前日は大雪だったのが、今日は真っ青な空がのぞいている。悪天候があったのが嘘のように。
「ホグズミードか、俺楽しみにしてたんだよ。」ハリエットの奴はニコニコだ。
吸魂鬼に襲われかけて気絶をした時にはひやひやした。
実際に二・三日は一人で眠れなくて、ダフネかアミルにひっついて寝ていたらしい。
俺としては二・三日で済んで良かったとホッとする。今はともかく、ハリエットはそれほどまでに過酷な環境で生きて来て、吸魂鬼にその過去を見せられたのだから
数週間はトラウマになりはしないか皆で心配をしていたのが、短くて良かったよ。
まあ、一週間はまた俺の膝の上でかぼちゃジュース飲んでいたけど、シリウス筆頭にもっとハリエットを甘やかせと俺に厳命が下ったので否やはない。ないが教授にまでもが、もっとハリエットの事を守れだの甘やかせだのって、あんたがそれをしてやれよって言ったら「私は教師だ」
とか訳わからん事を言って顔を真っ赤にして一行っちまった。育ち過ぎの大蝙蝠は素直でなくていかんな。
他にもお見舞いの品やら元気を出してのメッセージやらを貰ったのが功を奏したらしい。
今回は全ホグワーツの生徒が吸魂鬼による被害を受けたので、日頃ハリエットにちょっかいを
掛けてくる奴等もこの件ではからかってこない。
それ程までに吸魂鬼の影響は凄まじかった・・らしい。
らしいというのは俺には全く影響がなかったかっらだ。確かに寒くて嫌な気持ちにはなったが、
トラウマが蘇るだの、不幸な出来事がちらついただのの影響は全くなく、それを教授に言ったら「お前ならさもありなん。」なんて一瞥されて言われた時には、俺に対しての周りの認識ってどうなってんだって突っ込みたくなった。
でもいいか、万が一あいつ等が襲ってきた時に俺が動ければあいつ等消せるし。
そう言ったら教授に溜息吐かれたのは解せん。
その一件以来平和だ。闇の帝王を信望しているって奴の手がかりはふっつりと消えたとシリウスが悔しそうに言っていたこと以外は、ホグワーツで真面目にお勉強をしている。
リーマス・ルーピンもいないから、スキャの奴ものびのびとしていていい事だ。
あんな変態お断りだ!そう思った矢先に来やがった!それも二人でホグズミードで待ち伏せして!!!
「やあ諸君、久しぶりだね。」なんて爽やかに挨拶してきやがった!!
何でもホグズミード時の護衛らしい。
「・・・闇払い達がいんだろ・・」シリウスだけ残って変態狼は帰りやがれ!
「ロン!こいつは頼りになるぞ!!・・俺の親友を信用してくれよ。」
シリウスは信頼しているけれど、いまいち人を見る目がな~。一時はダンブルドア信者だったし、痛い目見るまで信用した者はとことんらしい。
まあ俺も人の事言えないか。
なんせ相変わらずヴォル付きクィレル先生と皆でお茶会をしてんだから。
クィレル先生も慣れたもので、それぞれの好みのお茶をサーブしてくれるようになったけど、一つだけおかしな点がある。俺だけかハリエットの二人連れの時には割と出ていた-先生-が
全く出てこない。
数回に一回の割合でじじいの事でハリエットと悪口大会をして楽しんでいたのに。
「あの狸に気に入られた者は手駒にされて、気が付かないうちにとんだ目にあうぞ。」
「・・あいつってなんで教師で校長なんてやってんだ?」
「その通り俺様もそう思う!!あいつは教師・校長失格だ!!!」そもそもあんたの存在がアウトだって突っ込みたくなる程ハリエットと盛り上がっていたのが。
「先生はどうしたんだ、クィレル先生。」二人きりの時にさっくりと聞いた時には苦笑をされた。
「君は相変わらずに真っ直ぐすぎるね、Mr.ウィーズリー。」
「それが俺だ。それで?」もう一度聞いた時にはほんのりと笑われてかわされた。
何かをやり遂げた時のような満足気な顔をして、まさかヴォルデモートを復活させたのか?賢者の石以外を使って?そういえばいつからかターバンからにんにくの匂いが消えて、生徒達から人気が上がり始めた。
