「答案用紙が手元に来てない人は挙手してくださいにゃ。……皆さんに届きましたにゃ。解答時間は三時間ですにゃ。それでは筆記試験を始めてくださいにゃ」
語尾が特徴的なレッド寮の寮長、大徳寺先生の開始の合図と同時に全員が一斉に答案用紙に問いの解答を書き込む音が響く。
月一試験、筆記試験開始である。
普通の学校では各教科ごとに試験時間を分けるのだが、ここはデュエルアカデミア。筆記試験よりも実技試験が重視されており、実技試験を行う会場は数に限りがある。
その為に実技試験は午後いっぱいを使って行われるのだがそのツケとして、英・国・数・理・社の基本五教科にデュエルモンスターズに関する講義を含めた六科目の筆記試験を三時間で行うという受験生もビックリなスケジュールが組まれている。
まあ、一科目あたり三十分になるように問題の難易度や数が調整されているのがせめてもの救いだが。
………サービスなのか英語や国語にまで《青眼の白龍》関連の問題が出たのはオーナーのブルーアイズ好きに呆れたが。
また、十代が試験開始から四十分程遅れて来て万丈目がそのことを非難したりといったことがあったが、無事に筆記試験は終了した。
今は購買へ昼食を買いに向かっているところである。
「ええぇぇぇ!?もう売り切れ!?」
ん?今のは翔の声だな。何かあったのか?ちょっと急ぐか。
購買について最初に目に止まったのは崩れ落ちた翔の姿だった。
「翔、こんなところで寝たら他の人の邪魔だぞ」
「もうおしまいだぁぁぁ〜〜〜」
「……十代、何があったんだ?簡潔に頼む」
「今日入った新パックを大量に買ってった奴がいたらしくて残り一パックしかないんだってさ」
成る程、だからそのパックでデッキを強化するつもりだった翔はこんなになってるのか。
「適当に買ったパックじゃ強化できないと思うんだけど」
まあ、エリアの言うことも間違ってはいないけど可能性はゼロじゃないしな。
「一パックしかないんじゃしょうがない。翔、お前が買えよ」
「で、でもそれじゃアニキが」
「大丈夫だって!俺のヒーローは今のままでも十分強いからな」
「俺も今回はいいんだなぁ」
「俺はもともと昼飯買いに来ただけだしな。気にせず買えよ」
「隼人君、荘太君…ありがとう」
涙を拭いて立ち上がる翔。
「テレテテーン。丸藤翔からの好感度が一ポイント上がった」
ギャルゲーかよ。そうだとしたら攻略対象の性別が間違ってるぞ。
「よし、戻ってデッキ調整しようぜ!」
そう言って踵を返す十代。
「お待ち!」
しかし、購買を出ようとしたとき、奥から出てきた髪を三つ編みにしたおばさんに声をかけられ立ち止まる。
その顔を見た十代が驚きの声をあげる。
「今朝のおばちゃん!」
十代の話によると、今朝、トラックが坂でエンストしており、それを押すのを手伝ったらしい。
そのトラックの持ち主がこのおばさん(トメさんというのだそうだ)だったとのことだ。
そういう理由なら遅刻したのもしょうがないな。
その後、俺達はそれぞれトメさんがとっておいたというパックを一パックずつ渡された。
トメさんが言うには
「レッド生なんだから新しいカードの一つでも無いと実技試験で辛いだろう?」
とのこと。……俺、レッド生じゃないんだけど貰っていいのか?
