映画なんて見るのは何時ぶりだろうか。
小学生の頃はゲームの特典を手に入れるためにわざわざ足を運んでいたりしたものだが、今ではそのようなゲームはやっていないから恐らく来たのは小学生ぶり。
まぁロードショーを含めていいのなら最後に映画を観たのはわりと最近なのだが。
待ち合わせの時間より5分早い程度だが、日菜さんはこの前少しだけ遅刻をしてきたしこれでも充分だろう。時間ぴったしでもよかったのだがそれでも早く来たのは多分、待ちきれなかったからだと思う。
多分、自分のことなのにわからない。先日は眠れなくて今日は起きても何故だかそわそわしていた。
こうやってショッピングモールに立ち竦んでいるとどうも落ち着かない。
いくら早くとはいえそこまで時間が有り余っているというわけではないので映画の所に向かう。
スマホを見ながら時間を潰していると、わりとすぐに日菜さんが来た。
「待たせちゃった?」
「いえ、それほどでも」
「ならよかった」
生涯無縁かと思っていたそんなやり取りをしながら奥に進んでいく。
それにしても映画を見ると言われたものの僕は最近の映画を全く知らない。知っているにしてもたまにテレビでやっているかSNSで流れてくる物程度、いったい何を見るのだろうか。
ジャンルに関してもこれが好きとかはないのでなんでもいいのだが……全て任せきりでいいだろうか。
「どの映画見るとか決まっているんですか?」
「決まってないよ。悠君はどれが見たいとかある?」
「最近の映画はわからないです」
それじゃあどれにしようかな~、と日菜さんはそこら辺を歩き回る。僕も一応ネットで今流行りの物を調べてみるがアクション物だったりアニメ物だったり様々だ。
今の一番人気なのは一昨日に上映が始まったホラー映画らしいがこれは勘弁しておきたい。ホラーは苦手だ、怖いとかそういうのもあるがそれ以上に見てられない。
不安を煽る空白の時間が嫌いだ、暗い雰囲気の曲が嫌いだ、背中がぞわぞわして気持ちが悪くなる。人工的なものだとわかっているから、絶対来るとわかるから余計怖い。
そんなことを思っていると日菜さんに呼ばれた。
「悠君、これなんてどう?」
「ジャンルは……恋愛映画?」
「恋愛映画は捨てがたいよね、悠君はこういうの好きじゃないの?」
「嫌いじゃないですけど……苦手です」
恋愛物もホラー程ではないが苦手。怖いでもなんでもない、ただ見てるこっちまで恥ずかしくなるだけ。
耳を塞ぎたくなる、目を背けたくなる。映画だけではない、ドラマでさえもチャンネルを変えたいと思うほどには。
こちらには深い理由はない、ただただ単純に苦手だ。
「そうか~、じゃあ……ん、これにする?」
「いや~、流石にこれは……」
次に日菜さんが指差したのは先ほど紹介されていたホラー映画、やんわりと断るが恐らく顔には嫌だと表れてしまっていることだろう。
そんな僕を見た瞬間日菜さんは、そっか~とにやにやしながら券を買いに行ってしまった。
ひきつった顔を見られてしまったのだろうか。やめてくれ、ホラーは本当に苦手なんだ。
「あ、そういえばポップコーンの味と飲み物どうする!?」
なんて事を思っていると凄い大声でそう聞かれた。場所はある程度離れてるにしろ日菜さんはこちらを向いて言ってきてるので、当然周りの視線は僕と日菜さんに二分される。
ああ恥ずかしい。僕は関係ありません、という風に後ろを向いて、塩とコーラでお願いしますとメッセージを送った。
まさかいきなりこんなことをされるとは。本当に彼女のことは全く理解できていないままだ。
「はいこれ」
「ありがとうございます」
ポップコーンと飲み物と券を受けとる代わりにお金を渡す。出来ればホラーじゃないのであってくれ、そう願いながら券を見てみるとそこにはホラー映画の名前は書いてなかった。その代わりに恋愛映画の方の名前が書いてあった。
「なんでそんな安心した顔してるの?」
「なんでもないですよ」
なんでもないなんてことはない、おおありだ、心底ホッとしている。
恋愛映画は苦手といってもホラーよりは何倍もましだ、しかし既にホラーが苦手だということがバレてしまっているだろう。
言っていないし聞かれていないが日菜さんのニヤついた顔を見ればわかる。
