かくして大規模な戦は終わりを告げた。
人族を助けたケンタウロス達・屋敷しもべ達の犠牲を無にしない為にも、生きている自分達は前を見て歩くことを決意するのだった
なんて、どこぞの三文小説ファンタジーじゃあるまいし、戦の終わりの方が酷いだろこれ。
大広間はケンタウロス達と屋敷しもべ達の血の匂いと、呻き声で溢れてる。
低学年の奴等は怯えてる、かといって各寮と部屋も全て点検をして安全が確保されない限りは大広間待機だ。
蜘蛛に生きたまま食われるのに比べればどうってことはないと、俺は思うんだがな。
「呻いているってのはいい事だ、。そいつが生きている証拠だし、体が生きたいからここ治してくれって痛みで教えているから、そいつは痛みで呻くんだから。」
呻き声に怯えていた子の一人に、ロンは持論を展開をした。
呻くのは生きている証だと、生きたいという強い意志の表れだと。
「そうか・・そうなんですね!!そうです!彼等は生きようと頑張っているんですよね!!」
ロンと同じグリフィンドールの一年生は目を輝かせて、素晴らしい事を教えてくれた先輩を尊敬のまなざしを向けて見上げる。
あんなとんでも暴論を受け入れて感動したのかあの子供は!!
大広間の冷静な大人達一同は、ロンのぶっ飛んだ持論に溜息をつき、痛くて呻いている当人達も、
痛いもんは痛いんだから、いい感じの話にしないで欲しいと心底思った。
例え人族とは違う自分達を助けてくれている者の言い分でも、あれはどうかと思う。
「僕、コリン・クリービーと言います!よろしければ落ち着いたら写真を一枚とらせてください!!憧れの先輩の一枚として。」
「俺じゃなくて友達と撮れよ。もしくはグリフィンドール寮の集合写真とか。」
「いいえ!貴方の一枚でいいんです!!」
「あの・・僕も・・お守りに一枚・・」
「私も!!」
コリンのみならず、他の一年生達もこぞってやってきた、それこそ寮を問わずに。ロンの暴論であっても力強い言葉は彼等に安心感を覚えさせたのだ。
彼の写真を持っていれば、何が来ても守ってくれそうな気がする。
「写真なんかなくても、俺はお前達を守るよ。ホグワーツはもう一つの俺の家みたいなもんなんだからな。」
「それよりも自分を大切にしたまえ、エピスキー(癒えよ)。
どこか痛いところはないかねロナルド・ウィーズリー?」
やっべ!!教授の奴本気で怒ってる!!!
「・・あのさ教授、その・・悪かったよ。」
一応謝ってみれば「はて、何故吾輩に謝るのですかな?いったい何を悪い事をしたというのですかな。」
教授の絶対零度来た―――!寒い、寒すぎて心が凍って凍死しちまう。
「・・一人でハリエット捜しに行こうとしたり、教授に無断で大広間に送って俺一人で突っ走ったり、いろいろやらかした事です。」
「・・・・分かっていてしたのだろう君は。」
「うっ・・でもご免・・心配を掛けた。」
「全くだ。」
ロンの指示で屋敷しもべが自分を大広間に連れて来た時、心臓が止まるかと思った。
自分がいなくなった次の瞬間に、ロンが蜘蛛達に襲われ無残にも食われてしまうのではないかと!
自分はかつて最愛の女性を守り切れずに死なせてしまった。忠誠を誓った闇の王に、殺さないで欲しいと頼んでも一蹴され、闇の王から守って欲しい、その代わりにダブルスパイをするといってそれを条件に女性を守るといった者も、結局は彼女を死なせた。
ヴォルデモートとダンブルドアと自分が彼女を殺した、最愛のリリーを。
二度と人を愛する者か、リリーの子を守って死んでいくのが自分の残りの人生の意味だと思っていた。
だが出会ってしまった。リリーとは違う意味であっても、おのが身を賭してでも守りたい-最愛の者達-に。
ロナルド・ウィーズリーを中心とした愛しい子供達を愛してしまった、こんな罪深い自分がだ。
ならば憎きジェームスの子を虐めてその子供に嫌われる事で贖おうとしたが、ハリエットは保護が必要な虐待を受けた子供だった。かつての自分・・いや!それ以上に酷い有様だった。
英雄の傲慢さはなく、弱々しく死に掛けた子供を虐めようなぞという考えは吹き飛んで、気が付けばシリウス同様ハリエットの保護者役の一人と化していた。
弱った体を治す薬を日に三度飲ませ、ボサ髪を梳かしてやり、近頃は体力が少ないのに一人で散歩をしていてへたばっているハリエットを抱きかかえて寮に送るのはしょっちゅうだ。
「セブ先生は優しい。」お日様の匂いを出し始め、頬がふっくらとしてきたハリエットは自分の冷たくガサガサとした頬に押し当てて来てそんな事を言う。どうして無下にできよう、純粋に自分を慕う子を。自分のせいで両親が殺されたとも知らずに、自分を好きだというなんて・・知られたくはない、おのが罪を。
この愛しい子供達を身を賭して、今度こそは守り抜くから許してほしいと、死んだリリーに許しを請う程に子供達を愛している。
なのにだ!守るべき子に助けられて無茶をされて!!