オドオドとせず、どもりもなく、アクロマンチュラ騒動では大蜘蛛を倒したのも知れ渡り、DADA教授として凄い人だと。
-闇の魔法を払うには闇の魔法自体を知らならなければならない-そう言ってジョージ・フレッドの学年からきちんと教えて防衛も教えているようだ。
「クィレル先生マジでクールになったぜ!」
「あれこそDADAの授業だ!!」
「もっと早くやって欲しかった。」クィレル先生は本気でホグワーツの教師をやる気になったのか、何かを企んでいるのかスキャに探らせても謎なまま。
そんな時に来た護衛がこの変態狼ってのは本気でどうかと思う。
今だって不意打ちできたのでポケットの中にはスキャがいる、可哀そうなほどブルブルしている。
「大丈夫だよロン君、僕は-ネズミ-には興味ないから安心してね?」
薄っすらと笑っていってきやがった。
去年の夏休みに俺とこいつは取引をした。
もう少しで地図が完成をしてリーマス・ルーピンも居なくなって良かったねを教授と祝おうとしたら「今月の脱狼薬だ。」ノックもせずに教授の部屋の扉を開けた俺も悪かったけれど、
そんな超が付く人様の秘密のお薬の名前をがっつりと言いながら渡す教授も悪かったと思う。
どうせリーマス・ルーピンに対する嫌味を込めたんだろうけど、聞いてしまった俺にどうしろってんだよ状態。まあどうもしないけどさ。
「あんた半人狼か。明後日満月だと今日あたりから大変だな。」確か満月の数日前から具合が悪くなるのは本で習ったから知っていて、他に言いようがないからそれで済ませようと思ったら・・・気が付いたらリーマス・ルーピンに引っ攫われて、見たこともない部屋に二人きりで、壁に押し付けられてる状況になっていた。
右手で俺の口を覆い、顔を近づけながら瞳はやばい位に爛々と光っていた。心なしか瞳孔が縦になってまさに狼の瞳をぎらつかせて。
「君はさ、どこまで僕の事を知っているんだい?」声がものすごく冷たく、酷薄とはこういう者かと身をもって知るほどの冷たさを孕んだ声で聞かれた。
「へえ・はなへ・・」口を覆われて喋れるか阿呆。
「おっと失礼、話しても逃げようなんて考えないでね?ここは-あったりなかったり部屋-って
言ってね、今は君の質問をきちんと聞くまで扉は開かないように設定がしてある。
僕がもういいよって言うまで開けられないよ、セブルスも助けには来られないし、君の-お友達-の姿現しの助けもないからきちんと答えてね。」今回はマジで来やがったか。
普段の飄々とした仮面は外して本性をむき出しで来てるのか。
というよりは「あんた一体何をそんなに怒ってるんだ?」
本性というよりはものすごく怒っている気がする。
怒ってるだって?この坊やは本気で僕に噛み殺されたいのかな?
生きてきた大半の日々は、半人狼の身によって翻弄をされつくした。
まず両親に疎遠にされた。父親がフェンリルを捕まえようとしたときに人狼を侮蔑する発言をして怒らせて、その報復で僕はあいつに噛まれたのに、なのに父は自分を心の中で見捨てた。
ホグワーツに入っても、いつ秘密がばれて迫害をされるかなんて常に考えながら表面は楽しい学生生活を楽しんでいる振りをした。
実際に-二人-のおもちゃを見つけたから楽しったからいいんだけど。
卒業したら案の定ダンブルドアの手先をやらされた。退屈しなさそうだからこれもいいんだけど、
闇の連中に近づいて甘い言葉で篭絡をして、少し体を交わせれば簡単に情報が手に入って愉快だった。
人生なんてこんなもの、人とは大半が愚かでおもちゃにしか見えない。人狼とか吸血鬼達闇の生物は汚らわしいと言っている大半の人間も僕にとっては大差ない。
無かった筈が、何なんだこの坊やは!!
ヴォルデモートが付いているとは知らなくとも、怪しい教師と平然とお茶してるは、十年も生けているあり得ないネズミを可愛がっているは、やっている事自体も尋常じゃない!!
