「よしっ……」
ユーフィーが作り直してくれた
「決戦、ですね」
「うん、そうだな」
隣にいるユーフィーは少し表情が硬い。そんな彼女の頬をグニグニと引っ張って延ばす。何気にこれまで頬をいじったことはなかったが、どうやら俺の彼女は頬すら俺が好ましい触感をしているらしい。これならもっと早くからいじっていればよかった。「
「それじゃ行こっか」
「はいっ」
そうして出かける前にあっと何か忘れ物にでも気がついたのかユーフィーが声を上げる。……別に、今日に関してはユーフィーが忘れ物をする余地なんてないから何か別のことだろうけど。そんなことを思っていると、ユーフィーが正面に回り込んで来てキスして来た。さすがにこのタイミングでこんなことをされるとは思ってもみなかったので、目をパチクリとしたが、えへと笑ったユーフィーは
「勝てるようにおまじないですっ」
そんなことを可愛らしく語ってくれたので、とりあえず撫でる。だいたい30分ぐらい撫で回して、さすがにそろそろ行かないとダメだろうというような時間になったので、そのまま部屋を出た。
気力も、活力も、マナも、あらゆる全てが今日の俺は充実している。そんな状態で行う戦闘だから負けるはずがないとも思っている。部屋を出て堂々と歩いて行くと、玄関近くに環さんの姿を認めた。
「もう、行く時間ですか」
「はい。……この戦いがどうなるにせよ、終わったらそのままこの世界から旅団は去るそうです」
「……新しいカオス・エターナルの
なかなか人間とは難しいものですね、と苦笑する環さんに見送られて決戦の地へと向かう。
この戦いの結果がどうなるかはわからないが、『望が出雲に戻ってくることはない』ということだけは事実。数日とはいえ旅団の面々も一緒にいたことで多少は情も湧いたのだろう。長い年月を生きたことが原因で人間らしさを失うということになっていない先達を見て、これから先に月日の流れが原因で自分の人間性が削れ落ちて、人間らしくなくなるという最悪の事態は避けられそうだと、少しホッとした。
「おにーさん」
「ああ、わかってるよ」
出雲の玄関を出て、森の中を歩き始める。澄んだ空気が美味しい。この森は霊験あらたかな場所なので、マナを始めとした様々な条件が外界とは比べ物にならないほどに良好なのだ。そんな、本来ならば防衛人形たちが守護しているべき空間を二人、何者の気配も感じることなく歩く。
正直なことを言うのなら、世刻を殺すことが目的ならば『ものベーごと狙撃して消し飛ばす』やら『外を出歩いている時に不意打ちする』など、その気になって手段を選ばなければいくらでも殺す隙はあっただろう。けどそれを選ばなかったのはやはり──
「ついたか」
そこまで考えたところでたどり着いた。そうだ。今日それこそ世刻が到着したことを確認してオーラフォトンノヴァを叩き込めばそれで済んだ話を、わざわざここまでしたのは、今回の戦いに何者の介入をも許さないためにそこにいる時深さん。彼女の姉がわざわざとりなしてくれたのだから、これから仲間になる人の心象を下げないでいい部分は下げたくない、という程度。それと以前聞いたところ、ユーフィーの両親と知り合いらしいので、彼女の両親に俺の存在を知られた時のためにも、そこまでの効果があるとは思っていないがとりなしてもらうため。……親バカらしいし。
「世刻」
けれどそれも、目の前の一件を片付けてからだ。
目の前には憎い男がいる。殺したい男がいる。その後ろにいる、今回の戦いに関係ない面々はどうでもいい。男同士の戦いなのだから手は出さないだろう。だからそちらには意識を向けない。もしも邪魔しようとしたら、それはその途端にユーフィーが消しとばすだろうから。
だから、眼前の男に殺意を向ける。この男を殺さないと、『世刻への殺意』を残したままユーフィーの両親に会うことになる。心の奥底に復讐心なんぞ抱えた男に娘をやりたい親などいるはずもないので、ここで一度、”人間”御堂隼也の後悔を、未練を無くしておきたい。
そして何より、俺が世刻のせいで受けた仕打ちの分程度の仕返しはさせてもらわないと、俺の気が収まらない。
俺の命が、旅路の中で危険に晒され、俺の存在が、イスタとの戦いで削られることになった。それらは全て俺の選択であるが、その選択肢しかない道へと俺を強制的に引きずり込んだのはやつだ。だから殺す。
