聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第十九話:やることないと暇でいいねー

「ゆーくん、力を貸してっ!」

 

 ユーフィーが突っ込んでくる。

 「悠久」から生えた光の長剣が、()を切り裂こうと迫ってくる。

 

「プチニティーリムーバー!」

 

 彼女が以前説明してくれた、母親から受け継いだという技は、まともに受けたら世界の外に追放されそうな威容を持っていて。

 『人間』御堂隼也も、『神剣使い』「平衡」のシュンヤも、その一撃を防ぐ手段を持っていない。

 エターナルとしての彼女が、普段の訓練でどれだけ手加減していたのか。

 それが、長剣を構成するマナの量を感じただけで今の俺にはわかった。

 

「斬り穿つ」

 

 マナを左腕に集める。この技はアムからもらった知識の中で最初の接続時に解放したものの中に存在した技。

 俺の体を乗っ取ったりできるようになったアムのおかげで、彼女から継承した知識によって常から発生している情報の激流はある程度堰き止められ、すでに解放してある分……大剣を使用した剣術に関してだけは必要な時に必要なものを彼女が持ってきてくれる。

 

「オーラフォトンブレード!」

 

 左腕に顕現したのは極太の光の刃。手刀から延びた光の刃は、その左腕に纏ったマナの燐光をより鮮明に、より荒々しく纏め上げたもの。目の前の敵を食い破り、そのマナを喰らい尽くすと攻撃性に満ち満ちたマナは叫んでおり、そんな獣性を解き放つかのようにして正面からプチニティーリムーバーに叩きつけた。

 火花を散らせながらぶつかり合った刃は、その刃を構成するマナすらも互いの刃に食い込み、相手の存在を食い散らすようにずぶずぶと嵌まっていく。

 

「裂き斬る」

 

 それを見た俺は右腕にもマナを集める。マナの操作に関しては永遠神剣を失ってからも神剣魔法を扱うために行っていた。そのために流れるようにマナの移動、凝縮、形成を行えた。

 

「オーラフォトンクロー……!」

 

 そして、それら三工程を為した後に俺の右腕を覆っていたのは、鉤爪だった。右腕が振るわれると同時に、左腕に展開されていたブレードが掻き消えていく。鉤爪が、「悠久」から延びる意思の刃を絡め取ろうと混じり合っていく中で

 

「え……っ!?」

 

 一歩遅れてその狙いに気がついたユーフィーが強引にマナの刃を消去(キャンセル)して、結果として俺の狙いも彼女の一撃も、どちらも空振りに終わる。

 

 ぬかった、と心の中で吐き捨てる。ユーフィーとの戦闘となると長時間のものになればなるほど地力の差が出てくる。だから、今はまだ「協奏」と契約してからわずかな時しか過ごしていない……まだこの武器に慣れていない俺からすれば短期決戦で決める必要があって、そしてその作戦がユーフィーの武器を取り上げてしまうことだったのだが。

 

 それは失敗した。ならば次の作戦だ。そんなものないけど。

 

 いや、その気になればアムから継承した知識を組み立てることで彼女を倒す作戦をいくつか立てられるのだろうけど、俺にはそれらを咄嗟に組み合わせるだけの経験が不足している。あれだ、数学の文章問題で、必要になる計算式は全部わかっているが、それらをどう使えば解けるのかを想像できていないから解けない、みたいなやつだ。

 更に言えば、今の俺は自分が扱える知識の総量を知らない。どんな知識が眠っているのかは開いてみないとわからないのだ。不確かすぎて、戦闘中にいきなり解放して探し当てる確率を狙うのなんて無理無茶無謀の三拍子揃っているとしか言いようがない。

 

 ユーフィーが一度距離を取ろうとして後ろに跳ぶ。

 こちらも、一度右手の鉤爪を解除して後ろに下がる。

 

「装填、解放……!」

 

