僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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 趣味は寝ることです、と自己紹介を更新しようかと思うぐらい寝たと思う。

 何処に置いたか記憶を辿りながら眼鏡を探しながら今の時間を確認する。時計は針がよく見えないのでスマホを見ると午後の2時を示していた。

 

 昨日は午前の3時くらいまでゲームしていたからだいたい11時間。自分でも寝すぎと思うし1日を無駄にしすぎではないかと自分でも思うが、この1日を無駄にしている感じは何故か嫌いではない。

 親は既に仕事で出掛けてしまっているし朝食……ではなく昼食は自分で調達しなければならない。

 

「何かあったっけなぁ……」

 

 スマホを弄りながらお湯を沸かす。休日こうやって寝すぎた時はインスタントを食べてからゲームをするか友達と遊ぶかを決める。

 ただ自分から遊びに誘うことは苦手なため向こうから遊びの連絡がこない時は家でダラダラしている。そんなんだから引きこもりに近い生活をしてしまう。

 

 ここで問題発生、いつもインスタント系が置いてある場所に何もない。確か先週の日曜に食いきっちゃったんだっけ、と再び記憶を探りながらお湯を沸かすのをやめ外に出る準備をする。

 自分で料理が出来ないわけではないが金がないわけでもないし、なにより片付けるのがめんどくさいため外で食べることにした。

 

 

 外は1月ということもありとんでもない寒さで、パーカーにジャンバー、手袋に財布とイヤホン、家と自転車の鍵を持って外に出る。

 これだけ重装備にも関わらず寒いものは寒い、地球温暖化なんて嘘なんじゃないかと疑ってしまうくらいには。だが夏は国が違うかのような暑さなのだから我が国は加減というものを少し知ってほしい。

 寒い寒いと文句を言いながら自転車を漕ぐ。自転車を15分くらい漕ぎ続けると目的地についた。

 

 某大手ファストフードは昼を過ぎても大人気だ。クーポン券を使用してのポテトと珈琲、ポテトは塩少なめで、と頼むのが僕の中で密かに流行っている。

 部活終わりの高校生と思わしき集団や何をしているのかは知らないがパソコンを弄っている人、一番小さいサイズの飲み物だけで勉強してる真面目な人たちの後ろを通り端の席を確保する。

 イヤホンを差し込み適当に音楽を聞きながらゲームをする。寝すぎたからスタミナが溢れてしまっているから少し忙しい。

 

「隣大丈夫ですか?」

 

 そんな声が聞こえたのでイヤホンを外しながらどうぞ、と言うとその人は隣に座った。

 チラリとそちらの方を見るとその人は女性で、大事そうにギターケースと思わしき物を床に置いた。

 

 そんな大きいものを持ってるなら入り口付近に座ればいいのにと思ったが、混みすぎてここしか空いてなかったのかと自己完結していると、その人の頼んだ物が目に入って驚かされた。

 ポテトのLサイズ2つ。女でそんな食うの凄いな、なんて思っているとあることに気づく。

 

 この人傘かした人では? ということに。

 

 髪は水色だし顔も多分一緒、多分同一人物だよなぁ、なんて考えていると、見られていることに気づいたのかその人はこちらを向き、少し驚いたかのような顔をした。

 

「もしかしてあの時の人ですか?」

 

 多分そうです、という意味を込めて頷く。

 

「あの時はありがとうございました」

 

 こちらに改めて感謝を伝えてくる。感謝なんてされなれてないからどう対応していいかわからない。

 内心あわてふためくがそれを外には出さないように軽く頭を下げてイヤホンを再びつける。

 

 それからはなにごともなく頼んだ物を食べながらゲームをしていたのだが、ついにゲームのスタミナが消費しきった。

 忙しい忙しいとやってはいたがいざ終わるとやることがない。仕方がないのでSNSを眺めながら食べ進める。

 やっとのこと食べ終えたのでそろそろ帰ろうと立ち上がったところで隣の人から話しかけられた。

 

「音楽……やるんですか?」

「えっと……前はやってましたけど、今はほとんど聴き専ですね」

 

 イヤホンを片付けながらそう答える。小学6年まではずっとピアノをやっていたのだが、今ではもっぱら聞く専門になってしまっている。

 にしてもなんでそんなことを急に聞くのかと思ったが、僕のスマホに音楽グループの人の呟きが流れてきているからだと思う。

 勝手に覗き見されるのはいい気分ではないが特別見られて困るものはない。そも見えてしまうようにやっていた僕が悪いのだからあれこれ言う気は起きない。

 

「……お願いがあるんですが、大丈夫ですか?」

「内容しだいになりますけど」

「私のギターを聞いて欲しいんです」

「……何で僕なんですか、お互いほぼ初対面ですよね?」

「実は今行き詰まっているので第三者からの意見を聞きたいと思っていまして。ただ、今知り合いに音楽経験のある人がいなくて……」

 

 壁にぶつかってるから意見が欲しい、要はこういうことだろう。ゲームのスタミナが回復しきるまではまだだいぶあるし、帰ってもすることは特にないので大丈夫とだけ答えた。

 女の人に誘われたからホイホイついていったなんてことはない、多分。

 

「ありがとうございます、それじゃあ行きましょう」

 

