聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第二十六話:視界いっぱいの土偶

 あ、こいつら結構厄介だ。

 

 そんなことが、まず一匹目の土偶の排除を行うために腹部を左手でぶち抜いた瞬間に感触として理解できた。攻撃そのものも今のタイムアクセラレイトによる加速の中では目で見てから回避は余裕だが、チャージ時間などはそこまで長いものではないだろう。いや、ユーフィーがいて倒しきれていないんだからこれぐらいは予想してしかるべきだったか。貫いた瞬間、回収したままのナル化マナが漏れ出そうになったので、とりあえず内側に侵入した左腕をそのまま「叢雲」へと変化させて、「ナル化マナを内包する」その神剣の模造品に回収させる。

 

 「叢雲」本体が、今は俺のことを視認できない距離にいるとはいっても、同じ場所にいるいる以上は模造品を見せないほうがいいだろうと思って、そのまま内側から引き抜くときに左腕に戻してしまう。ただ、「叢雲」もやはり第一位であるだけのことはあって、変換にかかる負担は大きい。できる限りこの手段は取らないほうがいいだろう。

 

 なら、遠距離から砕く? ダメだな。俺の神剣魔法で破壊しきれる自信がない。フィールドに関しても密閉された空間とは違う以上、力場として展開し続けるのは効率が悪すぎる。

 

 それなら近距離? こっちに関してはもっとダメ。ナル化マナが放出されたときに至近距離で被害を受ける可能性がある。マナ存在であるエターナルな俺たちからすれば食らったら甚大な被害を受ける。

 

 それこそナルカナを扱える相手がいればいいのだが、いないのならばしょうがない。

 

 やることは確定した。あとは実行するだけだ。

 

「土偶が固くて厄介なら──」

 

 タイムアクセラレイト。時の感覚が引き延ばされていく。時間流から外れた俺が二十数えるほどの時間、それが外界の一秒と同じだけの時間になっている状態で、神剣使いとして強化された脚力を以て次の土偶に向かう。背後で土偶の膨張、爆発が引き延ばされて異様な音を放ちながらスローモーションで行われている。そんな音を聞きながら、俺よりも加速している時深さんが旅団を苦しめている土偶を切断している姿が見えた。

 

 あれなら、向こうのことは気にしなくてもいいだろう。

 

同じもの(土偶)をぶつけてやるだけだ……っ!」

 

 たどり着いた土偶の目の前。その土偶の振り上げていた腕を口から放つ光線状のオーラフォトンノヴァで消しとばし、残った片腕を掴んで持ち上げる。

 

「おぉ、らぁっ!」

 

 そのまま、土偶を鈍器として別の土偶に叩きつける。何やら表面に働いている防御壁は全機体同様のようで、多少の攻撃は弾く代物だが、

 

 同じ障壁を纏った機体同士で叩きつけたときにどうなるのか。

 

 俺が振り回す速度の二十倍が、本来の時間流の中で土偶が振り回されている速度。それだけの加速が加えられた一撃ならば多少の障壁程度は意味がないだろうし、たとえ意味があったとしてもこの一撃そのものが無意味になることはない。そんな目論見でぶつけられた土偶は、速度と勢いに半壊した状態では耐えきれなかったのか俺の持っていたほうがひしゃげ、原型をとどめないものへと変化していくが、そのことを気にせずにぶつけられた土偶を掴む。

 

 そもそも今俺たちが戦っているのが橋の上であり、下手に地面に倒れることを許してしまえば、その巨体が倒れた衝撃で橋が崩れる可能性もある。その危険性を考慮するとどうしても休みなく崩していく必要性がある。俺がいたのが『出雲』敷地内ではあるが少し離れた場所。そして『出雲』玄関側で旅団の面々は防衛を行なっていて、時深さんがそこに援軍として向かいながら道中の土偶を幾体か切り裂いていた。俺は玄関側ではなく、どちらかというと玄関に至るまでの、街中に近い方向の部分から出たので挟撃という形に図らずもなっていた。

 

 そうして大量の土偶を同士討ちさせていた最中、一人の少女の姿を認めた。

 

「お、ユーフィーだ」

 

 タイムアクセラレイトの影響で動きは緩やかになっているが、そこにいたのは間違いなくユーフィー。数体の土偶に囲まれていたがまだまだ余裕はありそうだ。とは言っても

 

