アクロマンチュラの襲撃はホグワーツの教職員と、駆けつけた魔法省の闇払いたちを中心とした、攻撃・防御系に長けた全ての職員が総動員をした大規模チームの奮戦により、生徒達は奇跡的に死者はなく、逃げ惑う時に負った傷や姿現しで酔った者達しかいなかった。
そんな中、安全な大広間では怒声が響き渡る。
「放せ!!ハリエットを探しに行くんだ!!!」
「落ち着けロン!!まだどこに蜘蛛達が・・・」
「だからこそ俺が捜しに行くんだろうがよ!放せドラコ!!」
普段はマイ天使とドラコを優しく呼んでいるロンが、初めて怒声を上げている。
ロンが大広間に生徒達を逃がす事とその方法をセブルス達に伝え、大広間ではセブルスとマダム・ポンフリーを筆頭に万全の回復の用意がなされた。
薬を準備した直後、次々に-怪我人-が運び込まれた。
主にアクロマンチュラと最初に激突をしたケンタウロス達であった。
彼等は四肢のどこかを食いちぎられ夥しい量の出血をし、中には姿現しで絶命をした者もいた。
それでも屋敷しもべ達は彼等を助けようと必死に連れてきた。同じホグワーツを守っている同族と認識をしているから・・見殺しにはしたくないと。
「命に何の違いがあります!!全て助けますよセブルス!!!」
死神さえも叱り飛ばしそうな看護の女神の下、逃げてきた生徒達も手伝いを申し出た。
中には屋敷しもべ達がその身を犠牲にして助けられた者達もおり、マダム・ポンフリーの言葉が身に染みる・・せめて・・ケンタウロス達だけでも助けたい!犠牲になった者達の恩に報いるためにも。
少しして運び込まれる者の中に、魔力切れや負傷をした屋敷しもべ達も混じりはじめ、
小さな子達も包帯巻きなど、自分達にできる事を必死に手伝い、運び込まれる怪我人の数が減ったところに、ロンの騒ぎが起きた。
負傷者を他の者達が手当てをしている中、ドラコやハーマイオニー達が各寮の監督生達を探し出し、いない者はいないかの点呼を呼び掛けた。
結果他の寮の数名の子とハリエットがいない事に気が付き、生徒達の安全を考えたセブルスが、ゴースト達に頼んで捜させているところにロン大広間に戻ってきた。
チクショウ!!ハリエットに何かあってみろ・・この件の関係者ぶっ殺しにしてやる!!!!
ロナルド・ウィーズリーは知っている。このアクロマンチュラの騒動の元を。
うろ覚えとはいえ、-ハグリッド-がアクロマンチュラを禁じられた森で飼っていたのは覚えていた。-原作の自分-が食われかけていたのは強烈だったから。
アクロマンチュラは言うに及ばず、飼っていたハグリッド、見過ごしていたダンブルドアを・・許すものか!!!!!
ロンから漏れ出る魔力と殺気に、マグル生まれのハーマイオニーと純血であっても戦いに不向きなネビル・ダフネ・ジニーが気を失いかけた。
拘束力が弱まり、最後までしがみついているドラコ達を引き離そうとした矢先に、闇払いの一人が少女を羽交い締めにしながら大広間に飛び込んできた。
「放せ!!あの蜘蛛どもをみんな殺してやる!!!!」
それは怒りに打ち震え、魔力で髪の毛を逆立てたハリエット・ポッターだった。
「ハリエット!!」
「無事・・」
「君達この子に近づくな!!怪我人を連れてきた!手当てを頼む!!!!」
ハリエットを連れてきた男は、近寄ろうとするロン達を止めて、もう一人の同僚が抱えている怪我人をマダム・ポンフリーの元へと連れて行くように指示を出す。
「・・・・クィレル先生・・・」
それはわき腹から血を流しているクィレルであった。
「あいつ等・・クィレル先生を!!ぶっ殺してやる!!!!」
怒りと、大好きになった先生を傷付けられたことが悲しくて悔しくて、ハリエットの目は赤くなっていた。
「ハリエット!」
闇払いの男からひったくるように自分の胸元に抱きしめて、ハリエットを落ち着かせようとする。
「放せロン!!あいつ等を!!!」
怒りに我を忘れたハリエットの魔力は暴走を始め、抱きしめているロンを傷つけ始めた。
・・・許さねえ・・絶対に!!!
