
自分たちは本当に運が良かっただけなんだと、同じ立場にいたはずの隼也が通って来た道を聞いて実感したから。
だから、彼ら彼女らはわずかに声かけに躊躇して、そして声をかけた後の返答に対して「本当に記憶が残っていないんだ」と実感した。
「その腕……左腕、なくなったって聞いたんだけど」
話のとっかかりが見つからない。
彼らのことを思い出せるだけの何かが存在しないと、旧交を暖めるなんてこともできない。
だから、彼らが持ち出した内容は今の隼也でも知っている、むしろ彼以上に知っている人物はいないであろう左腕のことだった。
「なんでそんなことを見知らぬお前らに話さないといけないんだ」
「っ……!」
今の隼也にとってこの二人は、「昨日ユーフィーが敵意を向けて、ユーフィーに敵意を向けていた集団の連れ」という認識。
つまり、元々同じ高校だったという認識はなく、さらには世刻望に対して向けた殺意の理由も、思い出しにユーフォリアが関わっていないがためにすぐに忘れてしまっていた。
理由は覚えていなくとも殺意を向けたということはそいつの仲間であるこいつらも敵で、ならばこれの存在を教えるわけにはいかないだろう、という思考が隼也の中では働いていた。
どうせ後で知られるとしても、これが神剣か、あるいはただの義腕かまでは実際に目にしないとわからないだろうから、と。
「ほら、行こうユーフィー」
「はーい」
「見知らぬ人間」扱いされて、無関心な瞳を向けられたことで本当に記憶を失っていることを実感した二人を通り過ぎて、ユーフォリアとともに部屋に戻っていく隼也。
それを呆然と見送る二人は、しばらくの間そこから動くことはなかった。
「それでは二人とも、よろしく頼む」
翌日、なぜか隼也とユーフォリアは物部学園を運ぶ神獣、ものベーの中にいた。
「言われたぶんのことはするさ」
ユーフォリアは、かつて戦った五人のうちソルと呼ばれていた男性と睨み合い、隼也は旅団のリーダーであるサレスと会話していた。
こうなったのは時深の一言。
「『天造』の担い手がどういう意図で邪魔をしたのかはわかりませんが、これは貴方達の不始末なのですから、貴方達がどうにかしなさい」
という真っ当なそれ。
そのために、隼也とユーフォリアは『”天造のイスタ”が出てきた場合、そいつと戦う』ためだけにものベーに共に乗ることになった。
理想幹神がどうの、という話をされたがそれはこの二人には関係ない。
むしろ
「というか、なんでお前らは神剣使い以外も連れて来たんだ? どう考えても狙われるだけなんだから置いていけばよかっただろうに」
今現在仲間が攫われているから助けに行く、という話であるはずなのに人質として有効に過ぎる、攫われやすい一般人も連れて行こうというところに、当人達にそんなつもりがあるかどうかは関係なく、楽観視しすぎているのか、あるいは隼也たちが守ってやるとでも勘違いしているのではないかと、そう言いたくなるような話だった。
一度仲間が攫われているのだから、攫われないように手を尽くすべきだろう、と。
「一応言っておくが、狙われても知ったこっちゃないぞ。連れて行くことを選んだのはお前らで、この学園に残ると決めたのはあいつらだ。巻き込まれたならともかく、巻き込まれに来た連中の身の安全を保障するつもりはない」
行くぞユーフィーと言って、ソルラスカとにらみ合っていたユーフォリアを連れて行く。
すでに仮眠室の場所は教えてもらっているために、二人は特に誰かに場所を聞くことなく出て行った。
部屋には微妙に重苦しい雰囲気が残ったままだった。
話を聞き流していたナルカナはあくびをした。
「おにーさん」
「ん? どうした、ユーフィー」
歩く最中、すでに全校生徒に通達されていたのかどことなく痛ましいものを見るような視線を向けられたが、二人はそんなことを気にはしない。
あとついでに向けられたロリコンを見るような視線にはマナ弾を額に直撃させて強制的に黙らせた。
「あとで剣道場に行きましょう。多分、そこが一番訓練しても問題ない場所だと思います」