「俺にはそこまで余裕はないんだけどな」

 

 そう呟いて、最後にユーフィーの周囲を取り囲んでいた土偶を武器として振り回し、他の土偶をひしゃげさせながら水没させる。そのまま水中にノヴァを叩き込んで破壊完了。タイムアクセラレイトを解除すると、俺の存在に気がついたユーフィーが近寄ってきた。

 

「おにーさん……!」

 

「行くぞ、ユーフィー」

 

 ユーフィーは俺がやってきたことに対して笑顔を向けている。俺がここにいることはすなわち「俺が戦いたくないと言っている人を殺害した」可能性を示唆しているにも関わらず、俺が生きていたことに対して安堵の表情を見せてくれた。……いや、元からそう言っていた人物と戦うことになるとはわかっていてそれでも力を貸してくれたのだから何もおかしくはないのかもしれないが。それでも彼女が受け入れてくれるのが嬉しかった。

 

「おにーさん、先に世刻さんと戦ってきて消費したマナもありますよね。だったら……」

 

 ふわり、とユーフィーのマナが俺の肉体を包む。先に世刻との戦闘があった、ということ。ここに至るまでの通路にいた土偶が消失しているという事実から、きっと彼女は俺が戦ったという事実を読み取ったのだろう。

 

「あたしの力、使ってくださいっ!」

 

 俺に対して、マナを分ける神剣魔法、マナリンクがかけられて、多少マナを回復させてくれた。周囲にはすでに土偶は存在しない。あとは向かう先にいる、ユーフィーがここに来るまでにくぐり抜けて来る形で進んだことが原因で、今はまだ倒されていない土偶が俺たちの進む先に残るのみ。それらを全て倒すには今の俺──一緒にいるユーフィーがどれくらい余力を残しているのかは知らないが──には厳しい。

 

「よしっ、やってみるか……!」

 

 なので、遠目に見えたナルカナの姿から思いついた事象を試してみることにした。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 神性強化(リーンフォーサ)

 

 マナを集め、己の血肉とすることで己の神性を取り戻すこの世界の神剣使い……いわゆる転生体と言われる『前世が神である存在』の己の強化の仕方。

 俗な、ゲーム的な言い方をするのであればレベルアップ。

 時間樹エト・カ・リファ(隼也たちのいる時間樹)に入れば最後、エターナルであろうと時間樹のルールからは逃れられない。

 創造神エト・カ・リファによって『聖なる神名(オリハルコンネーム)』を植えつけられ、上限が定められる。

 そしてその上限の内側で、神性強化と同様のことを行えるようになるのが今の隼也たち(エターナル)なのだ。

 

 それを、今の隼也は行おうとしていた。

 

「ナルカナがマナで神性強化を行える……」

 

 それは何もおかしなことはない。

 ナルカナはナルを内包している。

 ナルは「マナを一方的に侵食して変質させることができる」という特性を持つ。

 ならば、彼女は「取り込んだマナをナルに変化させることで神性強化をしている」と捉えるのが自然だろう。

 

「だったら、俺もできるはず……」

 

 ナルがマナを一方的に侵食する関係で、基本的にエターナルにはナルを取り込んで強化しようなどという阿呆はいない。

 そんなことをすれば死ぬことはわかりきっていることだからだ。

 けれど隼也は「協奏」の担い手。

 

 「知っている永遠神剣を模倣する」、そして「対象の対となる能力を持った永遠神剣を一時的に生み出せる」という二つの能力。

 

 「叢雲」がナルを振るっていることを確認して、それがマナ存在であるエターナル(自分たち)に対して特攻効果を持つと知って、それを本来なら振るえないはずの永遠神剣(「叢雲」)が扱っているのを見て。

 

 それが能力だと理解したから。

 だから今、「マナを侵食して同一の物質(ナル)へと変化させるものを内包する神剣」の対となる、「ナルを侵食してマナへと変化させるものを外へと放出し続ける神剣」なんてものが、隼也の神剣の中の顕現できる記録として生み出された。

 そうでなくても、「叢雲」に関してはコピーできているのだから「ナルを内包する」特性を持つことができる隼也はナルでもマナでも己を強化できるはずだと、そう考えていた。

 

