僕はいつから-こう-何だろう?
何でこうなったんだろう?
何もかもから逃げだして、親友達を裏切って、自分一人が助かろうとした・・僕は助かったのだろうか?
―人間-を止めてもうどのくらいたったか忘れてしまった僕は、果たして助かったと言えるのだろうか?
安全な・・ある意味ホグワーツのダンブルドアの下よりも安全な奴の寝顔を見ながら思う。
どうして・・僕はこいつの側にいるんだろう?
こいつは滅茶苦茶やばい奴だ。滅茶苦茶な事をしても周りに愛されている奴だ。
僕なんて友人にもいつも顔色を窺っていたのに、こいつは全く頓着してない。なのに許されているなんてずるいじゃないか、僕はどうしてこうなったんだろう?どうしてこんなことになったんだろう・・
・・ター・・ピー・・ター・・誰だ?僕を呼ぶのは・・
「ピーター!!起きろよ!次はマクゴナガルの変身授業だぞ!!遅れたらどやされる!」
ああ、変わらずに元気だなシリウスは・・「ほら、行こうピーター。」
リーマスは優しい、僕が彼にとって無害でどうでもいいから優しい。
ジェームズとシリウスは知らない。リーマスに本当の意味で気に入られた者は本性をむき出しで追いかけまわされる。僕の知る限りその被害者は今のところセブルス・スネイプただ一人だ。
可哀想に、この間スリザリンの自室に押し入ったけど振られたって、リーマスは笑ってたっけ・・彼が逃げ切れるように・・なんてことを僕には出来ない。
リーマスの本性を知っても取り込まれてしまった僕は、傍から見たらリーマスと仲良く見えているんだろう。
「スニベルス発見!あ―――!!あいつ僕の愛しのリリーと居る!!!」
「よし、後でスコージファイしてやろうぜ。そしたら少しは見てくれが良くなる。」
「僕等はいい事をしているな~。」
・・何がいい事なんだろう?人に対してしたら、その人の口から泡が吹いて大惨事なのに。
会ってもう二年経つのに、この二人はセブルス・スネイプに飽きる事無く、次第にエスカレートする悪戯をしている・・ここまで来たら悪戯じゃない気もする・。
なんで先生たちは他の子の様にこの二人を罰しないんだろう?
あの厳格なマクゴナガル先生も・・シリウスが魔法界の王族ブラックの出で、ジェームズが
あの有名なポッター家の出だからだろうか?
それだったらグリフィンドールもスリザリンと変わらないじゃないか。
名家の出で、力のある親に守られているこの二人が、スリザリンの奴等とどう違うんだろう?
よっぽど一人で戦いつつも、勉学を頑張っているセブルス・スネイプの方が立派じゃないか。
「それを二人に言ってはいけないよ、ピーター・ペティグリュー。」
モヤモヤしてたらリーマスに抱き着かれた。こいつはいつだってそう、僕が二人に対してもやもやしたのを察知すると嬉しそうに僕に興味を持つ。
「・・言わないよ・・言えないのを君がよく知っているじゃないか・・」
「その通り、でも君の考えは正しい。あの二人はあの傲慢さでいつか必ず身を亡ぼす。」
酷い事を笑って言っている君はどうなんだろう。
「僕はいつどうなってもいいんだよ。だってこれ以上呪われようがない、いつか誰かにこの人狼って言われながら、お伽噺の-銀の弾丸-を喰らって死ぬのが関の山だよ。」
そんな事を・・どうして笑顔で言えるんだろう。
「泣いているの?僕の為にかい、泣き虫ピーター。」
僕は知っている、リーマスの秘密を。何故か僕にだけひっそりと教えてくれたから・・
「リーマスには絶対秘密がある!!毎月一回必ずいなくなるなんておかしいよ!」
ジェームズが何か張り切ってる。リリーの事ではなく、ましてセブルス・スネイプの事でもない。
張り切って、その日の夜に真っ青になって帰って来た「彼は・・人狼だ・・」満月が綺麗な夜だった。
「アニメ―ガスを習得しよう!!」
翌朝リーマスが帰って来る前になんかとんでもない事を言ってきた。
人狼になったリーマスに近づくにはそれしかないって結論がそれらしい。
「おし!俺もやるぞ!!リーマスが秘密を持ってんなら-俺達-も秘密の特訓だ!!」
やる気満々のジェームズとシリウスに、何でか僕も巻き込まれた。あんな本性でもやばい奴の、狼変身の側になんて行きたくないけど仕方がない・・基本二人には逆らわない、だって僕の価値はもうこの二人の側にいるだけでしか示せない。
入学早々の頃ならば、グリフィンドールでもそこそこの僕位の人達と友達になっていれば、目立たずにひっそりと卒業できても今や無理だ。
シリウスがブラック家からグリフィンドールに入った事を咎められる咆えメールが来た時に思わずその五月蠅さに僕がぶちぎれてしまった。
