聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第二十四話:世刻望vs御堂隼也

 この殺し合いの戦端を幕開けたのは、隼也の体から大量に放出されたオーラフォトンだった。

 

「オーラフォトンフィールド」

 

 静かに唱えられた言葉は望にも届き、この隔離された決闘用の空間全域にその名の通りの力場(フィールド)を形成した。周囲のマナにオーラフォトンが届き、そのオーラフォトンを通して作り変え、全てを隼也の支配下に置いていく。尋常な果し合いの場(決闘場)が、隼也に有利な場(処刑場)になる。先日の戦意高揚によるオーラフォトンの大量放出で、隼也はユーフォリアに傷をつけることは敵わなかった。けれど、もともと攻撃用に変化させたわけでもない精霊光で服が一部裂けたという事実が、隼也の中にこの技の着想を生んだ。

 

 すなわちここは、隼也の絶対殺害圏(キリングゾーン)。『オーラフォトンが己の意思を汲み取ってその性質に反映した』という事実から生み出された、隼也にとって有利な空間。

 

 全体に広がるオーラフォトンのスピードはそこまでではない。けれど時間感覚としては数十秒。それだけの広がり終わるまでの時間をタイムリープが消しとばす。

 

「インスパイ……っ!?」

 

 戦いは始まったばかり。向こうが己の有利な空間を生み出したというのなら、その隙に己も準備をせねばならぬと、神剣魔法を発動しようとする望。けれど、その魔法が途切れた。いいや、そもそもマナが入ってこないことで魔法を使用できない。

 

 普段から使っていた神剣魔法が使えない、というのは動揺を生み、ワンテンポ行動が遅れる。

 

 これこそが、隼也の使ったオーラフォトンフィールドの効果。空間をオーラフォトンで満たした意味。己の色で染め上げた空間では、隼也の望むがままにオーラフォトン(マナ)の属性値すら変わり、オーラフォトン(神剣魔法)であるがゆえに敵は体に取り込むことができず。さらには自然のマナも存在しないために神剣魔法を扱うためには己の身を削らねばならず、たとえそうして放ったとしても、外界に作用する類のそれは、先に放たれていたオーラフォトンに防がれてしまう。

 

「これを使っている隙に一撃入れようとしていれば、まだ生き残る道はあったのかもな」

 

「どうせっ、防いでただろうにっ……!」

 

 当然だろう、と隼也は返す。これは、戦いを始める前の「お前を殺す」という宣言をわかりやすく事象として発露しただけのことなのだから、と。

 

 絶対殺戮圏を作る一手。これを使用することはエターナルでもない望相手には過剰としか言いようがない。使えば、エターナルでもない限りは確実に死ぬ。だからこそ、作っている最中、あるいは作り終わってからでも、隼也が攻撃の準備を始めるよりも先に一撃入れておかなければいけなかった。そのための時間は、確かにあったのだから。

 

「その首もらう」

 

 言葉が届くか届かないかのタイミングで、すでに隼也は望の目の前にまでたどり着いている。神剣魔法による強化は全て、マナをオーラフォトンに変えて行われるがゆえに。隼也は己の周囲のオーラフォトンにそれらの属性変化を与えて全ての能力値を同時に強化。左腕に装填された五つの神剣魔法を同時に爪として顕現させながら、その首を掻っ切るために神速で放たれた。

 

「五天龍爪」

 

「っ……!」

 

 ただの一度も戦闘を行うことなく消滅した「平衡」の神獣たる「こーくん」の爪を模した一撃を、望が躱すことができたのは一体いかなる因果か。少なくとも、ここまで圧倒的な実力差のある相手とはこれまで戦ったことのない望では、絶対に躱せないものだと断言できる。ならばジルオルの持つ多量の経験からか。その答えを隼也が理解することはない。

 

「レーメ!」

 

「応っ!」

 

 避けるために不恰好に転がりながらも望は「黎明」を振るう。崩れ落ちながらも振るわれる剣技は流麗で、マナの消費を抑えるためにただの剣術と化しているが、それでも最低限のマナは乗っている。それを余裕すら持って躱し、その間に望はどうにか立ち上がった。そんな彼の視線が一瞬向いたのは宙空。そこには一匹の小人が顕現している。

 

 その小人こそ、世刻望が永遠神剣、「黎明」の守護神獣。天使レーメ。

 

 彼女が、望を体内のマナを最低限使って最大限の強化を施していく。

 

「まずは、知っての通り。お前の存在そのものが学園の生徒を苦しめた」

 

 それをさらに上から叩き潰しながら隼也は謳う。お前がこれまでに犯した罪を暴いてやると。

 

