聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第三話:神剣使いとしての彼はどうなったのか

『契約者よ』

 

「なんだ、バカ剣」

 

 ボディーガードを行うことになってから数日。森の中で素振りを行っている隼也に「平衡」が話しかけた。

 

『この世界には我が同属は存在しない。留まる意味はないと思うが』

 

「この世界に存在しないならそっちの方が好都合だろ」

 

『なに?』

 

「この世界では襲われることなく、まともに戦えるようになるまで自由に鍛錬できるってことだ。……俺たちは、最後には同じように契約した人間と殺しあうんだ。その時までにできることはしておくべきだろ」

 

『ふむ……そういうことか』

 

 考える時間を得たことで、そこにまで考えが至ったが、それでも帰りたいのだからと止まることはない。

 故に、同類と出会った時に戦えるように、殺せるだけの実力をつけるために、この世界に留まり、訓練を続けていた。

 

「っと、ミニオンか」

 

 感知した気配に、その地点に向かって走り出す。

 泊めてもらっている以上はそのぶんの働きはしないといけない、と。そう考えている。

 

「ま、死ね」

 

 発見と同時に呟き、加速して斬りかかる。

 

 肩口から斜めに、敵の体をバッサリと斬る軌道で振り切られた剣は、動揺を隠せないミニオンの肉体を切り裂き、その体を構成するマナを吸収する。

 直後動揺から立ち直ったミニオンが放つファイアボール。それを青属性の使えない隼也はバックステップで飛びのいて躱し、黒属性のミニオンのダークインパクトに飲み込まれた。

 

「っ!」

 

 神剣魔法に詠唱は存在するが、だからと言ってそれを使わないと魔法が使用できないわけでもない。詠唱ありより威力は下がるとはいえ、無音のダークインパクトは確かに衝撃を与え、隼也の動きを止めた。

 

「舐めんな!」

 

 けれどダメージは存在しない。黒マナを爆発させた一撃は、わずかに地面を揺らしただけに終わり、攻撃そのものはとっさに纏った『威霊の錬成具』と呼ばれる防御技へと変貌したマナによって無効化された。

 

「マナよ、天命の元に朽ち果てよ」

 

 流動するマナが、詠唱に応じて隼也の元へと集う。

 

「デッドエンド!」

 

 命すらも塗り潰す黒マナの渦が生み出され、特に位の高くない神剣しか持たないミニオンたちはそれに飲まれて消滅していく。マナの量と威力は比例しているが、今の隼也が使える中でも最上級のこれは、今この場に集っているミニオンを倒すためだけに使うのは些か過剰な火力であった。

 

 けれど代わりに、それによってミニオンたちは消滅した。村の護衛としての役割は、確かに今日も果たされたのだ。

 

『動きとしてはまだまだだな』

 

「知ってるっての……」

 

 倒した直後、周囲にいないことを確認して最初に口を開いたのは「平衡」。その内容は隼也へのダメ出しで、隼也もそれは理解できていたのでボヤくだけで否定はしない。

 

『それに、我の使い方としても未熟というほかない』

 

「選択肢ありすぎるんだよお前」

 

 「平衡」

 

 その永遠神剣は混色の属性だった。基本的には黒と白。少し弱くはあるが残りの属性の魔法を使用することもできて、戦闘慣れしていない隼也ではどれを使っていいのかわからない。だから、今はまだ黒属性しか使っていない。

 

『だが……そう遠くない時期に出立できるようにはなるだろう。……精進せよ』

 

「珍しいな、お前が褒めるなんて」

 

『最低限の実力、と判断すれば契約者のそれは十分に達している。……数日の実戦がいい方向に働いたようだな』

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 そこからさらに数日。ボディーガードとして過ごしていた中で、「平衡」からも「これならある程度は戦える」とお墨付きが出たことで隼也はこれから別の世界に飛ぶことになった。無論、それを伝えボディーガードの件も終わりにすることは承認を得ている。

 

「そういや、どうして俺はミニオンを殺して罪悪感を覚えないんだろうな?」

 

 世界から飛び立つ直前、ふと思い至って隼也は尋ねる。

 

 最初の一回は自分を巻き込んだ原因を殺せるということでそこまで思い至らなかったが、二度目三度目の時点では落ち着いていた。その普段の調子で殺せる自分というのが少し恐ろしくて、自分が人でなしなのではないかという不安から隼也は「平衡」に尋ねてみた。

 

『それは我の能力だな』

 

「能力?」

 

 特に大した答えが返ってくるとは思っていなかったために、さらりと答えを出した「平衡」にただただおうむ返しで問う。

 

『そう、我の能力はどんな状態でも心の均衡を保つこと。殺害の度に罪悪感に苦しんでいては戦いの邪魔にしかならないからな』

 

「ふーん。便利だしいっか。……で、移動ってどうやるんだ?」

 

『無論、こうやるのだ』

 

 その言葉とともにどこかに吸引されるような……この世界に最初に来た時と同じような気配を隼也は感じた。

 いや、それだけではなく、気配だけではなく物理的にすら浮いている。そう気がつくのに時間はかからなかった。

 

「は……ちょ……まさか!」

 

『行くぞ!』

 

「どわああああああああ!?」

 

 そのまま、異常な速度で本来ならありえない上への垂直な移動を行い始める隼也。

 予想外のそれに情けない叫びをあげながらも、隼也の肉体はある一定の高度にまで達したところで消えた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 世界から消えた後、「平衡」と契約したような空間に隼也の姿はあった。

 

『さあ、契約者よ。どこか行きたい世界はあるか?』

 

(〜〜〜〜っ!!……はぁ、そんなこと言ったって……俺にこの葉の違いなんてわかるわけねーだろ)

 

『ならば、こちらで勝手に選ばせてもらうぞ』

 

 そんな中、「平衡」は何事もなかったかのように行き先を尋ねる。最初は何かを言おうとして、何かを諦めたのかため息をついたあとに硬い声で返事をする隼也を知ったことではないと言わんばかりに淡々と「平衡」は告げる。

 

『……あの世界にするか。同属の気配をかすかに感じ取ることができた』

 

(ってことは殺し合いになるのか……)

 

 少し目を伏せて隼也は言う。

 

『否、まだそこまではわからん。あるいはただ安置されているだけで、簡単に砕くことができる可能性もある』

 

(……そうであることを祈るけど)

 

『では、行くぞ!』

 

 その言葉とともに、今一度隼也の肉体は引っ張られる。

 数瞬後には、その空間は静けさを取り戻し、隼也の姿もまた、最初の時と同様に消え失せるのだった。




最初の世界はただのチュートリアル(ミニオンとの戦闘だけ)なので端折る。
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