「ありがとう、大好きだよセブルス・スネイプ先生。」
「・・君は本当に質が悪い。」
セブルスの思いを全てではないにしろ、自分を案じてくれている優しい教授の名を呼び、ロンは黒いローブに手を回し、抱き着いてお礼をする。それではもう怒れないと、セブルスは諦めた。
愛しい子供の優しさには勝てないと。
その日は大広間泊まりだ。クィレル先生はマダム・ポンフリーの部屋の安全が確保されたのでベッドで寝かしてもらえている。
ハリエットが付き添いたがっていたけど、ハリエットも休ませないといけないので大広間で寝る事になった。
あちこちで生徒同士でくっついて丸まって寝てたり、中にはケンタウロス達に寄り添って眠ってる奴もいる。
寮なぞ関係なく、まして種族も関係なく寄り添って眠る姿を、今ではなく日常のホグワーツで見たかった。
こんな悲惨な戦場後などではなく、ごくありふれた日常の中で。
兄貴達も近くでうなされていた子達を躊躇うことなくローブの中に入れて抱きしめて眠ってる。
夕食代わりのスープに入れた教授の特性睡眠薬がいい仕事をしてくれたようだ。
無傷の俺達と、傷のない屋敷しもべ達の協力で昼食に出すはずだったスープを完成させてホグワーツの関係者だけじゃなく、駆けつけた魔法省の人達にも出した。
屋敷しもべ達は自分達だけでやる、手伝ってもらうなぞ恐れ多いといってきたけど、ビンセントとグレゴリーのお腹の音を聞いて降参してくれた。
お腹を空かせた子供の為に。
「・・どうして俺は腹が減るんだ?」
「こんな時なのに・・情けない・・」
緊張感がなさすぎると二人は自分に嘆いたけど「それは俺達が生きているから腹が減るんだ。生きるのはに食べる事が欠かせない。どんなときにも食って、元気出して、前を向いて歩いていくんだ。」
「そうよ、食べましょう皆!」
ロンとハーマイオニーの言葉を受け、大広間の子供達はマグの中のスープを全て飲みくだしてほどなくして子供達は-ほぼ全員-寝入った。
疲れを取るために、眠らせるのが一番だとセブルスが屋敷しもべ達に要請をして成功をした・・たった一人を除いては。
「何故お前は起きているんだロン!!」
「いや、ビンセントが一杯じゃ足りねえって。」
「・・・君も寝たまえ・・」
「いや、お見舞いに行ってくる。」
-ピクン―「誰のだ。」
「声と顔がおっかねえぞ教授、クィレル先生のところだ。屋敷しもべに頼んで校医室に姿現ししてもらう。」
ヴォル付きクィレルにはあんまり近づいてほしくなさそうだ。目で俺の事を射殺せそうだよ、本当におっかない。
「私も・・」
「いい、30分しても帰って来なかったら迎えに来てくれ。」
「・・分かった、行ってこい。」
どうせ何を言っても止められないならば、さっさと済ませて来てもらった方が早い。クィレルは今は怪我人で、杖も取り上げてある。
ロンの脅威にはなるまい。
「行ってくる。」
「行ってきます。」-バチン-
「・・行ってしもうたの~。」
「・・・分かっていて行くまで隠れていたあなたが何を言う。」
ロンが行った直後、目くらましを解いたダンブルドアに向かってセブルスは吐き捨てる。
クィレルにヴォルデモートがついているというのは、この場には自分達しかいない。
止める気のなかった腹黒狸に腹が立つ。
「・・・知りたいのじゃよ。」
「何をです。」
「-あれ-とクィレルが、何故ハリエットを身を挺して助けたのかを。あの子供ならば聞き出せよう。」
「そして聞いたことを言葉巧みに聞き出そうと?」
「まさか、あの子供にはその手が通じると思うかの~。」
ダンブルドアは髭をゆったりと撫ぜながらセブルスに問う。ロンが-子供だまし-が通じる相手かどうかを。
「無理ですな、つまるところ-吾輩-に聞き出せと?」
セブルスはダンブルに決して-私-の一人称を使わない。ロン達の様に、心を通わせたことなぞ一度としてないからだ。
「やってくれるかの?」
「お断りします。」
ダンブルドアの頼みなぞ聞きたくもないと一蹴する。その時にダンブルドアの表情が悲し気に揺れてもだ。
「では何かあったら私を呼ぶのですよ、Mr.ウィーズリー。」
「無茶な頼みを聞いててありがとう、マダム・ポンフリー。」
マダム・ポンフリーが退出をした後、眠っているクィレルに早速声を掛ける。
「目は覚めてんだろうクィレル先生。」
