僕が日常から脱獄するまで   作:DEKKAマン

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 夏休み、なんと甘美な響きだろうか。学生が望む最高の時、夢の時間。

 そんな夏休みは今日から。昨日はながったるい話を聞き、うんざりするほどの課題を確認して学校は終わり。僕らに天国への扉が開かれたはずだった。

 

「あっつ……」

 

 天国への扉は開かれて片足どころか半身くらい突っ込んでいるのだが、いかんせんこの暑さは天国ではなく地獄なのではとしか思えない。

 今日はショッピングモールで友人と待ち合わせなのだが、遅れるという簡潔なメッセージが送られてきた。部活動してるやつは大変そうだ。

 

「それにしても暇だ……」

 

 癖というのは恐ろしい、予定時刻より20分早く着いてしまった。

 最近休日で誰かに会うというのは日菜か紗夜さんとの事が多かったからこうやって二人ともいないことを久しぶりと感じる。待つことに苦痛を覚えるのも久しぶりだ。

 待っている間にスマホでゲームをしてみるが酷くつまらない。このゲームも長らくやってきたがそろそろ潮時なのだろうか。

 どうにかして時間を潰そうとしていたら後ろから声をかけられる。

 

「あれ、どうしたのこんなところで?」

「友達を待ってるんですよ、遅れるらしいので」

「ふーん、それって何分くらいかわかる?」

「……だいたい30分くらいじゃないですかね」

「30分!? それはまた随分待つね」

 

 リサさんは見たところ一人なのだが僕と同じく暇なのだろうか、アイスでも食べないかと誘ってくる。

 僕としては時間を潰せればなんだっていいのだから了承する。

 

「それじゃあそこ、この夏限定のアイスがあるんだって」

「毎年その言葉聞きますけどね」

「それはそうだけどさ~。あ、ちょっと待ってね」

 

 リサさんはスマホを弄りだす。やっているのはメッセージを送っているのかそれともSNSのチェックか、まぁどちらであれ僕には関係のない話だ。

 

「え~と……まぁ高くもなく安くもなくって感じかな」

 

 ここで奢りましょうかと言えればかっこがつくのだろう。

 ただリサさんは性格的に絶対に遠慮して気まずい雰囲気になるだろうし、僕自身そんなにお金を使いたくない気持ちがある金欠だし。

 これが日菜だったら、紗夜さんだったら、お金を出していただろうか。記されている値段と財布の中を比べながらそんなことを考える。

 

「どうしたの、考え込んで?」

「いや、なんでもないですよ」

 

 そんな会話をしながら席につく。僕もリサさんと同じでコーヒーアイスだがまぁ美味しい。

 おすすめというだけあって単純に味がいいのもそうだがこのアホがつくほど暑い今ならではの美味しさもある。

 

「ところでさ、どうなの?」

「何がですか?」

「も~、言わなくてもわかるでしょ?」

 

 ニヤニヤとした顔で言ってくるその声は少し楽しそう。その内容は確実に紗夜さんと日菜の事だろう。

 

「……何もないですよ」

「え~、一つや二つあるでしょ?」

「……」

 

 何もない、それは間違っているだろう。何かそういった類の事はあったかと聞かれたらないと答えるが、どう思っているかと聞かれたら間違いなく変化している。

 

「……なに、また喧嘩したの?」

「してないですよ」

「じゃあどうしてそんな顔してるの?」

 

 ああ、この人は聞き上手だ、話させるのが上手い。するりと紐がほどけるように言葉が出てきてしまう。塞き止めきれず流れ出してしまう。

 

「……わからないんですよ」

「二人のどっちが好きかって事? それは前にも……」

「違います」

 

 正解がわからない。日菜を選ぶか紗夜さんを選ぶのか、はたまた現状維持を続けるのかそれとも、僕が二人から離れるか。

 より好きな方が正解だと言われたらそれまでだし正解はないかもしれない。もしかしたら全部不正解なんてオチかもしれない。

 

「……リサさんはどうしたらいいと思いますか?」

「あはは、ちょっとわからないかな~……なんて」

 

 それを境に会話はなくなる。やってしまった、こんなこと他人に聞かずに自分の中で閉じ込めておくべきだった。

 しかししばらくするとリサさんが手を振りだす。その表情は助けがやってきた人みたいに安堵が浮かんでいた。

 

「悠さん、どうしてここに?」

 

 ああ、やっぱりなんやかんや思っていても僕はこの人の事が好きだ。それは僕の心臓が激しく鼓動する事で教えてくれる。

 日菜と同じ、全く。この胸の苦しみと心地よさは寸分の狂いもない。

 

「……友達を待ってるんです」

「ほら、紗夜も座って座って」

 

 リサさんは僕の隣に紗夜さんを座らせようとしてくる。嫌ではない、しかしそれは僕の話であって紗夜さんがどう思っているかは別の話。

 彼女がどう思っているかは知らないが紗夜さんは僕の隣に座った。

 

「……紗夜さんはどうしてここに?」

「買い物です」

「で、アタシはその付き添い。まさか紗夜から買い物付き合ってって言われるなんてねぇ」

「付き添いなのになんでバラバラに来たんですか?」

「Roseliaの練習の後紗夜は自主練習してたんだよ」

 

 夏休みの初日だというのに練習があって、なおかつ自主練もとは、やはり根本から違うんじゃないか。

 凄いなというのとやっぱりなという二つの気持ち。それと届かないと改めて思わされてしまう。

 