アクロマンチュラが森を移動したのは授業が二校時目の時であった。
ハリエットは今学期も、食べた朝食を血肉にすべく一校時目は眠って過ごす。
二校時目の薬学草が郊外だと知らされていたが、見事に迷った。
さてどうしようかと考えているところに偶々クィレルが通りかかった。
ハリエットは信頼をしている数少ない大人の内の一人を見つけてホッとして、助けを乞うた。
当然ヴォル付きクィレルはどうしようか本気で悩んだ。
何故ハリエットはここまで自分に懐いたのか。自分にヴォルデモートが付いている事を知らないのを差し引いても、一年目はわざとどもり・臆病者の駄目教師を演じていたのに。
どうせダンブルドアとセブルスが自分の正体を知っていて、その上で二年目を黙って見ているからもういいやと、演じるのを少しずつやめて今ではそこそこの教師をしている。
少しずつ食事量を増やして健康的な生活を送るようになったのが、そこそこの教師になれたのだと見せかけて。
ハリエットの周りは凄い大人達だらけだ。その気になればダンブルドアのお気に入りにもなれように、時折表に出てくる主と意気投合している変わった少女。
主が目当てかと思えば「先生の側って落ち着く。俺の事英雄とか、可哀そうな子とかそういった余計な気配感じねえんだもん。」
・・・それはそうだろう。
主の仇を英雄視するはずもなく、現在幸せな彼女に可哀そうなぞという気は毛頭起きない。
ただそれだけの事なのに、勝手に勘違いをしている馬鹿な子だと・・何故か思えない。
来たから淹れてやるだけの紅茶を、美味しいとほんのりと笑うハリエットを見ていると落ち着かなくなる。
それは近頃主も同じようだ。
同化をしてもう一年が経つ。主の心が自分に流れてくる量が増え、ハリエットへの戸惑いも流れ込んでくる。
共に本当の愛を知らない主従は、ハリエットへの思いを持て余している。
それはハリエットと同じくらいに懐いているネビルにも。
一応教師の職務として、持て余しの片割れをセブルスの元へと送るべく、森の境界線近くを通ったのが不運だった。
何かが来る!!
クィレルの中のヴォルデモートはいち早く察したが、いかんせん相手が悪かった!!
気が付いた時にはもうアクロマンチュラ数匹に囲まれた!
・・小癪な!!俺様を食おうというのか!虫けらの分際で!!!
蹴散らしてやれクィレル!!
「コンフリンゴ!エクスパルソ―!!」
主の逆鱗に触れた蜘蛛達を殺すべく、糸を吐かれて取り囲まれる前に蜘蛛達を四散させる。
クィレルにとっては造作もない事だった。
「・・・先生すげえ・・」
一瞬の出来事に、ハリエットは魅入られ・・・油断をしてしまった。
-ギッシャ――――!!!-
新たな蜘蛛が近づいているのに気が付けなかった。
「あ・・・」
「ハリエットー!!!!」
飛び掛かってくる大蜘蛛に反応出来ずに、呆然と立っているハリエットを・・クィレルが割って入った。
腹を爪で引き裂かれ激痛が押し寄せる中、クィレルの思考は平常に働き、吹き飛ばされながらも考えた。
何故自分がハリエット・ポッターを助けたのか
主の仇・俺を殺した者を、何故おのが身を挺して助けてしまったのか!!
「がはっ!!」
地面に転がり、血を吐きながらハリエットの方を見ると、蜘蛛が自分の方へと向きを変えた。
動けない自分を狙うか・・杖と魔力はまだある・・こんな蜘蛛如きに・・
「や―――め―――ろ――――!!!!!!!!!」
ハリエットの叫びと共に、凄まじい魔力が吹き上げた。
怒りに我を忘れたハリエットが暴走を始めた。
「死んじまえ―――!!!」
杖を持ち、呪文ではなく敵の死を叫び上げれば蜘蛛が体内爆発を起こした。
魔法とは呪文の詠唱よりも、実はイメージの方が大事だ。詠唱の方はたんにその呪文自体をイメージをしやすくする為の触媒。そうでなければ無言呪文は出来るはずがない。
ハリエットは意識せずに無言呪文に近い事をしている。
大好きなクィレルを傷つけた蜘蛛を殺すために!!!
闇払いの助けが来るまでハリエットはクィレルの側を離れることなく、十数匹の蜘蛛を殺した。
髪は逆立ち、瞳は赤黒く染まり、助けに来た闇払いたちの言葉を聞かずに蜘蛛を殺すと叫び上げる。
許さねえ・許さねえ・・殺す!殺す!殺す!!全部殺す!!!!ぶっ殺してやる!!!!!
心の中までも瞳の色と同じく、赤い殺意で染め上げて。
そんな状態のハリエットを、ロンは抱きしめる。ハリエットの魔力で皮膚が破けて血が噴き出すのも構わずに「ハリエット、もう大丈夫だ。」
何度も何度も同じ言葉を繰り返す。傷が増えても変わらずに優しい声で、ハリエットの心の中に届くまで何度でも。
「う・・う・・ああ・あいつ等・・」
「うん、皆で殺した。全部の蜘蛛を殺した。ホグワーツにはもうあいつ等はいない。」
ロンの言葉がようやくと届いたのか、ハリエットが反応を返し、ロンも返事を優しく返す。
時間的に考えて、来た援軍の人数も考えれば当然蜘蛛達は全滅をしただろう。
ゴースト達が生徒を助けた方法で、今度は蜘蛛達を倒す手助けをした事により、一匹も逃さずに短時間で殲滅をする事が出来た。
「蜘蛛はもういない、クィレル先生も教授とマダム・ポンフリーが助けてくれる。頑張ったな
ハリエット。もう大丈夫だ。」
「だい・・じょうぶ・・」
そうか・・蜘蛛はロン達が殺してくれた・・なら・・もういいいんだ・・だいじょうぶ・・なんだ・・
ロンの言う通り蜘蛛達は全て死に果て、騒動はひとまず決着を見る。
夥しい人族外の死と、大勢の者達が心の傷を負い、一人の少女が気を失い静かに幕を閉じた。
書いていて辛かったです。
クィレルはハリエットを庇った事で、自分のハリエットへの思いが何であったのかを知り、真の愛を知りながらここで死なせようかどうか迷いましたが、生かすことにしました。