僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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偶像

 芸能人と知り合うにはどうしたらいいのだろうか。

 ただ芸能人とはいっても様々な種類があるが、今回はアイドルだとか俳優だとか、そういった類の人とさせてもらう。

 町中でばったり会ったり、公演に行くということは知り合うとはまた違うだろう。そうなると運命的な出会いか、それとも元々の知り合いが芸能人になるしかないだろう。

 つまり何が言いたいかというと……

 

「それでイヴちゃんがブシドーってね~」

 

 目の前に座る女の子、日菜はアイドルになってしまったのだ。

 いや、なってしまったという表現は間違っているかもしれない。なることができた、うん、こっちの方がいいだろう。

 

 この前あった時オーディションで他に上手な人いなかったから当然かな、なんて言ってきた時には軽く目眩がした。

 アイドルは随分と楽しい、というよりさはメンバーに面白い人が何人かいるらしく、とても楽しそうに練習のことについて話してくる。

 

「大丈夫なの?」

「何が?」

「確か今Pastel*Palettesって活動自粛だよね?」

「そうだけど……それがどうかしたの?」

「いや、僕なんかと会ってていいのかなって」

 

 日菜の所属するPastel*Palettesはお披露目ライブだったかで演奏をせずに後ろで音を流していたのだが、トラブルでその音が急に止まってしまった。

 当然大ブーイングが起こってしまい、メディアの格好の的になってしまった。

 

 事務所はほとぼりが冷めるまでといって活動自粛、メディアへの露出も控えるとのことらしい。

 こんなことが起こってしまったのでもし再度活動する時にはきちんと楽器を演奏しなければならないはずだ。

 だとすれば再開する為に自主練などもしなければならないだろうし、僕と会ってる暇はないはずなのだが。

 

「大丈夫でしょ、あたしの顔もあまり知られてなさそうだし」

「いや、そうじゃなくて自主練とか……」

「しなくても出来るからよくない?」

 

 あ、でもたまーに出てるよと言われて少しばかりホッとする。

 メンバーが自主練に出なかったらいくら自主練とはいえ他のメンバーはどう思うだろうか、少なくとも快くは思わないだろう。

 

 そんなことを考えると突然後ろから汚い笑い声が聞こえてきた。いや、汚いという表現はいささか失礼かもしれないので元気な笑い声ということにしておこう。

 その耳に障る笑い声は女性特有の高いもので、とても大きい話し声も聞こえてきた。

 

「あのグループほんとに面白くなかった?」

「それそれ、アイドルバンドとか言ってる癖に演奏してなくてさ」

「そうそう、特にボーカルの子なんかさぁ~」

 

 ちらりと日菜の方を見てみると、聞こえてませんよと表すかのように目を瞑って飲み物を飲んでいた。

 それは聞いていて気持ちのいいものではなく、イヤホンを付けて少しでも音を遮ろうとイヤホンを取り出したその時、どうしようもなくイラつく言葉が聞こえた。

 

「ギターの子もかわいそうだよね~、弾けないのに選ばれちゃって」

「ほんとほんと、私みたいに長くやってなきゃ弾けるわけないのにさ」

「ちょっと顔がいいだけで選ばれちゃった子にはいい気味じゃない?」

 

 確かに~、という同意の声は何処までもイライラを加速させた。他のメンバーのことをどうこう言ってるのならまだ我慢できた、どうでもよかった。

 役者としてドラマに出ていた白鷺さん以外は見たことない人なのだから。

 もしかしたら他のメンバーの人はモデルをやったりしている人もいるかもしれないが、僕は普段雑誌とかは全く見ないからそんなことわからない。

 

 そんな個人的に無関係な人間のことなら聞き流せた。でも日菜を馬鹿にされるのは無性にイライラする。だけど僕が本当にイライラしているのは彼女達じゃない。

 こんなにもイラついてるのに何も言い出せない自分が、行動できない自分にどうしようもなく、イライラする。

 空のカップが手の中で潰れていくのが感じられる。

 

「ねぇ、悠君」

「なに?」

「自主練、今から行っていいかな?」

「……いいんじゃない」

 

 急に言われたその言葉は僕を驚かせた。出来るから行かなくていい、さっきまでそう言っていたのに突然そう言われたのだから。

 聞かないふりをしていた日菜もやはりイラッときていたのだろうか、それとも単純にここに居たくないだけなのか。

 

 そうして日菜はゴミを捨てて店の外に出た。僕もここにいる理由は何一つないし一刻も早く離れたい。そう思ってゴミを捨てに行く。

 捨てたゴミの中で、握り潰されたカップが嫌に目立った。

 

 

 

 

『あのトラブルを乗り越えて復活!』『アイドルバンドなのに本当に楽器を演奏!?』『ファンへの徹底的な献身がもたらした奇跡!』『俺ファンになった』

 

「手のひらくるーだな、ほんと」

 

 SNSを覗けばそんなことばかりが流れてくる。何とも勝手なものであれほど叩いていたのが嘘のよう、でもそれでもいい。世間が認めてくれたのならばそれで。

 それにしてもライブが成功したのは自分のことのように嬉しい。

 

「悠君もう見てくれた?」

「見たよ」

「えへへ~、ありがと」

 

