「うわぁ……!」
キラキラした目でユーフォリアは眼前に広がる雪景色に感嘆の声を上げる。
「しばらくはここで休憩かな」
「本当ですか、おにーさん!」
「この間の謎の攻撃の療養ってことで降りてきたんだしなー。こんな平和っぽい世界なら、しばらくの間は休めそうだ」
喜びを隠せないユーフォリアに頷く隼也。
雪景色の中で子供達がミニオンに襲われることを想像していない顔で遊んでいることで、この世界は平和なのだと判断した隼也は、この世界にしばらくの間止まることを決めた。
二人がこの世界にやってくることになったのは、数日前ふよふよと分枝世界間を渡って、次にどこの世界に行くかを話し合っていた時に起きた出来事が原因である。
分枝世界を渡る最中、とある分枝世界から飛び出してきた一撃。
二人は知ることはないが、『魔法の世界』と呼ばれる場所で
絶対的な破壊の一撃であり、同時にそれが放たれるように仕向けた暁絶にとっては理想幹神と呼ばれる存在を殺すための手段の一つだったのだが、とある別の歴史ならその一撃は反射され、そして『魔法の世界』を滅ぼす一撃となってしまうものだった。
その歴史では、跳ね返ってきたタイミングで魔法の世界に入ったユーフォリアによって防がれるはずだったのだが、この世界では隼也とともに行動を共にしているためにそんなことは起きはしない。
代わりに、それが放たれた時に『魔法の世界』の近くにいた隼也とユーフォリアに当たりそうになり、それを二人が防ぐということになった。
今は、その時の疲労を取るためにこの世界にたどり着いたのだった。
「それにしても、この雪すごいな」
そっと手を開いて雪の結晶を受け止めてみると、積もっている雪に触れてみると、隼也の手のひらに乗ったその雪はすぐに溶ける。
『雪』という概念を体現したような雪。
隼也の生まれ育った土地では見たことがない、まるで漫画や小説に登場する、現実味のない雪だった。
故に、隼也はただただ感嘆することができるのだった。
「ほら、行くぞユーフィ……おい、ちょっと待て。お前いつの間にそんな服を買ったんだ?」
雪を見て感嘆していた隼也は、現実にすぐに戻ってユーフォリアに声をかける。
けれど声をかけた時点で、ユーフォリアは常の足を丸出しにして寒そうな神剣使いとしての衣装からすでに、この土地に合わせた藍色のコートと薄い桃色の耳あて、さらには紺色のロングスカートと黒タイツに覆われた足という、完全防備としか言えない状況に。
ほんのわずかに目を離した隙にそんな風に衣装を変更していたために、どんな技を使ったのかとついつい問い詰めてしまう。
「おにーさんのぶんもちゃんと買ってありますよ?」
「いや、そんなこと聞いてねーよ……着るけど」
ユーフォリアが買った服のサイズに関して隼也は心配していない。
彼女なら問題なく自分のサイズにあったものを買っていると、そう信頼していた。
「なんだかお祭りしているみたいで、いろんなものを売ってたんです」
「それで、服も売ってたって? ……普通、そんなものは売らないと思うんだけどな」
忘れてはいけないことだが、隼也は『学園祭の準備をしている最中』に異世界に飛ばされている。
これまでの世界は制服でも問題なく過ごせるような環境だったが、この世界は制服のままだと凍え死ぬと判断して、先ほどまでは神剣の能力を使用して、今は冬用の服装に着替えて寒さをしのいでいた。
「この世界のお祭りは、別の世界からも人が来るらしくて、たまたまやってきた人が寒さに凍え死んだりしないように色々と売ったり、貸し出したりしてるらしいです」
「あー、なるほどね」
二人で歩きながら、宿泊するための宿を探す。
祭りの期間全てとまでは言わずとも、数日間この土地で過ごせば十分に回復するだろうと判断しているので、換金する量は最低限に。
手を繋いで歩いていると周囲からは微笑ましいものを見る目で見られていたが、二人は一切気にしていない。
そうして見つけた宿屋で、しばらくの間二人で横になっているのだった。
「明日からはお祭りのお店も見て回りましょうね」
「おう、どんなものが売ってあるんだろうな?」
ユーフォリアを抱きしめ、そして抱きしめられながら、明日以降に何をするのかを話し合って眠りにつく。
眠りにつくまでは、わずかな時間だった。
「おにーさん、大丈夫ですか?」
「あー、うん、大丈夫だけど……何それ?」
翌日、『意念』の光を確実に防げるレベルの障壁をユーフォリアが展開できるまでの時間を全マナを使用していた隼也は、未だに戦闘に耐えられるレベルまで回復していなかったこともあって休み、ユーフォリアは外の祭りに参加していた。
「お隣の街で売ってたんです」
(なんでそんなもん売ってるんだ……と言うかなんで隣町まで行ってるんだこいつは……)
ユーフォリアの元気な返事に、隼也は天を仰いで疑問を呈する。
今、彼の目の前のユーフォリアはなぜかメイド服。
話を聞くに隣町で買ったようだが、そもそもどうしてそんなところにまで行ったのか、そしてなぜそんな店に入ったのかが隼也には疑問でならなかった。
