永遠神剣の契約者、というのは長生きできるようになる。具体的にはおそらく三桁は余裕で。そうでもないと、この世界で昔あったという南天神と北天神による戦争などまともに行えるはずがない。
神々の数は数百億、数十億といった人間の数よりは遥かに少ないのだから。
たとえどれだけ『聖なる神名』に早く覚醒することができたとしても、そこからまともに戦えるようになるまでの時間は長く、そしてその間に殺されない可能性も少ない。どう考えても『寿命』が長くなければ、寿命で死んでしまう神々が多ければ、新しい転生体がまともな戦力になる前に全神々が潰れてしまうのだ。
なのでその人間としてみれば長い、あるいはエターナルとして、神剣宇宙全体としては短いだろう時間の中で世刻を探しに行くと言い切った旅団のメンバーが邪魔なエト・カ・リファを殺しに行くために旅立ってから、今はすでに数日が経っていた。
「で、俺たちは貴方と修行というわけですか」
「というよりはレクチャー、ですかな」
「まあ、いいですよ。私も、神獣として顕現している今の私がどれくらいやれるのか気になってはいましたし」
今、俺とアムの目の前にいるのは永遠神剣第二位「堕落」の担い手であるヴェンデッタという初老の男性。カオス・エターナルの相談役兼教官とのことで、今はまだイスタが何も動き出していないために、その時間を有効活用するためにここに来てくれたらしい。ヴェンデッタさんの能力の影響から外れるためとはいえ、ユーフィーがこの場にいない今、始まってから記憶が薄れたらどうするかの不安はあれど、こんな風にエターナルとしての自分を鍛えてもらえる機会はほとんどない。これまでは「神剣使い」という剣士としての修行ばかりだったから、これから始まることには少し期待している。
「では、始めましょうか」
「……っ!?」
「体、が……」
そんな期待を根こそぎ奪ったのは、取り出されや彼の神剣である「堕落」。それと同時に、俺とアムの体から力や考えが消えて行く。先に聞いてはいたがこれが「周囲の者のあらゆる気力を奪う」という能力か、と納得したところで、想像する。
俺が望む、この永遠神剣の対となる存在を。
「考える気力」も徐々に奪われているので、いつもよりも深く、より深く思考に没頭する。ヴェンデッタさんが仕掛けてこないのはこれが訓練だからで、本当ならすでに斬られて死んでいる。だから、もっと手早く想像しないといけないのだろうけど。それは今の俺にはできないから。
より、鮮明に。己の全てをかけるぐらいの勢いで、神剣を一時的に生み出し、それを己の記憶した永遠神剣を記録として残す場所へと貯蔵しておく。
「できた!」
その言葉はこれまで自分が発した中で最も力強かった。
けれどそれはおかしなことではない。何せ今作ったのは「周囲の存在の気力を奪う」力の真逆。「周囲の存在に気力と活力を与える鼓舞のオーラを吐き出す」という能力を持った神剣。
「己の持つ知識の中にある永遠神剣」しか。「聖賢」という知恵袋を得ているために「この世界に存在する、あるいは存在した永遠神剣の全て」を具現化できるけれど、「今はまだ存在しない対の能力を持った神剣を作り出す」ことが本来の契約者ではないためにできないアムには不可能なそれを作り出した。
そうして俺と「協奏」の記録に貯蔵されたそれを即座にアムも引き出し、少々時間はかかったが二人とも戦闘態勢は整った。
「行きますっ!」
そうして、俺たちは互いの繋がりを利用して念話を行いながら作戦を立てて戦闘を開始した。
「悔しい」
「お、おにーさん……」
戦闘は瞬く間に終わった。俺は、開始五分で気絶させられた。マナの使い方、エターナルという、時間樹ごとに使える力に制限のかかる俺たちがどう戦うべきかということをしっかりとその五分で見せられ、教わったのだが。
「さすがにあそこまで一方的に負けたのは悔しい」
そして何より
「アムの方が歴としては長いんだからそれが当たり前なんだってことはわかるけど……」
俺が気絶して、戦えるのがアムだけになった時。アムはさらにそこから三十分ほど戦ったらしい。エターナルとしての戦い方を熟知している彼女が、カタログスペックでいえば俺とほとんど変わらない彼女がそれだけ戦えたということは、それはつまり俺がちゃんとエターナルとしての戦い方を理解していればもっと良い戦いになったはずということで。実際にはいつ何を使うかの状況判断などの差もあるからなんともいえないが、それでも、ただ無様を晒しただけに終わった戦いが、もう少しまともになっていたかもしれないという可能性があることは、そこにたどり着けなかったことへの悔しさを構築していた。
「大丈夫ですよ?」