 日菜はメンバーとの仲もかなりよくなったらしく、特にボーカルの丸山さんはお気に入りらしい。

 理解できなくて面白いとか、頑張る姿が気に入ったとか。そう話されるのはいいが……少し妬いてしまう。

 

「それにしても他人って面白いよね~」

「……変わったね」

「前の方がよかった?」

「いや、他人のことわからないって言ってたなって思い出しただけ」

「変われたのは悠君のお陰だよ?」

「そんなわけないよ」

 

 首をこてんと倒して聞いてくる姿は何とも愛くるしい。

 始めてあったときは他人のことがわからないと言っていたが、まずわかろうともしていなかった。その時に比べればかなりの成長だろう。

 だけどそれは多分僕がいなくてもPastel*Palettesに入れば変われたこと。こうして興味を持てるのだからきっとそうなっただろう。

 ならば決して僕の手柄ではない。そのはずなのに日菜は、違うよと言って首を横に振る。

 

「悠君に凄く興味を持ったから、悠君が興味を持たせてくれたからだよ」

「……アイドルがそんなこと言っていいの?」

「大丈夫でしょ、うちの事務所恋愛禁止とかなかったし」

「……暗黙の了解みたいなのがあるでしょ」

「言われなきゃわからないよ」

 

 屁理屈だ、普通はそれがわかるはず。まぁこの人は普通じゃないからわからない。いや、わかってはいるがわかっていないふりをしているだけかもしれない。

 まぁルールの穴をつくのはゲームでも基本だし責めることはしない。むしろそういったものは好ましくすら思ってしまう。

 

「……日菜にもファンとかできるのかな」

「できる、というよりもうできてるんじゃない?」

「そうかぁ、そうだよなぁ……うん」

 

 懐古厨とかネタプレイヤーはこんな感じだったのだろうか。自分の知っているものが世に認められるのは嬉しいのは間違いない。だけど少しばかり、モヤっとくる。

 支配欲、独占欲、例えるならそんな感じだろうか。そんな重いものではないかもしれないし、もしかしたらもっと深いものかもしれない。

 

「ねぇねぇ、悠君はあたしのファン?」

「え、まぁ……そうなるね」

「じゃあ悠君はあたしのファン、日菜ちゃん印の記念すべきファン1号だよ!」

 

 小悪魔的に笑う日菜はずるくて可愛らしくて、とても僕を魅了した。

 

 

 

「悠君はずるいなぁ……」

 

 ポツリとそう呟く、本当にずるい。

 意識してやったのだろうか、それとも無意識でやっていたのだろうか。どちらにせよずるいことに変わりはない。

 

「あたしの為に怒ってくれるなんて……」

 

 あの握り潰されたカップはその証拠。彼は気付いてないかもしれないけど小さく貧乏ゆすりもしていたし、本当に、演技ではなく怒りを持ってくれたんだとわかった。

 悠君は優しいから、自分のことを低く見るから、言えなかった、行動できなかったと自分のことを責めているかもしれない。

 そんな風には思ってほしくない、まぁそれがまた彼らしいのだけれど。

 

「はぁ~……本当に好きなんだなぁ」

 

 彼を見てしまう、彼を追ってしまう、引っ張ってしまう、独占したくなってしまう。

 悠君への好きは彩ちゃん達パスパレみんなへの好きとは違う、おねーちゃんに対する好きとは違う。

 好きだ、恋してる(好き)独り占めしたい(大好き)

 

「ずるいなぁ……」

 

 ずるい、それは悠君じゃない。ずるい、それはおねーちゃんの事。悠君に強い興味を持たれている、多分あたしよりも。

 どうして、あたしの方が会ってる回数は多い筈なのに。あたしの方が距離が近い筈なのに。初恋だから? 先に知り合ったから? それともまた別のこと? どれにせよずるいよ。

 

 どうしてなの、こんなこと始めて。あたしの思い通りになってくれないことは始めて、不思議で不思議で仕方がない。

 今まで少しやろうと思えばなんでも思う通りになって、他人だろうとほんの少しやる気になればよくわからないけど思う通りに動かせた。

 だからこうした今がどうしたらいいのかわからなくて、辛くて、もどかしくて苦しい。

 

「もう聞いちゃおうかな……」

 

 おねーちゃんに聞いちゃおうかな、悠君のことをどう思っているのか。それで好きだと思ってないと言ったら……それを悠君に教えちゃおうかな。

 そしたら悠君はあたしをもっと見てくれるだろうか。今よりもっとあたしの事を理解しようとしてくれるだろうか。

 

「でももし、好きって言われたら……」

 

 もしおねーちゃんが彼のことを好きって言ったらどうだろう。

 あたしは悠君に嘘を教えてしまうのだろうか、あたしはおねーちゃんの事をどうするだろうか、どうかすることができるのだろうか。

 おねーちゃんの事も間違いなく好きだ、苦しんでいる姿は見たくない、争いたくなんかない。

 じゃあ譲れるだろうか、そんなの無理だ。

 奪えるだろうか、それも無理だろう。

 

「もうわからないよ……」

 

 ドロッとした感情は溢れ出て、周りの音を遮断して焦げた匂いを感じさせる。

 カーテンの開いた窓から外を見上げると綺麗な月が浮いていた。

 

 月が綺麗ですね、その答えはまだ返ってこない。




日菜ちゃん視点の時間軸は間に挟まる感じで
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