「ジルオルの転生体。その力を狙う連中は多数いるにも関わらず、かつてその力の一端を引き出しておきながら人間世界に混ざっていた」

 

「それは、でも……」

 

「そこに、どんな理由があったのか、などどうでもいい。お前が誰かに何かを言われたのかもしれない。言われずに自分で決めたのかもしれない。けれどどちらにせよ、『人に混ざって生きていく』という選択を最後に選んだのはお前だ。それによって生まれたいくつもの罪は、お前も知っての通りだろ?」

 

 左腕から放たれるオーラフォトンの斬撃に、右手から放たれる幾重にも折り重ねられた神剣魔法。それらと共に放たれる口撃(語られる罪)に、それを聞きながらも殺されないために二つの「黎明」を一つに合わせて、両手で掴んで望は振るう。『浄戒』の力を乗せた一撃、ネームブレイカー。それを持って全ての攻撃を傷つきながらも弾き、あるいは避け、隼也のオーラフォトンに包まれた空間でなお、その輝きを衰えさせずに隼也の胴体に向けて放たれたそれを

 

 隼也は、人の肌に覆われたままの右腕で止めた。

 

「なん、で……」

 

 望はそれを呆然と見る。神剣である左腕なら止められることも理解できたのかもしれないが、隼也の右腕は誰がどこからどう見ても人のままだ。マナによる強化が入っても、元が人間の腕なのだからどうしても神剣よりは強度は小さい。それなのに防がれてしまった現実に望は理解が追いつかない。

 

「一体いつ、誰が、()()()()()()()()()なんて言った?」

 

 ”輪廻の観測者”ボー・ボーというエターナルが、秩序の永遠者(ロウ・エターナル)には存在する。そのエターナルが持つ永遠神剣。永遠神剣第二位「無限」は、わかりやすい武器の形をしているわけでも、指輪、ランタン、本のような、一見して武器とは思えないようなものの形をしているわけでもない。

 

 「半身」

 

 彼の肉体の半身が永遠神剣であり、爪で引き裂いた部分に永遠神剣の効果が発揮される。それこそが半身型永遠神剣、第二位「無限」である。それになぞらえて隼也の永遠神剣の型を名付けるのであれば

 

「全身だ」

 

 隼也はただ事実を告げる。

 

「俺の永遠神剣は、俺の全身と融合している。全身型永遠神剣、第二位『協奏』。お前がいなければ人間としてまともに生きていられた存在が、お前が犯した罪が、今こうしてお前の攻撃を素手で受け止められる理由だよ」

 

 もうすでに体の全てが人間のそれではないのだ、と。

 

 別に隼也としても、すでに思い出せない人間だった頃よりも今の方が幸せなのだろうと根拠もなく確信している。けれどそれとこれとは話は別。結果としていい方向に進んだからと言って、望の犯した罪に変わりはない。だからこそ、望の存在によって運命を変えられたという証拠としてこれ以上ない肉体である。

 

「う、あ……」

 

 愕然とする望。それはそうだろう。一体誰が、肉体の全てが永遠神剣になったなどと考える。ボー・ボーという可能性を知っていればそれもあり得たかもしれないが、望はエターナルではないのだから知るはずがない。そしてそれが、己の存在が原因で引き起こされたことなのだと、そう言われたことで頭がショートした。

 

「おい、ノゾムっ! しっかりせぬか、バカモノ!」

 

「レーメ……」

 

「お前は、確かこれまで巡ってきた世界で出会った人物の味方をしてきたんだよな」

 

 レーメによる励ましも無視して、さらに隼也は語りかける。

 

「……ああ」

 

「お前は善性の人間としてこれまで出会ってきた相手を助けてきた。……だけどな、お前が相手をしてきたやつは本当に悪人だったのか? 『光をもたらすもの』とやらの目的は知らない。手段として『分枝世界を滅ぼす』ということはやっていたけど、それが目的だったのか? そうじゃないなら目的は? もしかしたら彼らの行動を邪魔した結果、お前がミクロな視点で目の前の人間を救おうとした結果、マクロな視点で見たら余計に被害が増えたこと、なんてのは想像したことはあるのか?」

 

 例えば、の話ではあるが。彼らが世界を滅ぼさなければならない理由があるとして。

 

「お前は、彼らの事情を考えたことはあるのか?」

 

 たとえその答えがどちらであったとしても。

 

「そもそもカティマ(一国の王女)が、まだ国がある、どころかこれから再スタートを切るのだから、何よりも旗頭にならないといけない人物が自分勝手にやってきてる。そんなことを平然と受け入れたお前らがやってることが本当に世界を守ること(正義)か、その時点で疑わしい」

