僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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 練習は本番のように、本番は練習のように。

 壇上に立つ薄くなった髪を恥ずかしげもなく晒す我が校の教頭が言う。

 練習はどこまで行っても練習でしかないし本番はどうであろうと練習のようにはいかない。あの年でそんなこともわからないのか、と並べられたパイプ椅子に座りながらボーッと考える。

 

 しかしながら卒業式予行練習なんてする意味があるのだろうか。

 一年生で三年生との関係なんて部活程度しかない。ならば部活が入っていない僕が知っている三年生なんているだろうか、いや、いない。

 二年生はそもそも去年卒業式を経験しているのだからわかるだろうし、三年生は卒業式の主役達だというのに練習するとはなんなのだろうか。

 

 舞台じゃあるまいし金をとるわけでもない、こういうのは始めてだからこそ感動というのがあるのではないのか。

 にもかかわらず本番では泣き出す三年生がいるのだから僕には全く理解が出来ない。

 

 こういう真面目な場は嫌いだ。息が詰まるし、寝る事はできなくはないが悪目立ちしてしまう。

 それにもし寝てしまえば教師に後々永遠と文句を言われるだろう、二つ隣で寝てる友人を欠伸を噛み殺しながら見る。

 

 早く終わらないかな、と時間が過ぎるのを待つ。背筋をピンと、この姿勢を長時間保つのは辛い。猫背になって肘をついて楽な姿勢に今すぐなりたい。こんな姿勢はランドセルのcmの中だけで充分だ。

 

「それでは今日はこれで終わりにします、三年生から順に教室に戻ってください」

 

 ああ、やっと終わったのか。一時間にも及んだ拘束から解放された僕達は大きく息を吐いて友人達との雑談に華を咲かせた。

 

 長ったらしいものが終わったのでようやく帰れると思っていたが今日のHRがとても長かった。

 何やら寝てる奴がいただの、もう少し真面目にやれだのを長々と担任が語っていたせいだ。

 

 僕の担任はこういう行事の時は嫌になるほど真剣だ。三年生に気持ちよく卒業させるためにだとか俺の時はとか、誰も聞いていないありがたい話はありがたく受け流した。

 廊下を歩いていく他のクラスのやつらの可哀想な人達を見るような目が気に入らない。結局HRが終わったのは学校で一番遅かった。

 

 

 週刊誌の最大の欠点とは何か、と聞かれたら僕は間違いなく週刊誌であることと答えるだろう。

 一週間前に読んだ内容を思い出さなければならないのはなかなかに大変だし、何ヵ月前の伏線を回収されだすともう何もわからない。

 週刊誌なのだからもうその時のものは置いていないから確認のしようがない。すなわち週刊誌を読むというのは自分の記憶力との勝負なのだ。

 

「学校帰りに立ち読みとは感心しませんね」

 

 今いいところだからあまり邪魔してほしくないのだが。そんなことを思ったがその声から氷川さんだろうと予想をし、本から目線を外して声の方を向く。

 やはりというべきかそこには氷川さんがいた。僕は読みかけの週刊誌の開いていたページに指を挟んでから閉じる。

 

「氷川さんはなんでこの時間に私服なんですか」

「今日は期末テストがあったので学校が早く終わったからです」

「ああ、なるほど」

「それにしてもこの時間となると……加々美さんは何か部活をしているのですか?」

「してないですよ、今日は偶々学校が長かっただけです。氷川さんは何か部活してるんですか?」

「ええ、弓道部に所属しています」

 

 弓道部。それはかっこいい響きをしているし、なによりこの人にはきっと似合うだろうと思わされた。

 だがそれ以上に感じたのは驚きだった。

 

「そんな驚いた顔をしてどうしたんですか?」

「いや……部活をしていることに驚きました」

「それはどういう意味ですか?」

「氷川さんならギターをするのに邪魔になるので入ってません、とか言いそうだなと思いまして」

 

 少しだけムスッとした感じで言われて焦る。

 ギター以外の全てを捨ててギターに全てを注ぎ込む、ギターしかないんですと言われたのもあってそんな人だと勝手ながら思っていた。

 僕は少し気になったので弓道部に入った理由を聞くことにした。

 

「特に理由なんてありません、いろいろな部活を見て自分に合ってる部活が弓道部だっただけです。

 ……他の理由があるとするならば、日菜が絶対にやらなそうな部活だったので」

「……そうですか」

「ですが今は入ってよかったと思っています」

 

