僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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天体観測

 暗い部屋の中でパソコンでゲームをする。

 時刻は既に3時を回っていて少しばかり眠気がある。ならば眠ればいいと思うが今日は日菜さんとの天体観測ツアーがあるのでそうもいかない。

 楽しみで眠れないというわけではない。単純に早いのだ、集合時間が。

 

 日帰りツアーのためかわからないが集合は朝の5時。本当は9時くらいに寝ようとしたのだが、普段から破滅的な生活を送っている人間が突然生活リズムを戻せるわけがない。

 眠気が来るまで待とう、そんなことを思いながらずるずると起きっぱなしでゲームをしているということになる。

 

『私はそろそろ寝ますけど、youさんはどうしますか?』

『自分はもう少し起きてます。お疲れ様でした』

『お疲れ様でした(。*・д・。)ノ』

 

 マルチで一緒にやっていた人もそろそろ眠りにつくらしい。先程までRinRinさんという人とマルチをしていた。

 この人はとても効率的というか、動きに無駄がないプレイヤーなので効率よくクエストを進められるのでよく協力してもらっている。

 私、という一人称を使ってるし文の中にところどころ女っぽさがあるが顔文字を多用してくるしタイピングが異常に早いので多分ネカマだろう。通話はしたことがないので本当にネカマかはわからないが。

 

「やることなくなっちまった……」

 

 伸びをすると大きな欠伸が出てきた。しかし今から寝たら確実に間に合わないだろう。

 何をするか、そう考えながら忍び足でリビングに向かい冷蔵庫をそっと開ける。

 今は親がリビングでテレビをつけっぱなしで寝ている、もし起こしてしまったりしたならば、この時間まで何してるの! と怒られるのは火を見るより明らかだ。そんな事を考えながら飲み物を自分の部屋に持ち帰る。

 

「まだ早いけどもう行くか……」

 

 飲み物を飲み終え、することもなくボーッとしていたら既に時刻は4時を示していた。集合場所はそんな遠いという訳ではないが、このままやることなく家にいたら眠ってしまいそうだ。

 荷物を持ちドアをゆっくりと開けて外に出る。まだ太陽は出ていないため真っ暗、というわけではなくうっすらと明るい。

 

 こんな時間に外に出ている人間は僕しかいない。犬も猫も、鳥さえもこの時間にはいない。まるで世界から僕以外全てがいなくなってしまったかのようだ。

 いくらなんでもこの季節は寒い。肌に当たるそれに不快感を覚えながらも足を進めた。

 

 集合場所に着くと、ポツポツと人がいるのが見えた。ゆっくりと歩いていたからかもう集合時間まで三十分を切っている。

 スマホを覗くと起きてる~? という日菜さんのメッセージが送られてきていた。

 

『もう着いてますよ』

 

 そう送った。日菜さんの家からならここに来るのには10分くらいかかるだろうし暫くは一人だ。

 周りの集まっている人を見るがその殆どは男女のペア。凄く仲よくしているので恐らく彼氏彼女か、それに近い関係の人達ばかりだろう。

 

「ねみぃ……」

 

 大きく欠伸をする。壁に寄りかかると段々と眠くなってきた、もし目を閉じたら眠ってしまうかもしれないと思うほどには。

 それはいけない、こんなとこで寝たら恥だ、我慢しなければ。しかし欲望は僕の意思に関係なく目を瞑らせた。

 

「悠君、こんなとこで寝ちゃってるの?」

「……まだ寝てないですよ」

 

 しかし僕は睡魔に身を呑まれる事はなかった。もう少し遅かったら確実に寝てしまっていただろうが。

 それにしてもまだメッセージは送ったばっかりなのに何故こんなにも早く着いたのだろうか。

 

「三分も経ってないんですけどなんでもう着いてるんですか?」

「送られた時にはもうここに着いてたからさ」

「あぁ、そういう」

 

 そんなことを話していると少し早いがバスがやって来たのでそれに乗り込む。

 しかしどうして日本人はこうも後ろの席に座りたがるのだろう、そんなことを思いながらも出来る限り後ろの席に座る。

 

 バスが来ただけでまだ出発には時間があるし目的地への到着時間に関しては二時間ぐらい先。

 これなら少しだけ眠れるだろう、そう思い目を閉じるがまたしても日菜さんに声をかけられる。

 

「何、悠君寝ちゃうの?」

「……日菜さんは眠くないんですか?」

「昨日結構寝たし大丈夫かな、もしかして寝てないの?」

「……予想の通りで」

「ふ~ん、じゃあトランプしようよ」

「話聞いてました?」

「だって悠君が寝ちゃったらあたしが暇になっちゃうんだもん」

 

 もしそうならそれは大変悪い事をした気分になってしまうだろう。仕方がない、付き合うとしよう。もし途中で眠気が覚めたら儲けものだし。

 

「それで、何するんですか?」

「あれ、やってくれるんだ」

「暇にするのも悪いですし」

「うーん、じゃあトランプタワー作りとか?」

「……無難にババ抜きで」

 

