僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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理解

 今週は本当に散々だった、ソファに倒れこんで今週の出来事を思い返す。

 学校に行けばその髪型はどうしたと聞かれ小テストでは点数が悪くて再テスト、友人と一緒に帰っていると並列運転で止められる。

 更には寝る前に顔にスマホを落とすし机の角に足の小指をぶつけた。神様とやらは残酷だ、世界は残酷だ。こんなにも不運を一週間に積めなくてもいいだろうに。

 

「金曜日の午後の解放感は本当に……」

 

 気持ちがいい、つい気持ち悪く独り言が漏れてしまうくらいには。

 一週間頑張った自分へのご褒美、期末テストまで僅かしかないがそんなことなんか知らない。やっと解放されたのだから勉強なんてしようと思えるわけがない。

 

 遊んで、寝て、自堕落を極めよう。そんな事を思っていたところにメッセージが届く。

 友人からの遊びの連絡だろうか。スマホを見ることすら億劫なくらい疲れているが無理矢理に体を動かして確認する。

 

『明日図書館ね、1時で』

 

 つい返信もせずにスマホの電源を切ってしまった。ああ、今週はまだ続くらしい。

 

 

 待ち合わせには15分くらい前につけ、そう言われてから1ヶ月くらい経つのか、本当に時が経つのは早い。

 昔は何もかもが楽しく思えて一日がとても長かったが、今ではボーッとしてるだけで一日が終わってしまう。

 

 図書館なんていつぶりだろう。確か中学に入りたての頃に神話とかにハマり、閉館まで籠る程度には熱中していたくせに三日も経たずに飽きたきりだっけか。

 どうにせよ、もう二度と来ないと思っていたのだから人生わからないものだ。

 チラリとスマホを見ると時間は1時5分を示していた。僕としては五分や十分くらいなら別に遅れてもいいと思っているが、早く来てしまったので長く待っているような気がする。

 

「悠君、やっほー」

 

 それから更に五分、ようやく日菜さんは来た。こういうところは氷川さんとは全く違う。時間にルーズというか、自由というか。良くも悪くもこういうところは僕と似ている。

 どれくらいやるかとか聞いていなかったので日菜さんはどれだけ持ってきているのかなと確認しようとしたら、日菜さんは手ぶらだった。

 おかしい、勉強会ではなかったのだろうか。

 

「なんで手ぶらなんですか?」

「あたしは別に勉強しなくても点取れるしする必要なくない?」

「それなら勉強会する必要だってないでしょうに……」

 

 頭が痛くなってくる。理解が及ばない、本当にこの人は自由だ。僕が頭をつい抑えている間に日菜さんは駆け込むように図書館に走って行く。

 

「早くしないと置いてくよ~」

 

 図書館って走っていいんだっけ、そんな事を思いながら歩いて日菜さんの後を追っていった。

 図書館に入るなりその本の数に圧倒される。それと勉強だろうか、何かを座ってしている人達。

 

 無音ではない、しかし騒がしいというわけでもなく静寂というには疑問を持つ紙を捲る音、鉛筆を走らせる音が襲いかかってくる。

 これはこれで頭がおかしくなりそう、まるで異世界に迷い混んでしまったみたいだ。

 望んではいるが好みじゃない、欲張りな思考を巡らせていると日菜さんが辺りを見回していることに気づいた。

 

「すっごーい、本がこんなにたくさん!」

「日菜さん、図書館ですしもう少し声を小さく……」

 

『図書館では静かにしてください』

 

 やはりこう言われる、周りの人からの視線が痛い。もし視線で人を殺せるのなら僕は既に3回程度は死んだだろうか、そんなことを思うほどに。

 あちゃー、と自分の頭を掻く日菜さんに少しだけ恨みを持ちながら出来るだけ入り口から遠くの席に座る。

 あれだけ目立ってしまったが図書館はこれだけ大きいのだし遠くなら顔まで見られてないだろう。日菜さんは本取ってくると言って何処かに行ってしまった。

 

 鞄から勉強の道具を取り出す。今週は課題が少なく授業中に既に終わらせた為、追われるものもなくテストの範囲を勉強することができる。

 

 テストの勉強といっても英語は欠片も理解できないし、国語は勉強の仕方がわからない。物理科学に地理は気合いで暗記しかない。

 数学はギリギリわかる、となると勉強するべきは英語だろう。脳内鎖国が終わって開国するのはいつになるのか、そもそもの話なぜ日本人が英語の勉強をしなければならないのか。ああ、文句が止まらない、キリがない。

 

 ドンッ、と何かが落ちるような音が近くでする。何かと思いチラリと見ると日菜さんが辞典の用なデカイ本を何冊も積み重ねていた。

 

「それ、なんですか?」

「百科事典だよ。同じ百科事典でも版によって解釈が違ったり、説明文書がループしたりして面白いの」

「そ、そうですか……」

 

 その楽しみ方はわからない。僕からすれば辞典なんて使った回数よりも枕にした回数の方が遥かに多いのに。

 天才の行動は凡人には理解できない、漫画や小説で何度も聞いたその言葉だがそれを事実として体験したのはこれが初めてだ。

 