 彼女の周囲に魔法陣を展開し、オーラフォトンクルセイドを五つユーフィーの動きを封じる形で解き放つ。

 十字架は確かに逃げ道を塞ぎユーフィーの出る道を絞ったが、逆にそれは罠だと分かり易すぎて、彼女がその罠を食い破ってでも前に進むと瞳に決意の色を乗せるまでの時間が短縮されるだけに終わる。

 

「アムっ!」

 

 突っ込んできたユーフィーを瞳に捉えながら、左手を前に突き出す。そうして叫んだ名前から了承の言葉が返ってきて、自らの脳内にアムが知る限りの()の術理が強制的に流し込まれた。

 迸る頭痛に、けれど以前の大量の情報に比べればマシだと強引にねじ伏せて、突き出した左腕にマナを集める。神剣で構成されていた手が変貌していく。まるで、左手で弓を握っているような形、あるいは左手と弓が融合したような形にも見える。その形成が終わったと同時に、己の左腕部分から重たい何かが人間の部分に流れ込んできたように思ったが、それはすでに知っていたことなので気にしない。

 

「形成……『蒼穹』っ! 擬弓よ、突き穿て!」

 

 弓をひくような動作を行う。実際には習ったことはないからただの見よう見まねだが、矢が存在しない弓からはそれだけで、大量のマナ矢が出現、掃射され、ユーフィーが唯一出られるであろう出入口へと殺到する。けれどそれを確認したユーフィーは、出入口を形成していたクルセイドに「悠久」から展開した光の刃の腹部分を押し当てて動かし、迫り来る矢に対する盾にした。

 

「氷晶の青、輝閃の白、その完全なる調律よ!」

 

 そして、十字架を動かしたことで新たにできた隙間から脱出。それと同時に、その十字架を展開していた魔法陣が砕かれたことで十字架の即席盾が消え去るも、すでにその時点でユーフィーはその場所にはいない。

 

「形成、『悠きゅ──」

 

 弓と化していた左腕を変貌させる。先ほどよりもさらに重たい何かが流れ込んできて、理解していたにも関わらず、一瞬動きが止まった。

 そして、それだけの時間があれば彼女には十分だったらしい。すでに眼前に迫ったユーフィーに対処する手段は俺には存在しない。諦めて、その刃を受け入れることにするのだった。

 

「パーフェクトハーモニック!」

 

 ユーフォリアの剣の閃きを最後に、俺の意識は落ち──

 

 

 

 

「それで、おにーさんの腕が変化したのって、やっぱり永遠神剣の力なんですか?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 目を覚ましたのは戦闘訓練を行っていた剣道場の中。今は、ユーフィーを膝の上に乗せている。この時間樹の中を巡る最中に幾度か聞いて、そして『出雲』でついに理屈を知った『聖なる神名(オリハルコンネーム)』というもの。世刻たちのようにそんなものを持っていない俺たちからすれば、体を鈍らせない、戦闘時の咄嗟の判断を鈍らせない、などの様々な観点から見て戦闘訓練を行うことは必須。あいつらのように『前世の力を引き出せばそれで終了、お疲れ様でした』とはならないのだ。

 特に、俺に関しては未だ若輩の、成り立てのエターナルであり、今までとはまるで勝手が違う「協奏」を用いての戦闘に慣れるために、自らよりも強者であるユーフィーと戦って自分だけの戦い方を形成するのは重要なことだ。

 

 そしてそれには、永遠神剣の固有の能力も使いこなす必要がある。

 

「『協奏』は、神剣宇宙の末世で起きるであろう争乱を納め、調和するための力だ。だからこそ、全ての永遠神剣の力を抑えるために、その対となる力を発生させられるし、その気になれば『相手の反対の力を持つ永遠神剣をその場で一時的に作り出す』なんてことも可能だ。……俺はそこまでシンクロできないから、使える力には制限があるけどな」

 