 バスの中でトランプタワー作りなんて不可能だろう。いや、この人ならやり遂げかねないが。それを始めて数十分、すべての参加者がきているのをバスの人が確認するとようやくバスが出発した。

 

 到着までの二時間弱、ひたすらにババ抜きをしていたが結果は多分勝ち越し。日菜さんはババを掴まれた時顔にかなり出るからかなり分かりやすかった。

 この人でも全てが思い通りに出来るわけではない、当たり前だが改めて知れたそれは少し嬉しかった。

 

「着いた~!」

「山って感じですね」

「うん、るんってきてる!」

 

 バスから降りると辺り一面緑が広がっていた。山の下では絶対に見ることが出来ない光景。空気が美味しいとかそういうのはよくわからないけど、ちょっとだけ気分がいい。

 しかしながら徹夜明けにこの日光は厳しいものがある。体がどろどろに溶けだしそうだし、どろどろと体の中で何かが溶けていくのを感じ、少しだけ眠気が飛んだ気がした。

 

「自由行動の間どうする?」

「どうすると言われましても……」

 

 本命は夜の天体観測なのだから昼間から疲れることはしない方がいいだろう。とはいえ折角の大自然だ、はしゃぎたくなる気持ちがないといえば嘘になる。

 

「じゃあ鬼ごっこ、悠君鬼ね」

「鬼ごっこですか……まぁいいですけれどあまり遠くには行かないでくださいよ?」

「大丈夫だって、もし捕まえられなくても時間にはここ戻ってくるから」

 

 スタートは荷物を置いてきてからねとの事だ。荷物持ちますよと言って日菜さんの荷物を持ったがそこそこ重い、いったい何が入っているのだろうか。

 僕は少し顔を歪めながら運んでいたそれは日菜さんは重いという顔を欠片もせずに持っていたというのに。少しだけ悲しい気持ちになるのは何故だろう。

 

「それじゃあスタートね、30数えたら追いかけてきていいよ」

 

 そう言って日菜さんは走っていった。それにしても相変わらず速い、僕の足だと追い付けないのではないのだろうか。

 

「さて、始めますか」

 

 何処に行ったのだろうかと予想する。こういうのはゲームで何度も経験済みだ。

 相手がどう考えてるのかを考えて追い詰める。見つけて捕まえて吊るまでセットだ。なんてことを心の中で呟きながら、まずはゆっくりと歩き出した。

 

 

 

「悠君体力ないね」

「日菜さんが元気すぎるんですよ……」

 

 結果として僕は日菜さんを捕まえる事が出来なかった。息は切れ、肩で呼吸しているような僕に対して日菜さんは汗すらかいていない。

 これが格差か。いや、徹夜明けだからそのせいだ、きっとそうだ。そうだと思いたい。

 

 見つけること自体は簡単だった、しかし捕まえるとなると話が変わる。

 もとより日菜さんの方が足が速いのはこの前でわかっていたし、なにより体力も向こうの方が多い。今考えてみるとなかなかに無理ゲーな感じはあったが……楽しめたと思う。

 その後はツアーの予定通りに過ごしていると外はもうすっかり暗くなってきている。外で昼飯を作ったりなどそれらもまぁまぁ楽しめた。

 

「それじゃあ行こ、他の人達はみんなもう行っちゃったよ」

「そうですね」

 

 いよいよメインの天体観測の時間だ。他の人達はもう既に天体観測に向かった為僕達が最後だ。

 それにしても外は結構暗い。これだとこけたりして危ないな、そんなことを思いながらツアーの人に貸してもらった懐中電灯をつけようとするが、日菜さんに止められる。

 

「なんですか?」

「いや、せっかく外が暗いのにそれつけちゃ駄目じゃん」

「でもそしたら見えなくないですか?」

「大丈夫だよ、ほら」

 

 そう言って日菜さんは懐中電灯を取り出した。それならばこれでもいいじゃないか、そう思ったが日菜さんの取り出したその懐中電灯はライトの部分に赤いセロハンが貼ってあった。

 なんだろう、遊んでつけたのだろうか。

 

「その赤いセロハンって……」

「ああ、これ? 人間の目って暗いところに慣れるのに時間かかるでしょ。明かりを見るとすぐに無駄になっちゃうんだけど赤い光は大丈夫なんだ」

「へぇ、詳しいんですね」

「一応天文部だからね」

 

 天文部なんて部活初めて聞いた。そんなものがある日菜さんの学校が珍しいのか、それとも天文部は比較的にメジャーな部活で、存在しない僕の学校が珍しいのだろうか。

 その話は星がよく見える場所に向かうまでの間の話題として重宝した。

 なんでも天文部の先輩がUFOの事について調べているとか、OBの人たちのノートの話とか。それらを凄い楽しそうに、笑顔で語られた。

 おすすめの観測場所として渡された地図に示された場所に向かっている途中、日菜さんに手を掴まれ止められる。

 

「そっちじゃないよ、こっち」

「あれ? でも案内にはあっちって書いてありますけど……」

「鬼ごっこの間に来てみたんだけど、こっちの方がよく見えそうだよ」

 