「そういえば明後日には夏祭りが、あるけど二人は何か予定でもあるの?」

「私は別に……ギターの練習をする予定です」

「僕も特には」

「それじゃあ二人で行ってくれば?」

 

 その言葉に思わず隣を見てしまう。それは紗夜さんも同じようで驚いた顔をしている。多分、僕も。

 

「私は……遠慮しておきます」

「どーしたの、もしかして嫌だった?」

「いえ、私はそういった催しに行ったりすると雨が降ることが多いのできっと迷惑を……」

「考えすぎだって、偶然だよ偶然」

「ですが……」

「悠はどう思ってるの?」

 

 雨が降るということなら間違いなく勘違いだろう、偶々の積み重ね。

 だけどリサさんの聞いてきている事はそうじゃないだろう。行きたいか、行きたくないか。

 

「まぁ、行けるなら……」

「ほら、悠もこう言ってるし紗夜も行きなって、なんなら日菜にも言っておこうか?」

「日菜には……言わないでおいてください」

 

 チラリとこちらを見てくる紗夜さんは何を思っているのだろう。ふと考え付いたものはあるがそれはないだろう。

 こんな僕にそんなことを思う物好きは日菜くらい、ましてやこの紗夜さんがそんな事を思うはずがない。彼女に僕の手は届かないのだから。

 

「そろそろ時間なので……」

「もうそんな経ったの?」

「らしいですね」

 

 スマホには、着いた、という簡潔なメッセージが友人から送られてきていた。

 暇だなんだで時間を潰そうと悪戦苦闘していたにも関わらずいざ話が始まると時間とは恐ろしい速度で過ぎ去っていく。

 

「悠さん」

 

 席を立ち上がったところで紗夜さんから声をかけられる。その先は彼女から何もない、ただ名前を呼ばれただけなのかもしれない。

 だけど何か言おうとしているのは伝わる。そして言いたいことはなんとなくわかった。

 

「忘れないでくださいね、夏祭り」

「……わかってます」

 

 忘れるなとどこか期待した風に言う。そして返ってきたのはわかっているという言葉。それだけ話すと僕は友達の待つゲーセンのスペースに向かった。

 遠くのはずだ、手が届かないはずだ。だけど少しだけ、もう少しだけ遠くに伸ばしてみたら届く気がした。それは夜空に浮かぶ月のように。

 

 

 

「はぁ……」

「どーしたの、折角悠と一緒に出かけられるんだからもっと喜びなって」

「そうですけれど……」

 

 思い返すだけで顔から火が出てきそう。明後日忘れないでくださいね、私から言おうと思ったのに彼が先に言ってしまった。

 いや、私が言えなかったから彼が先に言ったのだろう。

 

「それにしても日菜には言わないで、ねぇ」

「い、今井さん、その事は忘れてください!」

「んー? じゃあ日菜に言っちゃうよ?」

「それは……」

 

 ああ、これで彼にはバレてしまったかもしれない。もしかしたらまだ気づかれてないかもしれないし、実はずっと前から気づいていたかもしれない。

 だけど……それは悪い気は、しない。

 

「それにしても買い物がまさかここだとはねぇ……」

「し、仕方ないでしょう、普段こういうところはあまり来ないから……」

 

 洋服屋なんてめったに来ないし、来たとしてもそんなに考えずに派手になりすぎない服を選んでいる。

 だから自分に似合う服を探すなんて経験はしたことがない。

 

「今井さんはこういうのが得意そうなので選んで貰おうかと思いまして」

 

 頭に浮かぶのはこの前の図書館前でのやり取り。服くらいちゃんと選びたいという日菜の言葉にたいし彼は、わからなくはないと返した。

 彼もやっぱりこういうことに気を配る女性の方がいいのだろうか。

 

「もしかしてその服って明後日着ていくつもり?」

「え……まぁ一応……そのつもりですが」

「それならアタシは選べないかなぁ」

 

 どうしてですか、その問いが私の口から発せられる前に今井さんがその理由を述べる。

 

「悠が好きなのはアタシじゃなくて紗夜だよ、それなら紗夜が選びなって」

 

 日菜から聞いていたけど今井さんも知っていたのか。やっぱり彼は私の事()好きなのか。私は知らなかったのに、気づけなかったのに。

 ああ、確かに。彼が私の事も好きだと言うのなら、それなら私が選んだ方がいいだろう。

 

「あまりに酷かったら私も言うけどね」

 

 服を選ぶというのは私にとって新鮮な行為だ、不思議と楽しくて、明後日の事を思うと胸が高鳴って仕方がない。

 彼はどんな反応をするのだろう。そんな事を思いながら様々な服を手に取ってみる。

 

 明後日は雨が降るだろうか。別に私は雨が嫌いなわけではない、むしろ好きなくらいだ。

 折角買った服が濡れてしまうかもしれないのは少しだけ嫌だが、それでも私の特別な日には必ずといっていいほど雨が降る。

 もし明後日、雨が降ったのならば……この思いを彼に自分の口から伝えよう。

 天気予報では晴れとの予報だが……もし雨が降ったなら、その日はきっと特別な日だ。

 この思いを伝える日は、特別な日にしたいから。

 

 しかし服の値段というのはもう少し安くなってくれないものだろうか。

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