 彼女はそう言って食べきったトレイを持つ。え、食べきるの早くね? なんて思いながら僕も食べ終わったものを捨てて彼女についていく。

 ギターってどこで練習するのだろう。ライブスタジオとかだろうか。あまり金がかからなくて遠くなければいいなぁ、そんなことを思いながら店を出た。

 

 

 

「30分でお願いします」

「30分ですね、ドリンクはどうしますか?」

「いえ、大丈夫です」

 

 カラオケってギター大丈夫なんだ、そんなことを思っていると彼女は慣れた様子で受付を済ませていたので僕も自分の分のお金を払い部屋に向かう。

 僕自身カラオケというのは殆ど来ない。友人から誘われても断るくらいには人前で歌う事は好きにはなれない。

 

「私が弾くのでどうだったか、という意見を頂ければ」

 

 わかりました、と言うと彼女は曲を選ぶ。あ、この曲知ってる、なんてことをボーッと考えていたら、突然意識を覚醒させられた。

 

 凄い。

 

 ギターを弾いたことのない僕ではそんな感想しか出てこない。これほどの演奏ができていてなお満足がいっていない、理想が高くて努力家なのだろう。

 完璧と思ってしまうほど素晴らしい演奏。

 

 ああ、なのに何故だろう。

 どうして彼女の音は。

 

 

 

 

 

 ──こんなにも焦ったように聞こえるのだろうか。

 

 

 

 

 

「どうでしたか?」

 

 その言葉で既に演奏が終わっていたことに初めて気づく。音がだんだん聴こえなくなっても不思議と演奏が続いている気がした。薄れていく音にも色がついていた気さえした。

 

「凄いと思います、ギターをやったことがない僕でもわかるくらい」

 

 彼女はそう、と答えた。恐らく何度も聞いてきたのだろう。貴方もそんな感想しかないのね、そんな風に言われてるような気がした。

 

 凄かった、よかったと思う、それは始まる前になんて答えようかと考えていた回答逹。

 無難で、相手を傷つけず、それでいて深くは聞き返されない回答。だが実際に終わってみればその言葉のような抽象的なものしか浮かんでこなくなってしまった。

 

「ただ……何処か焦っているような、そんな感じがしました」

「焦るような……早く弾いてしまったなんて風には思わなかったけれど……」

「リズムじゃなくて、なんていうか……何かに追われているかのような感じが」

 

 小学生時代発表会が近くになるとよくピアノの先生に、君は焦りすぎだ、もう少し余裕を持った方がいいと言われていた。

 あの頃はどうして焦るのが悪いのか、焦って悪いことなんて一つもないだろうと思っていたが、今この瞬間にやっと解った気がする。

 

「何かに追われているような……」

「もう少し余裕を……と言っても僕は貴女じゃないですからなんで焦っているのかも、そもそも本当にこの感想があってるのかわかりませんけども」

 

 そう言うと少しだけ彼女は下を向き、何か考えているかのような間の後、僕に問いかけてきた。

 

「……もし貴方は、どれだけ頑張っても後から始めたある人にどんなものでも追い抜かされるとしたら、どうしますか」

 

 少しだけ震えるような声でそう言ってきた。恐らくそれが彼女の焦りの理由。

 妹か弟、または友人か。そのどこかにそのような人、所謂天才がいるのだろう。それに今まで何度も追い抜かれたのだろう。

 

 それはどんな気持ちだろう、僕にはわからない。姉はいるが弟と妹はいない、ゲームも誘われてからやり始めるため自分が先にやることはほとんどない。

 

「今していることをもっと頑張るか、今していることから逃げて別のことをするかのどっちかと思います」

 

 そうですか、と弱々しく言う彼女にただ、と付け足すようにいう。

 

「もし頑張るなら自分だけの何かを見つけて、それを伸ばすしかないと思います」

「自分だけの……」

 

 満足いく答えではないだろう。ありふれた答え、そしてつまらない答えだ。更にはとても難しい事を言っている自覚はある。

 僕は彼女の音に惹かれた。こんなにも気分が高揚しているのはいつ以来だろうか、心からこんなにも思えることは今まであっただろうか、高鳴っているのはいつぶりだろう。

 

 少しでも力になれるなら協力したい、そんなことを思っているともう30分たったらしく終わりを告げる電話がかかってくる。

 最近出来た近くのライブハウスに行けば彼女の音が聞けるだろうか。なんて思っていると、連絡先を交換しませんか? と言われたのでお互いに連絡先を交換した。

 

 さっきの演奏がどうだったとか、趣味はなんですかとかそんなものもない。

 女友達がほぼ、というより0の僕からすればそんな会話を振れる筈もなく、結局店を出るまでに会話をすることはついぞなかった。

 

 彼女はどうやら歩きらしく、僕は自転車を取りに行かなければならないため別れることになった。

 

「それでは、また」

 

 そう言われ別れる。また、つまりまた会える可能性があるという事だろう。それはなんともありがたいことだ。

 自転車を取りに行く為に歩いている途中殆ど使っていない方のSNSを開くと、僕の少ない友達欄の一番上には『氷川紗夜』という名前が小さく載っていた。

 




連絡先と言ってもL〇NE
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