「さて、今日も1日頑張りますの!」
白井黒子。常盤台中学1年生であり風紀委員会に所属するレベル4の空間移動能力者。これが常盤台中やその他大勢に知られている彼女の肩書だ。一つ上の学年に御坂美琴や食峰操祈といったレベル5の存在もあり彼女の存在があまり取り上げられることはないが、常盤台中学1年の中ではその能力や戦闘力は頭一つ分抜けており、気の早い話ゆくゆくは常盤台のエースとなりうる存在として一部からは大いに期待されている。もっとも、御坂や食峰は最終学年ではないので、彼女達の卒業まではまだ十分な期間がある。その期待が実現されるにはまだ時間を要するであろう。
「今日は確か能力測定の日でしたわね。あまり気は乗りませんが…」
常盤台中学では年に2回、毎年4月と10月に能力測定が行われている。白井は小学校卒業時点では能力値はレベル3であったが、常盤台中学入学と同時に実施された能力測定の結果晴れてレベル4と認定された。レベル4は学園都市内でも高位能力者として極めて重宝される。しかしその学術的・戦術的価値はレベル5と比べると著しく劣る。レベル5の能力者は230万人が住む学園都市内にも僅か7人しかいないが、レベル4に至ってはその数は一気に増える。正確な人数調査は行われていないが、推計では少なくとも200~300人程度と言われている一方で、1000人はいるのではないかという説も存在する。実際常盤台中学にも1年生だけでも15名、全体では47名レベル4能力者が存在している。それだけレベル4とレベル5には大きな壁が存在している。彼女の悩みはそれに起因するものであった…
「あら、黒子起きてたの。おはよう。今日は確か能力測定の日だったわよね。互いにいい結果が出るよう頑張りましょ」
そうこうしている内に白井のルームメイトである御坂美琴が起床した。彼女は先にも述べた通り学園都市に7人しかいないレベル5の内の1人。通称「超電磁砲」白井の憧れであり絶対に越えていかなければならない相手だ。
「そうですわね… どうせ今回もレベル4判定だとは思いますが…」
「何を卑屈になっているのよ! あたしが言うのも何だけど、レベル4だって立派なものじゃない。それにレベル4といっても黒子の結果はレベル4のE評価じゃない」
実はレベル4はレベル5の一つ下という段階もあって他のレベルとは異なり定義が細分化されている。御坂が言ったE評価というのは、レベル4.5~4.59に値することを指している。(ちなみに4.9~4.99がA評価、4.8~4.89がB評価。4.5未満は一律レベル4判定といった具合)
そしてレベル4のE評価は1年生の中では白井と婚后光子の二人しか到達していないので、決して御坂の言う通り卑屈になる要素などどこにもなかった。
「しかし、4月からわたくしの能力値は上がるどころかむしろ低下の一途をたどっておりますの」
実は能力測定自体は個人でも行うことができる。(公式のものではないので費用は個人負担となるが)白井は自主的に月に1度能力測定を行っているのだが、先月の結果はレベル4つまり4月の値を下回るという本人にとってあまり望ましくないものであった。
「そんなことは気にしなくていいわよ。あたしだって、自主的にやっている能力測定だったらレベル5を下回ったことだってあるし」
しかし御坂の言葉は白井にとっては何の気休めにもならなかった。
「わたくしはこんなところで足踏みしているわけにはいきませんの。わたくしは一刻でも早くおねえさまと同じレベル5になることを望んでおりますの」
「…」
それまで年下の妹をなだめる時のような温和な表情をしていた御坂の顔が強張った。実は白井がこのようにレベル5になりたいと言い出したのは少なからず自分も関係しているだということを彼女は知っている。自分は自分のクローンやツリーダイアグラムの残骸問題で学園都市における暗部と少なからず戦闘を交わした。それを実際に白井の前で話したことはないが、頭の回る黒子のことだからと、御坂も薄々自分が学園都市の暗部と接触していることがバレているということに気付いていた。それからというもの、白井はそれまで以上に自分の能力向上に対する執着がより強みを増し、こうして言葉だけの説得では限界が生じてきたのであった。御坂が暗部との戦闘に白井を巻き込まなかった理由として、単に友人として危ない目に遭わせられないという純粋な思いもあったが、その一方で戦力的に考えて白井と二人で戦うよりも、自分一人で戦った方がやり易いだろうという思いもあった。確かに黒子は同世代の中ではその能力は抜きん出ている。戦闘力も申し分ない。しかし相手は暗部。いくらレベル4の黒子といえども戦闘において場数慣れしている暗部勢力に対して苦戦を強いられるのは必至。戦闘の最中命を落とすことだって考えられる。足でまといになるとまではいかないが、正直それに近いような感覚で白井には一切暗部との接触に関する会話をしなかった。それを薄々と感じてしまった白井は、御坂のやさしさに触れると同時に自分の能力の未熟さとレベル5との絶対的な隔たりを感じてしまったのであった。御坂から見て今の黒子は、レベル5になることができない自分に存在価値はないと言わんばかりに精神的余裕のなさを感じる。それほどまでにレベル5になることに激しく執着していた。言葉による説得ではダメだと理解した御坂は次の行動に移ることを決意した。
「じゃあ登校時間まであまり時間は無いようだけど、近くの河川敷で模擬戦でもしようかしら」
「模擬戦?」
その言葉の意味を理解するのに、白井は少なからず時間を要した。