 周囲にマナは多いとも少ないとも言い切れない。

 だが、隼也はそれをどこで回収したのかは知らないが、理想幹にあった(なぜかどこからか)ナルを回収してきた存在(土偶)がここには大量にいる。

 そしてそれらは基本、水の中に叩き落とされ後に塵に変えられたりしていない限りは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 さっきまではナルに対して効果的な手段は「叢雲」の特性で回収してその「叢雲」を元の腕に戻すだけだったから今はそうなっているが、これができるのであればナルの存在する部位をマナで消しとばして、そうして吸収したマナを強化に当てることができる。

 

 そのために、土偶の一体から、回収したナルを置いておく部分を剥ぎ取っていた。

 

「強化、開始……っ!」

 

 隼也の中にマナからナルに変質し、今またマナへと戻った物質が流れ込みその肉体を強化する。

 より上位の存在へと、その肉体を構成するマナの総量を増やすことで変質させようとする。

 力が、その総身に溢れかえる。

 

「ふわぁ……」

 

 ユーフォリアの思わず、といった具合に漏れた感嘆の吐息も、今の隼也には届かない。

 

 そもそもが神性強化は一部の神々の『聖なる神名』に刻まれた技能。

 『他者の能力を強化する』という、その道の神々の技能を、それを持たない、経験も少ないたがが人間上がりの一年も神剣使いをやっていない隼也が行うには最大の集中が必要となっていた。

 

(今なら……)

 

 己の存在の位階を一つ上げられそうだ。

 隼也はそう思う。

 

『これならようやく……』

 

 内側でアムが何かを語る。

 それを聞き取る余裕すら隼也は持たない。

 

 己の存在を生まれ変わらせるほどの膨大なマナをその総身に宿し、確かに変化が生まれる。

 見た目には変化はない。

 けれど今なら何かができると、これまでには不可能だったことが少しはできるのではないか、と。

 そんなことを、隼也は思っていた。

 

「今なら色々とできそうだ……!」

 

 一般人と神剣使いほど、神剣使いと永遠存在ほど。

 そんな絶望的な差があるわけではないが、確かに今、隼也は半歩ずれた。

 エターナルからより高み(ハイ・エターナル)へと。

 己を構成するマナ配列すら知らぬうちに書き換えて。

 

 両の腕にぎちりと力が宿る。

 その力を一気に解放するようにして、隼也の()()は確かな形を為す。

 

「全身が永遠神剣であることの意味を教えてやる」

 

 獰猛な笑みを浮かべて宣言する。

 

「ユーフィー、合図を出したら突っ込むぞ」

 

「はいっ!」

 

 ユーフォリアの元気な返事を聞きながら、全身にその能力を行き渡らせる。

 両手、合計十の指にそれぞれ別の永遠神剣の能力を宿す。

 右の五本には空間切断など、防ぐことができない攻撃を放てる「虚空」「赦し」「無限」「無我」「時逆」を。

 左の五本には「粉砕」という結果を残すため、「破壊」「悟り」「縁思」そして破壊という結果を作り出すために「聖賢」と、それによって得た「土偶を倒すためにもっとも効率的な方法」を実現する「宿命」。

 全て、アムから得た知識の中にあった神剣であり、この中でこれまで作ることができたのは隼也自身と縁が深い「時逆」だけだったものが、隼也の中で何かがカチリと嵌ったことで完成した。

 

 それぞれ、組み合わせることで無類の強さを発揮するであろうに、持ち主が敵対勢力に分かれている、あるいは仲良くないのか、それとも出会ったことがないのか、完全に合わせることが別人が使っているために不可能なのか。

 数多の理由がありながらも実現しなかったその組み合わせを、無理矢理に作り上げた。

 

「それじゃ……行くぞっ!」




・これまで

「主人公が作れるのは主人公自身が見て理解したもの」のみ。あとはおまけで「前世の自分」も自分判定でOKが出た(代わりに理解度に関しての条件は厳しい)ので、アムを殺した「■■」とアムが契約していた「■■」、あとはおまけでアムの神剣が作った「■■」は作れた。

・今

前世の分なら名前がわかっていて実際に見たことがあればアムちゃんだいたいわかってるので作れる。つおい。
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