しかしこの映画の名前、何処かで聞いたことがあると思ったがだいぶ前にCMで見た記憶がある。まだやっていたのか。
「悠君は塩派なんだね」
「そういう日菜さんはキャラメルなんですね」
「こっちの方が甘くて美味しくない?」
「甘いの得意じゃないので。それに日菜さんポテト好きなんですし塩だと思ってましたけど」
うーん、と呟きながら自分のを食べその後僕の方から幾つか取っていく。その後また少し考えるような顔をして、やっぱりこっちの方が好きかなと言われる。
「悠君も食べる? はい、あーん」
そう言ってポップコーンを一つだけ渡してくる、恥ずかしいので手で受け取ってそれを口にする。そろそろ入場しておきましょと言うと手を引かれ中に連れていかれる。
それにしても、本当にこれは甘ったるい。
それはポップコーンの味だろうか、それとも何か別の要因だろうか。何かはわからなかったけど、ただただ甘ったるかった。
「いやー、面白かったねぇ」
「そうですね」
たかが恋愛映画と少し見くびっていたがそれはかなり裏切られる事になった、いい方向として。
内容としては記憶を失った主人公と他人の心がわからない少女の恋愛物、今さらながらSNSに発信でもしておこう。確か名前は……『心のありか』だったか。
「悠君はさ、心って何処にあると思う?」
映画を見終わってから感想を言い合うのは複数人で映画を見る一番の楽しみだろう、とはいえ今までそのような経験は一回たりともなかったが。
心は何処にあるか、確か映画内ではあなたと一緒にいるところにあるだったか。
「脳か心臓か……それともこの掌?」
「普通なら胸ですけど……やっぱり頭ですかね」
脳か心臓かとは流石に絞りすぎではないだろうか、もしかしたらまだ発見されていない臓器かもしれないのに。
それにしても映画内でのヒロインが言ったこの掌にあるものが、心っていうのは結構お洒落だったと思う。
「ふーん、どうしてそう思うの?」
「やっぱり物を考えるのは頭ですから、日菜さんはどう思うんですか?」
「あたしは心臓かなぁ、でもよくわからない」
一生考えたってこの問いはわからないだろう、だって答えがないのだから。でも答えがないものは楽しいこともある、理解ができないから、しようとすることが楽しいから。
そういう点ではこうやって目の前で笑っているこの人といることを楽しいと感じるのも仕方がないことなのだろうか。
「このあと寄りたいところあるんだけど、一緒にきてくれる?」
「いいですけど……楽器店ですか?」
「違うよ、近くの雑貨屋。おねーちゃんの誕生日プレゼント買いたいからさ。
そうだ! 悠君も買ってけば?」
「……誕生日近いんですか?」
「3月20日だよ」
3月20日となるともう一週間もないじゃないか、何故か少しだけ焦りを感じた。僕が渡せるわけはないのに、渡す勇気だってないくせに。
でももしかしたら渡せるかも……そんな妄想と終わることだろうとなにもせずに後悔するよりはいいだろう。見て回る、それだけでも十分かもしれない。
「そういえば悠君の誕生日っていつ?」
「9月なんでまだまだ先ですよ」
「となると……乙女座?」
「27なので天秤座です」
へーと言って日菜さんは天秤のキーホルダーと魚のアクセサリーを手に取る。
魚のアクセサリーはわかる、3月20日は確か魚座だから。じゃあその天秤のキーホルダーはなんなのだろう。
「折角だから悠君にも買ってあげようと思ってさ。ほらこれ、実際に測れるらしいし実用性ない?」
「そんな小さいもので何測るんですか?」
「あはは、確かに。実用性なんかないね」
まぁ買ってくれたのはとても嬉しいのは本当だ。確か氷川さんと日菜さんは双子、それなら多分誕生日も一緒だろう。
折角ならば何か二人に渡せる物があればいいのだが……あんまり高くないものがいい。ケチと言われようとこれは仕方がないことだ。
これとかどうだろう、二つに別れるアクセサリーらしいのでこれなら二人に渡せていいだろう。値段は……そこまで安くはないがまぁいいだろう。
チラリと日菜さんの方を見ると渡す時の事を今から考えているのかなんとも楽しそう。
僕自身氷川さんに渡すのを考えると少しだけ顔が赤くなるのが感じられた、僕が渡すわけではないのに。
