聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第七話:戦闘が日常となった悲しい現実

「おにーさん、おはようございます!」

 

「……おはよう」

 

 ユーフォリアと出会ってからの隼也は、彼女につけてもらっている訓練の厳しさもあって朝に弱くなった。

 この世界に入った時に「平衡」から同属がいると言われながらも、あるいはだからこそ厳しくなった訓練もあって、今日も今日とて眼をこすりながらも朝の挨拶をする。

 

「そしておやすみ……」

 

「え、ちょ、おにーさーん!?……わふっ!?」

 

 しかし、同じベッドで寝ていたユーフォリアが隼也を起こそうとして、その結果抱きしめられて抱き枕の代わりにされるまでがワンセット。

 彼女にとってもすでに慣れたことではあるはずなのだが、なぜか毎日のように焦っている。

 

(おにーさんの匂い……落ち着く……あ、あたしも眠く……ぐぅ……)

 

 直後、ユーフォリアも眠りに落ちた。

 二人の朝はこうして始まる。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「最大の力を、最高の速度で──」

 

 マナの哮りが大地を揺らす。

 加速(アクセラレーション)と鼓舞《インスパイア》、さらにそこに集中(コンセントレーション)まで重ねがけをしたことにより、隼也の戦闘は極限まで高められている。

 眼前に立つのは、この世界に侵入した時に感知した、「平衡」と同属たる永遠神剣の契約者。

 足裏で小規模なマナ爆発を起こして、爆風に乗る形で行われたスタートダッシュは加速の影響もあり神速のもの。

 隼也は、己より一回りは大きな神剣使いの懐に瞬きほどの時間もかけずに飛び込んだ。

 

「最善のタイミング!」

 

 振るわれる一撃は隼也が言葉にした通り、単純すぎるもの。

 けれど、だからこそ奥義と呼べるレベルにまで昇華したその一撃を防ぐのは並大抵のことではない。

 ユーフォリアとの訓練で学んだ、彼女の一撃の紛い物(デッドコピー)

 あの一撃と比べればまだまだな代物としか言えないが、隼也の扱える技の中で最高峰と言っていい代物だった。

 

「『礼賛』!」

 

 杖型永遠神剣、永遠神剣第五位『礼賛』の担い手たる男は、一瞬だけマナによる障壁を貼りその攻撃を防ぎ、あるいは躱すだけの時間を稼ごうとした。

 だが、格上(ユーフォリア)相手にダメージを与えるために、攻撃に収束させるマナの量が初期とは段違いに上昇した隼也にとっては、その咄嗟の防壁は紙屑同然だった。

 幸い、あるいは不幸なことは、その防御は本命のものではなく、最初から躱すつもりだったこと。

 結果として、その一撃は男の肉体に赤く細い線を刻むに終わった。

 

「っ──!」

 

(浅い……!)

 

 二人は同時に舌打ちする。

 片方は傷をつけられたことに、口に出して舌打ちを。

 片方はつけた傷が浅いことに、心の中で歯噛みする。

 けれどどちらも動きを止めることはなく、男は杖型であるが故の利点、マナを固めての砲弾を放つ。

 隼也は、魔法陣を展開してマナを収束させていく。

 

「オーラカノン!」

 

 放たれた弾丸は十六。

 その全てが、逃げ道を封じ、確実に隼也にダメージを与え、殺すために空気を震わせて進軍する。

 

「マナよ。オーラの奔流と変われ。激流となりて万象を我が眼前より押し流せ」

 

 隼也もわざわざそれを食らう義理はなく、目の前に白属性の魔法陣を展開する。

 インスパイア、アクセラレーション、その他の能力を強化するための白属性の神剣魔法とは違う魔法陣。

 赤属性(攻撃用)の神剣魔法と同様の、攻撃に関する技を放つための魔法陣と詠唱。

 神剣に集ったマナが凝縮され、ただの白から純白へと移り変わり、精霊光(オーラフォトン)へと変貌していく。

 そして、それらが魔法陣を通して一つの属性を得て、攻撃の型を手にした。

 

「オーラフォトンストリーム!」

 

 激流。

 

 そうとしか表現できないマナの流れが、弾丸を全て押し流してそのまま『礼賛』を持つ男に向けて突き進む。

 荒れ狂うマナの奔流は、放たれた時点で躱すという行動を許さない速度で、上への跳躍もその一撃の範囲を考えれば意味をなさない。

 

「お、オォォォォォォォォォォォ!!」

 

 咆哮、そして防御。

 

 考えるよりも先に、己の身を守護する、己の持つ、知る限りの絶対の防壁を展開する。

 この一撃を凌ぐにはそれしかないと考えるよりも先に判断してのその行動。

 もはや本能とも呼べる行動は、確かに功を奏した。

 

「ぐっ──!」

 

 確かに、防いでいる。

 けれどそれ以上の行動を彼が行うことはできず、離れていると言って空に飛んで行ったユーフォリアが戻ってくれば、その瞬間敗北するし、そうでなくとも、これを防ぎきった後の彼は一切のマナが残らない。

 後先考えていては防げないような一撃だった。

 

「オーラフォトン──!」

 

 だから、次の一撃に対して、その男は何もできることはなかった。

 

