聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

21 / 31
第二十一話:まったりまったり

 世刻たちの集団は、どうやら連れ去られていた永峰という神剣使いを救出することに成功したらしい。戻ってきた時には一人増えていた。どうやら俺とも知り合いらしいが、世刻たちから話は聞いていたのかよそよそしい。そちらの方が、無理矢理に関わってくる一般人よりもマシなので問題はないが。

 

「ごろごろー」

 

 ユーフィーがそんなことを言いながら仮眠室のベッドの上で転がっているのが見える。可愛らしいことは間違いないが、さすがに小一時間あのままというのもどうかと思う。そろそろ声をかけた方がいいだろうか。……体を鈍らせないため、戦い方の模索をしているために剣道場を使う時間もそろそろ近づいてきている。そんなことを始めとしていくつものやめさせる理由はある。

 

 ただ、それらを差し置いて、スカートを履いているのに入り口側に足を向けてごろごろしているのはどうかと思うだけだ。

 

 なので、そんな可愛らしい姿をやめさせるのは心苦しかったが声をかけることにした。

 

「ユーフィー。さすがにそろそろごろごろするのやめよっか」

 

「えー」

 

 一緒に寝ましょうよーと言うユーフィーに時間を確認しようなと返すと、彼女が枕を抱いた姿勢のまま壁に備え付けられた時計を見る。仕方ないとため息をついて起き上がり、俺の膝の上に座る彼女の姿は学園の制服姿。『私服だと敵が入り込んでいた場合に誰が誰だかわからなくなる可能性がある』と言う理由で、学内では戦闘にならない限りは制服の着用が義務付けられているらしく、俺たちも制服を着ている。

 

「ん?」

 

 俺も立ち上がるためにどかそうとしたところで、部屋の外に神剣反応が存在することに気がついた。少なくとも、一度も感じたことのない神剣反応だが、旅団の面々に阿呆面……というか考えるのが苦手そうなやつはいたが、さすがに内部に侵入されて気づかないほどのバカしかいないわけはないだろうからきっと旅団の誰かなのだろう。全員の神剣反応を覚えているわけではないのであれだが。

 

 一応、神剣にマナを込める。本当に一応だ。この旅団の神剣使いは全員一度は見たことがあるので、一度も見たことのない相手なら、それは敵だろうから殺さないといけない。ユーフィーも、少しばかり気を引き締めているのが見える。代償を支払う覚悟を決めて、神剣の変化の用意すらした。技だけならともかく、見た目を似せる、あるいは対となる能力を持った神剣を作成するとなると俺のシンクロ率では厳しいものがある。けどしないといけない。だから代償を支払う。たったそれだけのこと。

 

 そこまで決意を固めたところで、ノックが響く。

 

「えっと、入ってもいい?」

 

 聞いたことのある声だ。……確か、攫われていたという永峰だったか。別に断る理由もないので入れると、まず俺たちの様子を見て目を丸くする。そんなにおかしなものだろうか。ただユーフィーを膝の上に乗せているだけなのだが。

 

「な、なんでユーフォリアちゃんを乗せてるの?」

 

 まさか二人いる幼馴染の片方がロリコンだったなんてとか言い出す永峰。俺はロリコンではない。ただ惚れた相手が少女(ユーフィー)だっただけで、更に言えばユーフィーはエターナルなのに自力で成長しているから、最終的には見た目的には変わらなくなるはずだ。

 

「幼馴染……?」

 

「うん、そうだよ? ……あ、そっか。記憶ないんだっけ。忘れたかもしれないけど私と、望ちゃんと、しゅんちゃんで三人幼馴染」

 

「しゅんちゃん」

 

「しゅんちゃん」

 

 幼馴染ということとか、関係性よりもまずは何よりもその謎の呼び方だ。見ろ、ユーフィーもぽかんとしているじゃないか。二人で瞬きしながら「それって誰?」「誰のことだろ?」とアイコンタクトしているのが見えてるだろ? だったらちゃんと説明しろ。