まあ、くれるというのなら有難く頂くとしよう。
早速パックを開ける俺達。
「……このカードは相性がいいな」
パックに入っていたカード数枚をデッキの同じ枚数のカードと入れ替える。
十代達も自分のデッキと相性がいいカードが入っていたようでデッキを弄っていた。
このカードが役に立つといいんだがな。
実技試験は一部例外もあるが基本的には同じ寮の実力が近い者同士で組まされる。
そして、その実力は普段の実技の授業の成績で判断され、俺の成績はイエロー生の中でも上に位置する。
故に、同じく上位の実力を持つ三沢が対戦相手として俺の前に立つのは当然と言えた。
「こうして正式な場でデュエルするのは久しぶりだな三沢」
「ああ、授業外では何度もデュエルしてきたがこうして戦うのは最初の授業以来か………あの時はお前に勝ちを譲ったが、今回は俺が勝たせてもらうぞ」
「いいや、悪いが今回も勝ちは俺がもらうさ」
「「デュエル!!」」
俺のデュエルディスクが表示したのは後攻の二文字。その結果に俺は内心で舌打ちをする。
何故なら三沢のデッキは相手の弱点を突くことで自分が有利な状況を作ることを得意とした所謂メタデッキ。
ただでさえ先攻有利なデュエルモンスターズにおいてメタデッキに先攻を取られるというのはとてもマズイ。
此方の動きを阻害するカードが手札に来ていないと良いのだが、それは高望みというものだろう。
そんな風に俺が思考している間にドローを済ませ、手札を確認した三沢は己が取るべき戦術に従い行動を始める。
「俺はモンスターをセット。さらにカードを四枚セットしてターンエンドだ」
三沢:場、モンスター(裏守備)、伏せ四枚
手札1
「俺のターン。ドロー」
荘太:手札5→6
三沢の自身有り気な表情と場の状況、さらには相手のデッキがメタデッキだということを知っているせいか、まるで罠満載の城塞に攻め込むような気分になるな。その上手札には除去カードは無しと来た。だが、
「ここは臆さず攻める!俺は《ジェムレシス》を召喚!」
ジェムレシス ATK1700
「召喚に成功したジェムレシスの効果発動。デッキから《ジェムナイト・オブシディア》を手札に加える。そして、魔法カード《ジェムナイト・フュージョン》発動!「この時を待っていた!手札の魔法カード《死者転生》をコストにカウンター罠《封魔の呪印》発動!」っ!?」
くそっ!よりによってそのカードかよ!?
「ジェムナイト・フュージョンの発動と効果を無効にする。さらにお前はこのデュエル中、同名カードを発動することはできない。ジェムナイトはジェムナイト・フュージョンによる融合が主戦術。これでお前のデッキは百パーセントの力は発揮できない!」
大当たりだよこの野郎!
「だったら作戦変更、このままバトルだ!ジェムレシスでセットモンスターに攻撃『ジェム・ミサイル』!」
ジェムレシスが背中に装備したミサイルをセットモンスターに向かって撃ち出す。
ミサイルが爆発し炎に包まれる直前にカードから壺型のモンスターが飛び出した。
メタモルポットDEF600
「表になった《メタモルポット》の効果発動!お互いに手札を全て捨て、デッキからカードを五枚ドローする」
荘太:手札5
三沢:手札0→5
役目を終えたメタモルポットは炎に飲み込まれ爆発した。
「……手札から捨てられたオブシディアの効果発動。墓地から《ジェムナイト・サフィア》を守備表示で特殊召喚。カードを二枚伏せてターンエンド」
「え?」
俺の行動に後ろに浮いているエリアが疑問の声をあげる。
「どうした?」
「んーん、別に何でもナイヨ?」
何か言いたそうな表情が少し気になるが既にエンド宣言はしている。
エリアのことを意識から切り離し三沢に向き直る。
荘太:場、ジェムレシスATK1700、ジェムナイト・サフィアDEF2100、伏せ二枚
手札3
「俺のターン。ドロー」
三沢:手札5→6
「魔法カード《天使の施し》を発動。三枚ドローし、二枚捨てる。《ハイドロゲドン》を召喚!さらに装備魔法《早すぎた埋葬》発動!ライフを800ポイント払い墓地から《オキシゲドン》を特殊召喚!」
三沢:LP4000→3200
ハイドロゲドンATK1600
オキシゲドンATK1800
茶色く濁った水で構成された四足の恐竜と緑色の翼竜が現れる。
「ハイドロゲドンでジェムナイト・サフィアを攻撃!『ハイドロ・ブレス』!」
攻撃力1600で守備力2100に攻撃だと?
「攻撃宣言時に速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動!ジェムナイト・サフィアを攻撃表示に変更する!」
っ!これを通すとマズイ!
「チェーンして罠発動《輝石融合》!俺の手札、及びフィールドのモンスターを墓地に送りジェムナイトと名の付いたモンスターを融合召喚する!」
よし!これで凌げる!
