聖なるかな 〜鞘を求めて〜   作:ぴんころ

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第九話:そろそろ決戦

「久しいな、『平衡』の担い手よ」

 

「てめっ……イスタ!」

 

 その日、隼也は久方ぶりに『煌舞』の担い手たるイスタと遭遇していた。

 以前、『意念』の光という意識外からの攻撃を受けたので、マナの揺らぎに対しては多少敏感だったために隼也はイスタの出現にすぐに気がつき、戦闘態勢に移行することができた。

 

 隼也の目の前に立つ男は己の永遠神剣を展開しておらず、マナもこの世界に出現した時の残滓程度しか身に纏っていない。

 その事実が、イスタは戦うために来たのではないということを示していながらも、隼也は警戒を解くことはしない。

 隼也の武術に関する知識は酷く偏っていて、そこに神剣という通常ではありえない事象を起こせる存在が加わったことで、「イスタが武術を齧った人間である」とわかってからはどんなトンデモな動きをして来てもおかしくはないとすら考えている。

 彼の中では、武術を修めている相手はどんな状態からでも一撃で殺害できるような技術を持っているかもしれないトンデモ野郎になっていたのだ。

 

「案ずるな、今日は戦いに来たのではない」

 

「それを、信じろってのか……!」

 

 神剣を取り出してはいるが、それにマナを込めれば即座に反撃に転じるだろうと確信しているので隼也は攻撃を行えない。

 イスタは話をしに来たために、そもそも神剣を展開することすらしていない。

 結果的に、ではあるがどちらも行動を起こしていないために、話をすることができる状態にはなっていた。

 

「今日来たのは、我らの決着をつける場所と日時の指定だ」

 

「なんでそんなもんに乗ってやらなきゃならねーんだ」

 

 イスタに噛みつくようにして言う隼也。

 その言葉は正しい。

 わざわざ敵が用意した日時と場所に乗るのは、自分から罠にホイホイとかかりに行くようなもの。

 だからこそ、その言葉に噛み付いた。

 

「いいや、お前は来るさ」

 

「……なんで言い切れる」

 

 けれど、イスタは自信満々に言い切り。

 その態度に隼也は疑問を抱いた。

 

「俺たち『光をもたらすもの』は、つい先日に敵対組織と激突したことでほとんど滅びかけている。もはや、俺たちの戦いはどうあがいても次が最後となるのだ。ゆえにこそ、お前が来なければその時点で俺と『煌舞』は滅び、永遠にこの宇宙から喪失する。……幾ら何でも、俺も多対一で確実に勝ちきれるとは言い切れんからな」

 

「……なら、俺がこの場でお前を倒すとは?」

 

「お前の攻撃が俺を殺し切るよりも俺の撤退の方が確実に早い」

 

 ギリと歯を鳴らす隼也はその言葉を確かに認めていた。

 感じ取ることのできるマナの量、そしてその修練、どちらも実戦で磨かれていて、以前戦った時とは比べ物にならないほど。

 隼也もユーフォリアとの訓練によって高められ、実戦も経験しているが大元のスタート地点が違ったことにより、そして何よりユーフォリアと共に療養したりしていた時間もイスタは鍛え上げていた、と言う絶対的な差が、今の隼也にはわかった、わかってしまった。

 

 ユーフォリアも、今はいない。

 ユーフォリアが買い物に出ている間一人で修行していたらイスタが出現して、そして永遠神剣の契約者として、神剣使いとして戦うための修行だったがゆえに人里から離れたところにまで走ってやって来たことが、ユーフォリアの合流までに時間がかかる原因となっていた。

 

「この世界の時間で一ヶ月後、暁絶の生まれ故郷……『枯れた世界』と呼ばれる土地にて待つ。その時こそ、以前つけられなかった決着をつけよう」

 

「……いいぜ。その時こそぶっ殺してやる」

 

 そう吠える隼也だが、ことはそう簡単にいかないだろうとも思っていた。

 次の戦いで滅ぶからその時に自分を倒す、とそう言ったということは『次の戦いには隼也も巻き込む』ということである。

 その二つの組織の戦いに巻き込まれることを前提とした戦いになるがゆえに、イスタに集中しなければならない戦場で、イスタ以外に目を配らないと死ぬという状況が形成される。

 

 そして何より──

 

『契約者よ。この男、おそらくは──』

 

(わかってる。……多分、こいつは他の神剣も持ってやがる)

 

 以前は気がつかなかっただけなのか、あるいは以前の戦いの後に追加されたのかはわからないが、今の隼也には以前感じ取った「煌舞」以外の神剣の気配もイスタから感じ取ることができた。

 

(そう簡単には倒せそうにないな……!)

 

『だが、倒さねば帰れぬぞ』

 

(わかってるっての)

 

 「平衡」と話をしながらも、視線は目の前のイスタから離しはしない。

 最前はこのまま時間を稼いでユーフォリアに奇襲を仕掛けてもらうことだと思っていたから、そのタイミングまで逃さないようにと、イスタが本気になればすぐに逃げられるだろうと推測し、ほとんど無意味であることを理解しながらも見張っていた。

 

「では、これで俺の要件は終わりなのでな……ああ、いや、まだ一つ残っていたか」

 

「っ……!?」

 

 直後、イスタが眼前に出現して隼也の頭を掴む。

 とっさに逃れようとしたが、簡単に振り解ける程度のものではなく。

 隼也の頭の中に、掴んでいる腕を通して何かが流れ込んでくる。

 

「ぐ……が……!」

 