 集中するということはギターにも役立っていますから、とのことらしい。

 何も理由なく何かを始められて、それを何かにいかす事ができるのは単純に凄いと思う。僕は理由なく何かを始める事なんてできないから。

 ただ、日菜さんが絶対にやらなそうだから……か、二人の距離はだいぶ近いわりに、溝はだいぶ深いようだ。

 

「そういえば氷川さんは何しに来たんですか?」

「楽譜をコピーしにきました、そろそろ他の曲にも挑戦してみようかと思いまして」

 

 重たい空気になりそうな予感がしたので話題を無理矢理変える。

 ギターの楽譜ってコンビニで手に入るんだ、そんな事を思っていたら氷川さんはコピー機の方に向かったので僕は本の続きを読むことにした。

 数分後、丁度全部読み終えたところで氷川さんに話しかけられた。

 

「加々美さんは今週末空いていますか?」

「今週末は……多分空いてます」

「もしよければ私達のライブに来てくれませんか?」

 

 僕は氷川さんの出す音が好きだ、なのでこの誘いは断る理由がない。

 場所を聞くと隣町にあるライブハウスとのこと。最近近くにできたライブハウスではないのか、友人がはしゃいでいたのが記憶に新しいのでそっちだと勝手に思っていたのだが。

 

 しかし隣町となれば電車の時間を確認するのもそうだし、そもライブハウスの場所だって調べなければならない。

 めんどくささがあるのは間違いないが、この楽しみに比べれば安いものだろう。

 

「そのライブ、日菜さんには言ったんですか?」

「……いいえ、言ってません」

「……それなら僕が誘っておきましょうか?」

 

 ライブに誘えば少しは仲良くなれるんじゃないだろうか、そう思っての発言だったが氷川さんは首を横に振る。

 

「日菜には……まだ来てほしくないです」

 

 自分のライブに来てギターを始めてほしくないから、氷川さんは小さめな声でそう言った。

 日菜さんはもうギターを始めようとしていることは少しばかりわかっているだろうが、一応はっきりとは言わない方がいいだろう。

 それにしても……

 

「まだ、ですか」

「はい。まだ、です」

 

 いつか誘える日は来るのだろう。だがそれは今ではない。

 ゆっくりだけど、少しずつだけど進もうとしている、変わろうとしている。二人の間にある溝が埋まるのは時間の問題だろう。

 

「それでは私はそろそろ帰ります」

 

 僕も週刊誌を読み終えたしそろそろ帰るか。そう思ってコンビニを一緒に出て、別れる間際に今週末楽しみにしてますとだけ言おうとしたら、先に名前を呼ばれた。

 

「その髪、似合ってますよ」

 

 それだけ言って氷川さんは帰っていった。そんな事言われたのは何年ぶりかわからないし、どう反応すればいいのかわからなかった。

 だけど、ちょっとだけ嬉しかった。

 

 

 家に帰ってスマホでゲームをしていると日菜さんからメッセージがきた。今週末遊ばない? との事で。

 残念ながら今週末の予定はついさっきできてしまったので、彼女からの誘いは行けませんと断った。しかしそれでも彼女は下がらなかった。

 

『え~、テスト終わったんだから暇でしょ?』

『今週末は予定があるので』

『あたしも一緒に行っちゃ駄目?』

 

 いいですよ、とは言えない。別にバレなければ問題ないだろう、だけど僕は一人で行きたいと思った。

 何でかはわからない。氷川さんが来てほしくないと言っていたからだろうか。

 なので僕は家族と出かけるから無理ですと嘘をついた。嘘をついても心は痛まないし悪いとも思わない、高校生くらいになればもう嘘をつくこと慣れてしまった。

 

『残念、せっかくおねーちゃんのライブ一緒に行こうと思ったのに』

 

 思わず二度見してしまった。氷川さん言ってないんじゃなかったのか、それとも日菜さんが独自で調べたのか。

 既読をつけたまま無視するのもなんなので一応、それは残念です、僕も行きたかったと送っておいた。

 

「ああ、嘘なんてつくもんじゃないなぁ……」

 

 今から行くのやめようかな、なんて思いながら僕はゲームを再開した。




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感謝感激雨霰
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