「甘い!俺も罠をチェーン発動!永続罠《融合禁止エリア》!このカードが存在する限り融合召喚をすることはできない!」
「なら俺も再びチェーンして罠発動《サンダーブレイク》!《ジェムナイト・アンバー》をコストにして融合禁止エリアを破壊するぜ!」
温存しといて良かった!
「それも予測済みだ!永続罠《宮廷のしきたり》発動!このカードが存在する限り、宮廷のしきたり以外の永続罠は破壊されない!さらにチェーンして《積み上げる幸福》を発動!このカードはチェーン4以降に発動可能なカード。デッキからカードを二枚ドローする」
くそっ!こっちのカードを全て防いだ上にチェーンを稼いでドローカードの発動条件まで満たしやがった。
歯噛みする俺に三沢は告げる。
「ジェムナイト・フュージョンを封じられれば他のカードで融合を狙ってくること。そして、その手段を守る為に天敵である融合禁止エリアを破壊しようとしてくること。さらに、お前のデッキにはフリーチェーンのカードは多いがカウンター罠の類が入っていない。よって、融合禁止エリアと宮廷のしきたりがあればお前のデッキは封じることができる!」
「お前は何処ぞの予知能力者か!?」
「予知ではない。予測と計算だ!」
んなバカな、と思うが実際にこちらの策を防いだ以上は三沢の言う通りなのだろう。
「積み上げる幸福の効果で二枚ドロー」
三沢:手札3→5
「そして宮廷のしきたりと融合禁止エリアの効果でサンダーブレイクと輝石融合は不発となる。そしてエネミーコントローラーの効果でジェムナイト・サフィアが攻撃表示となり、バトル再開だ!」
攻撃力0のジェムナイト・サフィアがハイドロゲドンの攻撃に耐えられる筈も無く、破壊され、ライフポイントが大きく削られる。
荘太:LP4000→2400
「さらにハイドロゲドンの効果発動!このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し、墓地に送った時、デッキからハイドロゲドン一体を特殊召喚できる。攻撃表示で特殊召喚!」
ハイドロゲドン(二体目)ATK1600
「オキシゲドンでジェムレシスに攻撃!『オキシ・ストリーム』!」
僅か100ポイントとはいえ、その攻撃力の差は大きく、ジェムレシスもまたサフィアと運命を共にする。
荘太:LP2400→2300
そして、三沢のバトルフェイズはまだ終わっていない。
「二体目のハイドロゲドンでダイレクトアタック!『ハイドロ・ブレス』!」
荘太:LP2300→700
マズイ、これは非常にマズイ!
僅か一ターンでここまでライフを削られるとは思って無かった。しかも、三沢のフィールドにはハイドロゲドン二体とオキシゲドン一体がいる。あのモンスターが出てくる前に片付けないと。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
三沢:LP3200
場、ハイドロゲドン(一体目)ATK1600、ハイドロゲドン(二体目)ATK1600、オキシゲドンATK1800、融合禁止エリア、宮廷のしきたり、伏せ一枚
手札4
「俺のターン!ドロー!」
荘太:手札2→3
「《ジェムナイト・アレキサンド》を召喚!」
現れたのは宝石の王様とも呼ばれる鮮紅や青緑に輝くアレキサンドライトが散りばめられた白銀の騎士。
ジェムナイト・アレキサンドATK1800
「アレキサンドを生け贄に捧げ効果発動!デッキからジェムナイトの通常モンスター一体を特殊召喚する!『カラーチェンジ』!」
アレキサンドが七色の輝きに包まれその姿を変える。
「来い!《ジェムナイト・クリスタ》!」
輝きが収まり、アレキサンドが居た場所に立っていたのは、仲間との絆を大切にし、クリスタルパワーで戦うジェムナイトの上級戦士。
ジェムナイト・クリスタATK2450
「クリスタでハイドロゲドンに攻撃!『クリスタル・シャイニング』!」
クリスタの全身のクリスタルが輝きを増し、三沢のフィールドのハイドロゲドンを包み込み、その光によって蒸発させる。
「攻撃方法が全然地属性じゃないんだけど」
エリア、そこは気にしたらダメだ。
三沢:LP3200→2350
「カードを二枚伏せてターンエンド」
荘太:LP700
場、ジェムナイト・クリスタATK2450、伏せ二枚
手札0
「ふ、融合ができないなら上級モンスターで戦おうというわけか。だが、それは甘い考えだ!ドロー!」
三沢:手札4→5
「永続罠《リビングデッドの呼び声》!墓地のハイドロゲドンを特殊召喚する!」
ハイドロゲドンATK1600
このタイミングで蘇生したということは……。
「行くぞ荘太!魔法カード《ボンディングーH2O》発動!俺の場のハイドロゲドン二体とオキシゲドン一体を生け贄に捧げ、デッキ、手札、墓地から《ウォーター・ドラゴン》一体を特殊召喚する!墓地から特殊召喚!」
ウォーター・ドラゴンATK2800
ついに出て来やがったか、こいつを単体で殴り倒せるモンスターは融合を封じられた俺のデッキには殆どいない。ライフが尽きる前に引ければいいんだが……。
「ウォーター・ドラゴンでジェムナイト・クリスタを攻撃!『アクア・パニッシャー』!」
「『ハイドロ○ンプ』!」
っ!?