「この街はお祭りの屋台ばっかりで、普通のお店は開いてなかったんです。それでお隣まで行ったら親切なお姉さんが案内してくれたんですけど、そこで色々と着させられておにーさんの看病って言ったら『看護師の衣装がここには置いてない……!』って言ってなんだか苦渋の決断っぽい表情で、これを着て看病すればいいよって教えてくれました」
「……できる限りその人とは関わらない方がいいぞ」
「えー」
親切な人だったのにー、と言うユーフォリアだが、けれどその言葉に逆らうつもりはないようで、特にそれ以上の文句を言うことはない。
一方、それを聞いた隼也は「服装」ではなく「衣装」と言っていたことを聞いた時点で、その女の人をやばい奴認定していた。
「ユーフィー、今度からはそばにいるようにな?」
「へうっ!?」
ついでに、ユーフォリアを一人で歩かせることの危険性を確認したことで、少々勘違いされかねない言葉を発していた。
と言うか現在進行形で勘違いされてユーフォリアは少々奇声をあげていた。
「え、えっと、それって……」
ユーフォリアが何かを口にしようとした途端、部屋にノックが響いた。
「はい?」
「あう……」
出鼻をくじかれたことでユーフォリアはそれ以上口にすることはできずに、隼也はその、おそらくは客であろうと思われる人物に対して中にいると示すために返事を返す。
「お客様。この祭りの実行委員長がお客様たちに会いたい、と」
「委員長が?」
「あたしたちに?」
外からやってきた言葉は、思慮の外にあったもので、二人で顔を見合わせて何があったのだろうと頭をひねった。
「初めまして。私、この祭りの実行委員の一人、この町の守り神たる雪像型永遠神剣、永遠神剣第六位『札幌』と契約しているカリアと言います」
「札幌」
「ええ、この街で今行われている祭りは『札幌』の力で行われています」
「あ、ああ……いや、それはいいや。俺は御堂隼也って言います」
「ユーフォリアって言います。よろしくお願いしますね、カリアさん!」
場所は隼也たちの部屋の中。
カリアと名乗った女性に二人も名乗り返し、話はさっそく本題に。
雪像型と言う聞いたことのない形であろうと『そんなものもあるのか』で済んでしまう程度には永遠神剣というものに慣れているので、そこに関しては言及しない。
永遠神剣の名称が自分でも聞いたことのある地名だったことと、それによって行われる祭りということで隼也が少々戸惑ったが、その程度。
「それで、俺たちに話って?」
「聞きたいことがあるのです」
居住まいを正すカリア。
その瞳はまっすぐに、隼也とユーフォリアを貫いている。
そこには、どことなく剣呑な色もある。
「貴方達がこの世界にきた目的です」
「目的、ですか?」
「ええ」
「おにーさんの療養です」
「……そうでしたか」
困惑する隼也だが、ユーフォリアが代わりに答える。
それを聞いて瞳から剣呑な色が消え、ホッとした表情になるカリアに、一体どういう意図での質問なのか疑問に残る二人は視線を向けた。
「ああ、申し訳ありません。説明がまだでしたね」
そう言って、カリアが説明を開始する。
「この街の祭り……雪まつりと言うのですが」
「……札幌だ」
「はい?」
「ああ、いや、なんでもないです」
雪まつりという余りにも札幌な名前にそうとしか言えない隼也だが、この世界の人間が雪まつりなど知るはずもないので、カリアは疑問符が浮かんだような顔になる。
「お二人がもしも『神剣を砕く』という目的で来ていた場合、先ほども言いましたが『札幌』が祭りを起こすための動力のようになっている今、この街の皆の娯楽となっている祭りを守るためにも戦わざるを得なかったので」
けれど、いきなり不躾な質問をしたことを理解していたので、それ以上を聞くことはない。
「俺たちが嘘をついてるとは思わないので?」
「貴方ならともかく、そちらのお嬢さんは嘘をつけそうな子には見えませんから……」
「えへ」
クスクス笑いながらユーフォリアを見るカリアに、ユーフォリアもふにゃりと笑って返す。
その光景は隼也も和やかな気分になってしまい、ついつい顔をほころばせる。
「……いきなり不躾な質問をして、それで帰るのもどうかと思いますので。明日以降も楽しまれるのでしょう? でしたら、現地民の視点からの楽しみ方をわずかばかりではありますが」
「ありがとうございます!」
ユーフォリアが元気に返事をして、その部屋の中でしばらくの間雪まつりについての話を聞くことになるのだった。
ちなみにこの間、ユーフォリアはずっとメイド服である。
カリアが一切そのことに触れなかったのは隼也にとっていいことなのか、それとも触れてくれた方が良かったのか。
数日後、二人はこの『銀雪の世界』から療養を終えて旅立って行く。
それまでの間、カリアから教えられた楽しみ方を一つ一つ味わって。
特に何かしらの土産を持って行くことはなかったが、それでも二人の間にこの世界のことは、深く心の中に刻まれた。
とある場所で神剣の名称を募集した結果生まれた話。