 マナの奔流が止み、障壁も消えていく。

 力なく「礼賛」を握った腕を下ろした直後、その先には白属性の魔法陣を透過しながらも形状が変化していく「平衡」を持った隼也がいる。

 持ち手も刀身も変化はなく、剣先から湾曲した白いマナの刃が生えた、死神の鎌に似ていながらも確実にどこか違う状態の「平衡」。

 それを後ろ手に構えて加速した肉体で駆ける隼也。

 空いている距離は最初の一撃によって空いた、神剣使いにとっては簡単な跳躍で埋められる距離だけ。

 

「スライサー──!」

 

 故に、当然のようにその距離は埋められ鎌と化した「平衡」の一撃を受ける。

 

「っ……! こ、んのぉぉぉぉ!」

 

 はずが、なぜか腕が動き、障壁は貼れないが「礼賛」を鎌と己の間に割り込ませ防ぎ、その勢いに跳ね飛ばされる。

 鎌という武器の特性上、引き戻して斬るよりもそのまま回転させて斬った方が早いと踏んだ隼也は、けれど己ごと回転することはなく、手首のスナップで「平衡」を回転させる。

 

「スライサー、二連!」

 

 直後、持ち手の部分からもマナが固形として顕現し、棒と、そして湾曲した刃として、鎌を成していく。

 その結果、回転した「平衡」の一撃は、二撃と化して同一の軌道を描き、死神としてその男の命を刈り取り、「礼賛」も砕いた。

 

「う……あ……」

 

 男は呻くだけ。

 急速に肉体がマナの霧と化していく。

 数秒も持たずにその肉体はこの世界から完全に消滅した。

 

「ふぅ……」

 

『ふむ。やはりユーフォリアとの訓練は汝に良き影響をもたらしたようだな』

 

(ん、ああ。そうだな)

 

 それを見届けてため息をついた隼也は、「平衡」から与えられた評価に頷くだけ。

 

(特に悪いことをしてない相手を殺したわけだけど、ユーフィーは何て言うやら……)

 

 どちらかと言うと、思考はユーフォリアに嫌われないかということを心配していた。

 なにせ、ユーフォリアは良い子であり、悪いことをした相手には容赦はしないものの、そうでなければ基本的には情けをかける子であることをちゃんと知っていた。

 そんな子に、特に悪いことをしていない相手を殺した姿を見せた、ということは嫌われる原因になるのではないか、ということを隼也は心配していたのだ。

 

「おにーさん、お疲れ様です」

 

「ユーフィー……? お前は俺があの男を殺したことになんか言ったりしないのか?」

 

 ちょこんと降りてきたユーフォリアはニコニコとしていて悪感情を抱いているようには見えない。

 それが隼也には解せなくて、ついつい口に出して尋ねて、直後しまったと思う。

 

「言いませんよ。だって、おにーさんも、あの人も、初対面なのに殺しあうことに合意してたってことは、それをしないといけない理由があったんでしょ?」

 

「いや、まぁ……あったけど……」

 

「だったら、それについて無関係のあたしが何か言うのはお門違いです」

 

「そっか……うん……そういうことならそれで良いよ。帰るか」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「そういえば、おにーさんの神剣ってゆーくんみたいに神獣……? っていうのはいないんですか?」

 

「神獣……ああ、ユーフィーの後ろにいつもいるあの二匹の龍か? あれって、『悠久』にだけいるんじゃないのか?」

 

 帰る最中、ユーフォリアからの言葉に疑問を浮かべる隼也。

 話の内容は『守護神獣』について。

 

「違いますよ? ゆーくんもこの時間樹に入るまでは神獣なんていませんでしたし」

 

「ってことは、『平衡』にもいるかもしれないのか……」

 

(その辺りどうなんだ?)

 

『ふむ……この時間樹で生まれた神剣はそもそもそういうものだろうが、我はこの時間樹の外から来ているからな。ユーフォリアにいることを考えれば我にも存在するのだろうが、これまでそれを出そうと思ったことはないからわからん』

 

「多分いるってさ」

 

「だったら、今度見せてくださいね!」

 

「おう」

 

 二人は新しい約束を交わし、歩いていく。

 もう数日過ぎれば、この世界から出ることになるのでそれよりも先には見せよう、と隼也は思う。

 おにーさんの神獣はどんな子なのか、とユーフォリアは神獣に想いを馳せる。

 

 どんな神獣が出てくるのか、と二人で話し合いながら、隼也の疲れもあってゆっくりとした歩調にはなりながらも宿にたどり着く。

 

「まあ、とりあえず今日は休まないと……」

 

「ゆっくり休んでくださいね!」

 

 宿の女将に二人は挨拶をして部屋に戻る。

 部屋に入るとユーフォリアは猫の着ぐるみパジャマに着替える。

 隼也も部屋の中にいるが、二人とも特に気にすることはない。

 『互いがそばにいることが当然』とすら思っている二人では、未だに試したことがないために誰も知らないが、おそらく一緒に風呂に入るという事態になったとしても特に気にせずに入るのではないだろうか。

 

「おやすみ……」

 

「おやすみなさい」

 

 隼也が眠りにつくと、ユーフォリアも同じベッドの中に入っていく。

 二人とも別々のベッドがあるはずなのに、二人がどちらともなく、あるいは同時に『わざわざ離れる必要もない』と思ったために、二人で一つのベッドを使って眠っていた。

 

(やっぱり……落ち着く……)

 

 ユーフォリアも時期に眠りにつく。

 二人は互いがいることで、これ以上ないほどの安眠を得られることを知っていた。

 だから、まるで本当の兄妹のように、あるいは恋人のように、二人は寄り添って眠るのだった。

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