僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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出会い

 日常というものは、ほんの些細な事で変化する。

 

 化け物に襲われた、空から女の子が降ってきた、ちょっとおかしな力を手に入れた。そんなファンタジックな事があれば紛うことなく変化をするだろう。

 だけどそんな生き方を変えるような大きな変化ではなく小さなもの、それであってもゆっくりと日常というものは変わっていく。

 例えば……恋をする、とか。

 

 

 

 学校が終わり自転車に乗って校舎から出る。予定もないし真っ直ぐ帰ろうとしたところで今日は週刊誌の新刊が出る曜日だということに気づき、帰り道に建っているコンビニに寄る。

 空は怪しく灰色の雲に覆われているが、まぁ大丈夫だろうと自転車から降りてコンビニに立ち寄る。

 

 最近では立ち読みを防ぐためか本にテープを貼っているコンビニもあるが、このコンビニではありがたいことにそんなことはない。

 常時金欠な僕からしてみれば大変ありがたいことなのだが、高校に入ってから何ヵ月もの間立ち読みさせてもらっているのだから感謝の念は欠片も持たずに本を手に取る。

 

 この週刊誌の僕のお気に入りの作品は後ろの方にある。大変好みなのだが残念ながら人気がないのだろうか。

 それは『青春ラブストーリー』と銘打った作品で、ガールズバンドを組んだ女の子グループのメンバーと主人公との恋愛を書いた作品。

 

 特別ストーリーが面白いわけではない、ならば恋愛描写が非常に上手で……というものでもない。何に惹かれたのか、自分でもわからない。

 僕自身音楽がある程度好きなので音楽関連というところに惹かれたのかもしれない。恋愛というものを経験したことがないからどこか惹かれたのかもしれない。

 

「あーらら……」

 

 週刊誌のめぼしい作品を全て読み終えた僕は棚の元にあった場所に戻し、そろそろ帰るかと外を見てみると大雨。大丈夫だろうとは何だったのか。

 ため息をつきながら適当にお菓子を買って外に出る。降り注ぐ雨は想像してたよりもはるかに勢いが強かった。

 自転車なんて酷い有り様だ、屋根の下に停めなかった自分も悪いのだが。

 

 鞄の中には折り畳み式の傘が入っているはずだが、傘を挿しながら自転車を漕いだら邪魔だ。なにより警察に捕まって面倒くさいことになるかもしれない。

 そもそも折り畳み式の傘では自転車全体を覆うほど大きくないのだから利点は何もない。仕方なくびしょ濡れになりながら帰ろうとしたその時、視界の端に一人の女の子が映った。

 

 自転車は僕の一台しか見当たらないことから彼女は傘を持っていないんだろうな、ということは簡単に推測できた。

 もしここで傘を貸すことができるのであれば人間としてできてるんだろうな、なんて思いながら自転車に足をかける。

 

 だが僕は彼女と目があってしまった。目があわなければこのまま自転車を漕いで家まで帰ったのだが、目があってしまったならば話は別だ。

 もちろんそれがどうしたと帰るのも何もおかしくない。しかし目と目があったら不思議な運命と何処かで聞いたことがある、それに放って置くのは少しだけモヤッとする。

 仕方なしに足を自転車から離し、屋根の下で傘を取り出して彼女に話しかけた。

 

「あの……これ使いますか?」

 

 向こうはもうこちらから目を離して空を見ていたがその視線は再びこちらに向く。その目からは困惑の色が見てとれた。

 

「えっと……傘がなくて困っていたように見えたので」

「え……えぇ、確かに傘を忘れてきてしまって困っていましたが、私に貸したら貴方が困るのでは?」

「あー……僕は自転車で傘を使えないので、だったら貸そうかなと」

 

 もう結構濡れちゃってますし、そう両手を横に上げながら言うとしばらくの間無言が続いた。

 やめてほしい、僕は自分から話題を振るのが大の苦手なんだ。出来ればさっさと借りますって言って借りてほしい。貸しましょうかと言った手前やっぱりやめますとも言いづらいし。