 勉強というのは謎の眠気がつきまとう。数十分から一時間は地獄、それ以降はもう天国に飛び立っている。

 欠伸を噛み殺しながら問題を解き、意識が溶けそうになっていたところで声が飛んでくる。

 

「そこ、間違ってるよ」

「え、何処ですか?」

「ほらここ、前置詞がこっちじゃなくてこっち」

 

 ああほんとだ、とはならない。何処が間違ってるかはわかる、でもなんで間違ってるのかはわからない。

 結局答えを見て解説を読む。理屈はわかった、でも理解は出来ていない。

 

「悠君ってひょっとして勉強苦手?」

「この前も言った気がしますけど苦手ですよ」

「理解出来ないことをするのって嫌じゃないの?」

「嫌でもしなきゃ駄目じゃないですか、勉強なら特に」

 

 人生で理解出来ないけどもやらなければならないことなんて星の数ほどある。やるのが普通だから、強制されているから、理由は数えられる程度しかないのに。

 

「まぁ理解出来ないから楽しいってことはありますけどね」

「んー、それはなんとなくわかるかも。あたしも宇宙のことぜーんぜんわからないけど考えてても楽しいもん」

「楽しく思えると理解する気が沸くんですけどね」

 

 ゲームのこの場面どうするかとかの答えのない問題とかはいい例だ。答えがないから言い合いになるし喧嘩にもなる。

 だけどそれは自分のわかってなかったことを知れたりできるし、なにより自分なりの答えをぶつけるのはとても楽しく思う。

 

「じゃあ悠君が勉強を楽しく思えるように、あたしが先生をしてあげる」

「それは……無理だと思いますけどもお願いします、先生」

 

 間違えているところを日菜さんに指摘されて、くだらない雑談を交えながらする勉強は意外と楽しかった。

 ただ、教えてくれる時にここがこう、とかあれだからとかは抽象的すぎてあんまりわからなかったのは秘密だ。

 

 

「悠君ってほんっとに面白いよね。考え方とかあたしと全然違うから話してて楽しい」

「日菜さんと話してると疲れます」

 

 何時間勉強したのだろうか、ただだいぶやった気はする。

 腕は痛いし頭も痛い、しかし疲れはない。楽しく、と言い切ることはできないが、つまらなくない勉強なんてはじめてかもしれない。

 

「酷いなぁ、もしかしてあたしの言ってる事が理解出来ない?」

「理解は出来ないですけどそうじゃないです」

 

 話は終わらない、質問は正論だし悪気がないからたちが悪い。それよりも言ってる事を少しでも理解できるよう自分なりに変換するのが一番大変。

 だけどそれは今日一日で勉強よりもよっぽど理解できるようになっていた。

 

「まだ理解は出来ないけど、少しだけわかるようになってきました」

「あたしの言いたいことが?」

「ほんの少しだけですけれどね」

 

 そういうと日菜さんの目がすっごくキラキラしてるように見えた。まるで始めて見る生き物を見るような目、好奇心を隠そうとしない目をしていた。

 

「あたしね、今すっっごく嬉しい!」

「日菜さんもう少し声抑えて……」

「あたしの事をわかってくれようとする人なんて今までおねーちゃんしかいなかった。他の人はよくわからないって言って離れて行ったけど悠君はあたしの事を理解しようとしてくれてる、それがね、すっっごく嬉しい!」

 

『図書館では静かにしてください』

 

 二度目のアナウンス、そして周りからの視線。日菜さんはまたやっちゃった、と笑ってきた。

 異性からの笑顔、それも上目遣いのようにされることは始めてだ。顔が赤くなるのがなんとなくわかる、鼓動が早くなって体温が上がって目をそらす。

 

「あれ~、悠君顔赤くなってる。熱でもあるの?」

「……何でもないですよ、今日はもう帰りましょ」

「えー、あたしまだ話したりないよ」

 

 これ以上話してるとどうにかなってしまう気がする。心臓が破裂する、体が沸騰する、等のありえないことが本当に起こってしまうような。

 日菜さんと一緒に百科事典をあった場所に戻して帰ろうとして出口に向かうと、サーッと雨が降っている音が聞こえてくる。隣の日菜さんの困ったような顔が目に入る。

 そういえばこの人手ぶらで来てたっけか。確か折り畳み傘が入っていた筈と思って鞄を漁るとすぐに出てきた。

 

「これ貸しますよ」

「そしたら悠君どうするの?」

「いいですよ別に、自転車ですし」

「それでもだよ、風邪引いちゃうよ?」

「じゃあこの前の借りを返すってことで」

 

 押し付けるように傘を渡すと僕は逃げるようにして帰る。雨に打たれる、冷たい、寒い。

 

 ──それでも体の熱は、いつまでも引いてはくれなかった。

 

 そんなことはあったが、期末テストは英語だけかなりできたので勉強会の成果はあったようだ。




来週まで忙しい為ペース落ちる気がします。
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