 

 余計な混乱を引き起こそうとする相手を受け入れているんだからな、と吐き捨てる。

 

 そんな言葉を吐きながらも攻撃の手を緩めることはしない。答えのない望に対しても一切躊躇しない。あるいは、これで反省しているのであればと余計に苛烈な攻撃すらも加え始める。

 

 溜め込んだオーラフォトンが爆炎と化して、望の周囲の空間を焼き払う。それを望がカタストロフィで周囲一帯を吹き飛ばすことで対処したのを目撃し、それよりも早く体内で練られたオーラフォトンが充満する。今の隼也と望の保有マナは遥かに隼也の方が上。ゆえにこそ、多少の無茶な使い方も、隼也にのみ許される。

 

 放たれる突進(オーバードライブ)を右手に集中させたオーラフォトンで受け止め、仕返しとばかりに左手を「悠久」へと変化させてのプチニティリムーバー。それを余った左手の「黎明」で受け止めたが、身体能力の大きすぎる差によって弾かれる。

 

「しまっ……!」

 

 そこへ隼也が手刀を突き出す。狙いは心臓。己の保有するマナを削りながら望はシールドを展開し、手刀とぶつかった地点から火花を散らしながらもどうにか吹き飛ばされるだけで終わらせる。

 

「オーラフォトンブレード」

 

 そこに、空気中を漂うオーラフォトンが剣となって空中より降り注ぐ。身体中に切り傷が増えるのにも関わらずに飛び出し、隼也を殺しにかかる。もう、マナが切れるのを待っていては確実に死ぬと理解したから。思い切りだけは良くなった。

 

「はっ……」

 

 無論それだけで勝てるわけがないので隼也は嘲笑する。向かってきた望を妨害するように、空間の至る所からオーラフォトンビームとオーラフォトンブレードが殺到する。それらを避け、あるいは防ぎ、腕の一本はくれてやると言わんばかりに「黎明」を一本に再融合して走り抜ける望。その姿は、それらの攻撃によって周辺の地形が崩れ砂埃が舞うことで隼也には見えなくなるが、己の感覚(オーラフォトン)が今どこにいるのかを教えてくれるために、迷うことは何もない。

 

「お、オォォォ──ッ!!」

 

 吠えながら、『浄戒』の力を引き出していく。今度こそ全力。今度こそ、望の持つ全ての力を引き出しての一撃。倒せねば意味がないのだと、ほとんど全てのマナを「黎明」に込める。レーメも、己の限界を超えてマナを使用してこの一撃に全てを乗せた、本当に最後の一撃を放つ用意を始める。

 

「ふうん。……いいぜ。お前の全部を叩き潰してやるよ」

 

 それを目視した隼也も、己の両の腕に働きかける。

 

 彼が思い起こしたのは、アムの記憶。その内に存在するアムが契約していた永遠神剣と、アムを殺した永遠神剣。これら以上の永遠神剣など存在しない、となぜかそれを知っていた。

 

「形成──『■■』、『■■』」

 

 その名前を聞き取れたものは誰もいない。どちらも、隼也は見たことのない永遠神剣。左手には剣を、右手には鞘を。それら以外にも、形成はしないがアムの知識から得た全ての永遠神剣の力を解放する。

 

「グッ……!」

 

 けれど代償は重い。永遠神剣を作り出すなど、たとえエターナルであってもできないことだ。できるのは上位の神剣が下位の神剣を作り出すことのみ。ゆえに、たとえ一時的であろうとも、こうして永遠神剣を生み出した以上は逆説的に『隼也は永遠神剣である』という形に作り変えられていく。「全身が永遠神剣となっているエターナル」から「人の形をした永遠神剣」へと。

 

 世刻望の死という()()を確定させてから、速度を超克するために()()()()()()()()、それを避ける気力を奪うことで必中のそれと化す。放たれたネームブレイカーを右手の()に納め、それを己の体を通して左手の剣に叢雲の特性たるナル化マナを乗せて、()()()()()()()()()()()()を、何者かが()()した知識から見つけ出された最良の型から放つ。

 

「エタニティ──」

 

 一の太刀にて「黎明」を砕く。そして返す二の太刀で世刻の体を切り裂き──

 

「リムーバーッ!!」

 

 フィールドの効果で強化された最大の力を、時の操作で得た加速による己の最高の速度で、神剣を砕かれ避ける気力を削がれ脱力した瞬間という最善のタイミングに叩きつけた。

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