聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第五話:嫌いな奴に再会したいとは思わない

 イスタという神剣使いと出会ってから、さらにまた隼也は数個の世界を巡る。

 「平衡」の同属である神剣が存在する世界。日本に近しい、殺し合いが日常ではない世界。

 いろんな世界を回る中で、隼也は一つのことに気がついていた。

 

 自分は弱いのだ、と。

 

「いや、まあ俺が戦いを始めたのはつい最近だからおかしなことじゃないんだけどな」

 

『だが、だからと言ってそれを言い訳にしていいはずがない』

 

「わかってるよ。……にしても、この世界はどういう世界なのかね?」

 

 今の世界も、数個前のイスタと戦った世界に似た森の中に降りて。そしてしばらくの間その場に留まっていた。というよりも隼也の視界の中には木々しかなくて、どこにどう進めばいいのかわからないがために立ち往生していた。

 

『知らん……が、どうやらこの世界には多数の永遠神剣があるようだぞ』

 

「は? 多数ってお前の同属はこの世界で徒党を組んでんのかよ……どこだ?」

 

『いや、徒党を組んでいるのは間違いないようだが。……この世界に存在するのは我が同属ではない永遠神剣だ』

 

「ふーん。なら戦う必要はないのか」

 

 呟いた言葉には否定が入るが、かと言って彼からすれば永遠神剣など関わらなくてもいいのであれば関わりたくもない厄ネタ。無理矢理にその神剣使いたちにとらわれる可能性を考えると、そこには近づかないようにしたいので、隼也は「平衡」に尋ねた。

 

『徒党を組んでいる者たちはここから東に離れたところ。そして、それとは別に一人だけで存在する者はここから西に離れたところに一人いる』

 

「関係ないなら関わる必要もないよな」

 

(飯とか食い終わったらとっとと出て行こう……!)

 

 そう決意して、隼也は歩き出す。この世界に入ったのも、言ってしまえば彼が個人で動き、拠点も持っていないからこそ。

 物資など最低限以上を持てるはずもない彼としては、そこらへんの木の実を永遠神剣の担い手としての耐性で強引に食べたり、あるいはミニオン撃退によってどこかの村人を助けたりしてボディーガード的な仕事をすることでしばらくの間の飯にありついたり。そんな生活をしているのだ。

 

「まっ、この世界には人間いないっぽいし……ん?」

 

 歩きながら独り言を呟いていた隼也は、ふと立ち止まる。

 

「ちょい待て、『平衡』、さっきお前『多数の神剣反応』とか言ってたよな? っていうか徒党を組んでる奴がいるって」

 

『ふむ、言ったが?』

 

「ってことは人間がいるのか!?」

 

『おそらくな。……永遠神剣の担い手が必ずしも人間とは限らんが、それでも意思疎通が叶うかどうかはともかくとして知性体が存在することには間違いない』

 

「危険かもしれないけど、行く価値はある……か?」

 

『向かうのか?』

 

「ああ、神剣そのものには関わりたくないけど、一人で生きていけない以上はコミュニティが存在するはずだ」

 

 首を傾げながらも前に前にと進んで行く。「平衡」と話をしたことでその神剣の持ち主に今の状態なら接触する価値があると判断して神剣の反応がする方向へ向かっているのだ。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「ったく、なんで神剣使いが迷い込んできてるのさー」

 

「しょうがないだろ、こっちはこの世界に来たばかりなんだ。この森が精霊のものだっていうのも知らないんだよ」

 

 その結果、隼也は今、一番近くにあった神剣反応の持ち主であるルプトナという神剣使いに連れられて、人間のいるという場所にまで連れていかれようとしていた。

 

「長老たちのいう『災いをもたらす者』かと思ったから全力で排除するつもりだったのに、全く無関係なただの旅行者だなんて」

 

「悪かったな、ただの旅行者で」

 

「まあいいさ。さっきも言ったけど」

 

「わかってるって。お前に連れてこられたことは内緒にしろってんだろ」

 

「そうそう」

 

 そう言って、ルプトナはとある一点を指差した。

 

「ほら、ここをまっすぐに進めば人間が住んでるところにたどり着く。あのでっかい木が目印だからな」

 

「サンキュー」

 

 隼也はそう言って走り出す。それを見送ってからルプトナも反対方向……自分とも隼也ともまた違う神剣反応の持ち主……彼女がいうところの『災いをもたらす者』がいると思われるところに向けて走り出すのだった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 しばらくの後、ルプトナは災いをもたらす者ジルオルの転生体である望たちとともに、次元を移動する能力を持つ次元鯨ものベーに乗り移動することになった。

 

「そういえば、シュンヤはどこにいるの?」

 

 そしてそこで、ルプトナがふと思い出したように発した言葉は、物部学園の生徒たちにとってはとても大きな言葉だった。

 

「ちょっと待て!」

 

「ひゃっ!?」

 

「ルプトナは隼也のことを知ってるのか!?」

 

「え……うん、知ってるっていうか、同じ制服着てたしノゾムたちと一緒にいるんじゃないの? ……っていうか近いよー」

 

「隼也が生きてる……」

 

 ルプトナの抗議は届かず、望は呆然と呟いた。直後、突如走り出し、生徒会室に向かう。

 

「先輩!」

 

「そんなに焦ってどうしたの、望くん?」

 