 

「……とりあえず、その妙な呼び方はやめろ」

 

 そっちがその呼び方をするつもりなら『野犬殺し(ピクニック)に参加していた(であろう)ガキ』と呼び続ける用意がある。というかマジでやめろ。ユーフィーが「しゅんちゃん」呼ばわりされている事実に対してむくれて神剣を取り出しはじめてるし。俺はそんな、ユーフィーの本気の怒りに巻き込まれたくはないので、やるなら勝手にやっててほしい。

 

 とりあえず宥めるために撫でていたが、ムスーっとした顔は元には戻らずにキスをねだられたので、最終的には永峰もその気配に圧倒されたのか、あるいは考えたくないことだが昨日の女子どものようにキャーキャー言い出すためか、どこか慌てた様子で戻って行った。

 

 十分後。

 

「おいおい御堂! ユーフォリアちゃんとキスしたって本当かよ!?」

 

 ……永峰ぇっ!!

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「あー、やっぱ『出雲』の方が気楽になれるわ」

 

 閉塞感のあるものべーの旅も終了し、出雲の土地に降り立つ。ものベーの主導権はもともと永峰が握っていたらしく、世刻が永峰を連れて戻ってきた影響で微妙に快適度合いは上がっていた。そんなこともあって行きよりも帰りの方がマシな旅路ではあったのだが。ただ、まあそれのせいで面倒も増えた。

 

『校舎内での不純異性交遊は禁止です』

 

 そんな校内放送によってキスしたり、諸々の行動をしようとする度に邪魔が入ったので一体何度殺害しようと思ったことか、

 

 世刻を。

 

 生徒たちが戦闘に巻き込まれて死ぬのは、彼らも想定してその上で乗っているのだから問題ないが、さすがに私怨で永峰をぶち殺した結果ものベーが消失して生徒たちが各世界に放流される原因になるのは、「自分が人とは違うとわかっていながら学校にいたせいで何も関係ない連中を巻き込んだ」世刻と同レベルの畜生になるような気がしたのでやらない。

 代わりに誰かをぶち殺そうかと思ったら、今のところ生徒会長として生徒をまとめる役割のある斑鳩や、保健室にいるヤツィータなどの重要な役割がある人物を抜いて行った結果、破壊神(疫病神)ジルオルとやらを前世に持つらしい、諸々の巻き込まれの元凶である世刻をぶち殺すのが一番いいのではないかという結論に至った。……ついでに永峰の好きな人物でもあるし、嫌がらせにはなるだろう。

 

 ただ、まあ。さすがに任務として、こいつらをイスタが狙ってきた時に倒さないといけない以上は、俺たちが自分の手でこの集団を終わらせて戦闘を起こらないようにする、なんて手段は許されないだろうし。そうなると連鎖的に、世刻を中心としている集団を瓦解させ、完全な戦闘状態に持ち込む世刻殺害もアウトなのだろう。

 

 というかぶっちゃけた話。永峰の……旅団内部で決められたという『学内での不純異性交遊は禁止』というあれは、聞いた話では『ものベー内部で恋愛が起きた場合、二人が別れて気まずくなる可能性』があるとのことと、『そうなっても必ず顔をあわせる必要があるのが今のものベーで、そしてそれが原因で空気が悪くなるとそれこそ治安維持に大変』という理由で作られたらしい。

 

 それ、すぐに離脱する俺たちには関係なくね……?

