ユーフォリアと出会ってから、なぜか隼也は彼女と行動を共にしていた。
「おにーさん、次はどこに行くんですか?」
「んー、とりあえず適当に回ってるだけだしなぁ……」
ユーフォリアは確かに隼也よりも強いが、少々行動を共にしただけで、隼也は彼女とは『合わない』ということを理解していた。
ユーフォリアという少女は、単純にいい子なのだ。それこそ、最初の自己紹介の時に隼也が『自分の世界にいた時に何かに巻き込まれて、今は元の世界に戻るために旅をしている』といえば、探すのを協力する程度には。
それが、隼也にとっては枷となっていた。
イスタとの戦いから、隼也が学んだことの一つとして『存在している世界が滅びれば、神剣使いだとしても死んでしまう』ということがある。よって、それ以降は「平衡」から同属が存在するということを聞かされた場合は、まずは世界を滅ぼす仕込みをしてから、相手を焦らせて実力を発揮させないという手段をとっていた。
けれど、ユーフォリアがいる以上は、そんな手段を取れば彼女が敵に回る可能性が高いということも理解しているせいで、真っ向からの勝負を挑まざるを得なくなる。
けれど、ユーフォリアという少女がこの時間樹内部では制限がかかっているとはいえ強すぎることもまた事実であり、その力を借りられる、彼女の手で訓練をつけてもらえるというメリットも考えた結果、今の隼也は彼女と行動を共にしている。
ただ、これらの理由は彼にとっては小さいものだ。
最も大きな理由は、最初に出会った時に感じた安心感。そうして共に過ごしていると感じる心地良さなどからつまり、彼女が隣にいないとだめだ、というような感情を抱いてしまったことにある。
「それなら、次はあそこに降りませんか?」
「別にいいけど……」
だから、今も仲良く二人揃って降りて行く。未だに元々の世界というものは見つからないが、『合わない』はずの少女と共に旅をするのは隼也自身、理由がわからないにも関わらず、生まれてこのかた感じたことがない懐かしさと心地よさを抱いて、それはそれでいいかな、と思うようにはなっていた。
「御堂……だったか? 貴様、なぜこんなところにいる?」
そして入った直後、隼也は暁絶に敵意を向けられ、さらには神剣も突き付けられていた。
「……このあいだのミニオン襲撃でなんか宇宙っぽい空間に放り出されて、その結果永遠神剣と契約して生き延びたんだよ。今は帰るために手当たり次第に葉の中にある世界を確認してるだけだ」
周囲は枯れた大地。マナの存在を感じることはできない。そんな状況下で、暁絶の持つ永遠神剣が刀型であること……刀という武器を扱うのに必要となる技量を知っていたことと、この世界について詳しそうであることから隼也は戦うのは得策ではないと、真実を暴露する。
「待て、永遠神剣と契約、だと……? 貴様、転生体ではないのか!?」
「なんだよ、その転生体って……」
「……知らないならそれでいい」
そう言って沈黙し、永遠神剣に触れていた手を離し、その永遠神剣を一時消滅させる。
「っていうか、あなたはそもそも誰なんですか! いきなり神剣を突き付けたりして!」
そこで、そこまでは話し合いの体が成っていたために永遠神剣を出しながらも口出ししなかったユーフォリアが、戦闘にはならないと判断して永遠神剣を手元から消して、「私不満です」と言わんばかりの表情で食ってかかる。
「うるさい、貴様の質問に答える義理はない」
「ぶー! おにーさん、あたしこの人嫌いです!」
「はいはい、よしよし。……それで、暁」
「なんだ……?」
しかし絶の発言によってさらに不満をあらわにするユーフォリア。その頭を撫でながら隼也は絶を見つめ一つ尋ねた。
「無関係な俺に剣を向けたんだ。せめて一つだけ答えてくれ」
「俺の目的は教えんぞ。お前には関係ないからな」
「そんなのはどうでもいい」
「なに……?」
即座にどうでもいいと言われたことで疑問を浮かべ、「ならばなんだ」と言うような視線になり言葉の続きを促す。それを向けられた隼也は臆すことなく、どちらかというと声に変な感情が乗らないように、無理矢理に感情を抑えるような声を絞り出す。
「あの日、学園がミニオンに襲われた日。あいつらは何が目的で来たんだ?」
目には嘘を許さない、と激情が込められている。「神々の転生体」という特別がないただの人間だと思っていた隼也がそんな目をしたことに驚き、絶は息を飲む。
『マスター』
(わかっている。……誤魔化す方が面倒だな、これは)
絶の内側から声がする。けれど彼は驚くことをせずに、その声の言いたいことを読み取って隼也の質問に答えることに決めた。
「あの日、ミニオンたちが狙って来た理由だったな」
「ああ。ミニオンが襲いかかって来て、それを斑鳩先輩が迎撃して。さらに今は暁が神剣使いになってる。……ってことはいつもの四人組が全員神剣使いで、その中の誰かをあのミニオンたちは狙って来たんじゃないのか!?」
「……正解だ。あいつらは、望を狙ってやって来た。望の持つ、破壊神ジルオルの力をな」
「破壊神……」
「ジルオル?」
「…………」
「……はぁ。行くぞ、ユーフィー」
「おにーさん!?」
「こいつはこれ以上は話さないだろうよ」
「……はい」
隼也とユーフォリアの疑問の言葉に、けれど一つと言ったのだから、と黙して語らない絶。これ以上は無駄だと判断して、ユーフォリアを促す。