ウォーター・ドラゴンの口から激しい水流が噴き出し、その水圧でクリスタが粉砕される。
荘太:LP700→350
俺のライフがついに500を切るが、それを無視して隣のバカを睨む。
「お前どっちの味方だ!?」
「もちろん荘太の味方だよ。でも水属性使いとしては今のは譲れないとこだったんだよ!」
「お前なぁ……」
頼むから黙ってろ。
「これでターンエンドだ。余所見をしている余裕はないぞ!」
三沢:LP2350
場、ウォーター・ドラゴンATK2800、融合禁止エリア、宮廷のしきたり、リビングデッドの呼び声
手札4
「わかってるさ!ドロー!」
荘太:手札0→1
「《強欲な壺》を発動して二枚ドロー!」
荘太:手札0→2
よし!これならウォーター・ドラゴンを倒せる!
「永続罠発動!《正統なる血統》。墓地の通常モンスター、ジェムナイト・クリスタを特殊召喚!」
ジェムナイト・クリスタATK2450
「だがそのモンスターではウォーター・ドラゴンは「クリスタでウォーター・ドラゴンを攻撃!」何!?」
先程ハイドロゲドンを倒した時とは違いウォーター・ドラゴンに向かって殴りかかるクリスタ。
攻撃力が低い相手とはいえ、見逃す訳も無くクリスタに襲いかかるウォーター・ドラゴン。
二体の拳と牙がぶつかり合い、僅かな拮抗の後粉砕された。
……ウォーター・ドラゴンが。
三沢:LP2350→1700
「!?何故だ!攻撃力はウォーター・ドラゴンの方が上だぞ!」
「ダメージステップ時に手札の《ジェム・マーチャント》の効果を発動していたのさ!」
「ジェム・マーチャントだと!?」
「ジェム・マーチャントは自分フィールド上の地属性の通常モンスターが戦闘を行うダメージステップ時、このカードを手札から墓地へ送って発動でき、そのモンスターの攻撃力・守備力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップさせる効果を持つ。この効果でクリスタの攻撃力を上げたのさ」
ジェムナイト・クリスタATK2450→3450
「そんなモンスターがいたとは……研究不足だったか。だがウォーター・ドラゴンはタダでは倒れん。ウォーター・ドラゴンが破壊された時、墓地のハイドロゲドン二体とオキシゲドン一体を特殊召喚することができる」
ハイドロゲドン(一体目)ATK1600、ハイドロゲドン(二体目)ATK1600、オキシゲドンATK1800
「これで次の俺のターンにもう一度ウォーター・ドラゴンを特殊召喚して攻撃すれば俺の勝ちだ!」
三沢の台詞にニヤリと笑う。
「俺のバトルフェイズはまだ終わってないぜ!罠発動《ジェム・エンハンス》!」
「そのカードは!」
「俺の場のジェムナイト一体を生け贄に捧げ、墓地のジェムナイト一体を特殊召喚する。クリスタを生け贄に捧げ、クリスタを特殊召喚!」
ジェムナイト・クリスタATK2450
本日三度目の登場。
「攻撃表示で蘇生したのは失敗だったな。クリスタでハイドロゲドンを攻撃!」
今度は掌に創り出したクリスタルの槍を投擲して攻撃するクリスタ。
バリエーション豊富だな。
三沢:LP1700→850
「カードを一枚伏せてターンエンド。ライフ差は500。追いついたぜ三沢!」
荘太:LP350
場、ジェムナイト・クリスタATK2450、伏せ一枚
手札0