お会計の後は財布がかなり軽くなった気がして少しだけ寂しかった。
「悠君は何買ったの?」
「これです」
「ん、それ二つに別れるやつじゃん。もしかしてそれの片方をおねーちゃんにあげるの? おっしゃれ~」
片方だけあげてもう片方は自分でつける、確かにおしゃれだ、そんなことしてみたい。
だが僕にはその度胸がない、やるつもりはない。そも付き合ってもないのだからそんなことしようとも思わない。僕は買ったものを日菜さんに渡す。
「あたしに、なんで?」
「日菜さん氷川さんと双子なんですよね。それなら日菜さんにもあげないとかなって」
「そうだけど……なんで知ってるの、あたし言ったっけ?」
「氷川さんからだいぶ前に聞きました」
そう言うと日菜さんは黙ってしまった。何か変な事を言ってしまったのだろうか。
そう思っていると日菜さんはそのアクセサリーを二つに分けてそのうちの片方を戻される。
「これは悠君が渡した方がいいよ」
「その日に渡せるかわからないですし、日菜さんが渡してくださいよ」
「あたしだって誕生日今日じゃないよ?」
ああ、それを言われたら弱い。恥ずかしいから、そんな理由で断っていたがやっぱり自分で渡した方がいいか。いや、日菜さんに渡すのが全く恥ずかしくないというわけではなかったが。
しかし本当に僕は意思が弱い、他人に少し押されるだけでこんなにも揺らいでしまう。それは今回に限ってはいいことなのだが。
「それに渡せなかったら、絶対後悔するからね」
「……わかりました、自分で渡します」
「うん、男の子はそうじゃなきゃね!」
なぜ僕は女の人に男はこうあるべきと言われているのだろうか、文句があるわけではないが疑問を持ってしまう。
その笑う姿はやはり可愛らしくて、しっかりと頭に打ち付けられる。
「そういえばさ、まだ時間ある?」
「あるにはありますけど……こんな時間にどこ行くんですか?」
「屋上」
もう外は暗くなっているような時間だろう、空は黒く染まり星が見えるような。
そんな時間に屋上で何をするのだろう。そもそもこのショッピングモール屋上立ち入りできたんだ。そんな事を思いながら先を急ぐ日菜さんの後を付いていった。
今回は手を引かれなかった。
それが少しだけ物足りないと思ってしまうのは……何故だろう。
「うわ……」
ドアを開けるとそこには当然だが夜空が広がっていた。しかしそれはこの前下で見たものとは違う。やはり高いところから見る方がよく見える。
地面とそんなに高度は変わらないのに、ほんの少しでも手を伸ばせばあの星に届いてしまいそうに思えてしまう。
「えへへ、凄いでしょ」
「……凄いですね、本当に」
「この場所からの星空を知ってるのあたし一人だけなんだよ。あ、今悠君も知ったから二人か」
ロマンチックな事を言ってくれる。それにしても本当に星空を好きになってしまったものだ、この前まで見てすらいなかったのが勿体ないと思ってしまう。
確か今月末は天体観測ツアーがあるはずだ、この人と一緒に。隣を見れば日菜さんは扉に背を預け星空を見上げていた。
この人は僕よりもずっと星に夢中なのだろう、キラキラとした目がそれを僕に知らせてくる。きっと僕なんか欠片も気にしていない。
知らない知識を教えてくれるかもしれない、更に夢中にさせてくれるかもしれない。ああ、本当に……
「今月末の天体観測ツアーも楽しみだ……」
「え?」
溢れた言葉に日菜さんはこちらに視線を向けてくる。何かおかしな事を言ってしまっただろうか、ツアーの事を言ってきたのは日菜さんの方からなのに。
もしかしてもう他の人と予約してしまったのだろうか。だとしたら仕方がないがやはり残念な気持ちもあるが、持ち込んだのは僕ではないので文句を言う気もない。
「覚えてて……くれたんだ」
「覚えてますよ」
「……うん、楽しみだね」
しかしその答えは別の事、この人は僕が忘れていたと思っていたのか。くだらないこと大切なこと、なんでもかんでもすぐに忘れてしまうが……この約束は、忘れられなかった。
それは星への興味か、それともこの人への興味か。
その後は僕も日菜さんも、暫くは星空に心を奪われていた。心は何処にあるかという問い、今ならきっと、この空にあると答えていただろう……
BLEACHオサレですこい