ユーフォリアは最初、本当にいいのかというような表情をしていたが、絶も隼也もこれ以上話すつもりはなさそうということを理解して頷いた。
「じゃ、これでサヨナラだな暁。もう二度と会わないと思うが。ま、元同じ学園の人間ってことで息災を祈っとくよ」
「ああ」
そうして隼也とユーフォリアはこの世界を去る。
「よかったのですか、マスター?」
それを見送った絶の横に小人が出現する。顔の横に浮かんでいたその小人は純粋な疑問を顔に浮かべていた。
「俺があいつを見逃したことが疑問か、ナナシ?」
「はい……マスターのことですから何か理由があるのだと思いますが」
「あいつは見逃しても問題ない。望がいたことがあの学園が狙われた原因だと聞いて殺意を漲らせてはいたが、だからと言って望をそう簡単に見つけられるはずがない。あいつの行動する先がわかっている以上、当たり前に考えて俺が出会う方が先だ」
「ですが……」
「それに、万が一奴が先に出会ったとしても、結局はただの人間が永遠神剣を握っただけの存在だ。破壊神としての力を徐々に復活させている今の望や、その周囲の神剣使いの敵ではない。……奴を殺せるのは、俺だけだ」
「はい、マスター」
そう断言したことで、小人──ナナシも落ち着き、頷いた。彼らが旅団の本拠地『魔法の世界』と呼ばれる世界で世刻望と出会うまであと──
宇宙の煌めきの中、隼也とユーフォリアは話し合っていた。
「それにしてもその望って人、とっても迷惑な人ですね。破壊神だかなんだか知りませんけど、神剣と契約していない人も巻き込んで学校で戦うなんて」
「ああ、そうだな。……そういえば本当に昔、希美含めて三人の家の関係でピクニックに行った時だったかに野犬を絞め殺してたのも、今になって思えば神剣の力を引き出してたのか」
「それなら昔から『自分が他人を簡単に殺せる力がある』ってわかってたってことじゃないですか!」
ユーフォリアが会ったこともない望に対して不平不満を口にする横で、隼也はかつてのことを思い出す。それを聞いてユーフォリアがさらなる憤りを口にしたことで、隼也も少しばかり怒りのボルテージが上がっていく。
「そうだな。あいつがいなけりゃこんなことには──」
『契約者よ』
(なんだよ、バカ剣)
「おにーさん?」
しかしそこで、「平衡」から言葉が入る。それに中断させられたことでユーフォリアがきょとんとしているが、それには気がつかない。
『契約者は我と出会ったことや戦いに巻き込まれたことに対して不満を口にしているが』
(戦うのを選んだのは俺だって言いたいんだろ)
『いや、我と出会わなければ、ユーフォリアと出会うこともなかったぞ』
(……それもそうか)
「おにーさんってばー!」
「おわっ! どうしたユーフィー?」
「返事してくれなかったじゃないですかー」
ゆさゆさと、何度呼びかけても返事がなかったので体を揺らしたところ、隼也は驚いて大げさな反応をする。それに対してむすっとしているユーフォリアだが、その瞳には何かあったのだろうかという心配の色も確かに見えて、隼也は一瞬言葉に詰まる。
「いや、あいつがいなけりゃこんなことに巻き込まれることはなかったけど、そうなるとユーフィーと出会うことはなかったと考えると、ただ『いなけりゃよかった』って言っていいものかと悩んでな。……まあ、今度会ったらぶっ殺すことに変わりないけど……」
「え……あ、あの、あたしに会えてよかったんですか?」
「ああ。ユーフィーと出会えたことだけはあいつに感謝してもいいかと思えることだぞ」
「えへへ……」
その言葉にユーフォリアは照れたように、はにかんで笑う。恥ずかしいことを言った自覚は彼にもあったが、だからと言って言った言葉を取り消すつもりもなかった。なにせ、その言葉に嘘はないのだから。
「なんていうか、うん、そうだな。ユーフィーが隣にいると心地良いってレベルじゃないな。むしろそばにいるのが当然というか、そばにいるのが正しいとかそんな感じに思ってる」
「あ、あう……」
なので、もうそれなら全部言ってしまえと半分ヤケクソで彼女と出会ってから思っていたことを口にする。それを聞いて、直球の、もはや愛の告白とすら取れてしまうような言葉を受けてユーフォリアは顔を真っ赤にして俯くのだが、けれど自分も気持ちをしっかりと言葉にしようと向き直った。
「あ、あたしもおにーさんに会えてよかったって思ってますよ! ずっと一緒にいたいって思ってます!」
けれど、彼女はそれが不可能であることも知っている。なぜなら隼也が契約している神剣は第四位。対してユーフォリアは永遠神剣第三位と契約し、永劫の時を生きるエターナルであり、そしてこの時間樹から去れば最後、その時間樹内部でのことは彼女の記憶以外には残らない。……どれだけあがいても共に生きていくことはできないのだ。
「えいっ!」
「っと、どうしたユーフィー?」
「えへへっ、なんでもないです!」
だから、最後のその時になるまで彼女は遠慮しないことを決めた。腕に抱きついて隼也を驚かせながらも、そのまま離れることをしない。
「なら、次の世界に行こっか」
「はいっ!」
二人の姿がその空間から消え失せる。また、別の世界に向かうのだ。本心を語り合ったことで縮まった距離とともに。
このユーフィーは「望たちと出会っていない」ことと「主人公が事件に巻き込まれたことで神剣使いとなって一人旅している」ことから、その事件の原因である『光をもたらすもの』も、