直すべき部分に関してはアムから伝えられたし、すでにヴェンデッタさんは帰っているらしい。今からもう一人エターナルが来るらしいが、そちらに関しては何を目的として呼んだのか知らされていない。こんな風にユーフィーとイチャイチャしていればいずれ来るだろうし、それまで待つとしよう。
だいたいそれから数十分後。
「えっと、君、だよね?」
「はい?」
「この部屋にいる新しいエターナルに会いにきてほしいって言われたんだけど」
襖が開いて、そこには俺と同年代っぽい男性がいた。俺に抱きしめられて猫と化しているユーフィーを見て苦笑いしているが、特にこの状況に関しては触れないらしい。触れない方がいいと理解したのかどうかは定かではないが、俺がその「新人」だということをどういう理屈か理解したらしく、ユーフィーではなく俺に話しかけてきた。
「僕はリアン。永遠神剣第三位『日常』の担い手。”陽光を浴びる者”リアン。よろしくね、若きエターナルさん」
「ああ、うんよろしく」
スッと差し出された手を握って、そこでようやく自己紹介していないと気がついて、名乗ろうとすると手を横に振りながらいいよいいよと笑う。なんというか、好青年というのが正しいような少年だった。
「聞いているよ、時深さんから。隼也くんとユーフォリアちゃんだよね?」
「ああ」
「うにゃー……あ、はいそうですよ」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら完全に猫と化していたユーフィーだが、さすがに名前を呼ばれれば人間に戻ってこれるらしい。そんな彼女に苦笑して、リアンは告げる。
「今回、僕が呼び出されたのは僕の神剣の能力が理由だよ。精神攻撃の類に対する耐性をつけてもらうことと、今回の出雲襲撃に関係ないのに手伝ってくれたお礼の二つを同時に達成するため。相手を『幸せな日常』に取り込む効果を持つ僕の神剣の力でね」
ああ、なるほど。
なんとなく納得した。
彼から滲み出る良い奴感はあれだ。戦場にはありえない、日常にしか存在しない類のそれだ。薄汚い戦場にあってもその頃の自分を見失わない、日の当たる日常に属する適正を失っていない人間だ。……そしてそれが多分、「日常」という永遠神剣の力なのだろう。
幸せな日常に取り込むことで、「そこから出たくない」と思わせる類の精神攻撃。それを先に体感しておけと、そういうことで呼び出されたらしいリアンなのだが
どうやら、「対の能力を持つ永遠神剣を生み出す」という「協奏」の力で、「辛い現実に引き戻す」類の力を持つ永遠神剣をストックすることもしろ、ということなのだろう。……休ませて欲しいのだが。
「この力で、今日だけは君たちに幸せな日常を体験させてあげてほしいっていうのが、ちょっとした事情でこの世界に訪れた時に『出雲』の人たちから頼まれたことだよ」
「ちょっとした事情?」
「ああ。そっちは個人的なことだから気にしないで良いよ」
錫杖が現れる。神剣の気配。おそらくそれが「日常」なのだろう。紗蘭、と杖の頭についた
「え、は……?」
「な、なんですかこれー!?」
『あはは、今から一時的に君たちの意識を幸せな日常……要するに夢の世界にご招待ってこと。それを発生するにはこんなことをする必要があるんだよ』
すでにリアンの声は遠く、俺たちにははっきりとは届かない。強烈な眠気が俺たちを襲っている。もうすでに閉じかけている視界にはユーフィーが目をこすっている姿が見える。だけどこの言葉を信じるなら、これは何も問題ないはずのことで。
この『出雲』の奥深くにまで入ってきているということは少なくとも敵ではないのだろう。そうでなければ戦闘が発生しているはずだし。そこまで考えたところで思考を放棄。もう我慢する必要はないはずだ。
「おやすみ……」
『うん、おやすみなさい二人とも。…………それにしてもこの状況、聖賢者に知られたらどうするつもりなんだろう。あの人親バカだって噂があるし』
最後に何かつぶやいていたような気がしたが、何を言っていたのかまでは聞こえなかった。
目を覚ますと、そこは『出雲』の一室のまま。何も変わったような様子は見る限りは存在しない。
「……どういうことだ?」
リアンの言葉を信じるならこれは「幸せな夢」だということ。「戦闘を行うことが日常となった人物」に対して、それ以前の平和だったであろう「理想の日常」を経験させるのが能力なのだろうということで……
「ああ、いや、そういうことか」
そう言葉にして、そしてふと、気がついた。隣にユーフィーが眠っている。彼女が起きたら今思い浮かんだ仮説を確かめてみれば良い。そんなことを考えて、暫くの間はこの部屋で待つことにした。
オリジナル神剣とオリジナルエターナル。ヴェンデッタさんは数話前で言ったサードにちょこっと出てきた人。