極めつけにぼくが半人狼と知っても平然としてるって!何だよそれは!!呪われた僕の事を軽く見ているのかと頭に来る!!!
「君は僕の事が怖くないのかい?」僕の事を知っても平然としていたのは側にセブルスがいるせいだろうかと考えてこの部屋に連れ込んだけど、二人きりの密室なのに全く怯えた様子がない。
「・・・あんたが半人狼だから怖がれってか?阿保らしい。」へえ~言ってくれるね。
「もっと怖いのが世の中にはあるだろう。」
「何だいそれは?」是非聞きたいね。
「人の心の闇だ。」闇・・ね・・
「妬みや嫉み・差別意識・無意識の悪意・人を陥れる事に喜びを見出す者・命を持ったものを
駒として扱う奴等・人の弱みを握って操ろうとする奴等・正義を振りかざして声高に叫べば何をしてもいいと思っている奴等の方が俺には何よりも怖ろしいね。」
・・・・前半は僕が思っている愚者達で、最後の方はもろにダンブルドアの事じゃないか。
「成る程ね~、君の天使達に悪さをしそうなもの達が怖いと。」
「そうだ、少なくともあんたはあいつ等にはちょっかいを掛けないだろう。」その通り、興味ないもん。
はっきりと言えばハリエットもかわいい子くらいにしか見えないからね。
ふっふっふ、本当にこの子は面白い!こんなに愉快な気分になったのはいつ以来だろ!!
-人間の持つ醜悪な感情-を怖いだなんて、たった13歳の子供の言う事とはとても思えないよ。
一体どんな人生を送ってきたのか気になって調べてみたけれど、アーサー・ウィーズリーとモリ―の下で幸せに暮らしている少年としか出てこなかった。
ではあの凄いアイデアの知識はどこから来た?なぜマグルの情報に通じているのか謎が深まっただけ。
魔力の量が凄いのは純血には時たまみられるし、魔法は修練をすれば身に着くと言われれば納得をするが、この坊やの考え方や発想の仕方はどこから来るのか謎のまま。実にいい!!
「取引しようかロン君。」
「・・・名前で呼ぶな変態。」
「つれないな~、簡単な事だよ。ぼくが半人狼だというのを黙っていてほしい。」
「・・もともと言いふらす気はなかったぞ?」
「でもその言葉の担保が欲しい。言ったら僕は-君のネズミの秘密-をばらす。」-ピクン―
「怒るかい?やっぱり知っていたんだね、あのネズミが普通のネズミじゃないって。」この辺は分かりやす子だ、怒ればすぐに顔に出る。
「知ってる、きっとアニメ―ガスだ。十年も生きてるネズミなんていやしない、それでもあいつは俺のスキャだ。手えだした瞬間、あんたがシリウスの親友であってもコンフリンゴでバラバラに吹っ飛ばす。」おお怖い怖い。
「あのネズミの正体を知っているのかい?」親友二人を死に追いやった張本人、もっと言えば可愛がっているハリエットの両親を死なせた奴だと知ったらどう思だろうか?
そう考えるとゾクゾクとする!気が昂って仕方がない・・この坊やが少女だったら今すぐ食い散らかすのに、生憎僕にショタコンの趣味はないのが残念だ。
「分かったよ。手は出さない、口も出さない、-君の周りの者達-には絶対に秘密だ。
これでどう?」大盤振る舞いだ。いつか君に話して、驚愕をして苦悩する君を見られる代価としては悪くはないだろう?
こいつ絶対に碌な事を考えていないあろうと分かっても、スキャの為だ仕方がない。
秘密の約束を結んでようやく解放された後「あの狼はズタボロにする!!何なら皮を剥ぐ!!」
超絶怒って殺気にまみれた教授をなだめるのに半日かかった。
教授としては、生徒を埒る奴なんて敵でしかないと分かって、心配をしてくれたことにお礼を言ったら、珍しくハグされて寮まで送ってくれてた。
スキャにリーマス・ルーピンとの取引の事を伝えたら、申し訳なさそうにしていた。
「お前は俺のスキャだぞ?俺が守るのは当然だ。」
その日からリーマス・ルーピンがいてもスキャをポケットに入れて連れ歩いたけれども!いきなり現れたらスキャの心の準備が出来てないだろボケ!!!