「制限があってもすごいと思うんですけど……」

 

「いや、もう少し慣れれば色々とできるんだろうけど、今は相手の武器を見ただけだとその外観をまねることしかできない。『俺が』相手の能力を自分で理解しないと相手の能力の対になるものを使えないんだよ。さらに言えば、そうして得た力も、相手と同じレベルで、相手の力を封殺できるようにするには一朝一夕には無理だから、二回目以降の戦いじゃないと使い物にはならないんだよ、形成した永遠神剣」

 

 一応、武器として扱うだけであればアムから継承した知識、今はまだ継承されていない知識という禁じ手があるので不可能ではないだろうが、それではこの永遠神剣の真髄を使いこなせているとは言えない。

 そもそも争いを納めるための力なのだから、そこに至るまでの過程で自分が他者との友情を築いて、その末世で戦いが始まった時に、始まる前に終わらせてしまうのが正しい使い方なのだろうけど。

 

「一応、今は時深さんの永遠神剣の力を教わったおかげで、時間関係のことなら多少はどうにかできるぞ?」

 

 ……文字通り、その能力によってボッコボコにされて教わったおかげで。時間を消しとばすタイムリープとそれの裏技で自分に都合のいい時間を差し込む技だったり、タイムアクセラレイトとそれの裏で自分の時間を遅くする、エターナルとしてはどこに使い道があるのかよくわからない技だったり。

 

 実際今も、「休憩時間」を差し込むことで二人の体力を回復させていたり。

 

「むー」

 

「どうした?」

 

 なんだかむくれている。

 

『多分……』

 

 理由がわからないまま頭を押し付けられて、そんなユーフィーを撫でていたところアムが口を挟んできた。そこで伝えられた内容は思ってもみなかったことだが、一応俺よりは乙女心に詳しいはずのアムなので、その言葉を信じてみることにしよう。

 

「『悠久』の能力はよくわからないからなぁ。形だけ真似ることしかできないし。……『悠久』の能力教えてくれない?」

 

「あう……私もわかんないです」

 

 しょんぼりするユーフィーに、アムの言葉を疑っていたわけではなかったが、当たっていたことに多少の驚きを覚えた。

 

 まさか、自分よりも先に時深の能力を覚えたことに嫉妬していたなんて。

 

「……でも、おにーさんがわかってくれるなんて思いもよりませんでした」

 

 そんなことを思っていると、ユーフィーがそんなことを言い出した。

 俺が気づいたわけではなくて、アムが気づいたのを俺が口にしただけなのだが、乙女心に疎い俺でもこれを言ったら怒らせることぐらいはわかっている。なのでそのことについては口を噤む。

 

「あー、うん、好きな女の子のことぐらいはね」

 

『嘘つき。自分じゃわからなかったじゃないですか』

 

 うるさい黙れ。お前は俺の前世なんだから実質俺。だから俺が理解したようなもの。おっけー?

 

『はあ……女心に疎い来世を持つと大変ですね』

 

 脳内でため息をついているアムを無視して、お互いにある程度疲労が取れてきたことを確認し終えたところで立ち上がる。

 

「それじゃ、もう一戦頼んでいいかユーフィー?」

 

「はい、別にいいですよ」

 

 ただその前に、というユーフィーがこちらを向いて──

 

「ん……」

 

「……!」

 

 いきなりのキス。ちょっと驚いたが、よくよく考えたらいつもの『ご褒美』だということには思い至った。

 ただ、こんなことを要求してくることが今までなかったから驚きは収まらなかったが。

 

「えへへ。模擬戦であたしが勝ったらってやつです」

 

 ふにゃりと笑うユーフィーを一撫でして、そして真剣な表情になってまたぶつかり合うのだった。




二人がイチャイチャする中、原作組は理想幹に突入中。七章の前に八章が来て、結果として七章に入った直後のメンバー+ナルカナで突入する理想幹
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