聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第四話:なんとなく、よくわからない出会い

 世界をめぐる。すでに隼也は最初にたどり着いた世界から、いくつかの世界を巡っていた。

 

「これで、二つだよな……一体いくつあるんだ、お前の同属」

 

『知らん。自分の肉体が砕けたタイミングで、そんなものを数えきれると思うか?』

 

「それもそうか……」

 

 宇宙らしき空間を漂いながらも会話する隼也。その声には呆れが多分に含まれており、ため息すらつく始末。

 

「ん? ……ってかそれって、『お前が回帰するまで』って契約だと、俺の世界が見つかる方が早いんじゃねーの?」

 

『わからん。回帰するだけであれば、全て破壊する必要はない。その姿を保てないほどにバラバラに砕かれたことで今の我になったのだ』

 

 ふと気になったことを尋ねると、はいともいいえとも取れる返答がやってきて、なんとも言えない表情になる隼也。

 

「……はあ。とりあえず、次の世界に行ってみるか」

 

『うむ』

 

 ため息をつきながらも文句を言わず、その言葉が終わるとともに、隼也の体が周囲に存在する葉──分枝世界に向けて引き寄せられた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 慣れ親しんだように、世界に入ると空中に出たにも関わらずに騒ぐことなく平然と降りていく。

 

「っ!?」

 

 けれど突然森の方から飛んでくるレーザーに、咄嗟に身を翻したことで躱したが、驚きの表情を隠すことができない。

 

「いきなり、何が……」

 

『どうやら、同属の攻撃のようだぞ。……喜べ、ついに実戦だ』

 

「どこに喜ぶ要素があるってんだよ、バカ剣!」

 

 叫びながら、赤属性のマナを纏ったレーザーが飛んできた方向を確認する。

 

「あれって……うぉっ!?」

 

 一体、なんだという言葉は宙に消える。彼の視界に入ったのは、ピラミッドのような建物。そこから膨大なマナを吹き出しながら、攻撃が連続で飛んできた。

 

「クッソ、この敵。どんだけマナ持ってんだ!?」

 

『少なくとも、あのピラミッドから撃ってきているのだから、そこのマナを自由に扱えるのではないか?』

 

「それぐらいわかるっての! あそこまでいくぞ!」

 

 レーザーでの狙いがつけづらいようにするために森の中に降りていく。森の中では地震が発生していたが大した大きさではなく、赤属性の神剣魔法が炎であることが一番の懸念ではあったけれど、それでも狙われ続けて近づけないよりはマシだと降りたのだ。

 

「一気に駆け抜ける!」

 

 これまでのマナとは違う、精霊光が隼也の元に集っていく。

 

「マナよ、時を駆け、戦場を疾く走る疾風となれ……!」

 

 走りながら、隼也は詠唱を始めた。

 精霊光の属性が、闘争を求めるものから変貌する。

 疾走を助ける一点においてのみその力を発揮するために、足元に集うその精霊光に対して隼也が名付けた名前は──

 

「アクセラレーション!」

 

 呪文を口にするとともに、名前の通りに加速する。

 

 ピラミッドまで直線距離で一キロ。さらにそこに森という条件が加わって、永遠神剣と契約しているとは言え即座にたどり着くなど不可能。

 

『気をつけろ、契約者よ!』

 

「言われるまでもない!」

 

 けれど加速を得たことによって、飛んでくる炎の雨(フレイムシャワー)を潜り抜けることすら可能となる。

 

 なったのだが──

 

「マナよ、天を覆う災禍を打ち消せ! アイスパニッシャー!!」

 

 青属性のパニッシュスキルを起動して、その炎の雨すら消しとばす。

 フレイムレーザーならともかく、フレイムシャワーならば問題なく打ち消すことができる。

 少なくとも、「平衡」が扱える青属性のスキルであれば、それぐらいのことは可能だった。

 

 度々発動される神剣魔法を打ち消し、加速した己の身をもって攻め込む。

 

 マナの消費、敵の居城。どう考えてもそのまま飛び込むのは阿呆としか言えない所業ではあるが、己と敵のマナの総量を考え、この世界の地理についての知識の差を考え、あらゆる要素から「敵を表に出すことは不可能」と判断したことで、(最善)の状態のまま戦いに持ち込むのが最善の選択肢だと。