「ロン!皆でホグズミード探検しようぜ~。」ああ・・天使達の純真さが痛い日が来ようとは。
にっこりと笑って言ってくるハリエットに負けて、結局はいつもの団体様で行動だ。
「あの歯磨き糸楊枝型ミント菓子は気に入ってくれるかしら?」
「ハーマイオニーは自分の分は買わなかったの?」
「ジニーにかったフィフィ・フィズビー気に入ってくれるかな?」
「「それよりもスキャバースにハエ型ヌガー買い過ぎだ」」
「いいだろう?こいつの好物なんだから。」
リーマス・ルーピンに怯えてるんだからさ、甘やかしてやんないと。
「君はとことんスキャバースが好きだね。」
「いいだろドラコ。」
「悪くはないが、守護霊までスキャバースなのもどうなんだい?」もっと君に相応しい獅子とか狼とかあるだろうに。
「溜息をつきながらいうなよドラコ。要は吸魂鬼達を消せればいいんだから。」大きさは関係なく、
中身で勝負だ!うん!!
「あん時は本当に助かったよロン。」上空でいきなり暗い気持ちになり、誰か知らない女の人が、
必死に俺を殺さないでと言いながら緑の閃光に包まれて倒れ伏し、その後はダーズリー家であった、
二度とは思いだしたくない記憶が溢れて、気が付いたら落下していた。
ハリエット・・「ハリエットはバタービールってのは飲んだことはあるか?」
「・・バターで、ビール?」
「その様子だと知らないか。俺もホグズミードのが一番美味しいってビルから聞かされて以来
三本箒で飲むまで我慢したんだ。」
「そこは本当にうまいぞ!お前達!!今日は俺のおごりだ、ガンガン飲んでくれ。リーマス、お前もだぞ。」
「御馳走になるよ、シリウス・パッドフッド。」
「なによりだ、リーマス・ムーニー」
二人が互いの名前と何かのあだ名を言った時、微かにスキャが身震いをした。きっとリーマス・ルーピンのスキャに対する嫌がらせ。-ピーター-に聞かせるための、こいつの罪悪感を弄ぶための。
つくづくこいつは嫌いだが、それでも三本箒で皆で飲んだバタービールは本当に美味しく、ビンセント・グレゴリーは五杯飲み、男子は三杯、女子達も二杯も飲んで、その度に乾杯をした。
祝・初ホグズミードだの、吸血鬼達サヨナラだの、今の楽しさを祝って。
「・・・我々は勤務中なのだが。」
「固い事言うなよ。アルコールは入ってないし、ファッジ大臣には俺から言っておくよ。
こんな楽しい場所に来て乾杯をしないのは勿体ないだろう?」
シリウスは闇払いの人達にもバタービールを奢って楽しんだ。
現魔法界の王様のおごりを断る奴はいないだろうし、なによりもこの人達だって学生時代にここに
来て、バタービールの美味しさを知っているんだから放って置くのも酷か。
「へへ、いつも俺・・俺達の事を守ってくれてありがとう。」ハリエット達は夏休みからずっと一緒にいる。
そのお礼を照れ臭そうに言いながら乾杯をしてる。微笑ましい光景だ。
「ルーマニアを訪れた教師の名は、クィリナス・クィレルか・・」
「そうだ、近頃は盛んにあちこちに出かけている。」
「今日来たあの忌々しいハリエット・ポッターがあいつに土産を買うと言っていたぞ。」
「待て!あの御方の仇がクィリナス・クィレルに・・」
・・・今夜は随分と物騒な客が来たもんだ。
この店には前科者・ミイラ男・はては吸血鬼達も来るが、人狼は初めてだ。それもかなり
血臭い。
「・・あれに言うべきか、アリアナ。」カウンターの奥にいるアリアナの肖像に尋ねてみるが、途端に嫌な顔をされた。
「そうだな、あいつは何でもかんでも一人で出来るか。放って置こう。」
ホグワーツの校長はあいつだ、教師の一人・生徒の一人くらいあいつが守るだろう。
お得意の正義を振りかざして。
楽しい時間と、それを壊そうとする時間の回でした。