聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

22 / 31
第二十二話:ガンホーガンホー

 望への殺意を漲らせた翌日。

 二人は、あの後に発生した環のとりなしによって三日後に戦うことになった。

 自分をこんな目に合わせた望を殺したい隼也と、それを理解していても生きていたいと叫んだ望。

 これはお互いの意地でもあるので、一対一の戦いとして行われることになったのだ。

 

 隼也は時深に怒られることにはなったが、それでも最終的にはため息をつかれながらも

 

「一度言ってしまったからには仕方ありません。……いいですか? 自分から口にした以上は絶対に負けることは許しませんよ?」

 

 と怖い笑顔での脅しを受けていた。

 なので、今日も今日とて確実に望を殺すためにユーフォリアとともに『出雲』の一角で戦闘訓練を行なっていた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 戦いの場は、何も遮蔽物が存在しない広場だとすでに聞いている。だから、今回の特訓は『出雲』の中でも遮蔽物が存在しないところを選んでいるが、けれど俺たちの戦い方を確認できないように結界は貼られているらしい。本番になって初めて、俺たちはお互いの戦い方を知る。その時にはすでに誰にも邪魔できない、邪魔させないということも時深さんたちが確約してくれた。……ただ、俺たちの求める決着が違う影響で、望の勝利条件は『俺を殺す』『俺のマナ切れまで粘る』の二つのうちどちらかを達成できればそれで済む話となり、俺は『望を殺す』以外では敗北となる。

 

 そんな、当たり前の話を思い出して、俺は今日も防衛人形と剣を交える。

 

 右手に持ったマナで構成された光の長剣が防衛人形の持つ、名も無き永遠神剣と打ち合う。持っているのがただの右腕だとしても、その長剣はオーラフォトンの輝きを放ち、剣に固定化された状態で消費されるだけではなく、オーラフォトンノヴァとしての解放をも待ち望んでいるように見えた。「協奏」は完全な白属性。赤属性などを組み合わせて使うのは厳しいが、ギリギリ、技としての形は整えられる程度のものならば頑張ればどうにか使える。

 

 だが、今となってはそんなものは必要ではない。

 

 赤属性のマナを集中させて爆炎を起こすことは叶わずとも、武器に込めたオーラフォトンを起爆させることで爆炎を発生させることは可能だ。緑属性のマナが使えなくても、マナはそもそもが万物の素。込め方次第では十分に治療が可能だ。青属性のマナが使えなくても、相手の神剣魔法をより強い一撃で叩き潰してしまえばいいだけのこと。黒属性に至っては、そもそもエターナルと神剣使いという違いだけで嫌がらせとしては十分にすぎる。敵に対してのインパクトを地面から与えたりするそれらは、ただただ存在の差を見せれば事足りるものだった。そのため、これから先の永遠においてはともかく、今この訓練の時だけはオーラフォトンの扱いと、武器としての「協奏」の扱いに慣れればいいだけの話だった。

 

 左腕を突き出す。左腕が神剣となっている現状では、マナを込めて突き出すだけでもスピードが乗っていれば即席の槍と化す。心臓を抉り取るような一撃を前に、それを受けるミニオンとはまた別の、後ろにて構えていたミニオンから火属性の神剣魔法が前衛ごと焼き殺す勢いで放たれたことで、一度バックステップ。下手な傷を残して世刻を殺す時の邪魔になったりしたら困る。

 

「……これじゃダメだな」

 

 ユーフィーが俺の訓練を見ている少し離れたところにまでは届かない程度の大きさで言う。武器を扱う技術はアムから受け継いだ。けれどそれだけだ。全ての動きの『繋ぎ』が、未だに俺は凡庸以下。一つ一つの技は使えるのにも関わらず、それらを流麗とすら言える動きで繋いでいくことができない。まるでゲームか何かのように、一度技を使ったらそこで動きが雑なまでに停止して、そして次の技に移行。弱点がモロバレだった。

 

 原因はわかっている。エターナルになったことだ。昔であれば。「平衡」を握っていた頃であれば。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてことはなかったのに。基礎能力の短期間の異常なまでの上昇が、自分の力を殺している。

 

 実際、この時間樹のルールで存在する『前世』、つまりは神として生きた記憶を持っている存在は、その神の力を引き出す形で、前世の自分に近く……一般人だった己から神としての己へと戦の最中のみ回帰しているらしい。つまり、前世になるか、前世から力を引き出すか。その違いによって、俺と世刻の差は戦いとして成立しそうな程度の差になっていた。

 

「もっと、体に馴染ませないと……」

 

 今の俺の戦力として数えられる力は各種オーラフォトン。単発で使うことを前提としてアムから受け継いだ各種武芸と、代償を覚悟した上で俺が見た永遠神剣とアムの知識から得た各種上位神剣の力。基本、永遠神剣を模す力は大元の永遠神剣とのぶつかり合いになると熟練度の差で勝てないので戦闘で突発的に使うことはない。今回も使用するつもりはない。

 

「ああ、ようやく復讐の時が来たんだ。ちゃんと確実に殺さないと」

 

 今のあいつでは確実にオーラフォトンの一発すら耐えられない。となるとまずは何を用意しているのか。やはり俺の力を削いで、自分の守りを固める力だろう。神剣魔法もいくつか組み合わせればそんなことができるはずだ。

 

 死にたくない、と叫んだ以上はそれぐらいは容易く成し遂げてくるだろう。それができなければ死ぬのだから。それができないことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから絶対に成功させる。そうだと仮定して、戦力として扱える諸々をどう扱うか。それを決めていく。

 