 

 そう「平衡」に告げてピラミッドに向けて飛び込んだ。

 

「邪魔だ、死ねっ!」

 

 ピラミッド内部には多数のミニオン。それを加速した肉体で一度も止まることなく斬り捨てながら上層を目指して走る。

 

『わかっているだろうが……!』

 

「こいつら全滅させないと後ろから狙われるってんだろ!……だったら!」

 

 黒きマナを集結させる。渦巻くそれは重厚な刀身に集い、そのまま衝撃波として放たれる。それはミニオンたちを消し飛ばし隼也の通る道を作り出した。

 

 そうして走り、数分後。加速している状態の彼には長いことに、それだけの時間をかけて頂上にまでたどり着いた。

 

「あんたが、さっきからフレイムレーザーを撃ってきてた奴?」

 

 そう聞く隼也の声は、けれど確信に満ちていて。眼前の男が持つ永遠神剣に意識を向けていた。

 

 美男子と呼ばれるであろう顔の造形も。紅く、燃え盛るような髪も。その情熱を体現したような髪とは真逆の、凪いだ漆黒の瞳も。隼也には関係なく、またその男にも隼也の容姿は関係なかった。

 

「……『光をもたらすもの』所属、永遠神剣第五位『煌舞』が担い手、煌舞のイスタ」

 

 男が名乗る。籠手型永遠神剣に赤マナが集っていく。その瞳には敵意だけがある。

 

「永遠神剣第四位『平衡』が担い手、平衡のシュンヤ」

 

 隼也も名乗る。大剣型永遠神剣に青マナが、隼也の全身には白属性のマナが昇華された精霊光が。

 

『こやつの持つ神剣。我の同胞ぞ』

 

(だったらとっとと回収しないとな)

 

 隼也は「平衡」の言葉に心の中で返し、イスタと隼也は同時に駆け出した。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 戦闘が開始した直後、最初の一手はすでにアクセラレーションが解けていたとはいえ、神剣による肉体強化の倍率の差で隼也になるかと思われたが、実際にはほぼ同時になった。

 

「っ!?」

 

「戦闘経験はこっちの方が上みたいだな。……これなら、この世界が滅ぶよりも先に貴様を殺せそうだ」

 

(はっ……? どうなってんだ……?)

 

 その現実と、イスタの言葉に心の中で動揺する隼也だが、さすがに戦闘を幾度か繰り返していたことはあり、動きを止めれば殺されると理解して走り出す。

 

「荒々しい……全く洗練されてない動きだ」

 

 ダメ出しをするかのようなイスタの籠手に覆われた拳が飛んでくる。

 それに合わせるようにして「平衡」を振るったところで、ぶつかり合った衝撃が肉体に浸透してわずかに動きを止める隼也。

 

「緩い」

 

「が……っ!」

 

 そこに、一撃が飛んできた。

 

(こいつ……武術かなんかやってんのか!? ……ってことはさっきのあれも武術の賜物とかか!?)

 

 跳ね飛ばされながらも、彼のほうが戦闘を行う上では上手なのだと隼也は理解する。

 理解したところで戦況が変わるわけではないが、理解不能な動きをする敵がいる、という考えから解放されたことで、動揺は少なくなった。

 

(だったら!)

 

 迫る豪腕を少々強引に、転がるようにして躱す。まともに受けては先の二の舞にしかならない。隼也のそう判断しての回避は功を奏して、体勢は悪いままながらも攻撃を放つ余裕を得た。

 

「死ね」

 

 放たれた一撃は心臓を逆袈裟に狙うもの。それを、攻撃に使った右腕とは違う、左腕に展開された籠手でイスタは受け止める。

 弾かれた勢いに乗ってそのまま回転しての切り払いも、これは右腕で受け止める。

 

「遅いぞ」

 

「がっ──」

 

 そして、動きが止まったところに腹に向けて放たれた拳が、剣を引き戻すことも叶わずに直撃した。

 

『マナよ、天龍の息吹と化して、炎熱の海を生み出せ──』

 

「──ブレイズファイネスト!」

 

 吹き飛ばされ、錐揉み回転のような状態になりながらも永遠神剣が詠唱を行い、魔法陣が剣を通る。

 回転しながらも、確かにタイミングを見極めて、イスタを向いた瞬間に剣に集った赤属性のマナを一気に解放。

 