普段の僕は臆病でも、何の力が働いてか時折やらかしてしまう。ブラック家が寮の事くらいでがたがた言うなって・・思わず叫んでしまったのが運の尽きだ。
「お前・・いい奴だ!!俺はシリウス・ブラックだ!!お前は⁉」
「・・・・・ピーター・・ペティグリュー・・」
「ピーターか!そういえば同室だったよな?昨日はばたんきゅうで寝ちまって挨拶してなかったな。」
「シリウスの為に怒ってくれてありがとう。僕はジェームズ・ポッターだ。」
・・入学二日目で僕の運命は決まったも同然だった。
リーマスが楽しそうに笑った時はぞっとした、絶対碌な学生生活は望めないなと諦めた。
僕は何の取り柄もないけれども、何でか人の本性を嗅ぎ分けられてしまう。
会って早々のリーマスに怯え、シリウスとジェームズは力は凄くともあこがれを持てないなと距離を取ろうとして、ジェームズ達に虐められているセブルス・スネイプの方がカッコよく感じたんだ。
ちなみにリリー。エバンズには何の魅力も感じなかった。独善的で人の話を聞かない、セブルス・スネイプを庇いたいんなら教職員に本気で相談するとか手はあるだろうにやめなさいの一点張りで、まるでジェームズ達がセブルスに突っかかってくるのを待っているみたいに見えた。
だって、彼女はセブルス以外のスリザリンとは仲良くなんてしない、他の寮の子とも。
他寮の子と仲良くして何が悪いと言っているのに、グリフィンドール以外に正義はないとかも言っちゃっていた・・セブルス・スネイプが聞いたらどう思うんだろう?
「彼女もただの-女-だって事さ、お子様ピーター。」
割に本気でぶつけた疑問ですらリーマスに笑われた。流石の僕もムッとする。
「彼女はジェームズに構ってもらうのが本当は嬉しいのさ。でも幼馴染を守るヒロインの立場も捨てたくない。」
・・それって穢い・・
「そうさ、人間なんて一皮むけば欲望まみれの嘘つきさ。君みたいな臆病者はその事をよく知っているじゃないか?」
その通りだ・・こんな僕が誰かを非難できる立場じゃない。ジェームズとシリウスがセブルス・スネイプに酷い事をしても、リリーが折角助けたのに-穢れた血-と呼ばれたからとセブルス・スネイプを捨てた時も、僕は何もしなかった。
ジェームズとシリウスを止める事も、リリーに向かって、君たちの友情はたった一言で終わるほど軽かったのかと詰る事も・・言った後に傷ついた彼を助けようともしなかった僕は単なる臆病者だ。
何でそんな臆病者の僕にこんな話を持ってきたんだ、シリウスは?
「ポッター夫妻の秘密の守り人をしてくれ。」
それってどう考えても君の役どころだろうシリウス。
「俺じゃあありきたりですぐに闇の帝王にばれちまう。あいつの裏をかくんだ!
出し抜いて二人で守ろうぜ、ピーター。」
何を勝手に僕に夢を抱いているんだか・・僕はダンブルドアの不死鳥の騎士団には入らなかった。
闇の帝王の本部に出入りしているのがばれていないのが不思議だ。
だって僕にとってはあそこは居心地がいい。自分の弱さを自然に出しても臆病者とグリフィンドールの様に誹るものはいない。
皆なにかしら傷を抱えている。社会に適応できなかったもの、自分の思想をつまはじきにされた者、リーマスのように-人-の中から弾かれた人狼や半巨人、はては鬼婆や吸血鬼達もいる。
何故か僕はその人達が怖くなかった。怖がらせようと脅されても、何でかその人達は泣いているように見えたから。
リーマスよりも、よっぽど人間らしく人臭い彼等に愛着が湧いたのが不思議だったけど、
「何故貴様がここに居る⁉ポッターやブラックの側になぜいない!!!」
物凄くセブルス・スネイプに驚かれたけど、「こっちの方が僕には楽だから。」
なんの含みも無くそう言ったら、汚物を見るような目で見られて放っておかれた。
彼はやっぱり闇を抱く人じゃない、ジェームズとシリウスも光に相応しい人だった。
自分の確信が当たってくれてとても嬉しかった。ベラトリクスやドロホフ達に小間使い役をさせられていてもどってことはなかった。
たとえ外でどのような惨劇が繰り広げられ、大勢の人達が死んでも帰ってきた彼等を迎え入れて、必ずお帰りなさいを言ってあげた。
最初は怪訝な顔をされて馬鹿にされたけど、いつしかただいまと言う人たちが増えていた。
なんだ、皆ただ居場所が欲しいだけじゃないかと嬉しくなったんだ。
そんな僕に秘密の守り人を依頼してきたシリウスって本当に馬鹿だ。
年に一・二度しか会わない僕の何を知って頼んできたんだろう?