 

「お疲れ様です、みなさん」

 

 そんなことを考えながら『出雲』の入り口までやってくると時深さんの姉であり、この『出雲』の長でもある倉橋環さんが出迎えにきてくれていた。穏やかな笑みを浮かべている彼女とサレスの話に曰く、元々の世界に戻るための座標割り出しにはあと数日かかるらしい。

 理想幹には全ての世界の絶対座標が存在するとかいう話を聞いた覚えがあったので、そこで座標を得て来てそのまま直行便で買えるのではないのかと訝しげな瞳を向けた俺だが。

 

「ナル化マナが存在したせいで、そんなことを確かめてる時間がなかったのよ」

 

 そのナル化マナとやらにブチギレているナルカナによって、理由は説明される。そもそもナル化マナとはなんぞやという疑問は存在するままだが。

 

「そして、『出雲』の方でもすでに座標を手にしているものだと考えていたために、私たちのいた『魔法の世界』の座標を始めとして『剣の世界』『精霊の世界』『元々の世界』……つまりは出身世界の座標はどれもわかっていない」

 

 そしてその説明をサレスが引き継いだ。

 

 うん。まあこいつらがいつ消えるかとかは別にどうでもいいことだけれど。……ああ、それでも、よくよく考えれば一つだけ好都合なことがある。そう思った途端、戦意が溢れたのか、途端に顔を強張らせる旅団の面々。さすがにいきなりすぎただろうか。いや、別に問題ないな。最初に会った時にもちゃんと言ったはずだし。

 

「なら、世刻。死んでくれ」

 

「えっ、はっ、なん、で……?」

 

 なんで? バカなことを言う。俺がこんな事態に巻き込まれたのはお前のせいだ、ということはすでにユーフィーから聞いているだろうに。そして、そうではなくて。そのお礼参りというのでは納得がいかないというのなら、お前の流儀に合わせて言ってやる。

 

「『俺は皆を守るんだ』だっけか? それとも『皆揃って元の世界に帰るんだ』だっけか? まあそんなことがお前らの行動指針なんだろ?」

 

 頷く世刻。けれど顔にはまだ理解できませんという言葉がありありと溢れている。だから、ちゃんと説明してやらないと、納得して殺されてくれないだろう。

 

「皆で元の世界に帰るために、皆を守るための力を必要とする。ああ、別にいいさ、何も間違っちゃいない。……言ったのが、諸悪の根源(お前)でなければな」

 

 そもそも、『元の世界に帰る』の前に、『元の世界から追い出される要因』となったのは、暁が言っていた通り『世刻がその学園にいた』からだ。けれどこれまでは『元々の世界に帰るには神剣使いが必要であり、その途中で立ち寄った世界でも戦闘が起きた時に神剣使いが必要』という、生きているに値する理由があった。

 

 だが、もうすぐ帰れるということは

 

「お前の存在はすでに必要ないどころか、ただの害悪にしかならないんだよ。お前だって知ってるだろ? 今回の旅は自分の力が狙われたことが始まりなんだって」

 

 これから先、世刻が普通の人間として生きていこうとしても、破壊神の力を狙ってきた連中によって全く関係ない、今回で言うところの学園の生徒たちのような被害者も出るかもしれない。それは、たとえどんな世界であっても。

 

 だから

 

「永峰のように神剣に関わらずとも一生を過ごせたかもしれない相手を戦場に連れ込んだこと。学園の生徒みたいな本当に関係のない一般人も巻き込んだこと。それに対して悪いと思うなら、少なくとも『今回の旅が始まることになった原因』は、二度とこんなことにならないように死んでおくべきだろ」

 

 まあ、色々と理由をつけてはいるが、要するに。

 

「俺は、すでに(被害者)を出しているくせに、これからものうのうと生きていこうとしているお前が許せない。だから死ね」

 

 被害者がいることを理解していて、しかも目の前にそれがいるっていうのに謝罪すらなしで(したところで『そうか、なら死ね』と殺すだけだが)、自分に未来があると思っているこいつがムカつくから殺すだけの話だ。




七章が存在しないまま八章、九章(ただし希美を元に戻すのにサレスが離脱して合流してという一幕はあったのでちょい長い)と進んだことで、微妙にマナ・ゴーレムが襲いかかってくるまでに少し日数が存在する模様。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。