「っ!」

 

 イスタは青属性の魔法を使えないのか跳びのいて躱すが、その一手により隼也が立て直す時間は得た。

 

(いってぇ……)

 

 立ち上がり構える。今も殴られた腹部がじくじくと傷んでいるが、隼也はそれをおくびにも出さずに、ダメージなどないかのように振る舞う。

 最初と同じような立ち位置に戻り、けれど今度は動きが発生しない。

 互いにどう出るか悩み、動かず時間だけが過ぎていく。

 

(とっとと決めるぞ、バカ剣!)

 

『言われずとも。このようなところで消滅するつもりはない』

 

 けれど、イスタの言葉の通りであれば、世界崩壊までのカウントダウンがすでに切られているということ。それが真実かどうか隼也にはわからない。わからないが、わからないからこそ焦る理由になる。

 

「マナよ、兵を鼓舞し、新たな風を巻き起こせ!」

 

『インスパイア!』

 

「並びに──」

 

『アクセラレーション!』

 

 身体強化を行い、そのまま隼也は駆け出す。彼の狙いは永遠神剣一点のみではあるが、格上との戦闘で武器だけ破壊などという幻想を抱くほど愚かではない。

 神剣の素の肉体強化に加え、筋力、俊敏を強化されての疾走。初動はマナを練った分だけ隼也が遅れたが、その差を押しつぶすようにして、次の瞬間には未だ距離を詰めるための動きをしていたイスタの目の前に出現した。

 

(速っ……!)

 

「とっとと死ね」

 

「っ……!」

 

(これなら……いけるか……?)

 

 咄嗟の防御。けれど筋力が強化された状態の隼也の一撃に、マナを練りこんでいない防御が通用するわけもなく、敢え無くイスタは吹き飛ばされる。

 

 その隙に、隼也はマナをかき集め始めた。

 

「灼熱よ、天を焦がし浄滅せしめよ」

 

 黒属性は相手への嫌がらせ。緑属性は味方の回復などの援護。青属性は敵の攻撃の妨害。白属性は身体強化など多様性に富んでいる。そして赤属性は攻撃という一点におけるスペシャリスト。

 攻撃のために集められた赤属性のマナが紅蓮の炎となって空気を焦がす。威力を高めるために呼び出されたこの地に集うなけなしの緑属性のマナも、雷となって剣に纏わりつく。玉のような汗が頬を伝う感覚を理解しながらも、隼也は駆ける。今彼が持つ技の中でも最大級の破壊力を持つ一撃をイスタに叩き込み、彼の命を終わらせるために。

 

(そう簡単にやられるものか……! 死ぬのは貴様だ!)

 

 対するイスタも起き上がりながら籠手に赤マナを集中させる。左腕全体を覆うほどの火炎となったそれに頓着することなく、上半身を捻り、勢いをつけての射出を行うための姿勢に。

 

「炎熱よ、地を満たせ」

 

 世界崩壊まであとわずかという現状に焦り、決着を急ぐ二名。

 

「……!」

 

 けれどイスタは何かに気がついたかのように咄嗟に飛び退く。すると困るのは隼也の方。元から相手も駆けてくることを前提として剣を振ったがために、その剣は空振りする。

 

「なっ、てめ……!」

 

 飛びのいた先を見ると、そこには背後に謎の、銀のカーテンらしき何かを展開したイスタの姿が。

 

「もう時間のようだな」

 

「あん……?」

 

「この分枝世界も滅ぶ、ということだ。もとより、滅ぶ直前のタイミングで貴様が入ってきたのだからな。貴様を倒すのは不可能ではないだろうが、それで死んでは元も子もないのでな。……決着は次回に持ち越しだ」

 

「ちっ……だったらとっとと消えやがれ」

 

 言われずとも、と言いながらカーテンをくぐり世界から消失するイスタ。

 

「バカ剣、俺らも行くぞ」

 

『わかっておる』

 

 それを見届けて、地震が激しくなってきていた世界から飛び立つために隼也は「平衡」に声をかける。それに「平衡」も返事を返したことで、隼也の姿も世界から消える。

 

 後には、ただ地震によって大地が崩壊して行く世界だけが残るのだった。

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