「・・気が付いていたか。」
「ありゃ―先生-の方か。まあいいや、具合はどうだ?何か飲むか?」
「いらん・・あの後どうなった、ロナルド・ウィーズリー。」
「ロンって呼んでくれよ先生、ハリエットは無傷で無事だ。あんたのお陰だよ先生。」
「・・ハリエットは暴走したようだが?」
「魔力で自分の体が傷つく前に正気に戻って暫く寝てすぐに起きたよ。あんたの側に行くって聞かなかったな。安全が保障されたのはついさっきだ、可哀そうだけどハリエットには我慢してもらった。」
「言っておくが、俺様はハリエットを助けたいと思ったから助けた訳ではないぞ。」
今クィレルの意識はヴォルデモートが全面的に表に出ている。だからこそロンはクィレル先生を先生と言い直した。ヴォルデモートが表に出てきている時は先生と呼ぶ事に決めて。
「奇妙に思わんのか?」自分が表に出るのはごくたまにで、それもロンとハリエットの二人だけで来た時や、ロンのみの時だけ。
回数は少なくとも、自分を私と呼ぶものが、俺様と言いだしクィレルとは似ても似つかない言葉遣いをしているのに、ハリエットもロンも普通に自分と接している。
ハリエットは世間知らずだと言われれば納得するが、ロンは違いが分かって然るべきだろうにと、一度だけロンに聞いてみた。
「別にどうでもいい、二重人格みたいなもんだろ?クィレル先生も先生もどっちも気に入ってるからいいよ。」
そう変な事を自分に言ってきたロンに、ヴォルデモートは苦々しく言い放つ。助けてくれてありがとうなぞ聞きたくもないと。
「分かってる。何でか体が動いたんだろう?」
「つぅ!!」
「それでもいい。あいつが助かった事には変わりはないんだよ。」
ロンは体を起こしたクィレルの側に行き、ベッドのふちに腰を掛け「ありがとう」
たった一言を言ってヴォルデモートごと抱きしめる。
「・・・放せ・・」
「俺はさ、守れると思っていたんだ。」
「・・何を・・」
「俺の力で-皆-を守り切れるって。」
「・・ずいぶん傲慢な考えだな。」
「そうだよ、傲慢で・・そして無力だった・・」
「・・マダム・ポンフリーが言っていたぞ。お前のお陰で大勢の生徒が無傷で済んだと。」
屋敷しもべに姿現しを、ゴースト達と肖像画達を使って連携で生徒達を助ける案を出したのはロンだと。
「それでも・・俺は・・屋敷しもべ達に死んでほしくはなかった・・ケンタウロス達にも助かって欲しかった・・俺は・・・守れなかったんだよ・・」
賢しい子供の浅知恵だった。屋敷しもべ達の姿現しで皆が助かると。-皆-は助かった、ホグワーツの人族全ては。
だが代償も大きかった。まさか魔力がきれた屋敷しもべが最後には囮になるとは思わなかった。彼らの忠誠を、優しさを見誤った結果がこれだった。
ケンタウロス達は森を守るためにホグワーツの子とは関係なくアクロマンチュラと戦っていただろうが・・・それでも死んでほしくなかった。
「うっ・・う・・・ひ・・・う・・」
ロンはお礼を言いに来たのではない、泣きに来たのだ。この男ならば自分が泣こうがわめこうが慰めの言葉なぞ金輪際掛けないのを見込んで。
周りの者達ならば、それはロンのせいではないと言って慰めようとしてくれてしまう。
それでも自分の罪は自分が知っている。自分は禁じられた森に、大規模なアクロマンチュラのコロニーがあるのを知っていたのに放っておいた。
-原作-ではアクロマンチュラのアラゴグが、ハグリッドとの約定をってコロニーから滅多に出なかったから、勝手に大丈夫だと思いこんで、大惨事の火種を見過ごしたのだ。
この件の関係者は、ハグリッド・ダンブルドアだけではない、知っていた自分も入るべきだと、罪悪感に討ちひしがれ、敵になるであろう男の元で泣きに来た。
一人で泣くには心が冷たくて嫌で、でも慰めは聞きたくなくて、ただ黙って熱だけを与えてくれるであろう-クィレル―の元へと。
ロンの考えた通り、クィレルもヴォルデモートも何も言わず、抱き返しもせずにただロンの好きにさせた。
ただ少しだけ、そっと頭を撫ぜてみた。傲慢で愚かで馬鹿な子供を・・慰めでは無いが少しだけ。
その手つきは不器用で、それでもしっかりとした手つきで撫ぜてやる。
ハリエットを咄嗟に庇った時と同じく、打算なぞではなく何故だか分からない戸惑いを感じながらも。
それぞれの複雑な思いが絡んだ回でした。