 

「そういうことならお言葉に甘えて……と言ってもこれはいつお返しすればいいですか?」

「多分来週の水曜日にもこの時間くらいならここにいるので」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 そう言って傘を渡すと僕は逃げるように自転車に乗って帰り道を急いだ。座って漕ぐとズボンがもっと濡れてしまうし、ほんの少しでも早く帰るために当然立ちこぎで。

 家に帰ると僕は真っ先に風呂場に行って制服を脱いで干した。幸い靴下は濡れていなかったので床は濡らさずにすんだ為、親に怒られることは無さそうで一安心だ。

 僕は適当に服を着るとそのまま自分の部屋のベットに寝転がった。

 

「……女と学校外で話したのいつぶりだよ」

 

 そう独り言を溢しながら最近やってるスマホゲームを起動する。

 パソコンでNeo Fantasy Online、通称NFOというゲームもやっているが、あれは夜中腰を据えてやりたいので平日の学校終わりはスマホと決めている。

 

「にしてもあの人かわいかったなぁ……」

 

 名前も聞いていないし会話というにはおこがましい短くしか話をしていないが、それでも僕の記憶に残るには十分、それくらいあの人は印象的だった。

 真面目そうで水色の髪をした彼女。空を不安そうに見上げるその表情も、僕に話しかけられた時のあの困惑の表情も鮮明に思い出せる。三日もしたらその表情は思い出せなくなってそうだけど。

 そんなことを思いながらゲームをして、親が帰ってきたのを確認すると乾いた制服を適当に取り出し風呂に入って、夕飯を食べて寝た。

 

 

 

 毎日毎日が同じことの繰り返し、嫌になる。なんて中学時代から数えきれないほど思ったことを考えながら登校し、席に着くと同時にスマホを弄る。

 こんな僕だが学校では居場所はあるし友達もいる。ただ数は少なく中学からの知り合いとあと数人、といった感じだが。

 

 学校の授業なんて7割寝ている、起きてる3割は寝ると面倒くさい授業くらいだ。

 別に学校の授業なんて聞かなくても理解できる、なんて漫画のようなことはなくテストの成績は平均より普通に低い。それどころか下から数えた方が断然早いくらいだ。

 

 勉強なんてしなくても余裕だった小学生時代は幸せだったんだな、なんてことを考えていたら今日の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 今日は水曜日、つまり週刊誌の新刊の発売日で、雨なども降っていないのでコンビニに向かう事にした。

 

 今日は何かあった気がするが思い出せない。なんだったか、掃除の当番でも日直でもなかったし、友人は忙しいと言っていたし何もなかった気がするが……思い出せない。

 まぁ思い出せないなら大したことではないのだろう、そう思い僕は自転車を走らせた。

 

 

「これお返しします」

 

 コンビニに着き中に入ろうとしたところで聞き覚えのある声で話しかけられた。そちらを向くと、傘をこちらに差し出してきている女の子がいた。

 一瞬なんだと思ったが、ゆっくりと一週間前の記憶が浮かび上がってきた。

 

「あ、そういえば……」

「自分で貸したのに覚えてなかったのですか?」

「まぁ、返ってくると思ってなかったってのもありますけど」

「……私がこれを持ち逃げすると思ったってことですか?」

「いやそういうわけじゃ……」

 

 貸した物は返ってくると思うな。誰が言ったかしらないがその通りで、例えば物を貸したらもう二度と返ってこない、なんてことは両手の指で数えきれなくなる前に数えることをやめた。

 実際傘を貸したのはその傘がだいぶ古かったし壊れかけだったので、別に盗まれたとしてもいいかなって思ったからだったりもする。

 

 差し出された傘を受け取ると、彼女は仕事は終わったと背中で語るかのように帰っていった。

 もう彼女と会うことはないんだろうな、少しだけ残念に思いながら傘を鞄にしまい、自転車に乗って僕も帰ることにした。

 

 

「あ、週刊誌読んでないじゃん」

 

 最近、物忘れが酷くて困る。

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