-例の予言-から狂ってきた。
七月の終わりに生まれた子供が闇の帝王を倒すって。
闇の帝王にそれを告げたセブルス・スネイプを見た時はびっくりした。
だって、有名な魔法族の子でその年の七月の終わりに生まれた子ってロングボトム夫妻かポッター夫妻しかいないのは周知の事なのに。
セブルス・スネイプはリリーを捨てたのだろうか?いや違う
「我が君、彼女だけは・・どうか・・命だけは・・」
泣いてヴォルデモートに懇願をしていた・・跪いて、右手に口づけをして・・あの誇り高いセブルス・スネイプが闇の帝王に。
「善処しよう。」
ヴォルデモートは約束をしなかったのに、セブルス・スネイプはそれを信じた。
愛とは人を愚かにする、生への執着もまた然り。そんな予言なんて放っておいて、さっさと魔法省を落としてダンブルドアを殺せば少なくともイギリス魔法界は掌握出来たのに、
ヴォルデモートは予言を怖れて行動をいったん縮小した。
そんなところに守り人の依頼が来た。
いつかリーマスの言った通り、ヴォルデモートを出し抜けるなんて考えたシリウスの傲慢が彼等を殺した。
責任の大半は僕にあっても、仕方がないじゃないか。だって守り人になった早々姿を消したジェームズの居場所を隠してい守り人は僕だってすぐにヴォルデモートにばれたんだから。
レジリメンスに対抗できるすべのない僕は呆気なく情報を盗られてしまった。
そしてジェームズ達は殺され、ハリエットは一人残され、ヴォルデモートはその日を境に消息不明。
みんな何があったのか動揺しても、僕には確信があった。予言を怖れるあまりに予言を重視し過ぎて、結局は予言の通りになってしまったのだと。
ヴォルデモートも可哀そうな人だった、僕にとっては彼も他の闇を抱えた人達と変わらない、
ずっと泣いていた人にしか見えなかった。たとえ僕の目の前で男だろうが女だろうが老いも若きも拷問していても、嗤って見ていても泣き顔にしか見えなかった。
本当はもっとやりたい事があって、これは違うんだと言っている気の弱いいじめっ子にしか見えなかったんだ。
僕の様に力が無ければよかったのに。そうしたら・・彼はもっと自由に生きていけた気がする。
力があって、頭が良くて、闇を持って理解してしまったから彼等の保護者役をしていたように見えたのは多分僕だけだろう。
僕の頭はすっかりといかれてしまった。大量殺人鬼の首領をそう評するなんて僕だけだろう。
でもいつか酔ったヴォルデモートが珍しく言っていた「ダンブルドアさえいなければ・・」ぽつりと言って眠ってしまった。
気になったから調べてみた。そしたら出てくる出てくる、ダンブルドアがヴォルデモートになる前のトム君を意図的に誹って貶めて職探しの妨害をしていた事が。
シリウスを酔っ払わせてダンブルドアの事を聞いてみれば「あの人は凄い人だ!闇の帝王が学生時代から、いつかこういう事になるんじゃないかって危惧していたんだ!!」
だからこそ不死鳥の騎士団をすぐに組織で来たんだって自慢していたんだけど、僕は心底ダンブルドアの事を軽蔑した。
誰にも分からない将来の事よりも、闇を抱えた目の前の子供を救うのが教師だろうと。
あの人は教師には向いていない、情が無く政治家か軍の対象が似合う人だ。決して子供を預けるには値しない人だと。
リーマスもいつか言っていた、ダンブルドアは可愛い愚か者だと。
可愛いはともかく愚かだ。学生時代にトム君を助けられている場今日この時のような戦争は起きなかっただろうに。
でも行ってみても始まらない、何もかもが終わった。-僕の家族-も大半が捕まった。
僕にもシリウスが報いを受けさせようとしたけれども逃げ切った。
ネズミの姿でアーサー・ウィーズリーの家に潜り込んだ。大家族でネズミの一匹がいてもバレないだろうと思ったら甘かった。
モリ―に捕まった、退治されるかと思ったが奇跡的にペットにされた。
初めはチャーリー、次にパーシー、ジョージ・フレッドは僕には興味がなかったのか、弟に譲られたら・・・なんだこいつは⁉
やることなす事ハチャメチャだ!!3歳の子が何で兄貴達を説教している?5歳の子が何復讐者に冷たい説得力のある説教をしている!!