 この戦いはどう言い繕っても『俺があいつを許せない』と言う一点のみで行われるものに違いはない。だから、確実に奴を塵も残さずに消しとばすぐらいの勢いは持ってかからないといけない。ああ、そうだ。心の中でくらい憎悪が湧いてくる。『よくもやってくれたな』と言う理不尽に対しての怒りが湧き上がる。

 

 殺意に比例して、継承した知識をより深く理解する。これもどう言い繕っても結局は『敵を殺す』ことを目的としたもの。それは、仲間を守るという理念で使われていたとしても。その正しい使い方たる「殺害」に対して前向きとなったがゆえに、この技術は新たな力を俺の内側で生まれさせてくれる。あとは、それを使いこなせるようになるだけだ。

 

 戦意の高揚に伴い、俺の内側で反射的に作り込まれたオーラフォトンが外界に溢れ出る。空間ごと圧搾するような形で、その空間を削り取るような形でミニオンを消しとばしていく。オーラフォトンの扱いだけは元々の俺の適性もあってか、他に割ける意識の量は減るがアムの知識にあったものよりも上等なものが使える。

 

 完全な虐殺形態(ジェノサイドシフト)。塵の一片すら残さないと言わんばかりの俺の殺意の具現化。それが世刻を確実に殺せるのかどうかとふと疑問が鎌首をもたげ──それについては考えるのをやめた。

 

「……」

 

 俺はあいつの力量をよく知らない。なら、俺が予想して、その予想をあいつが超えて来た時にまともに対応できるかどうかの自信がない。なら、最初からこれで殺し切れるなんて考えないほうがいい。

 

 ただ、これを逃れようと思ったら、空間ごと消し飛ばすこれを躱そうと思うのなら、この技が発動する前に範囲から外れるか、もしくは同じだけのパワーをぶつけるか。それぐらいしか思いつかないので、一応、あいつを殺せるであろう技には入れておくか。……準備に時間がかかるから、ミニオン相手ならいざ知らず、神剣使い相手に使う暇があるのかどうかは置いておくとしても。

 

 左手を変化させて世刻の神剣である『黎明』を生み出す。右手も同様に変化する。双剣の術理をインストール。基本的な型の反復を行う。個々人にあった動きはあれど、『型』というのは本当に基本的な部分だ。それなくして『剣士の動き』なんぞできるわけがない。戦場で鍛え上げられたジルオルの力を使っているのだから、それこそ基本的な型なんぞあいつは持っていないだろうが、それならそれで『戦場で双剣を使って戦った者』の術技をあとでインストールするだけだ。

 

 それを考えながら、同時に腕変化によって使える神剣の中でも俺の負担を考えなければ確実に殺せるであろうものをリストアップ。アムから受け継いだものと「悠久」(ユーフィー)「時詠」「時果」「時逆」(時深さん)のみ。……エターナルとなったイスタと戦っていれば、あるいはもう一本増えていたのかもしれないけれど。

 

 それらを全て使用しての勝率なんてものは考えない。ただ、殺したいから戦って殺す。それだけ理解していればいい。

 

「形成──」

 

「ダメですよ、おにーさん」

 

 それらを使用するための咒を唱えようとすると、そこでユーフィーからストップが入った。少し、世刻に向ける殺意によりヒートアップし過ぎていたかもしれない。一度スイッチを切り替えると周囲の様子もよく見える。気がつけば、すでにミニオンが全滅していた。

 

「結構離れてるのに、おにーさんが大暴れしてる衝撃がこっちまで届くんですよ。このままそれを使ったらここの結界だけじゃなくて色々と吹き飛んじゃいます」

 

「ああ、うん。そうだな悪い」

 

 私服姿のユーフィーに諌められたところで、その私服に微妙に切り傷が入っていることがわかる。微妙に白い肌が見えていることに俺の視線を受けて気づいたのかえへへと笑う。

 

「それって……」

 

「はい。おにーさんの使ったオーラフォトンが飛んできた影響だと思います」

 

「怪我とかしてないよな?」

 

「大丈夫ですよ、あれぐらいなら」

 

 あ、うん。ちょっとカチンときた。ユーフィーからしたら俺に心配かけないようにってことなんだろうけど。さすがに全く効いていないのは、こう、年季の違いがあるにしても男の沽券に関わるというか。傷つけるつもりはなかったから問題はないはずなのに、本気の攻撃ならユーフィーの防御を抜けるって証明したくなってきた。

 

「わふっ!?」

 

 不穏な空気を感じたのか走り去ろうとし始めるユーフィーのことを抱き寄せて、どうするべきかを考える。腕の中でうーうー唸っているユーフィーのことは一時置いておくとしよう。

 

「おにーさん……?」

 

 何をされるのかと少々怯えた、潤んだ瞳でこちらを見つめるユーフィーに少しばかり嗜虐性が湧いて出てくる。……うん、首筋を噛むぐらいなら許されるだろうか。ついでにそこからマナもちょっと吸わせてもらおう。あとでユーフィーが不機嫌になりそうだけど、それはそれで可愛いので良しとして。

 

 そう思ってユーフィーの首筋に顔を近づけていくと

 

「何をしてるんですかっ!!」

 

 やってきた時深さんに後ろからぶっ飛ばされた。

 

「がっ……!」

 

 見事に回転して落ちたので全身が痛い。意識も消えかけている。なのにお説教は聞こえてくる。修行のために貸し出しているのだからちゃんとここでは修行をしろ、()()()()()()は部屋でやりなさいと顔を真っ赤にしながら言っている時深さんの姿を見て、そこで意識が暗転するのだった。




ちなみに、今の望は十一章を突破していないのでナルカナと契約はできません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。