 手を引っ張られ連れていかれる。ほんとにこういう強引で、元気なところは日菜さんの魅力で、個性だと思う。

 多分僕は日菜さんのそういうところに引かれている。それは僕に、当然氷川さんにもないところだから。

 

 

「すご……」

 

 満天、という言葉は恐らくこの為にあるのだろう。隠すかのような雲は一つもなく、空を潰すかのような大量の星。目を奪われる、心を奪われる。

 

「これ貸してあげる」

「これは……双眼鏡?」

「双眼鏡でもよく見えるんだよ」

 

 望遠鏡程じゃないけどねと付け足される。試しにつけてみるとこれがなかなかよく見える。肉眼だと見えなかった星が、輝いた雲のようなものが。

 

「そういえば悠君、おねーちゃんにプレゼント渡せたんだね」

「ああ、その件は感謝してます」

「どういたしまして」

 

 お互いに星を見ながらの会話、双眼鏡をつけているから今は星しか見えていない。双眼鏡も合間って視界は更に狭くなってしまってる。

 そしてそれは多分日菜さんも同じだ。暫く星を見ていると日菜さんに声をかけられた。

 

「月が綺麗ですね」

「……その言い方、勘違いされますよ」

 

 双眼鏡を外して日菜さんの方を見る。月が綺麗ですね、流石に聞いたことのある言い回しだ。

 当然そういったことには憧れがある。中学生の頃そんなことを言われる妄想をした記憶もある。

 

「別にいいよ、だってほんとの事だし」

 

 体育座りでうっすらと笑いながらそういうその顔は、暗くて隠されていて、しかしどの星よりも明るく僕の目に映っていた。

 なにも言えない。聞き間違いかとすら思っていた僕に、日菜さんは続けてくる。

 

「まだ気づかないの?」

 

 日菜さんは急に立ち上がる。月を、星空を背にして僕に対して言った。

 

 ──あたしはね、君の事が好きなんだよ。

 

 その言葉を聞いた瞬間、世界が止まったかのように思えた。

 それは今まで聞いたことのない言葉だったから。あれほど輝き僕を魅了して、吸い込んでいた星空も、月も、今の僕には映らない。

 

 理解ができない、頭がその言葉を処理しきれていない。何を言った、何故言った。嘘なのか、聞き間違いか、ただ弄られているだけなのか。思考がどんどんと加速する。

 

「悠君はあたしを理解しようとしてくれる、今までそんな人おねーちゃんしかいなかったのに。それがすっごく嬉しくて、るんってきて、気づいたら好きになってたんだ」

 

 その言葉に僕は返す言葉は準備をしていない、持てていない。喉が異常な程に乾いてくる、焼けるように胸を焦がす何かが感じ取れた。

 

「今すぐ返事を言わなくても大丈夫だよ」

 

 日菜さんにそう言われた。返事は後ででもいい、ゆっくり考えてくれ。そう言う意味だろうかと思っていたが、別のものだった。

 

「悠君っておねーちゃんの事、好きなんでしょ?」

「……そうですね」

「だからさ、まだ返さなくてもいいよ」

 

 日菜さんの顔が少しだけ赤くなっている事に気づいた。彼女は心を整えるかのように、大きく深呼吸をしてから、言った。

 

「あたしの事をおねーちゃんより好きと思うか……おねーちゃんの方が好きだと思ったら、答えて欲しい」

 

 とびきりの笑顔で、弾けるようなそれで。

 色々とありすぎて放心気味の僕をさしおして日菜さんはもう戻る時間が近いねと言ってきた。だがそんなことは今の僕には入ってこない。

 

「ほら、あたしばっかりじゃなくて星も見よ? 綺麗な物が見れるのもあとちょっとだよ」

 

 日菜さんは双眼鏡で星空を見上げる。僕は星空を見ることはなかった。

 なぜか、そんなの簡単だ。今の僕には星空なんかより、日菜さんの方が何倍も綺麗に見えたのだから……

 

 ああ、僕は駄目な人間だ。

 氷川さんに恋を、始めてのそれをしたというのに……

 

 日菜さんにも、氷川さんと同じくらい、恋をしている。

 

 

「あ、そうだ。あたしの事日菜って呼んでよ、敬語もいらないから」

「……今でも日菜さんって呼んでるじゃないですか」

「だ~か~ら、さんはいらないってこと。それに敬語も、ほら」

 

 口が重い。最近は言葉を出すということに緊張をしていることが多いが今この瞬間は、恐らく今までで一番口が動いていない。

 そんな僕に、日菜さんは手を差し出してくる。

 

「時間だよ。早く帰ろ、悠君」

「わかり……わかったよ、日菜」

 

 胸が痛い、苦しいを通り越して痛い。きっとこの繋いでいる手から僕の心音は向こうにも届いてしまっているだろう。

 結局バスに着くまで僕は、星の光に照らされた日菜さんの顔を見れずにいた。




りんりんってNFO内だけみたら完全にネカマにしかみえなくない?
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