何でルシウス・マルフォイに気に入られた⁉・・挙句同族に忘却呪文掛けて闇勢力を更生をぶち上げてんだ・・お陰でアズカバンに放り込まれていたシリウスの無罪がばれて出てきてこいつに会いに来やがった・・ポケットの中の-俺-はガクブルして、その日の夜に逃げようとしたらこいつに捕まった。
「お前が普通のネズミじゃないのは知っていた。」9歳児とは思えない冷たい言葉であっさりと言われた。
逃げようとしたら俺を魔法省に連れて行くと「10年も生きてるネズミなんて不自然だろう?」なんでみんな気が付かないのか不思議だと頭を掻いて面倒臭そうに言ってきた。
ここの家族はみんなお人好し・・というかいい人達だから、疑う事を知らないんじゃないかと俺でも思ってしまう程なので、内心では賛成をした。
「お前が逃げなければそれでいい。シリウスの事をずいぶん怖がっていたが、お前が逃げなきゃ俺が守ってやる。」
・・俺の事なんて何にも知らないガキの分際で、そう思ったら「お前はきっと碌でもない事をして人間を捨てざるおえなかったんだろう。けど、そのままネズミのまま一生を終えるんだったら俺が守ってやる。
光からも、闇からも。」
・・知らないくせに、俺の欲しい言葉をこいつはくれた。
そして俺はこいつの共犯になった。
ハリエットを守っているくせに、ハリエットの最大の敵のヴォルデモート付きの男と一緒にお茶してるってなんじゃそりゃ?
セブルス・スネイプがダンブルドアを引き連れて突っ込んできた時には一緒になって突っ込みたくなった。
ダンブルドアをくそ爺呼ばわりするは、相変わらずシリウスの事を駄犬と呼んで力強く生きているのに、こいつも時々泣くんだ。
特にアクロマンチュラ騒動の後は、ヴォルデモート付きの男・・いや・・ヴォルデモートだと知って縋りついて泣いたんだ。
こいつも・・弱さがある。光が鬱陶しくなる時が。誰だって朝や昼だけの世界を望まないのと一緒で、闇の中で泣くことを切望したんだ。
以外なのはこいつがヴォルデモートの胸で泣いた事じゃない、ヴォルデモートがこいつを撫でた事に驚いた。
こいつはヴォルデモート付きの男を何となしに慕っているのは知っている。なんせこいつの周りにはまともな大人の男が少なすぎる。
大人の常識はヴォルデモートは持っていたのをよく知っている。
マグルの車を違法改造して飛ばそうとしたり、勝手に人様の暖炉をお邪魔して一家だんらんの邪魔したり、次はいいアイデアないかと子供にたかる事もしないのだから。
それに張るのはセブルス・スネイプくらいだろうが、こいつにとってはその時はヴォルデモートが良かったんだろう。
思わず俺も眠ったこいつの頬に体を擦り付けた、ヴォルデモートが見ていても。
どうせこの方にはとっくに俺の事はバレている。鈍いシリウスや俺を見つけようともしないセブルス・スネイプとは違って。
ばれても殺されるのが関の山、最近は死ぬのが怖くなくなった。
こいつがいなくなることの方がはるかに怖い、そう目で告げたらヴォルデモートは不思議そうに目をぱちくりとして俺の事を見逃した。
そいつらよりも怖いリーマスがホグワーツの敷地内に入った時はすぐに分かった!!
死ぬのは怖くない・・でも・・あいつは確実に俺をおもちゃにする!!!あいつに自分の所業を知られるのは死ぬよりも嫌だ!
大広間には行かずにあいつの部屋に隠れて、しばらくしてあいつのことを捜していたら屋敷しもべ達があいつのところに連れて行ってくれた。
あいつは屋敷しもべ達にも大人気だから、ペットの俺も特別待遇してれて、行った先にはヴォルデモート付きの男とセブルス・スネイプがリーマスの事を話して対策を練ってくれて俺もこいつも助かった。
「怖がるなよスキャ。言ったろう、俺がお前を守ってやるって。」
リーマスに怯えた俺を慰めてくれた、熱い吐息で温めてくれながら。
俺はこいつの側にいたい・・ここはもう俺のいるべき場所・・今度はこの場所を守りたい。
・・ちっぽけなネズミの俺を、本当の意味で温かくしてくれるこいつを守りたい・・
ネズミの独り言、あるいはネズミの夢です