「くっ!?ここまで追い込まれるとは想定外だ。だが勝つのは俺だ。ドロー!」
三沢:手札4→5
「ついに来たか。儀式魔法《リトマスの死儀式》を発動!レベルの合計が8以上になるように場か手札からモンスターを生け贄に捧げなければならない。レベル4のオキシゲドンとハイドロゲドンを生け贄に捧げ、降臨せよ!《リトマスの死の剣士》!」
三沢のフィールドに紫色のマントを羽織った二刀流の剣士が降臨する。
リトマスの死の剣士ATK0
攻撃力0の儀式モンスターか……。
サクリファイスみたいに厄介な効果を持ってるんだろうな……。
「リトマスの死の剣士は戦闘では破壊されず、罠の効果も受けない。そして、罠カードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカードの攻守は3000になる!」
リトマスの死の剣士ATK0→3000
「リトマスの死の剣士で攻撃!」
「させるか!罠発動《マジカルシルクハット》!デッキから二枚のジェムナイト・フュージョンを攻守0のモンスター扱いとして、クリスタと合わせてシャッフルし、裏側守備表示でセットする」
俺のフィールドに現れた三つのシルクハットにクリスタと二枚のジェムナイトフュージョンが隠れる。
「くっ……なら右のシルクハットに攻撃だ!」
リトマスの死の剣士が三沢の選択したシルクハットを切り裂く。
中に入っていたのは……。
ジェムナイト・クリスタDEF1950
シルクハットの切れ端が消滅し、数秒遅れてクリスタも破壊される。
「……マジカルシルクハットの効果で特殊召喚した二枚のカードはバトルフェイズ終了時に破壊される」
「決められなかったか……。ターンエンドだ」
三沢:LP850
場、リトマスの死の剣士ATK3000、融合禁止エリア、宮廷のしきたり、リビングデッドの呼び声
手札3
なんとかこのターンは凌いだが、この状況はヤバイ。
手札もフィールドも空。
ライフは僅か350ポイント。
そして相手のフィールドには攻撃力3000のモンスター。
絶対絶命のピンチだ。
だが、まだ逆転のチャンスは残っている筈だ。
だから、
「俺はデッキを信じる!ドロー!」
荘太:手札0→1
引いたカードは………。
《手札抹殺》
………………………終わった。
「諦めるな!まだチャンスは残ってるよ!」
エリアさんや手札0で手札抹殺を引いても相手のデッキを減らすぐらいしかできねえぞ?
「本当に手札0ならそうだっただろうね」
どういう意味だ?
「このデュエルで二人が使ったカードの効果をよーく思いだしてみたら?」
このデュエルで三沢に使われたカード………。
封魔の呪印、メタモルポット、融合禁止エリア、宮廷のしきたり………。
俺が使ったカード……。
ジェム・レシス、ジェムナイト・フュージョン、ジェムナイト・オブシディア……サンダー・ブレイク……ん?
待て、今何に引っかかった?サンダー・ブレイクか?そういえばあのカードを伏せた時にエリアが何か驚いてたような……コストが用意できてないならともかく、あの時は用意できていた。
何で驚いた?まだ何かできることがあったから?確かに普段なら墓地のジェムナイト・フュージョンを回収してコストにしてる。でもあの時は封魔の呪印でカードの発動が封じられ………カードの発動?
…………そういうことか!