 勢いよく飛び込んできた望に、沙月は驚きながらも尋ねる。その場には沙月以外にも、沙月が属する勢力『旅団』のメンバーであるタリアとソルラスカ、そして物部学園生徒たる永峰希美がいたが、望はその三人には目もくれない。

 

「隼也が生きてるって! ルプトナが、俺たちが来るよりも先に隼也と会ったって言ってたんです!」

 

「隼也って……御堂くんのこと!?」

 

 名前で言われたことで、そこまで仲良くない……というよりも一度も話したことのない相手だからか理解が一瞬遅れた沙月だったが、望の態度からそれが誰なのかを理解して驚きの声をあげた。

 

 御堂隼也。

 

 それは、ものベーに乗っている物部学園生徒にとっては忘れたくても忘れられない名前。

 学園がミニオンに襲われ、『剣の世界』と彼らが呼称する世界に降り立った時に唯一消えていた……死んでしまったと思われた生徒。

 それにより『剣の世界』に到達してからしばらくの間は、クラスメイトや神剣使いは落ち込んでいたのだが、今『生きている』という情報が入ったことにより、最初からいた三人が沸く。

 

「本当なの、望ちゃん!?」

 

「ああ! ルプトナがこんなことで嘘言うなんて思わないし!」

 

「そもそも、ルプトナが『隼也って名前の生徒が物部学園にいる』ってことを知ってるのが証拠よね!」

 

「でも、それなら確かに、まずはその生徒を探さないとダメよね。その生徒は世界を渡ることなんてできないだろうし」

 

 永遠神剣の所持者となったことで分枝世界間の移動をできるようになったことを知らない面々は、この世界にもうしばらくの間留まることを決定する。

 

「意味ないと思うけどー?」

 

 しかしそこにルプトナもやって来て、冷や水を浴びせる。

 

「なんでだよ!?」

 

「うわっ! ……だ、だってもうあいつの神剣の気配この世界からしないもん!」

 

「神、剣……?」

 

「うん、そうだよ。あいつ、神剣と契約してた」

 

 全員が驚愕する。一般生徒だと思っていた相手が神剣使いだったことに。

 

「でも、それならいなくなった理由も決まりね」

 

 さらにタリアも言葉を紡ぐ。

 

「永遠神剣と契約している相手が、ミニオンに襲われたと同時に姿を消した。つまり、狙われる理由があるか、あるいはそいつがこの学園に潜り込む理由がなくなったか」

 

「あいつが、そんなことする人間なわけないだろ!」

 

「私はそいつのことを知らないし、そもそも友人やってて神剣使いだった相手が裏切る、なんてのは暁絶って前例があなたの中にはあると思うんだけど?」

 

「そ、それでも!」

 

 冷静に考えればタリアの言う通りなのだが、望は認めたくないと言うようにどうにか否定の言葉を探す。

 そんな望の姿にため息をつくタリア。今この場においては『同じ学校の仲間』というカテゴリに会った面々よりも自分の方が冷静でいられそうだと。

 

「とりあえず、私たちの本拠地に行ってこの学校の生徒たちは元の世界に返す。そのあとでその生徒を探し出して話を聞けばいいでしょ」

 

「そう……だな」

 

 落ち込む望。そしてその落ち込みの原因である隼也はと言うと──

 

 

 

 

 

 

 

 別の世界で、一人の少女と相対していた。

 

『契約者よ、何があろうとこの者と戦おうと思うなよ』

 

(は……? いや、戦うつもりはないけど、お前がそんなことを言うなんて珍しいな)

 

『理由は我にもわからん。……”この方に勝ち目がない”という理由でもない。そう、契約者らの言葉に合わせるなら、”この方と戦うことが恐れ多い””この方に逆らいたくない”と本能がそう感じている』

 

(この子が……?)

 

 自分の青っぽい白髪とは違う純粋な、蒼穹をを思わせるほどの美しさの髪を持ち、黒っぽい青目を己に向ける少女に訝しげな、けれどなぜか敵意を抱けないことに疑問も持たずに隼也はただその少女と見つめ合う。

 

(ゆーくん)

 

『うん、ユーフィー。言わなくてもわかるよ。なんとなく、この人から懐かしい感じがする』

 

(やっぱりそうだよね? なんだか一緒にいたくなるような……)

 

 少女もまた、見つめ合いながら己の持つ神剣と会話をしていた。()()()()()()()()()()()()()()()という、己が両親に抱いた感情と似ているがまた異なるその謎の感覚を正しく示す言葉を得られずに、結果として二人ともそこから先の行動を起こす指針がないために何もできない。

 ただ、お互いに敵対するつもりはない、ということだけが二人の間の共通認識として、言葉を一切交わしていないにも関わらず存在していた。

 

「え、えっと、その、まずは自己紹介しませんか?」

 

「そ、そうだな……」

 

 少女の言葉に、隼也も頷く。

 隼也が頷いたことで、少女は花咲くような笑顔を見せて永遠神剣を顕現させた。

 

「あたし、ユーフォリアって言います。こっちはゆーくん。永遠神剣第三位『悠久』です。よろしくお願いしますね、おにーさん」

 

 

 

 後に、隼也は語ることになる。

 

 永遠神剣というものと出会ってからの日常で、もっとも幸運だったことを一つあげるなら、それはユーフォリアと出会ったことだと。

 そう断言できるほどの何かを隼也に与えることになるとは、『幸福感』を意味する名を持つ少女(ユーフォリア)も、そして隼也も、今はまだ理解することはないのだった。

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