 ズキズキと頭が痛む。

 隼也の許容範囲を超えた情報が一気に流れ込んでくることによって、一時的に暗闇の中に意識が押し流されそうになる。

 

「おにーさんっ!」

 

 意識の喪失という結果が発現しようとしたその瞬間、聞きなれた少女の声が遠くから隼也の耳に入った。少なくとも、隼也はそう感じた。

 

「ルインドユニバース!」

 

「チィッ!」

 

 声が届くよりも早く、イスタは離れる。

 そうして開いた距離に割り込んできたのは青い影。

 ユーフォリアは、その幼い美貌に敵意を乗せてイスタを睨んでいた。

 

「まぁいい。今日のところは退散させてもらおう」

 

「逃しません!」

 

 ユーフォリアとイスタの距離は三十メートル。

 その気になれば一瞬で詰められる距離だが、逆に言えば一瞬の時間がある。

 飛び込み、斬りかかった時点で、イスタはこの世界から消失し、結果ユーフォリアの一撃は空振りに終わってしまった。

 しばらくの間は周囲への警戒を怠らなかったが、確実にイスタがこの世界から出て行ったことを確認して、ユーフォリアは片手で頭を抑えている隼也の元に向かう。

 

「大丈夫ですか、おにーさん!?」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 結局、あの時に隼也が流し込まれていると感じたのは『枯れた世界』の座標情報。

 隼也がその情報を引き出そうとすればすぐに脳裏に文字列として表記されるが、今はそんな状態ではなかった。

 

「おにーさんを一人にしたら、次はどんなのを引っ掛けてくるのかわかりません!」

 

 そう叫んで、ユーフォリアはイスタと出会ってからは隼也とずっと行動を共にしていた。

 以前の雪まつりの件では隼也がユーフォリアを一人にしたらやばい奴(ロリコン)を引っ掛けてくると判断して、しばらくの間は行動を常に共にしていたが、今度はユーフォリアが同じことを言っていた。

 

 結果

 

「わふぅ……」

 

 風呂場なんて、特に性差があるために一人になりやすい、と文句を言うユーフォリアに仕方がないと隼也が頷く形で、今二人は一緒に入っている。

 裸の付き合いであることに対して特に疑問を持つことはない。

 お互いの間では家族よりも気を許せる存在になっているような状況で、今更になって恥ずかしがったりするようなことはない。

 

「それで、明日からはどうするつもりなんだ?」

 

「もちろん。おにーさんの戦闘能力の向上です!」

 

 尋ねたところ元気よくユーフォリアからは返事が返ってきて、そして彼女が考えている訓練の内容とやらが少しずつ口から漏れているのを聞いて、引き攣ったような表情になる隼也。

 

『契約者よ』

 

(なんだ、バカ剣)

 

『契約者はなんというか、戦い方がチグハグだな』

 

(どういう意味だよ……?)

 

 そして、そのタイミングで話しかけてきた「平衡」。

 内容は、隼也には決して理解できるものではなかったが。

 

『神剣魔法を()()()()()()()()()()()()使う姿。インスパイアなども教えられればすぐに使用できていたこと。大剣()を使う剣技も、どちらかと言えばもともと何か別の武器を使用している時の動きを無理矢理に変えているような印象もある。だが、これまで神剣を握ったことがないかのように神獣との連携はズタボロ』

 

(……何が言いたいんだ?)

 

『我には汝が、別の時間樹で、かつて我ではない神剣を握って戦っていたような人間に見えるのだ』

 

(そんなわけないだろ。俺の人生は地球で始まって今こんなところに来てるので終りょ……)

 

 そう返したところで、いつかの夢が隼也の脳裏を掠めた気がした。

 一瞬のことではあったが、それはこの旅が始まってから一度も見ることがなかった、少女が赤髪の少年に剣を渡す夢。

 その夢では自分は渡した剣以外に武器を持っていなかったはずなのに、なぜかその夢が思い浮かんだ。

 

『どうかしたか?』

 

(……いや、なんでもない)

 

 けれど、それを伝える気にはならず、ただ心の中に秘めておくことにしたのだった。

 

(それにしても、いきなりそんなことを言い出すってどうかしたのかよ)

 

『いいや、奴と戦う時のことを考えているようだったのでな。今の汝が奴に勝ることができる分野を挙げてみようと思っただけだ』

 

(神剣魔法だけだ、って言いたいのか?)

 

『そういうことだ』

 

「おにーさん」

 

 隼也が「平衡」と話していると不意に、ユーフォリアの声で現実に引き戻される。

 そちらを見ると、頬を膨らませたユーフォリアの姿がある。

 

「話、聞いてました?」

 

「……悪い」

 

 今回に関しては自分が悪い。

 そう感じて、隼也は言い訳をすることなく謝る。

 言い訳をすることなく謝っても、聞いていなかった事実には変わりないので、ユーフォリアはむぅ、と不機嫌さを隠しはしない。

 

「あー、うん。どんな話だったっけ。明日以降の訓練の話をしてた覚えはあるんだけど……」

 

「おにーさんと神獣の子の連携、ですかね?」

 

「……いや、聞かれても困るんだけど」

 

 足の間に座り背中を己に預けるユーフォリアに隼也が言うと、誤魔化すようにふにゃりと笑う。

 その姿に毒気を抜かれ、まあそれならそれでいいかと思考放棄して──

 

「一ヶ月で勝てるようになるのかね……」

 

「なりますよ……多分」

 

 一ヶ月後に想いを馳せるのだった。

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