「気付いたみたいだね。お姉さんが褒めてあげよう」
「ははは…ありがとな、お前のおかげで諦めずにすんだ」
「お礼は勝ってからね。あとどうせお礼言うなら食堂でジャンボパフェ奢ってね」
そんじゃあ先ずは勝たなきゃな。
「墓地のジェムナイト・フュージョンの効果発動!」
「何!?封魔の呪印の効果でそのカードの発動はできない筈だ!」
「ああ、確かにカードの発動は封じられている」
「なら何故……」
「でも、効果の発動は封じられてないんだよ!」
「そうか!ジェムナイト・フュージョンの墓地で発動する効果はカードの発動では無い……。だが、融合を封じられている今回収してどうするつもりだ!?」
「こうするのさ!先ずは墓地のサフィア、オブシディア、アンバーを除外して三枚のジェムナイト・フュージョンを回収!そして魔法カード《手札抹殺》発動!」
「そういうことか!手札交換の為に」
「最後は運試しってな。お互い手札を全て捨てその枚数分ドロー!」
一枚目、《凡骨の意地》、二枚目、《手札断殺》、三枚目。
「ドロー!このカードは……」
よし、こいつに賭ける!
「俺は《レスキューラビット》を召喚!》」
レスキューラビットATK300
ヘルメットをかぶり、首から通信機をぶら下げたウサギが現れた瞬間、観客席の女子達から黄色い声が上がる。
「レスキューラビット?初めて見るモンスターだな。それにレベル4にしては異常に攻撃力が低い……。効果が強力なのか?」
流石は三沢、ステータスが低くても油断はしないか、ブルーの男子、特に万丈目辺りは絶対油断するだろうな。現にさっきそれで負けてたし。
「レスキューラビットを除外して効果発動!デッキからレベル4以下の同名通常モンスター二体を特殊召喚する。デッキから二体の《ジェムナイト・ガネット》を特殊召喚!」
ジェムナイト・ガネット(一体目)ATK1900、ジェムナイト・ガネット(二体目)ATK1900
「そして墓地のアレキサンドを除外してジェムナイト・フュージョンを回収し、速攻魔法《手札断殺》発動。お互いに手札を二枚墓地に送りデッキから二枚ドローする。」
「また手札交換か」
ドローした二枚のカードを確認する。
………これは、さっきのレスキューラビットといい、この二枚といい、トメさんに感謝しなきゃな。
「三沢、俺の新しい切り札を見せてやるよ」
「新しい切り札だと?」
「儀式魔法《大邪神の儀式》発動!レベルの合計が8以上になるように場か手札のモンスターを生け贄に捧げなければならない。レベル4のガネット二体を生け贄に、降臨せよ!《大邪神レシェフ》!」
フィールドに現れた石板がヒビ割れ神々しくも禍々しいモンスターが現れる。
これこそがこのデュエルを終わらせる
大邪神レシェフATK2500
レシェフが現れた時は驚いていた三沢だったがステータスがそれ程高くないことに気付き、初めて見るモンスターを警戒している。
「墓地のクリスタを除外してジェムナイト・フュージョンを回収。そしてレシェフの効果発動!一ターンに一度手札の魔法カード一枚を墓地に送ることでエンドフェイズまで相手フィールド上のモンスター一体のコントロールを得る!」
「コントロール奪取だと!?」
「『邪神の洗礼』!」
レシェフから放たれた怪光線が当たり、ギリギリと音が出そうな動きで身体の向きを変えるリトマスの死の剣士。
そのまま命令を降す。
「リトマスの死の剣士でダイレクトアタック『裏切りの葬死斬』!」
「ぐあああぁぁぁっ!」
三沢:LP850→0
元配下の裏切りにより、三沢のライフは0を刻んだ。
試験は無事に終わり、俺は十代達と打ち上げを行った。詳細は省くが楽しいものだったことだけは述べておく。万丈目に勝利し、昇格を告げられたが赤が好きだからと断った十代。そのことを泣いて喜ぶ翔。同じく喜ぶ隼人。次は負けないと意気込む三沢。次も負けないさと返す俺。そんな俺達を見て笑うエリア。途中から来た明日香達も交えた打ち上げは夕方まで続いた。
因みに、デュエル中にエリアとした約束の結末はエリアがジャンボパフェを五杯も食べるという暴挙により、俺の財布ポイントが0を刻むというものだった。
今回ジェムナイトがあまりジェムナイトしてない……。
まあ、シンクロもエクシーズもまだ出てない状態で融合を封じられたらクリスタビートかメガロックかレシェフぐらいしか出来ませんけど。
もうすぐ学年末テストがあるので次の話は二月中旬から下旬になると思います。
今後もよろしくお願いします。