「お前が巻き込まれたこれまでの事件……たとえばジルオルがやったことのせいで『
「ああ……」
苦虫を嚙みつぶしたような表情。けれどそれは理解できているらしい。……それならとっとと死ねとも思うが、人間は『死にたくない』からとこれからの死地に飛び込むのが好きなのだろう。俺もそうして
「これまでの戦いではお前とその相手の関係がどうだったか。俺はそれを知らない。あるいはお前が正当な復讐を成す側だったかもしれないが──」
一度、言葉を切る。
理想幹神は聞いた話だと『この時間樹の創造神』とやらを恨み、自分たちの行う計画が途中で頓挫しないように、自分たちを神名を消滅させることで確実に殺せるジルオルの転生体に対する対策が欲しかった、とのことで永峰をさらったらしい。そこに
だが
「今回に関してだけは、お前の存在そのものが俺を殺しかけた。俺に死と隣り合わせの日常を強制的に選ばせた加害者だ。お前が被害者として加害者に怒りをぶつけて殺してきたというのなら、今度は加害者として
お前は最初の時点で、子供でも知っているようなことを破ったんだ。
「やるしか、ないんだな……」
「やるしかない?」
何をバカなことを言ってるんだ。
「これは、お前が原因だろ? まるで自分はやりたくない、みたいな言い方をするなよ。お前自身の行動の結果が、こうしてやってきたんだ」
暁が世刻を狙ったのも、『光をもたらすもの』が学園を狙ったのも、そこに世刻の意思は『物部学園に通いたい』以外には介在していない。それすらも、「すでに一度神剣の力を引き出している」という前提がついている以上はいいこととは言えないが。
そして、その騒動の結果が今の状況だ。
『神剣使い』という加害者が引き起こした、『神剣使いの抗争』という事象によって、『一般生徒』という被害者が生まれた。だから、あの時学校にいた神剣使いは正直全員殺すべきだと思う。けれど
そして暁は、そもそも『光をもたらすもの』が世刻を狙った案件とは全く別の案件。どころか、聞いた話では、暁が世刻を殺そうとしたタイミングで永峰が神剣に目覚めた以上は、「世刻のせいで起きた騒乱において、唯一一般生徒が多数生き残るための道を切り開いた英雄」と読んでも差し支えないかもしれない。暁がいなければ、永峰が覚醒することはなく、ものベーもなく、全員散り散りになっていた可能性もあるのだから。
ならば、最後の一人。全く役に立たないどころか、そもそもの騒乱を招き入れた理由である世刻に退場してもらうのは何もおかしなことではないだろう?
「だから、お前がこれまでやってきたことをされるだけだ。自分がやってきたことに正当性があると思うなら、お前がやったことと同じ行動をする俺の正当性もわかるだろ?」
世刻は、気質そのものは善性の人間だと思う。そこにジルオルがくっついているから余計なことを招き入れて人を戦場へと誘うだけで。だからこそ、基本的には細かい部分で色々と間違うことがあっても『
だが、だからこそ。これまでの行動に対して『
「世刻、死んでくれ」
お前ら風にいうのなら『分枝世界を守る』ため。これから先にジルオルという存在が利用されて世界を滅ぼすことのないように。
「お前のことだ。どうせこれから先に『お前が死なないと世界が滅ぶ』みたいな状況でも、『俺は皆で生き残れる道を探す!』とか言って、世界を救おうと襲ってくる連中を殺して、あるいはそこから逃げて。生き残れる道を探して……」
「それの何が悪いんだよ!」
「悪いことじゃないさ。その考え方自体は尊いものだろうよ。だが……それで、お前は一体幾つの世界を滅ぼすつもりだ?」
そうだ。この世界は
色々と言いたいことが多い。
こいつに自分が殺されることを納得させて、自分が犯した罪の重さを理解させて、その上で殺してやりたい。
でも、このままだと。どれだけの時間があっても、言い切れない。
だから、今から戦いの中でお前の存在が、その善性が引き起こす罪がどれほどのものか教えてやる。この、完全に隔離された空間で。
次回、望戦。そろそろサードディスティネーションで一瞬姿を見せたというあの人も登場。サード持ってないので喋り方はわかってないけど